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八十四話
しおりを挟む「これより儀式を始める!」
皇帝ハビロイの声で太鼓が鳴らされた。
その声を聞いた帝国兵は先に少年少女達に声を掛け、井戸の中へと飛び込ませた。俺は慌てて止めようとしたが赤子の首に槍を突き付けられ身動きを止められる。
『タクミ! 任せて! 僕も付いていく!』
耳元で囁くとチェリーも井戸の中へと入っていった。
10人の少年少女達とチェリーが全員井戸へと飛び込んだすぐ後に赤子を抱いた司祭が井戸へと近付き両手を伸ばしたと思ったら井戸へと放り投げた。
「てめぇっ! 何してやがる!」
流石にキレた俺は司祭を殴り飛ばしメリヌと共に井戸へと飛び込んだ、下を見るとマロンが何とか抱きとめようと手を伸ばして居たが、追い付けないと悟った俺はメリヌを抱きかかえると、右手に今ある魔力を最大限集めて一気に放出した。
その魔力砲は井戸ごと吹き飛ばした、推進力も凄まじく一瞬で赤子に近づくとメリヌが抱きとめる。
それを確認した俺は両手でメリヌごと抱きしめ衝撃に備えた。
マロンは俺の肩に振り落とされないように掴まって共に落ちていった。
浮遊感を感じて瞬きするとマロンが俺達を浮かせている所だった、下を見ると草原にチェリーと少年少女達が手を振っていた。どうやら誰も怪我はしていない様だ、一安心して着地すると声を掛けられた。
「アンタがあの精霊の契約者か?」
振り向くと片手に刀を抜き身で持ち、旅装束の出で立ちでコチラを睨む少年がいた。
その後ろにも十数人の少年達が槍やら刀を抜いて立っている。
振り向きざまに斬られるかと思った俺は素早く身構えると右手の掌を向けた。
『タクミ! 待って! 撃っちゃだめ!』
マロンがその少年の横から叫ぶ
『敵じゃないよ!』
チェリーもそう言って俺の掌の前に立った。
「……何者ですか?」
どうにか落ち着いた声で話す事が出来た俺は右手を降ろしながら少年に尋ねた。
「俺にしてみりゃアンタが何者かと聴きたいところだがな」
「ああ、そうでしたね私は一畳と申します」
「俺は角田という、ふぅ……どうやらアンタは帝国兵じゃなさそうだな」
そう言うと刀を鞘にしまった。
角田が鞘に刀を収めると後ろにいた人達も鞘に刀を収めていく。
「悪かったな、あの井戸から何人も帝国兵が毎回降りて来るもんでよ、その都度倒してたんだよ」
そう言いながら後ろの人等に合図を送ると、槍を持った数名が井戸へと入っていった。
「後から来る帝国兵を殺りに行っただけだ、そんな心配そうな顔はしないでも大丈夫だよ一畳さん」
そういうと、角田は井戸へと近付き入ろうとしたが、直ぐに戻ってきた槍を持った少年達とぶつかった。
「うおっ⁉ どうした! 何かあったのか⁉」
そう叫ぶと肩を掴む。
肩を掴まれた少年は狐にでも化かされたように呆然としていた。
その後ろからもう一人の少年がつぶやく様にいう
「それが……無いんですよ」
「何が?」
不思議そうな顔で聞き返す角田、肩を掴まれてた少年が急いで角田を見ていう
「帝国が無くなってるんです」
「はぁ?」
何を言ってるのか分からずに角田は甲高い声を出した。
「あ、すまん俺かも……」
そう言おうとしたが、先に角田が動き井戸の中へと消えて、すぐに戻って来た。
「オイオイ……何したらあんな規模で抉れるんだよ……まるで爆心地だぞ?」
そう言っていたのでもう一度声をかけた
「すまん、多分それ俺がやった」
その声が聞こえた瞬間全員が黙り込み一斉に俺を見る。
「……やったって何を……?」
そう聞かれたので素直に先程の事を伝えると全員静かになったと思ったら笑いだした。
「推進力を得る為に最大限の魔力で魔法をぶっ放したって? そりゃ吹き飛ぶわ!」
散々笑ったあと角田は俺に手を差し出して「ありがとう!もう帝国兵は永遠にこっちには来なそうだ」と、満面の笑みでいう。
俺はその手を握ると「そ、そうか……まぁ良かったのか……な?」
少し考えると途方もない事を仕出かした気がするが、今は忘れる事にした。
「所であんた達はこれからどうする?」
そう聞かれたので少年少女達を見渡すと、クビを横に振って
「「「帰りたくない!」」」
と、一斉にいう。
船に居た時に助けられたら家に帰りたいか聴いたら、帰っても家には入れない者が大半だった。何故かと尋ねると、帝国兵は少年少女達を攫ったのではなく、買っていったからだそうだ。
奴隷制度は帝国以外の国では禁止されていたし、帝国にも再三に渡って警告していたが、帝国は未だにそれを無視し続けていたのだという。
「なら、俺達の村に来ないか?」
怯える少年少女達に角田が声をかけた
「まだまだ作り始めたばかりだけど、山の中だから侍達も来ないし、もし来ても俺には敵わないぜ?」
そう言うと掌から炎を出した。
やはり、角田はあの男だった様だ。最初は違うかとも思ったが……まさかこっちの世界に来ていたとはな……。
そりゃ気配も消えるはずだよと思っていると、俺達の方へと向き直り
「あんた達は、どうする? 戻るかい?」
「……いや、戻れない。やる事があるんだ なぁ、こんな事聞くのもなんだけど……」
「ん? なんだい?何でも答えるぜ?」
「今は戦国時代か? それとも誰かがこの国を治めてるのかい?」
「なんだ、そんな事か……ていうか、あんたやっぱり日本人か」
「ああ、そうだよ初代様」
そう言うと、一瞬驚いた顔になったがすぐに戻り笑いながら
「なんだ、気付いてたのか。 因みにこの国を治めているのは徳川だ、二百年くらい過ぎたけどな」
「そうか、ありがとう教えてくれて。ついでに聞くけど村の近くに洞窟はあるかい?」
「……何だよ、それも知ってるのか? まぁ訳は後で聞くとして、先に皆を転移させるからそっちの円に乗ってくれ」
そう言うと、草の束を退けてる刀を装備してる少年達を指差した。
ゾロゾロと歩いて皆がその円の中に入ると「俺が良いって言うまで動くなよ? 手でも足でも出してたら千切れるからな!」
そう一言言うと、皆は身を縮ませて真ん中に集まった。
「よし! それじゃ行くぞ? 転移‼」
角田が叫ぶと草原から一瞬で深い森へと移動した。
「よし、もういいぜ! 足元に注意しながら付いてきてくれ!」
総勢三十人近くの少年少女達を一瞬で移動させる魔法は凄かった。が、一回か二回移動すると消えてしまうようだ。固定させるには膨大な魔力が必要だからか、使い切りタイプの様だった。
村はやはり上村だった。
山の木々は俺が住んでる頃のようには高くは無かったが、広場にしていた場所には家が立ち並んでいた。
取り敢えず新しい住人になる子供達は住処が無いので、住んでる人達と同棲する事になる。
当然嫁さんの欲しい奴は女の子を誘うので、取り合いにはなったが既に結婚してるやつもいたらしく、嫁さんに耳を引っ張られながら去ってった。
この頃はまだ一夫多妻でも許されていたからなのか、普通の村人でも数人の嫁さんがいる奴も居たらしい。
生憎この村では女性が強いのか一夫一妻で落ち着いてる様だ。
因みに赤子がヨネだと知った角田は俺が育てると言って今は彼に抱かれている。
メリヌにも独身男性から声が掛かったが、俺が遮り「俺のだから」というと、地団駄しながら舌打ちして自分の家へと帰っていった。
何となくその舌打ちに心当たりがあったが忘れる事にした。
他人の空似だろうしな。
俺とメリヌは角田の家へと招かれて向かう。
少し高台になってる小屋は俺の知らない小屋だった。
どうやら最初に建てた家なのだと分かった。
角田は独り身らしく、部屋数は必要ないのだろう。まぁ、これからはヨネと住むのだから増えていきそうだな。
小屋に入ると囲炉裏に座った正一は横にフワリとした黒魔森猪の毛皮を敷くと赤子を置いた、その上から魔狼の毛皮を掛けると寒くない様に隙間を埋めた。
その後コチラを見ると床をパンパンと叩く。
座れと言うことなのだろう。
俺とメリヌは床に座ると薪を出してチェリーに炭にしてもらうとポキポキと折ってから囲炉裏に焚べて、鉄瓶に水を魔法で八分目まで入れた。
それを見ていた角田は嬉しそうに笑顔になると
「茶葉もあるのかい?」と聞いてきた、だが俺が持ってるの緑茶じゃないから素直に
「紅茶ならあるよ」と、いうと
「紅茶か! 懐かしいな!」
そう言って喜んでくれてホッとした。
「改めて自己紹介をしよう、俺は角田正一だ、初代とも言われていたな確かに」
そう言うとニカッと笑った。
その笑顔は昔からなんだなと俺も笑った。
「俺は一畳タクミだ、三代目になる」
「ほう、ヨネじゃ……ないか、既に赤子だしな」
そう言って眠る赤子を愛おしそうに眺めた。
暫し三人でお茶を呑みながら昔話に花が咲いた、そして本題とばかりに俺に話を振られたので、今までのことを掻い摘んで話をし始めた。
が、話の合間合間に色々と知らない事が多かった様で、口を挟まれその都度横道にそれるもんで、全て話が終わる頃には深夜になっていた。
流石に眠かったのか、最後の方では先に寝てしまった正一に俺が持ってる魔狼の毛皮を掛けてやり、俺達は黒魔森猪の毛皮を出してメリヌを抱きながら眠りに付いた。
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