88 / 88
八十八話
しおりを挟む『正一! 私もこっちに住むから宜しくね!』
「は? 何言ってるんじゃだめに決まってるじゃろう?」
ラメルの後を追って古民家に帰ってくると正一とラメルの声が聞こえて来た。
『何でよ!』
「何でも何も……お前さん魔森に縛られてるって事を忘れてるのか?」
『分体埋めてきたから大丈夫!』
「何を言っとる? 前にタクミくんが埋めた時は本体だったから良かったが分体だと消滅するぞい? 消滅したらワシが来る前に戻るじゃろうが? そもそもお前さんはあっちの世界の住人で要なんじゃぞ? 許されるわけ無かろう?」
『そ、そんな……』
そんなやり取りの後正一爺さんは村長と話があるからと転移陣へと入って戻っていった。
その転移陣も光が薄く、あと一、二回使えば消えてなくなりそうに成っていた。
ラメルはその日から物言わぬ黒山羊と成り果てて、無言で草を食む、ただの草刈り獣になっていた。
何を話してもモムモムと食ってるだけになったし、精霊達から話をして貰っても『物凄く落ち込んでるイメージしか伝わってこない』と言われる始末。
何とか元気を出させる為に試行錯誤してみたが、根本的な解決には至らなかった。
なので、正一爺さんと話し合い聖域に転移門を作り、俺の家の二階部分に設置、そして古民家から爺さん家までを転移門で繋げる事になった。
それを伝えると泣いて喜んだ。
「但し条件はあるぞラメル」
泣きながら爺さんに突撃して馬乗りになりながら爺さんにスリスリしてる所悪いが、この条件は呑んで貰わないと困ると伝える。
『何でも聞くよ!』
「アシュはこれから聖域の泉で暮らす事になった、そこでアシュをねぐらにして、爺さんの家は一日一回だけ通え、普段は聖域か俺の山の草刈りをする事。どうだ?守れるか?」
『うん。守る!』
何か幼児退行でもしたかの様でやたら素直で気持ち悪い。
だが、まぁ守るというのであれば問題ない。これで、魔森の安全も続くなら良しとしよう。
因みに古民家の内装を如何するか考えていたら爺さんに話があると言われた。
畏まってとうしたのかと思っていたら
「村長の話ではこの村の地下にリニアモーターカーが走るらしくてな? で、タクミ君の山からはまぁ離れているから問題ないんじゃが、数年後に工事関係者がこの辺を彷徨くことになりそうなんだ」
爺さんの話では駅こそ出来るかどうか分からないが、この先人は沢山訪れるかも知れないと言われた。
そこで、名物になりそうな物が無いか考えてくれと言われた。
『だったらアポルが良いよ!果樹園なら聖水が染み出してるこの山なら多分出来ると思うよ?』
マロンも手伝うと言うので古民家をカフェ風にする事になった。
ラメルはその日から聖域から洞窟を通って果樹園にする場所の草を食んでいる。
午前中草を食べて午後から爺さん達とアポルの木をアシュの中にある畑から持ってきて植える作業を手伝っている。
爺さん達は元いた家を売り払い、今はアシュの中でヨネ共々ラメルと住み始めた。そっちの方が作業しやすいからというが、どうだろうな。
ラメルと再び暮らせる様になって毎日笑ってるし。
ヨネは毎朝爺さんに隠れてshine Appleを一口齧ってるのは知っている。あまり若返るとバレるので60代くらいの容姿に抑えているがバレバレだが、爺さんは知っていて怒らない。
何だかんだ若い時のヨネに惚れたらしいから本音は喜んでいそうだ。
◇
あれから五年が過ぎた
下村の地下にリニアが通ると言う事で一昨年から工事が始まった。
そのお陰もあって下村の人等の土地が高く売れる事になり、地上げが始まった。
多くの村人は土地や田畑を手放し都会へと引っ越したが、爺さんと親しい方々は、今現在魔森の聖域の周りに家を建てて住んでいる。
江戸が始まり二百年くらいから正一爺さんを頭にこの山で過ごしていた少年少女達は、爺さんと共に何百年も生きてきたのだという。
それぞれ目的があった者、ただ単に死にたくなかった者、爺さんと別れるのが嫌だった者と色々あるらしい。
因みに江戸時代に訪れた時にメリヌに一目惚れしたが俺が居た為縁が無かったあの男は、地団駄が得意な青年だった。
いつかまた会えると信じて待っていたが、結局俺の嫁になってしまった。
これで諦めると思ったが、今度は俺の娘を狙うそうだ……。
何とも逞しいというか、しつこいと言うか……まぁ、それだけメリヌが好きだったのかも知れないな……。と、思っていたが違くて単なる獣耳フェチなのだと正一爺さんが教えてくれた。
古民家の裏の藪は取り払われ、広場から裏にかけて果樹園が完成した。人が入らない様に柵も出来た。
流石に異世界へと続く洞窟は人の目には触れさせるのは危険と言う事で、古民家の二階から渡り廊下で行き来出来る建物を洞窟の上に作った。
コレのお陰で二階から階段でカフェへと降りれる事になり、俺とメリヌも寝床はアシュの中になった。
果樹園の防犯はソラとチェリーが担う事になり、夜は古民家で過ごしている。
レッドとブラウンは大木の店が気になるからとアシュの中に転移門を設置して通ってるので、あまり古民家の方には来ない。
ペロンはパン屋へと戻り、たまに俺がメリヌと冒険に行くとき斥候として付いてきてくれるくらいだ。
マロンは爺さん達と畑の管理をしている。最近では人型になって、街へと買い物に出掛けるようにもなった。
やがて山の近くに道路が作られ行き来するトラックが増えた。それにつられて一般の車も増えてちょっとした町もでき始めた。
なので、山の入り口に看板を立てると、客が来るようになったが駐車場は無くて、通り過ぎる車も多かったので看板横に駐車場を作った。
坂も整備して徒歩で登って来ることには成ったがそれなりに客も来るようになった。
店の看板には
【黒山羊カフェ―shine Apple―】と名づけた。
名物はアポルを使ったスイーツだ、
料理を作るのは俺だけどたまにレッド達やナタリーさん達も来て作ってくれる様になった。
ヨネ婆ちゃんがこれを食べて若返ったんですとウッカリ撮影に来てたテレビに言っちゃって、年齢も今年で八十八になりますとか言うもんだから見た目六十代だったので、連日大盛況になってしまった。
まぁ、本当に若返る事はないけど、肌艶は良くなるので人気のメニューになっている。
「そういえばタクミ君よ」
アポルの果樹園で実を収穫してるとふと思い出したかのように話し掛けて来た正一爺さん。
「なんですか?」
「ほれ、帝国の井戸って今どうなっとるね?」
「あー……放置ですかね……」
「それはイカン! まだあそこは無人じゃが、その内渡ってくる者も居るぞ? あそこから過去に飛んで未来を変えられたら困るじゃろ? 今じゃ無くていいからどうにかしておくんじゃぞ?」
そう言うと収穫の続きに戻っていった。
そう言われたからでは無いが、一応埋めとくかとも、考えたがどうせならその上に建物を建てるべきかも知れないなぁと考えていた。まぁ直ぐじゃなくても大丈夫だろ……。
そう思って自分も収穫作業へと戻っていった。
そしてこの話をウッカリ忘れ、自分の子供が産まれて来てから数年後に思い出し、子供を連れて元帝国の地に城を築き新しく国を創るのだが、それはまた別のお話。
ー完ー
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
有難うございます!