Shine Apple

あるちゃいる

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八十八話

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 『正一! 私もこっちに住むから宜しくね!』
 「は? 何言ってるんじゃだめに決まってるじゃろう?」

 ラメルの後を追って古民家に帰ってくると正一とラメルの声が聞こえて来た。
 『何でよ!』
 「何でも何も……お前さん魔森に縛られてるって事を忘れてるのか?」
 『分体埋めてきたから大丈夫!』
 「何を言っとる? 前にタクミくんが埋めた時は本体だったから良かったが分体だと消滅するぞい? 消滅したらワシが来る前に戻るじゃろうが? そもそもお前さんはあっちの世界の住人でかなめなんじゃぞ? 許されるわけ無かろう?」
 『そ、そんな……』

 そんなやり取りの後正一爺さんは村長と話があるからと転移陣へと入って戻っていった。
 その転移陣も光が薄く、あと一、二回使えば消えてなくなりそうに成っていた。

 ラメルはその日から物言わぬ黒山羊と成り果てて、無言で草をむ、ただの草刈り獣になっていた。
 何を話してもモムモムと食ってるだけになったし、精霊達から話をして貰っても『物凄く落ち込んでるイメージしか伝わってこない』と言われる始末。

 何とか元気を出させる為に試行錯誤してみたが、根本的な解決には至らなかった。
 なので、正一爺さんと話し合い聖域に転移門を作り、俺の家の二階部分に設置、そして古民家から爺さん家までを転移門で繋げる事になった。

 それを伝えると泣いて喜んだ。
 「但し条件はあるぞラメル」
 泣きながら爺さんに突撃して馬乗りになりながら爺さんにスリスリしてる所悪いが、この条件は呑んで貰わないと困ると伝える。

 『何でも聞くよ!』
 「アシュはこれから聖域の泉で暮らす事になった、そこでアシュをねぐらにして、爺さんの家は一日一回だけ通え、普段は聖域か俺の山の草刈りをする事。どうだ?守れるか?」
 『うん。守る!』
 何か幼児退行でもしたかの様でやたら素直で気持ち悪い。
 だが、まぁ守るというのであれば問題ない。これで、魔森の安全も続くなら良しとしよう。

 因みに古民家の内装を如何するか考えていたら爺さんに話があると言われた。

 畏まってとうしたのかと思っていたら
 「村長の話ではこの村の地下にリニアモーターカーが走るらしくてな? で、タクミ君の山からはまぁ離れているから問題ないんじゃが、数年後に工事関係者がこの辺を彷徨うろつくことになりそうなんだ」

 爺さんの話では駅こそ出来るかどうか分からないが、この先人は沢山訪れるかも知れないと言われた。

 そこで、名物になりそうな物が無いか考えてくれと言われた。
 『だったらアポルが良いよ!果樹園なら聖水が染み出してるこの山なら多分出来ると思うよ?』

 マロンも手伝うと言うので古民家をカフェ風にする事になった。

 ラメルはその日から聖域から洞窟を通って果樹園にする場所の草をんでいる。
 午前中草を食べて午後から爺さん達とアポルの木をアシュの中にある畑から持ってきて植える作業を手伝っている。

 爺さん達は元いた家を売り払い、今はアシュの中でヨネ共々ラメルと住み始めた。そっちの方が作業しやすいからというが、どうだろうな。
 ラメルと再び暮らせる様になって毎日笑ってるし。
 ヨネは毎朝爺さんに隠れてshine Appleを一口齧ってるのは知っている。あまり若返るとバレるので60代くらいの容姿に抑えているがバレバレだが、爺さんは知っていて怒らない。

 何だかんだ若い時のヨネに惚れたらしいから本音は喜んでいそうだ。




 あれから五年が過ぎた
 下村したむらの地下にリニアが通ると言う事で一昨年から工事が始まった。
 そのお陰もあって下村の人等の土地が高く売れる事になり、地上げが始まった。
 多くの村人は土地や田畑を手放し都会へと引っ越したが、爺さんと親しい方々は、今現在魔森の聖域の周りに家を建てて住んでいる。

 江戸が始まり二百年くらいから正一爺さんを頭にこの山で過ごしていた少年少女達は、爺さんと共に何百年も生きてきたのだという。

 それぞれ目的があった者、ただ単に死にたくなかった者、爺さんと別れるのが嫌だった者と色々あるらしい。

 因みに江戸時代に訪れた時にメリヌに一目惚れしたが俺が居た為縁が無かったあの男は、地団駄が得意な青年だった。

 いつかまた会えると信じて待っていたが、結局俺の嫁になってしまった。
 これで諦めると思ったが、今度は俺の娘を狙うそうだ……。
 何とも逞しいというか、しつこいと言うか……まぁ、それだけメリヌが好きだったのかも知れないな……。と、思っていたが違くて単なる獣耳フェチなのだと正一爺さんが教えてくれた。

 古民家の裏のやぶは取り払われ、広場から裏にかけて果樹園が完成した。人が入らない様に柵も出来た。
 流石に異世界へと続く洞窟は人の目には触れさせるのは危険と言う事で、古民家の二階から渡り廊下で行き来出来る建物を洞窟の上に作った。

 コレのお陰で二階から階段でカフェへと降りれる事になり、俺とメリヌも寝床はアシュの中になった。

 果樹園の防犯はソラとチェリーが担う事になり、夜は古民家で過ごしている。

 レッドとブラウンは大木の店が気になるからとアシュの中に転移門を設置して通ってるので、あまり古民家の方には来ない。
 ペロンはパン屋へと戻り、たまに俺がメリヌと冒険に行くとき斥候として付いてきてくれるくらいだ。
 マロンは爺さん達と畑の管理をしている。最近では人型になって、街へと買い物に出掛けるようにもなった。

 やがて山の近くに道路が作られ行き来するトラックが増えた。それにつられて一般の車も増えてちょっとした町もでき始めた。
 なので、山の入り口に看板を立てると、客が来るようになったが駐車場は無くて、通り過ぎる車も多かったので看板横に駐車場を作った。

 坂も整備して徒歩で登って来ることには成ったがそれなりに客も来るようになった。

 店の看板には

 【黒山羊カフェ―shine Apple―】と名づけた。

 名物はアポルを使ったスイーツだ、
 料理を作るのは俺だけどたまにレッド達やナタリーさん達も来て作ってくれる様になった。

 ヨネ婆ちゃんがこれを食べて若返ったんですとウッカリ撮影に来てたテレビに言っちゃって、年齢も今年で八十八になりますとか言うもんだから見た目六十代だったので、連日大盛況になってしまった。

 まぁ、本当に若返る事はないけど、肌艶は良くなるので人気のメニューになっている。








 「そういえばタクミ君よ」

 アポルの果樹園で実を収穫してるとふと思い出したかのように話し掛けて来た正一爺さん。
 「なんですか?」
 「ほれ、帝国の井戸って今どうなっとるね?」
 「あー……放置ですかね……」
 「それはイカン! まだあそこは無人じゃが、その内渡ってくる者も居るぞ? あそこから過去に飛んで未来を変えられたら困るじゃろ?  今じゃ無くていいからどうにかしておくんじゃぞ?」

 そう言うと収穫の続きに戻っていった。

 そう言われたからでは無いが、一応埋めとくかとも、考えたがどうせならその上に建物を建てるべきかも知れないなぁと考えていた。まぁ直ぐじゃなくても大丈夫だろ……。

 そう思って自分も収穫作業へと戻っていった。

 そしてこの話をウッカリ忘れ、自分の子供が産まれて来てから数年後に思い出し、子供を連れて元帝国の地に城を築き新しく国を創るのだが、それはまた別のお話。


         ー完ー
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みんなの感想(1件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

2021.09.03 あるちゃいる

有難うございます!

解除

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