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生まれは良かったのに➈
しおりを挟む「お前の名前は?」
セダスが聞くと素直に話し始めた
「シエラです」
「シエラ……飯場に居たはずだが、いつから屋敷にきていた?」
「二年ほど前に屋敷の食事係としてつれて来られました」
「我々を監視する様に言ったのは誰かね?」
「アルバード様でございます」
「お前の主従関係は誰になってる?」
「セダス様です」
(……興味の無い事には無頓着と思っていだがここまでとは……)
己の主人の馬鹿さ加減に呆れてセダスは溜息を吐くと、良く分かっていなそうな二人に説明し始めた。
鉱山の飯場で働いていたシエラは、ナラクの前に市場で売りに出されてた娘だった。当然主従契約はアルバードではなく、セダスが契約した。
その後特に接点がなかった為半ば放置状態だったシエラは、要領の良さから屋敷へと連れて来られ、アルバード付きの侍女として主に食事の担当をしていたが、動きの良さから諜報員として育てられたらしい。
アルバードはセダスが自分の配下だからこの娘の契約者がセダスでも自分の言う事を聞くと思い込んでいたのか、ナラクとルカンの監視に指名した。
しかし、奴隷紋は剣を咥えた狼が中央にある為セダスの命令の方が上に来る。胸元を見た時その奴隷紋が変わっていなかった事から、セダスも警戒を解いたのだった。
貴族が奴隷と主従契約を結ぶには、自分の紋章を用いてそれを体に刻む必要があった。
さすがに奴隷を禁止している国の王族の紋章が付いていたら見付かった時に言い訳が出来ない。なので、部下の紋章を使うのが一般的だったが……まさかそのまま利用する馬鹿はアルバードくらいだろう。
「ルカン、坊っちゃん、もう警戒を解いても大丈夫ですよ」
そう言うとルカンは短剣の柄を握る手を放す。
それを見ていたナラクは、まだ早いのでは無いかと思いセダスに進言する。
「セダス、他にも間者が居ないとは限らないぞ?警戒だけでもしといたらどうだ?」
「そこです」
「は?なにがだ?」
突然言われたナラクは困惑する。
「奴隷紋の効力ですよ坊っちゃん」
未だに分からないと言う顔をしてセダスを見る。
契約をしている相手の命令は絶対なのだと説明する。
つまり、ルカンもシエラもセダスと奴隷紋で契約しているから、どんな命令でも直ぐに従うのだという。
「?それなら奴隷市場で僕はセダスと契約した筈だろう?」
「あれは一時凌ぎの契約ですよ」
そう言うとナラクの服を捲り、腕の紋を出させる。
「この紋は七日に一度、私が深夜坊っちゃんの腕に書いてるだけです」
そう言うと、腕の紋を人撫でした、するとスーッと消えていった。
「は?え?何時から?」
「訓練を受け始めたくらいですかね……」
そんな前から自分が開放されてるとは思いもしなかったナラクは、呆然と立ち竦んだ。
こうなってしまったからには、口止めされてる内容を伝える必要があると判断したセダスは、ルカンに教育内容はどうなってるか尋ねた。
「王と王太子の噂は概ね話終わり、今は苦しめられてる民の話を半分くらいですかね」
「そうか、では坊っちゃん。今でも王と王太子は良い行いをしていると思いますか?」
「……いや、彼等は間違った方々だ。僕に力があれば世直ししたいくらいだと思っているよ……」
そう言うと悔しそうに顔を歪めるナラク。それを見て頷くと、今までの経緯を話し始める。
セダスは元々王妃の父君の執事だった。
王女が産まれた年からは王女に使えていた。
前王バウディには子供に恵まれず、産まれても直ぐに亡くなってしまい、最後に残ったのがナターシャ王女だった為、護衛兼執事として王女が結婚したあとも使えていた。
現王のラヴァーベルド・エムズ・ハイランドは元々帝国の第一王子だったのだが、側室の子であった。
少し歳の離れた第二王子が産まれるまでは王太子として育っていたが、帝国の王妃が身篭り、男子が生まれた瞬間から王権が無くなり、ハイランドの王女へと婿養子に出された。
正妻を疎ましく思っていたラヴァーベルドは、自分が結婚してすぐに側室を十人娶り子を作り始めた。
そのお陰もあってナターシャ王女との間には中々子が出来ず、苛立った前王が怒りを顕にした翌年、ようやく王妃の第一子が出来た、それが現王太子だった。
最初こそラヴァーベルドは最初に産まれた子供が王太子だと言い張っていたが、王妃の子が成長するにつれて自分の顔に似てきた事から王太子として認めることになった。
最初に産まれた子は母親の遺伝子が強く、自分に似ていなかったからだった。
王妃も王太子になった事で安心したのか、第二子が産まれるまで時間が掛かり、およそ十五年の月日が過ぎてようやく第二子が産まれた。
その子は王妃に似ていた。アルバードと名付けたいそう可愛がってしまい、すっかり我侭に育ってしまった。
趣味の読書に没頭するようになり、領地の奥へと引き篭もってしまった。
一応王位継承権第二位として認められているが、まるで興味が無い。
そして、それより三年後第三子のナラクが産まれる。
この子は我侭に育て無い様に気を使い、幼少の頃より領地を与えて治世を学ばせようとした、教育係としてセダスも付けたのだが、三十六番目に産まれた事もあり、王位継承権とは無縁と思ったのか、物凄くのんびりした性格になってしまった。
そして、素直過ぎたのが仇になり、圧政を強いる王とその兄を支持する者達の言葉を鵜呑みにして、賢王とその王太子と思い始めていると、セダスからの手紙で知った王妃は選定の義の時に教会に潜り込み、シスターのふりしてスキルを確認した。
もし変なスキルだったらと思うと心配で寝れなかった。
案の定【神運】とかいう訳のわからないユニークスキルを所持して居たのが判明し、素早く手を打った。
セダスに人払いをさせるとスープ皿の下に手紙を置き、どう動くかを見ていた。
途方に暮れて自殺でもしたら困るので、何時でも飛び出せる様に待機していると、外へと出て行ったので予定通り城にコッソリ出入りしていた奴隷商人に攫わせた。
ハイランド王国は奴隷を禁止している。なのに何故奴隷商人が城を出入り出来たのか?
それは、ラヴァーベルドが奴隷商人の元締めだったからだ。
帝国では奴隷の取引を認めていた、
幼少期から奴隷を扱っていたラヴァーベルドは帝国から商人を招き入れ、ハイランド王国で裏取引をしているのだ。勿論王太子も絡んでいる。
王太子は王と直接取引の無い奴隷市場を取り締まり打ち首にしたりして、巷では英雄扱いされている。が、取引のある奴隷商人は見逃すのだ。
それがこの国の悪事だ。
ハイランドは子供に恵まれなかった事で大金を注ぎ込みお祓いをしたり、薬を呑んだりしていた為国庫はほぼ空っぽだった。それを、政略結婚で金を帝国から借りて何とか国を運営していたのだ。
そんな弱みを握られていた為、王妃も直接ラヴァーベルド王を窘める事が出来なかった。
そこに降って沸いた幸運を司る子が産まれた。ラヴァーベルドの政策にナラクの運が加われば鬼に金棒だ。国庫はこれでもかって言うくらい潤うことになるだろう。
だがそれだと国民が苦しむ事になる。それを避ける為に存在を忘れてる今だからこそ実行したのだと、伝える。
それを聞いてナラクがどう出るか、不安そうに見詰めるセダス。
そして、ナラクは口を開く。
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