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15話

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ピーチクパーチクと鳥の声で目が覚めるのは何処の世界でも一緒らしい


良く夏休みの明け方でラジオ体操前に謎の鳥鳴き声聴こえてたよね
クルッポクルポッポーみたいなの
鳩の鳴き声と聞いたときは信じられなかったけどね


でもあれ聴くと何か懐かしく感じるんだよ
夏の涼しい時間みたいなのが蘇ってきて…
これから正面に立ってラジオ体操するのかー…っていう、小6の思い出がフラッシュバック…


朝から思い出しテンションを爆下げしてると
シノも起きたようで
「おーはーよー…」と間延びした声で挨拶する

こいつは獣の血が入ってる割りには朝が弱い

なのでちょっと出てきた胸を触っても気が付かない

あ~癒やされるーっと変態なことは止めてサッサと着替える


それ出来るなら何故夜やらないの?って誰かの声が聴こえてきそうなので、早々に出立の準備をする


目指してるのは都会なので下町風なこの街とは
今日でお別れサヨウナラ


はよ目覚めろとシノの着替えを手伝ってやる


ズボンを履かせて気が付いた


尻尾用の穴って本当に開いてるだな…


やっぱり見ないで履けるもんなのかと暫くジーッと見ていると

ようやく自分が着替えをしている事に気が付いたのか

途中で止まってたズボンの続きを履き出した

すると、シュルンッと穴に尻尾が入って出てきた


おおっ!そんな風になるのか!!
へーっ!と見ていると

「…コージそんなに見られると恥ずかしいんだけど…」と見たこと無い照れ方をし始めた


あーこれは、可愛いんでないかな?

これ夜やられたらヤバイかも…とは口には出さないで
ゴメンゴメンと謝って視線を逸らす

背負子を背負って忘れ物が無いかチェックしたら
シノの手を掴んで引っ張っていく

「おお…!」と謎の感動をシノに与えて階段を降りていくと

朝食準備中の女将さんに出会う

「あら、ヘタ…旦那さん!お帰りですか?」

おい女将…今ヘタレと呼ぼうとしましたね?
みなまで言わなくても自分自身で分かってるのでやめて下さい…傷付きます

「なんだぃ分かってるなら言わないけどさ…童貞って訳じゃないんだろ?」

だからウッセつーの黙っとけって

「あらあら怖いねぇ…奥さんも不憫だねぇ…頑張るんだよ?」応援しとくからっとシノを励ます女将さん

「大丈夫ですよ!次は私が襲うので!」と
何故か次に成ってますよシノ様?


取り敢えず成人もまだなのでね…


「許婚なんだろ?そんなの守る奴なんて王様にも居ないよ?」

この国の貞操観念が著しく低い事は分かりましたが、俺がそれに従うとは言ってません

「朝も胸触ってたのにね…」っとシノ様
起きてたのなら抵抗とかしてください


「抵抗すると燃えるタイプ?コージは変態さん?」
別にそれならそれでもいーけど…とシノ様

本当にそれ誰に教わってんの!?ねぇ!?
本気で怒るよ?汚物にだけど!


「おいおい、朝から廊下でいちゃつくなら夜もいちゃつけよ旦那…」と知らない冒険者達に揶揄われ…


早々に飯食って出る事にした


「次来る時は抱かれたあとかね?」と女将さん


おのれまだ言うか!と握り拳を作って振り上げるも
シノさんに受け止められてそのまま恋人繋ぎ


「大丈夫ですよ!」と満面の笑みで宣言して手を振って街を出た


ルンルンと何かの歌を口ずさみながら
テンション高く都会を目ざし
今日も仲良く手を繋いで歩くのであった

都市部まではあとどれくらいだ?


「もう後数刻くらいだと思う」


セクハラ女将の宿を出てから一泊して
今は峠をテクテクと登ってる最中


もうそろそろ見えて来てもおかしく無いと
シノは言う


まぁチラホラ他の旅人や馬車が峠の向こう側へ向かってるし


登りきってしまえば…


「見えて来ましたよ!都ですよ!」


蛇の様にうねった道の先に
巨大な白い壁をぐるりと鎧の様に着込んだ街が
緑の芝生の上に鎮座してる

そんな印象の城塞都市の東西南北の門からは
人の波が潮の満ち引きの如く蠢いていた

胎動している街

何処までも大きく育つ為に力を蓄えている街

近付けば段々と喧騒が街中から漏れ響いてきそうな街

そして、近付けば近付くほど
その大きさに圧倒させられる!

油断したら飲込まれて
消えてしまいそうになり不安に思う

その不安を人一倍声を出して吹き飛ばす

この街に暮らす人々の一人一人がみな同じ気構えで居るようだった

だからこその活気溢れる街なのだろう


それを見た俺は震えた!武者震いだ!
怖い?ああ怖い!
だが、自分も其処に居たい
そんな街だった
自分が求めて望んだ街の手本を見つけた気がした


俺はシノの手を握り引っ張って歩いた

こんな街にしたい!
こんな都市にしたい!
いつか俺の村もここに負けないくらいにしたい!
ただ望めば手に入る物ではなく
人の手に委ねて惰眠を貪る事ではなく
其処にその場に自分と住民と一丸となって
大きく優しく強く逞しく!そんな街にしたい!


俺は熱くなり過ぎていたのか
手汗で滑りシノの手が離れてしまった

だが俺はそれに気が付いていなかった

そのままズンズン歩いていき
掛けたところでシノに腰を掴まれた


「自分を見失って一人で勝手に歩くな!」
そう言われてはたっと止まる…

ああ、そうだな そうだったな
俺は一人で歩いてきた訳じゃない
今も昔もこれからもコイツや仲間と共に歩むんだ

忘れるところだった

「ありがとうシノ」

「?どーしたまして?」

何だその言葉使いは…

どーいたしましてってだろ?

まだまだ言葉の勉強をしていかなきゃ駄目だな

俺もお前も…

取り敢えず並ぶか?

「うん!並ぼう!」

そして俺達二人は長蛇の列に並ぶのであった




ところでシノ様よぅ

「なんだぃ、コージ様よぅ?」

都会目指して来たけど、何しに来たの?
いや本当に…


「え。今更そこ?」凄く呆れた顔された…


あー。うんごめん…


「仕方ないなぁ…ちゃんと聴いててね?」


お、おぅ…


「今回私達が此処に来た目的は!!!」


も、目的は?(ドキドキするね)


「暇つぶしだったと…思う」


えー。見も蓋もないじゃん


『『えーっ!!』』と知らない声で叫ばれた


いや誰だよ!


珍しいな?羽妖精だ…


翅では無い…羽だ


虫の翅を持つ翅妖精


つまり羽の妖精 鳥の妖精か小鳥の鳥人だな


でだ…君等はどちらかな?

鳥の妖精なら羽を毟り切る

鳥人なら羽を毟り切る

羽妖精ならまず、触れれないから
剣鉈で首筋を撫ぜる


そう言うと…腰から剣鉈を取り出し
チラッと見てやる

『『ま、ま、待つです!どれも違います!』』
吃りながら俺の手から逃げだす二人


『『我々は使い魔です!!』』
と潔く白状した二人


「ふーん。それで?誰の使い魔なの?」
っとシノ


『内緒です』と羽の色が右が黒い方が答える
『秘密です』と羽の色が左が黒い方が答える


あっそ。ハイじゃさようなら


『イヤイヤお待ちください』と右黒
『用がありますのん!』と左黒

パタパタと羽音をたてながら俺の廻りを飛ぶ2匹
それをビシバシと叩き落としながら


誰の使い魔かもわからんやつの言う事など信用ならん
叩き落とされてフラフラしながら
『…主様です』と右黒
『…ご主人様です』左黒
っと、答える


シノ!行こうか
「はぁい」
二人を置いて手を繋ぎ歩き去る


『『待って下さい!待って下さい‼』』
正直に申しましたのに‼何故ですか⁉と追いすがる


そんなコントみたいな事をしていると
後ろから声を掛ける男がやって来た


「遂に見付けましたぞ‼」
っと言うので振り向くと…


「…誰だっけこの人」っとシノ


誰だっけなぁ?っと頭をコテリとしても思い出せない

どっかで見た事ある気もするけど…


「それで?この人の使い魔でいーの?」
っと聞くと

『『誰ですかその人?』』
と二人の使い魔も知らないと言う


あーっ!もう何なんだよ!!


「面倒臭いの嫌い…」とシノの爪が怪しく揺れる


『「『待って下さい‼(され‼)』」』
っと叫ぶ2羽と一人


もういーよそれ…


はぁぁ…と溜め息しか出て来なくなって
門への列が進んだのでそちらに進む


「商人なら商人門から通れば早いですよ?」
そんな事を男が言ってくる


『貴方様に会いたいと言う方が居るので待たずに入れますよ?』っと右黒

『私達二人が証明書変わりなのでノー検査ですよ?』っと左黒

「む…商人門から来るなら高級宿を用意してます!勿論無料ですし買い物は全て商人ギルドが持ちます!!」っと男が言う


「商人ギルドからの要請みたいね」

あー…味塩胡椒の注文かな?


『む?うちは王宮に泊まれます!当然無料です!』
っと右黒


「右黒の主人は王族関係者みたいね」っとシノ


『むっ!うちは宰相の家に泊まれます!絶品手料付きです‼』っと左黒


左黒は宰相か…どれも面倒くせーな…


三人の主人暴露大会は決定打に欠けて誰も抜きん出る事が出来ずに睨み合いが続いた


「次の人ー」と声に反応し
ソっとその場を離れる


そのまま門兵に身分証明書をシノが見せて
「許婚の夫です」と俺を紹介


「それは羨ましい!」と朗らかに笑い


「お幸せに!」っと送り出してくれた


ありがとう!っと俺が言うと
俺の手を重ねてシノが門兵に頭を下げる


そして宿を探して人混みへと消え行った


門前での争いはヒートアップしていて
いつの間にか屋台まで出る始末

そして今は主人が行った失敗暴露大会になっていた

『宰相である私の主人はうっかり議会中に呟いた言葉が正式採用され!それが偉業になって勲章を賜ったぞ!』ドーダ凄いだろ⁉という左黒

『何だ!そんなのスラム街との壁を維持する筈が滑らした言葉で破壊する事になっただけじゃないか!』すかさず右黒が突っ込んだ


(((ああ…あれってそんな理由だったんだ…へー…)))っと観客が納得

当時はなんて心の広い宰相だなんだともて囃されていたが、単なる天然さんだったらしい


商人ギルドだって負けてねーぞ!とばかりに
「通用門の税金が無くなったのは商人ギルド長の候爵出の嫁の横領が発覚したからだ!向こう100年はギルド長の財産から支払われる事になったんだぞ!感謝されても良いはずだ!!!」と、男が叫ぶ


(((イヤイヤ駄目だろそれ!!!幾ら嫁で候爵でも褒められねーよ!!!)))っと突っ込まれ


『僕の主人は王様だが!夜中に侍女部屋へ夜這いに行こうとして、ウッカリ賊と鉢合わせになって自分の暗殺防いだんだぞ!!!』っと、右黒

天然と犯罪者と一緒にするな!とヒートアップ


(((王ってやはりヤリ○ンだったんだな…)))
噂通りだな…っと呆れられ

知らない内に支持率を下げていた


そしてまだまだ終わりそうになかった






「コージ!宿どこにするの?」


んー…安いけど風呂があってーって店探してる


「コージ…都会は物価もお水も高くてね?
やたらめったらお湯は使えないんだよ?」
お風呂なんて贅沢できるわけ無いじゃんっという


マジかー…
ソロソロ湯船に浮かびたくなる時期何だよな
っと愚痴る

「だったらウンディーネに貰った無限水筒とノームの万能スコップにサラマンダーの温泉の素使えば良いじゃん!」貰ったんでしょ⁉っというシノ


ああ。引越しのお近付きにな。確かに貰ったけど何となく使いたくなかったとか言うと


「意地っ張り!」っと舌を出した


って事でセクハラ女将の兄弟だか姉妹が経営してる店があるからと都に着いたら尋ねてみてね?って言われて、探す気は無かったがアッサリ宿屋を見附けていた

何となくセクハラ女将と顔が似てたので自然と遠慮してたのだが…

もうすぐ日が暮れる…このまま野宿するのも憚られたので

仕方なくその宿へと向かう

宿の主にセクハラ女将の手紙を渡すと

色々察してくれたのか
二階の食堂の真上に案内された…っておい!
ここもかよ!!!

そして宿代も負けてくれて
別れ際にサムズアップされて期待してる!
っと声を掛け去ってった

貞操観念がマジでブチ壊れているようだ

チラリと横目にシノ様を盗み見たら
何故か縄を肩に担いでいた

シノ様…


「んー?どーしたのコージ…?顔青いよ?」
大丈夫?と心配しながら荒縄に手を掛ける


…その縄は何ですか?


「お姉様に貰った七つ道具…」


ナンの七つ道具かは聞かなかったが
碌でも無い事だけは分かる


それ使ったら二度とシノに会わないから…


「え。いや、じゃあ…使わない…」
っと俯いた


そもそもナニに使うつもりだったんだろう…
聴くのも怖いのでスルーした







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