5 / 7
軽業師と名乗る男
しおりを挟むロッカーから道具を確保した俺は無くなった50万を稼ぐべく団地に隣接してるスーパーへ向かう。
最近の団地には老人しか居ないからか意外と早く店仕舞いする。
その後閉店後の片付けやらをしてから誰も居なくなるまで3時間くらいだ、そこへ忍び込む。
売上の計算なんかはその日の内にやって、その日の内に銀行に預ける飲み屋とは違い、老人しか居ないようなこうした陸の孤島に近い状態のスーパーなんかは朝から昼前の空いた時間にやるのさ。
つまり売上金が店にある状態で無人になるって事よ。これはお前、俺の為に置いとくみたいなもんだろ?そりゃ、もらってあげなきゃ失礼ってなもんで
自動警備システムなんか軽く突破して店内に侵入してサクッと金庫の鍵を壊して全額……は取らずに1掴みだけにする。
全額取っちまうと下手したら潰れて無くなっちまうだろ?そうなったらこっちの被害もデカイんだよ。
適度に頂いて適度に損をする方が長く営業してくれるからよ?
侵入ルートを新しく探す手間が無くて助かるってもんよ。
取り敢えず今日はあと数件廻って60万くらい稼いでから始発のバスに乗って駅へと向かう。
この間初めて見る顔ってのは初見でも覚えてる奴って意外と居るもんでな、仕事をこなす前に行き付けのスーパーを作る前に始発に乗っとくんだよ。
すると不思議なもんでよ?偶に乗っても特に認識しなくなるんだよ。一度見た顔って事になって初見じゃなくなるからか覚えなくなるのさ。
そのお陰でこうして始発に乗っても誰も俺を見向きもしない。
安心して駅まで行くと、最後尾を歩ける様に足の遅い人風を装うんだ、端っこ歩いとけば朝の忙しい時間だから抜いたらそのまま振り返るやつなんていない。
邪魔にならない様に気を使っていれば問題なく視界から消えるって寸法よ。
今日は少し頑張って疲れちまったな、まぁ巾着も見付かったし不安な事は……あー、あったなひとつだけ。
でもニュースにも生ってないって事は死ななかったんだな。実は半年程前に仕事中に警備員が居てな、ソイツに見付かって持ってた棒で殴ったら動かなくなって、焦って逃げたんだ。その時手袋に付いたのがその警備員の血液さ、お陰で計画が半年ずれ込んだ。
まぁ、前の儲けも全て此方に移動したし、患いはそれくらいだしな、死んでなきゃ問題もねーさ
トイレへと入って軽々と個室の上に乗ると空調用の扉を開けて中へと潜り、少ない明かりを頼りに外の音が聴こえやすい窓枠の上あたりに寝転がると、今日の売上や仕事道具の入った巾着を頭の下に置いて枕代わりにしたあと眠った。
巾着を落とした不安と探した疲れと、昨晩頑張ったお陰で爆睡した俺は、外の音に気付かずにぐっすりと寝てしまった。
この時外の音に気付いてさえいれば、もしかしたら逃げられたかも知れないと思うと、悔いしか残らなかった。
19:00前に鳴る目覚ましを鳴る前に止める事に失敗した俺は、気怠い体を無理矢理お越した。
風邪でもひいたか?と思ったが、気にせず天井裏から出ると……
「通報どおりだ!確保しろ!!」
そんな声が耳元で聴こえた。
俺は寝ぼけた頭をクリアにさせざるを得なくなり、キョロキョロと個室の壁板の上で周りを確認する間もなく大勢の警察官に囲まれながら逮捕された。
その場で天井裏も確認されて集めた金も道具も全て見付かった。
証拠を突き付けられ、それから被害届が出ていた警備員殺害未遂も付けられた。
顔見知りのにぃちゃん(5年目刑事)に
「またアンタか、今回はなげぇぞ?」と、肩をポンと叩かれながら言われた。
「軽業師……とは言わねーんだな?」
最初に捕まった時に俺の胸倉を掴んで
『お前が軽業師か⁉年貢の納時だぜ!』と叫びながら捕まった事があった。
俺の仕事スタイルが軽業師に似ていたからか勘違いしたようだ、それから何度か捕まったり逃げたりと、この刑事とは顔見知りくらいの関係になった、その度に軽業師と呼ばれてきたんだが、今回初めて呼ばれなかった。
「ああ、伝説の空き巣で別名【軽業師】は引退したんだとよ」
「何!そうなのか!?」
(俺の知る限りで最高の腕を持つ空き巣で、一度も捕まって無かったはずだ)
「何処情報だそれ?」
車の中でそう聴く俺に
「お前の拠点を通報してきたのが軽業師と名乗っててな?序に伝言を受け取ったのよ」
◇刑事side
[プルルル、プルル……ガチャ]
「此方〇〇警察です、事故ですか?事件ですか?」
『あー。此方軽業師、森田刑事はまだ居るかい?』
「は?森田は先日定年退職しましたが……え?軽業師?」
『え、もうそんな年だったのかぃ……そっかぁ……そいつぁ残念、いやお疲れさん……かな?』
「ちょっと!あなた誰ですか?イタズラは止めて下さい、それと軽業師ってどういう事ですか?」
『誰って名乗ったろ?まぁ新人みたいだし分からなくてもしかたねーさ、まぁいーや。〇〇駅の北口側外トイレの天井裏に空き巣が隠れてるぜ。じゃーな』ガチャ
「って、タレコミがあってな?森田さんに聞いたら定年まで追ってたのがその軽業師だったんだとよ、そっから急いで手配してな?こうして捕まえたってことさ」
「なんだよ!同業者を売るとか信じらんねーな!」
そう憤る男に
「縄張りでも荒らしたんじゃねーか?」
そう言ってやると、何かを考える様にして静かになった。
そのうち天井裏を調査してた仲間が寄ってきて盗まれた金額を掲示した
「何だお前……60万しかねーぞ?他の金は何処に置いたんだ?白状しねーと更に長くなるぞ?」
そう言うとその男は顔を上げて叫んだ
「そんな筈ねぇ!全財産此方に持ってきてんだぞ!?5000万はあった筈だ!……あ。」
「ほぉ……5000万ねぇ」
その証言を元に更にコイツの住処を探したが見つかる事は無かった。
代わりに一枚のメモを発見した警官はそのメモを持ってパトカーまで来ると
「あーぁ、やっぱりお前軽業師の反感買ったんだなぁ」
そう言ってメモを空き巣に見せた
「っ!!」
そのメモには
【金は貰っとく、狩場は荒らすもんじゃねーぞ? 軽業師より】
そう書かれていた。
頭を項垂れてブツブツ言い始めた男を見ながら森田さんに一応連絡した。何か情報があったら教えてほしいと言われていたからだったが……
(軽業師ねぇ……引退ってのは嘘だな。いつか俺が上げてやるぜ!)
そうして一連のスーパーあらしを捕まえ事件は一応終わった筈だった
◇◇浮浪者side
「さてっと……ルーティンを熟しに行きたいが、どうすっかねぇ……あのオッサン」
マンホールから出て、植え込みから外を覗けば定年退職した筈の森田のオッサンが北口トイレの側をうろちょろしてやがる……
唯一俺の顔を知るのはあのオッサンだけだし、最後に仕事したのだって6年前だ。まぁ、時効にはなってないけどよ……
因みに5000万は〇〇警察の森田宛に送っといた。まぁ、電話する前だったから引退してるなんて知らなかったんだよね。
「引退してんだから大人しくしてろっての!クソジジイめ!」
そう悪態をついて茂みから出れずに不貞腐れるのだった
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる