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一話
しおりを挟む「宮咲英樹様は24区589-1574番地に住む事になります。近所にはスーパーもコンビニも有りますし、隣人も皆優しい人ばかりですから安心ですよ」
70歳を迎えた誕生日の朝に黒塗りリムジンでお迎えされ、山間部の村へと護送されてるところだ。
決して老人ホームへ向かっている訳では無い。山の村へと送られているのだ。初リムジンが霊柩車じゃなくて良かったと喜ぶことも無い。ある意味霊柩車の方がマシだろう。
山村へと向かいながら説明と住む場所を教えて貰い、畑の作り方や育て方を簡単に教えて貰っている所だ。
「あと、現金や財産は全て電子マネーに変更され、コチラのIDの中に入ってます、このIDは身分証明書やこれから稼ぐ事になる山村でしか使えない電子マネー、各種免許証などの情報が全て入っています、財布代わりと思って下さい。なので、決して無くさない様にしてください。もし無くした場合は必ず最寄りの案内人に知らせて下さい。宜しいですね?」
「ああ、分かった……」
力無く頷くと、俺はまた濃い目に付けられたスモーク越しに外を眺める。
老眼を疎ましく思いながら何とか景色を観ようと試みるがあまりよく観えずガッカリしていた。
5年ほど昔、遂に老人に使う金額が尋常では無い程負担になり、若者が幾ら働いても赤字に成り、国を出ようとする者が増えた。
時の政府は流石に不味い事に気が付き、早急に国会で色々決定したあと見切り発車気味に推し進めたのが、老人と若者の住む場所を土地ごと分け、老人には健康の為にも自然豊かな場所で(自給自足しながら)すごして貰う事を決めた。
老人健康推進法案という名で発足されたそれは、簡単に言うと姥捨山を成立させたのだ。そしてアッという間に実行された。
色々問題が発覚する度に強固に事に当たった当時の政府だったが、関所を設けて監視し始めると問題の大半が片付き、兵士も常駐させる事で雇用も増えて、ようやく若者達が安心して子育てが出来るところまで漕ぎ着けた。
一番多かった問題が脱走だった。
当然老人達はこんな人権を無視した法案に従う人は居らず、徒党を組んで脱走を試みては捕まり、追い返されると言うことを繰り返していた。
2年間も繰り返し老人対政府で戦って来たが、『万里の長城みたいな壁を作れば?』という、若者達の意見を取り入れて実行され、完成したのが去年の出来事だった。
完成するのに時間が掛かった理由に、老人達は完成させまいと色々工作していたからだった、だがすぐに政府は動き兵士を置く事で無理やり抑え込むことに成功。
それでも、強引に突破しようとする方々も兵士達に阻まれ銃でゴム弾を撃たれて意気消沈していった。
俺も資金を送ったし、デモにも参加していた。69だったし、リーチだったから。完全に敗北した時は膝を付いて泣いたもんだ……
下手に長生きする様になった為に健康な老人が増え、定年は既に69歳までに伸びてようやく遊んで暮らせると期待してたのに、若い総理になった途端この仕打ちである。仮法案は5年前から始まっていたが、本格的な運用までには時間がかかる筈だった。
それなのにまさかの今年からだったのだ
俺の一個上までは70で定年の後遊び倒してると良くメールで自慢もされていた。
あと一年頑張れば俺も毎日遊びに出掛けられたのに……まさか、今年から強制的に山ぐらしとは……
唸っては溜息を吐きまた唸っては溜息を吐きと、繰り返していたら、キキッと車が止まりドアがガチャリと開けられた。
「着きましたよ」
そこはまさしく山だった。一応舗装されているが万人に聴いても万人が同じ意見だろうと思える程山であった。唖然ボーゼンとしている俺の横で、せっせせっせと、部屋へと荷物が運び込まれ適当に家電やらベッドやら勝手に素早く配置すると、ここ迄俺を連れてきた男達は一礼して去っていった。
はぁ……としか出ない口からは、歯槽膿漏の臭がした。胸元をポンポン叩きながら(あ、煙草は辞めたんだっけ……)と、気が付いてまた再びため息を吐いた。
この先不幸しか待ってないと思ったら幾らでもため息は吐けた。
まさか21世紀にもなって都市伝説気味の姥捨山が作られるなんて誰が思うだろう……。明治大正時代でも明確な証拠も無い昔話で語られる程度の話だったはずの姥捨山。
国の負担が大きいからと口減らしに捨てられた老人。本当に俺の人生は碌でも無い。若い頃には就職氷河期第1世代と呼ばれ、まともな職には付けなかった。ある意味優秀で頑張った人だけが仕事に就けた。
俺みたいな中途半端は派遣が良いとこだった。それでも、まぁまぁ暮らしていけたのは運が良かった事もあるんだろう。が、ここに来てとびっきりの運の悪さを引いたらしい。
住み分けは元役人だったらコネでチラホラ若者も居る田舎で住めるが、俺みたいな小市民はランダムで決められる。
運が良ければ隣近所が徒歩数歩って場所もあれば、俺みたいに見渡す限り木々に覆われて、隣近所がどっち方向にあるかを指し示す看板でも無いと分からない様な場所を充てがわれる。
(屋根があるだけマシなのか?まぁ、案内人?の話しでは、コンビニやスーパーがあるって言ってたし後で少し散歩に行こう)そんな事を思い浮かべながら部屋に入る事にした。
部屋に入り見渡す、六畳より多少広めだが、押入れとベランダ代わりなのか小さな庭に、物干し竿がかけられる場所があった。
平屋の1DKとかすげぇな。田舎だから部屋は2つくらいかと思ったけど、まさかの山小屋を改装しただけとか底辺だとこんなものなのか?ってくらい質素だった。しかも台所は土間付きで薪を燃やす旧システムキッチン!うわぁこれどーやって使うのよ?オール電化ならぬオール劣化!
文句を言おうにも奴等誰一人として残ってないし……ひでぇな……キッチンが昭和初期か大正時代にタイムスリップしてんぞ……もしかしてトイレはボットンか?
既に幻とか都市伝説化されてるボットン便所がどっかにあるかと探したが見付からず、まさかのトイレ無しですか?と、焦ったところ、外にあった小さな小屋を開けると其処に穴が……少し底は見えないくらい深いが、穴しか空いてなかった。ゴミ捨て場?とも思ったが多分手作り要素を残しつつ楽しんで貰うための……
「って、んなわけあるかぁ!!」
単純的に手抜きだろう。トイレは地面に穴開けただけ、屋根があるだけマシなのか?
深いため息は山風に吹かれて飛ばされていった、それでも溜息を吐きつつ裏へと回り薪置き場へと向かった。
腹も減ったし、飯でも作ろうと薪を持って土間に行き火を付ける。パチパチと小気味良い音がして火が燃えていく。それをボーッと見ながら(食材ってどこにあるんだろう)と、考えた。
電化製品は使えませんと田舎くらし教本に書かれていたので、電気は通っていないのだろう。
蠟燭数本とライターを支給されたのは憶えている。
つまり、冷蔵庫は無いと予想する。
土間の中をウロウロしたが食材は見当たらなかった。
外に出て周りを見渡すと畑が見えた。近づいて行くと野菜が生えていた……(肉とかはないのか?)
大根を一本持って帰り、玄関に置いてまた外に出ると、畑の横に小さな納屋があったので開ける。
其処には、弓と矢が壁に掛けられていた……
それを手に取ると結構本格的な造りをしていた。まさか、狩りをしろとか言わないよな?とか思ったが、納屋の中を確認すると、一冊のノート?みたいなものが置いてあり、中を確認すると
【鹿や猪の解体の仕方】
とかかれていて、頭を抱えることになった。
(自給自足て肉もかよ……)
こうして、俺の自給自足生活は始まったのである
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