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三話
しおりを挟む朝になり、肌寒くて目が覚めた。水瓶の水を口に含んで口の中を漱ぐ。そのままペッと吐き出してから水を一口呑む、何という甘露かと言うくらい美味かった
呑んだ日の次の日はやたら美味いよな水。流石に二日酔いかとも思っていたが、何故か体調が良かった。妙に躰も軽く、腰の回りも良くなっていた。
肉を食ったからだろうと思う事にして、朝食に昨晩食べ残した肉を少し炙ってから食った。大根汁も少し暖めて掻き回すとカラカラと音がした。何だろか?と鍋の底をさらうと小石が出て来た。
その小石は少し淡い赤というか桃色でとても綺麗な色だった。子指の爪の半分位の大きさだったので、昔台座だけになった指輪があったなぁと思い出し、ペンチと一緒に机に出して、そのまま嵌め込んだ。
ペンチで割れないようにしながら噛ませると小石は抜けなくなった。朝日にかざすと中々良い感じに光りだした。そのまま太陽の陽の下に置いてトイレへと向かい、用を足す。(このトイレも座れるように穴開きの椅子を作らなきゃなぁ……)
流石にただの穴に捻り出すのは原始的過ぎて憂鬱になるので、椅子を作る事にした。肉はまだまだ焼いた奴が残ってるので、あと2日くらいは保つだろう。
確か納屋にノコギリとかがあった筈と探すと両刃のノコギリがあったが、釘はなかった。捌き用のナイフと料理用の鉈(牛刀みたいな形で牛刀にしては少し小さい)では木は切れない。
薪を切る斧はあったが、アレで木を切るには、ちょっとなぁ……っと、考えていた
(そう言えば頂上で木に登ったときに竹藪みたいな場所があったなぁ)
って事で、竹を切りに行くことにした。それだったら、ノコギリで何とかなるはずだ。
太い幹を切るのはたとえノコギリで切れたとしても重労働なので、竹を切る方が楽なのだ。
水筒を荷物から探してリュックに詰める。
序に昼飯代わりに肉もいくつか包み持っていく。
見えた方向とかを思い出しながら山を上ったり下ったりしながら登った山を中心にして、右回りに回っていくと、河原があった。魚も捕れるかも?良さ気な竹が見つかったら釣り竿も作ろうかな。とか、楽しみを増やしつつ河原の先に見えて来た竹藪を目指して歩いていった。
竹藪に着くと早速作業に入る。老人になってから節々が痛くなって、ここまで歩く事は出来なかったのだが、なかなかどーして。筋力が付いたのか特に苦も無くたどり着けたばかりか、休まずそのまま作業にうつれるとは……肉の力を侮っていたようだ。
まぁ、何にしても動ける内が花って事で作業を開始した。多少手間取るかと思った作業だったが、全く問題なく20本近くアッと言う間に切れた。
最後の一本を縦に細かく割いて紐代わりにすると、切った20本の竹を真ん中左右と3箇所縛ったら、ヒョイッと持ち上げて作業道具を纏めて片手に持ち歩き始めた。
若い時にもこんな大量に持ち運べなかった筈だが、山で生活すると空気も良いからなのか、まったく疲労など感じずに歩けていた
「ジビエ肉ってパワーが付き易いのかもしれんな」
と、独り言を呟くと、ルンルン気分で河原付近まで来た。其処にあったデカ目の岩に腰掛けて、包んだジビエ肉を食べることにした。
まぁ、昼飯だな。
昨日捕まえた兎の肉は本当に美味かった。暫くこの肉だけで生活できると思うと、幸先的にはうまく行っていた。それにしても、本当に全く人気の無い山だなぁ。と、俺はキョロキョロと辺りを見回す
川のせせらぎと木々を揺らす風音と時折跳ねる魚の水音くらいしかしなかった。
流石は姥捨山法案だな、こんな所へ女性が放り込まれていたら早々にお迎えが来ていた事だろう。そう考えると最初が自分で良かったのかもしれない。
それにしても、財布代わりのIDカード……本当に無意味だったな……電子マネーを何処で使うんだよ何処で!
360度24時間自然の中で何をどう使うのか作ったやつと小一時間ほどお話したいもんだ。
最後の一欠片を口に放り込むと、川の水で手を洗い荷物を持って竹の束を担ぐと、家路へと向かった。鼻歌なんかも出ていたので、相当楽しかったのだろう
出る時と変わらないくらいの体力が残っていてびっくりした。取り敢えず切り取ってきた竹を家に寄りかからせて、少し置いて置く事にした。適当な紙と鉛筆を持って、トイレの中へと入り採寸してから出て来たが、蓋が必要だって事は分かった。
数日後に穴の中へ火種でも落としたら爆発するかも知れん……何か対策を練らなければ……と思ったが、本も人もおらんじゃないか!と、気が付いて途方に暮れた。
そういえば携帯は?使えないのかと持ってきた荷物を探ったが見つからなかった。何だよ取り上げられたのか?確か、車の中で聴いた話だとソーラーがどうたら言ってたよな?っと、何となく聞き流していた言葉を思い出す。
「困った事があったらIDカードに話し掛けて下さいね?永久無料の電話としても使えますから!」
おおっそうだよそうだ!IDカードの使いみち!電話にもなるんだった。と、ようやく思い出せた俺はIDカードを下にスライドさせた。すると、電話に変身したIDカードを持って固まった。
誰に掛ければ?寧ろ、友人知人のすべてのデータが入った前の携帯は無くなり、何もデータが入っていない携帯に変わっていた事に今更ながらに気が付いた。
こうなってしまっては人類の叡智である携帯もただのIDカードになってしまった。もはや、俺を俺と証明してくれるただの板に成ったカードを眺めながらボーッとしていた
時折聞こえる鳥の声だけが「ピーヒョロロー」と響いていた
(お茶飲みたい……)無いものを飲みたくなると欲求とは止まらなくなるのか、お茶のことしか考えられなくなっていった
IDカードの事はすっかり忘れ去り、お茶の木を探しに山へと向かうことにした。が、先に湯船を洗って井戸から水を汲み、半分位の量にしてから山へと入っていった。
肉体が元気なうちに水を汲むのは、もはや常識になった。
山に入ってどれくらいの時間が過ぎただろうか。何匹かの猿に襲われて、蹴散らしながらの散策だったので多少疲れたが、概ね順調だったがお茶の木は見つける事は出来なかった。
そもそもどんな葉かも知らねーや。匂い嗅げばお茶の香りでもするかと想像してたが、甘かったようだ。
適当に歩く事数時間。日が傾き出したので家に帰る道すがら拾った果物を齧った。まぁまぁ美味しかったので数個もいで帰った。
あと数メートルってところで、水戸黄門の音楽が流れ始めた。
「っ!?」
突然聞こえた自分以外の音に最初はビビったが、すぐ様着信音と、気が付いてIDカードを耳に当てた。
すると、久し振りの人の声が聴こえて少し涙ぐんだ。
そのすぐ後で何か喚いてる事に気が付いた俺は
「もしもし?どちらさん?」と、聞いてみた。すると電話の声は
「ちょっと宮咲さん!?何処に居るんですか!!」
そんなセリフを喚いていた主は、いつぞや車の中で聴いた声に似ていた。
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