行商人

あるちゃいる

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六話

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 「湯浴みの準備が整いましたのでどうぞお入り下さいお嬢様方……」

 街を出て最初の休憩広場に着いた俺達はなるべく見渡しの良い場所に馬車を止めた。
 出入り口も周りを取り囲む林からも近すぎず遠からずの場所だ。そこなら人の出入りを監視できるし、暴漢や盗賊等が発見しやすく対処もしやすいからだそうだ。
 正直パーティーでの訓練などこれが初めてな俺は、完全なる初心者と言っても良いくらいで何も出来ない自信がある。
 常にソロだった俺は寝るのも食べるのも狩るのも全て一人で対応してきた。
 団体の奴等からも少し離れて寝泊まりしてたくらいだから、奴等が何をしていたのかも実際見るのは初めだった。
 だこらその事は旅に出る前に伝えた。
 だが、マダムタッソーもサリーもタップも何も言わなかった。まぁ、中にはずーっとソロの奴もいない事はなかったからだと思っていたら、彼女たちの頭の中ではどうやって彼を鍛えるかしか頭に無く、彼が言った言葉は全く聞いていなかったのだ。
 そして、彼が途中で馬車から降りて用を足しに行った隙に話し合った結果。
 従者の真似事をさせたら多少レディファーストをする足掛かりになるのでは?っという結論に至った。
 なので、ソロで何も団体行動の事は知らないよ?って言った事などスッカリ分からなかった彼女達は、彼に村に付くまでの間私達をお嬢様として扱って身の回りの事を押し付けた。

◇◇

 用を足して帰ってきたら従者になれと言う理不尽にも似た圧力が掛かり、有無を言わせぬ強引さで馬車から降ろされた俺。
 御者には蜥蜴が座り、馬車を引けという無茶振りから始まった。
 最初から従者を超えて奴隷から始めてるという事実に気づかないまま馬車を躰に着けさせられた俺は、生活魔法の身体強化(中)を使って馬車を引き始めた。
 王都の街周辺にはまだ通り過ぎる人々も多く、俺が引く馬車は良く目立つことになった。
 そしてその噂は瞬く間に都中に広まる事になった。英雄タップの従者になったのだとか、奴隷を容認する事にしたのか王都は!?とか噂がたち、その噂は王城にいる王様の耳にも入る事になり、怒りを買った。帰って着次第全員を呼べというお達しが下ったのは言うまでもない。

 帰ってきたら誰に罰が下るのかと賭けも同時にスタートして、出発したばかりの彼等の帰りを今か今かと待つ者まで現れたが、流石に気が早いと笑われた。

 王都がそんな事で盛り上がり始めた事など露知らず、シダルの従者体験は始まったばかりだ、結構軽々と馬車を引いてるシダルと早々に御者が飽きた蜥蜴のタップは既に馬車の中でお茶をしていた。
 マダムタッソーと英雄タップのお茶を入れているのは事務長サリーだ。二人にお茶をいれて茶菓子を出し、自分にもお茶を注いで座ると外で馬車を引く主の後ろ姿を心配そうに眺める。

 『大丈夫だよサリー?奴は意外とタフだから。洒落で引けといった馬車をあんなに軽々と引くとは思ってなかったんだ、引けなかったら二三発鞭で叩いて立場を分からせる事から始めようとしたんだけどねぇ。私より上手く引くとは思ってなかった。軽くショックを受けてるくらいさ』

 やり方が既に奴隷のそれなのを蜥蜴は分かっていなかった。が、何か自尊心を傷付けているらしく少し落ち込んでいた。
 サリーにしてみれば自分の主人を奴隷の様に扱っているこの蜥蜴に憤りを覚えるが、一応王付きの英雄である。怒りを飲み込んで対応しなければならず、顔にも気配にも微塵にも出さずに普通に話していた。
 それが自分の仕事を軽々と熟されて傷付いて居るのを見て(流石蜥蜴だ、脳味噌は少ないらしい)
と、物凄く馬鹿にしていた。
 冷ややかな目でその姿を一瞬みたあと直ぐに戻し、2杯目の御茶を煎れてやったところだった。
 「次の休憩場所からはタップさんが馬車を引いてくださいね?」
 底冷えのする声で思わず言ってしまったサリーだったが、後悔はしていない。
 だがその声色には気付かなかった蜥蜴は、自分の凄さを見せ付けられるチャンスと思い、何故か元気が出たようだ。
 「任せておけ!これぞ馬車という姿を見せ付けてやろう!楽しみにしてろ!」

 オネェ言葉を忘れるくらいショックな事だったようだ

 馬車を引くという仕事に並々ならぬ思いがあるのか、胸をドンと叩いて張り切ってる姿を流し見て、鼻歌交じりに馬車を引く主の姿を眺めることにした。何かあれば直ぐに対応できるように軽く身構えて

 そのやり取りを無言で見ていたマダムタッソーはお茶菓子をモグモグと食べてるサコラに話しかけた

 「お前はシダルの肩に止まって居なくて良いのか?獣魔だろう?力を貸すとかしないのか?」
 『力なら貸しているのじゃ』
 魔力でも貸しているのかと思ったマダムタッソーは、お茶菓子に手を伸ばしモグモグと食べると外を眺めながら思った。
 (そういえば全く揺れないなこの馬車……)

 そしてまたサコラを眺めると、自分の目に魔力を集めて見えない何かを見ようと目を凝らした。
 すると、薄っすらとサコラから伸びる魔力の線が馬車へと流れている事に気が付いた。
 サコラは流石に馬車を引かせるのには躊躇いがあったので、コッソリ蜥蜴にわからない様に馬車を浮かせて、重さも無くしていた。
 なので、シダルは重さの無い物をひっぱてってるに過ぎず、ソロで旅をしていた時と同じ様に歩いているだけだった。

 重さが無い事までは見えなかったが、馬車が浮いてる事には気が付いたマダムタッソーは、心の中で(なる程な)っと納得した。
 蜥蜴のやってる事は流石のマダムも許せなかったらしい。
 まぁ従者の案を自分で出しといて何を今更と思われればそれまでの話なのだが……。

 2時間程走ってから馬車は休憩処に着いた。
 此処には泉が湧き出ており、少しだけ休める様な作りなっている。
 街から一番近い休憩処でもあるためか、屋台も少しだけ出ていた。
 此処での寝泊まりは禁止されていた。
 寝泊まりできる場所は他にあり、もう少し先にあるのだ。
 此処はあくまでも少し休む程度の場所だった。

 シダルは、腹が減ったので馬車の留具を外して屋台へと向かった。

 「おい!ニィちゃん大丈夫か!?馬車なんて引かされて……訴えるなら手を貸すぞ!?」
 この国では奴隷はご法度で、どこの国から入って来たとしても、この国に居る限り奴隷扱いする事を禁じているのだ。
 「ああ、大丈夫だよ有難う、それより串肉一本くれ!」
 「そうか?何か困った事があったら隠さず言えよ?力になるからよ。それと、御苦労賃って事でお題は要らねーよ」

 そう言って串肉を奢ってもらった。
 シダルは、礼を言って他の店でエールを買った。
 そこの店でも奴隷にされてると思われて助けがいるなら言えよと言われた。
 どうやらこの国は良い国らしい。
 改めて分かって何となく嬉しかった。

 泉の縁に座ってモグモグと食っているとサリーがいつの間にか横に座って居た。
 肩にはサコラも止まってた。
 「シダル様汗をお拭きします」

 そう言って泉の水を湿らせた布で額や首筋を拭いていくサリー
 泉はひんやり冷たくて軽々と持っていた割に躰は少し火照っていたのでとても気持ちが良かった
 「ありがとうサリー、とても気持ちが良いや」
 そう言って微笑んだ。
 微笑まれたサリーは口をムニュムニュさせて頬を赤らめながら照れた。
 シダルは稀に見る程の童顔だが、パット見女性と思える程整っている。それが、微笑むと目茶苦茶可愛いのである。
 そんな笑顔を自分だけに向けられたのだから照れもする。
 マダムキラーは健在なのだ。
 マダム相手の商売だったなら成功するか誘われて毒牙に掛かるかどっちかってくらいなシダルの顔や首筋を拭き終わったサリーは次から馬車を引くのはタップになる事を告げた。
 「ん?もういいのか?」
 「はいっあんな奴隷の様な真似をさせてしまい申し訳ありませんでした!」
 そう言って跪いて頭を下げた。
 そんなサリーをヒョイと持ち上げ立たせると膝についた砂をポンポンとはたき落とし
 「気にするな」
 そう言ってまた微笑んだ

 「「ハウッ……//////」」

 っと、サリーの声と重なる様に誰かの声も聞こえて来て、サリーの斜め後ろを見ると、其処には知らない女性が立っていた。

 その女性は高そうな生地の旅ドレスを着ていた
【※ドレス風旅装束で主に貴族のお嬢様が着る服】

 「貴方は何処の奴隷ですの?主人は何処に?もし宜しければ買いたいのであるが?」

 どうやら帝国から来てる人らしい。
 帝国では奴隷は普通に取引されていて、こういう旅の途中でも取引されると聞いたことがある。

 「この方は奴隷では御座いません!失礼な物言いをするな!」
 っと、サリーが懐に手をツッコミ何かを握っているのが分かった。
 あ、これは不味いと悟ったシダルはサリーを後ろにすると、帝国貴族風のお嬢さんに向かって言った
 「私はシダル商会の会長を勤めさせて頂いておりますシダルと申します。申し訳ないが奴隷ではありませんよ?お嬢さん。それに、この国では奴隷の売買は極刑の対象です、通報されればたとえ帝国貴族といえど逮捕される事になります。言動にはお気を付けください」

 一応丁寧に伝えると、お嬢様の執事みたいな爺さんが走り寄って来て平伏した
 「うちの娘が失礼致しました!どうか逮捕は勘弁してやってください!後できつく言って聞かせますので!」

 どうやらお父さんだったらしい
 一応貴族だが帝国の男爵らしいことは分かった
 そして、ピンク髪のお嬢様は従者と侍女に連れて行かれてお父様だけが残った

 話を聞けば、帝国から王国の学園へ留学してきたらしく、まだ此方の法律などには疎いらしい。
 これから色々学んで聴かせるらしい……
 遠くの馬車から未だにシダルの方を見ては何やら侍女に喚いてる声が聴こえるが、遠くてよく聞こえない。

 一応先程の言葉は通報しないと言っておいたが、学園内で言動に気を付けないと一発アウトになるからね?っと、強めに注意しておいた。
 男爵様は始終ペコペコしていたが、結構苦労しているみたいだ。
 何か入用ならうちの商会に言ってくださいとシダルは名刺を渡しておいた。
 〖大工仕事に鍛冶仕事。祝い事の屋台も手配します!〗と書かれている。

 一応営業をしておいた。
 「おお、有り難い、何かあったら是非お願いします!」と、言って馬車に乗って王都へと向かってった。
 地位的には向こうの方が高いのだが、資金的にはコチラの方が遥かに多い。だから、商会を敵に回すよりは繋がっていた方が何かと苦労しなくてすむのだ。

 「良かったのですか?名刺なんて渡して……あの娘絶対また来ますよ?(主様の笑顔一発で落ちてましたし……)」

 「うーん……何とかなるよ多分。さて、そろそろ戻ろうか」
 そう言っていつの間にか肩でモグモグと何かを食べていたサコラをみて、手にした物を確認し、すぐ横の桃を売ってた屋台に代金を払った。

 「もう……対処するの私達なのにぃ」ポソリ

 「ん?何か言ったかい?」
 「いいえ!戻りましょう」

 サリーの声は小さく呟いたので聴こえなかった。



 二人と一匹が馬車に戻ってきた。
 馬車の留具を腰に嵌めて、鼻息も荒く待っていた蜥蜴はシダル達が馬車に乗り込み座ったのを確認すると、力強く馬車を引き始めた。
 馬車とはこう引くんだぞ!と、誰かに見せる様に胸を張って威厳たっぷりに歩く。
 その姿を横目で見たサリーはため息まじりに息を吐き、先程の帝国貴族のお嬢様の話をマダムタッソーに報告した。

 「ふぅん?その嬢ちゃんは学園に入ったのかい?なら、街にも出てくるだろうねぇ……まぁ、気を付ける様に街の人間達には伝えておくよ」

 そう言うと小さな鳥をどこからか出して何やら書くと嘴に加えさせて、馬車の窓から空に放った。
 その鳥はパタパタと王都へと向かって飛んでいった。

 「そう言えばその鳥は魔法なのか?」
 何時ぞやの騎士も飛ばしていた気がする。
 あの時は鳩だったが。
 「うんそう、魔法だよ。そうかシダルは学園には通っていないのだったな」
 「ああ、魔法は教会の神父様が教えてくれたよ。だが、その鳥は知らない」

 「無詠唱もそこで神父に教わったのか?(無詠唱な神父って言ったら元英雄のアイツしか知らないが……)」

 「ああ、そうだ魔法はイメージが大事だって聞いたが、詠唱があると聞いたのはここに来てからだな」

 「神父の名前は覚えているか?」

 「いや、神父様は神父様だから聞いたことはないな。村でも一人しかいなかったからな」

 (まぁ、そうだろうな。一人しかいないのに名前を呼ぶには失礼になるしな……しかしまぁ英雄と謳われたのが二人も居る村かよ……)

 村長だけでも過剰戦力なのに大賢者ゼリスまでも向こうに居たとはなぁと口角をあげて喜ぶマダムタッソーだった。



 
 
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