2 / 12
2話
しおりを挟む「おい隆!帰るぞ」
滾々と湧き出る水をボーッと眺めていた俺に田中が声をかける。
湧き出していた水穴からは既に砂は出ておらず、湧き出す水に砂が巻き上げられて、まるで踊っている様に見えた。
掘った場所も半分程の地点に迄水が溜まっていた。
俺はハッと気が付いて周りを見渡すと、他の皆は既にその場には居らず、仕事道具を纏めてブルーシートを掛けてる所だった。
「あ、ああ。今行く」俺は急いで立ち上がると腰を抑えて蹲る。
「いてててて……」何年かぶりに動かした筋肉と長年運転手として働いていた時に痛めた腰痛のお陰ですっかり鈍ってしまっていた。
その割には休まず土を掘り返していたなと振り返る、まるで何かに取り憑かれていた様に。
「おいおい……大丈夫かよ」
そう言いながら俺に近付き肩を貸してくれる田中。
「明日は筋肉痛だなぁ」という俺に、「おっさんなんだから3日後だろ」と言って笑う。
ヨロヨロと歩いていくと、そんな俺を気遣ってか作業員の一人が軽トラの助手席に乗せてくれた。
他の皆さんは歩いて山を降りる人と数人が荷台に乗っている。
俺より歳上なはずの大塚氏は徒歩で既に山を降って随分と先に進んでいるのが見えた。
普段からジムに通って身体を鍛えているんだそうな……。
軽快な足取りで歩く後ろ姿を眺めながら何かしら運動でもするかなぁと助手席に座りながら思った。
山を軽トラに乗って降っていると、泉の真下辺りの竹藪から
『きゃーっ!』という声がした。
沙月と美琴の声だろう。
何か楽しげな声だったから助手席の窓から下側が見えないか頭を出してみたが、藪が深いのか良く見えなかった。
「多分水でも出たんだろ、ボロ小屋を解体してた時に竹藪へと入っていくアイツラを見たから」と田中は荷台で立ち上がって下を覗き、顔を出してた俺に教えてくれた。
ものの数分で拠点にしてる港の側の空き地に着くと、既に解体は終わり新しく柱と屋根が出来つつある小屋を見る。
その横にいつの間にか自動販売機が設置してあり、皆は思い思いの場所に座って缶コーヒーを手に休憩していた。
「塩崎さん!」という声と共に大塚氏が缶コーヒーを2つ持って現れた。
俺と田中にお疲れさんと言いながら渡すと、少し話があると言って椅子のある場所へと向かう。
「売買の件なんですけど……」と話し始めた大塚氏によると、どうやらこの島を大塚氏は気に入ったらしく、終括の為に自分もここに住みたいと言い出した。
まぁ、仕方ないかと思い買うのは諦めようとしていたら
「如何でしょう、色々手も入れたいので四億でどうですか?」という。
(売ってくれるの⁉)と、こちらが戸惑っていると、山の向こう側へと向かう道を舗装したり、電力関係と電波塔やなんかも建てたいから任せて欲しいと言い、建設費用も出すという。
そこに乗っかるように田中も四億の半分は俺が出そうと言い出した。
「終活とはいえ私もまだまだ現役ですし、数年は本土との行き来になります。 農作業などには余り興味がないので其方は任せたいんですよ」という。
腕を組んでうーんと考えてる俺の後ろから「漁業なら任せて!」と、いつの間にか帰って来てた沙月達も話に加わり、俺と田中で金を払う事で合意して、手続き込みで一度帰ろうという話になった。
作業員の皆さんと植木屋さんに大工さんは暫くこの島で作業を続けると言うことで残る様だ、沙月達も探検したいからと言うので任せる事にして、俺と田中と大塚氏だけ一度帰り1週間後くらいで戻る事になった。
少し波が高いが明日か明後日には落ち着くだろうとの事だった。 なので船出は様子を見て行ける時にすぐ出れる様に準備だけして置く事にした。
その日の夜は飯盒でコメを炊き、夕方頃に沙月達が釣った魚を焼いて晩飯にすると作業で疲れた皆はぐっすりと眠った。
その日の3時くらいに目が覚めて用を足す為にテントから出て戻り、再び眠るとまた夢を見た。
その夢は前日に出てきた知らない爺さんに感謝された後、宝物だと言ってキラキラと光る絹っぽい袋を渡される夢だった。
何となく楽しい夢だった様で、目が覚めた時も何故かホワホワとした心地が暫く続いていた。
だが手元に貰った筈の袋が無い事に気付き、ガッカリもした。
テントから出ると既に日は高く、俺を起こしに来た沙月にいつまで寝てるのかと怒られた。
「もぅ! 隆さんだけですよ寝てるのは! 朝ご飯はもう無いんでオヤツでも食べていて下さい!」
そう言うと揚げたばかりのえびせんを渡された。
こんな物まで持ってきていたのかと少し呆れたが、彼女達は社員旅行気分で来ていた事を思い出してまぁいいかと思いながらパリパリとえびせんを食べた。
これが中々に美味くてあっという間に山盛りのえびせんを食べたが、流石に足りなかったので、空になった器を持って沙月を探した。 昼飯の準備で飯盒に火を付けている最中の沙月を見付けると、声を掛けた。
「さっきのえびせんまだある?」
そう言うと「もう無いよ」と言う。
最初から量は少なかったようで、美琴と沙月に田中が数枚食べて、残りを俺が全て食べたようだった。
大塚氏はアレルギーでもあるのかで食べはしなかったが、驚いた顔をしながら揚げる前のえびせんを1枚だけ貰っていったそうな。
「朝起こしに行った時に隆さんの寝袋の横に置いてあった袋に入ってたので謝らなくてもいーんですよ」と笑い
「勝手に持ち出して御免なさーい」と軽い調子で謝られたが、(そんな物持ってきてたかなぁ?)っと考えていたので人の物を勝手に持ち出したって所は聞き流していた。
「おーい隆! 大塚さんが水上飛行機手配してくれたからそれ乗っていくぞ!」
そんな物に乗るのは初めてだった為に考えるのは止めて、沙月達に挨拶すると田中と二人で瞳をキラキラさせながら走って向かった。
昨日の疲れとか腰の痛みとか全く気にならないくらい軽やかに走れた。
港に行くとTVでしか見た事もない様な飛行機が水面に浮いていた。
田中と二人できゃいきゃいとはしゃぎながら港で待っていた大塚氏と一緒にゴムボートに乗って搭乗した。
シートベルトを着けてワクワクしながら窓から田中と二人で離水する所を眺め、安定すると大塚氏に感謝の言葉を告げた。
このまま九州か羽田にでも行くのかと思っていたが、沖縄のが近いから那覇空港まで飛んでそっから乗り継ぐらしい。
50歳に近いおっさん二人が子供にでも戻った様に大騒ぎしている俺達とは逆に、大塚氏は1枚の揚げる前のえびせんを難しい顔をしながら眺めていた。
「揚げる前のえびせんを見るのは初めてなんですか?」
漸く落ち着いた俺は、えびせんを太陽にかざしたりしてる大塚氏に話しかけてみた。
「いえね……昔爺さんに貰った奴と似てるので……えびせんてもっとピンク色じゃありませんでしたっけ?」
そう言われたので大塚氏の手元にあるえびせんを俺も眺めて見ると、確かに青みがかっていて、陽の光に照らされた宝石の様に綺麗に見えた。
「言われてみれば確かにそうですね……もしかしたら原料が海老じゃ無いかもですね」
と、答えていると田中が大声で「見ろ見ろ沖縄だ!」と、騒ぎ出したので俺も田中に加わり窓から少し遠くに見える島を眺める方に集中し始めた。
楽しい水上飛行機の度は直ぐに終わりを迎え、陸に上がるとタクシーを拾って那覇空港へと向かった。
席順は田中だけ離れた所に座り、俺と大塚氏が並んで座った。
このまま羽田へと向かうらしい。
離陸して直ぐに大塚氏は再び青みがかったえびせんをポケットから出すと、指で遊びながら昔話を話してくれた。
「……戦前の話なんですけどね? 実はこれと同じ色合いの物を子供の頃に爺さんから貰ったことがあるんですよ」っと、話し始めた。
大塚氏の話によれば、爺さんがまだお父さんと呼ばれていた時にお土産と言って渡してきたのがえびせんだったらしい。
当時は食べる物も少なかったが、食べれば蕁麻疹が出るからと爺さんから沢山貰ったんだそうだ。
大塚氏は腹も減っていた事で数枚だけ七輪で焼いて食ったが、腹を壊して自分にも爺さんと同じアレルギーがあるのだと知り、捨てようと思ったが、何か悪い気がして残りを屋根裏に居た鼠にあげたのだそうな。
「……それが令和の時代になって同じ物があってね、まだあるんだなぁって懐かしく思って……塩崎さんはこれを何方でお買い求めに?」
「いやぁ、最近物忘れが酷いのか記憶に無いんですよね……」
と、答えた。
そこで俺は不思議に思った事を大塚氏に聞いてみた。
「大塚さんって今いくつ何ですか?」
だが、その俺の質問はアナウンスの音にかき消された。
そして再び質問しようとしたら、遮られて
「戦前じゃ無かったかなぁ? ははは、いやぁ私も物忘れが増えたみたいです」と言ってはぐらかされてしまった。
羽田に着くと田中が「手続きやなんかはやっておくから隆は引っ越しの準備とか諸々の手続きして来いよ」と言って大塚氏と一緒に別行動になった。
「それじゃ用事済ませたら連絡するし、しろよー」と一言言って別れた。
1
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
合成師
盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる