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第3章 大狼討伐戦
第37話 デュエルマスター
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遅過ぎた。踏み出すのが遅かった。
飛び込むのが遅かった。
何もかもが、遅過ぎた。
何がいけなかった?全部だ。
あれはアーチェの僅かな時間稼ぎ。俺を逃がす為だけの。
導いて、くれるんじゃなかったのかよ。
こんな木偶の坊な役立たず。助ける価値なんてこれっぽっちも無かったのに。
壁に張り付いた数体まで。言葉通りに葬れたのは。
アーチェは壁に近付かれるのを嫌い、群れの中心に向かって突進を始めた。
こちらを一瞥した時の顔は、清々しい笑顔だった。
俺は何をしていた?ただ、上から眺めていただけ。
クソッタレのクズだった。
敵に囲まれた輪の中で、大きな拳を浴びせられ、大切な剣まで弾き飛ばされた。細い身体がくの字に曲がり、弾かれた独楽のように高く宙を舞った。
敵の容赦無く注がれる冷たい拳を見た瞬間。やっと俺の身体が動き出した。
「やーめーろー」
寸前で間に合わず、アーチェは激しく地面に激突した。
全身の骨が砕けるような衝撃と音。聞こえる耳を引き千切りたい。
両サイドに壁から何かの魔術が飛び、アーチェまでの道が出来上がった。
脇目も振らず駆け寄る。
腹部や胸部、肩肉まで抉れ、中の骨まで露出していた。
最上級の回復でも間に合わない。
「な、いぞう。私に、止め、を」
意識が在るだけでも奇跡に近い。何処までも強い人だ。
「でき、ないよ。アーチェ!」
出来るはずが無い。苦しいのは解ってる。それでもだ。
触れただけでも壊れそうな彼女の身体を、道着の上着で包んで抱え上げた。手足も全部折れ曲がっている。
「なら、ば。戦え、私の、ために…」
俺に一番欠けていた物。何かの為に。誰かの、為に。
戦い抜く、覚悟。
出掛かった答えを聞く前に。意識を失うアーチェ。
死んだと思った。誰が見てもそうだろう。彼女はもう、救い様が無いと。
-スキル【拳闘士】
並列スキル【慟哭】発動が確認されました。
これに伴い最上位スキル【拳闘士】は
【般若】へと進化しました。-
天に向かって獣の如く叫んだ。
誰がこいつらをここへ向かわせた。こんな人形を造り、差し向けたクソが居る。
この群れが続くその先に。
男だろうと女だろうと魔族だろうと構わない。神でも仏でも悪魔でも天使でも構わない。
全部。全ての敵を俺が葬る。
打ち砕いて土塊に変えてやる。
出来上がった空間に彼女の身体をそっと置き直す。
血の気の引いてしまった青白い頬に触れた。
立ち上がる。奮い立つ怒り、胸を突き上げる闘志。
走り出す。そこからの記憶は定かじゃない。
敵を排除する。彼女の周りから全て。安心して、眠れるようにと。
-スキル【般若】
並列スキル【闘魂】発動が確認されました。-
真っ白い光に包まれていた事など知らない。
遠くで誰かの声がする。そんな物もどうでもいい。
迫る拳を裏手で払う。
「どうして戦わない」彼女の声が、言葉が浮かぶ。
膝を折り、敵の懐に潜り込む。
「誰よりも強くなれるのに」
上方に突きを放ち、下腹部から風穴を通す。
「守れる者を、守る力が在るのに」
空けた穴から後方を覗き見た。先に進む程に敵の層が分厚く並んでいた。鬱陶しい。
太い腕、脚、腹、頭部。目に映る全ての邪魔な造形を粉砕しながら一直線に突き進んだ。
「意気地無し」
進んでは戻り、破壊し損ねた部位を叩いて回る。
「戦え。私の為に」
突き、殴り、蹴り上げ叩き付ける。
前段の掃除を終える。煩わしいブーツを脱ぎ捨て、素足で走り出す。
血肉に滑る地面を抉りながら、突き進む。
-----
美しく壮絶。桐生は激しい怒り包まれ、フランケンの群れを蹂躙しながら前進していた。
狂戦士なぞ比では無い。
場に居合わせる誰もが、呼吸を忘れて見守る。呆然と。
その姿は、歴史に名高き武神の如く。しかし怒りに振れ過ぎている。
敵の掃気が済めば冷める代物ではない。
あれが終わった途端。敵意がこちらに向けば。
最悪の結果が待っている。
リンジーは倒れるアーチェに駆け寄った。
彼を止められるのは、あれを生み出した彼女しか居ない。
掛けられた防具を外す。損傷は酷い。代わりの言葉が見つからない。意識は無いが、僅かな脈を感じ取れた。
残念だが回復術は間に合わない。
延命は堪え難い苦しみを与えてしまうだけ。
だが、もう一つだけ手は在る。BOXに渡された小瓶。
赤竜の生血。人間が一滴でも飲めば、死の淵からでも舞い戻り、身体の損傷も治る優れ物。
その代償は大きい。長寿。竜種並の寿命となってしまう。
何もせず生きれば、不死に匹敵。永き刻を生きる。
即ち彼女が愛する者との別れが待ち、心を蝕み内側から朽ち果てる。対する身体は朽ちはしない。
それがどれ程の苦しみか。通常の苦しみとは違う苦痛。どちらも茨の道に違いない。
「劣化させればいいんでしょ?やってみるよ」
魔改造が得意なタッチーの言葉だ。
術を施し、皆で分けたものの。未だ誰も試してはいない。
本当に、狙い通りの効果が在るのかも解っていない。
これは、飽くまでも緊急用。どうしようも無くなった時に使おうと結論を出した。
済まないアーチェ。これは私の業だ。
恨んでくれていい。責任は私が取ろう。
-スキル【森羅】
並列スキル【革命】発動が確認されました。-
瓶の半分を損傷の激しい傷に垂らした。
立ち所に塞がって行く傷。繋がり合う骨と肉。
深い呼吸が戻った。効果の程は素晴らしい。
ただ損傷した内臓だけは、口から飲用しないと元には戻らない。
判断は彼女自身に任せる。
アーチェの頬を粗く叩いた。
「起きてくれ。アーチェ」
彼女の瞼が薄く開いた。意識は戻った。
-----
僕は馬を降り、リンジーさんたちと先に向かってひた走る桐生君の間に立った。
ヘルフランケン。先生があれを製造していたとは未だに信じられない。信じたくない。
残りの道は、カルバンさんに賭けるしか。あんな不確かな希望に縋るしか。
最後尾のヘル、桐生君、僕。
一直線状に進路軌道が修正された。間違いなく狙いは僕らだった。
愛だの恋だの下らない。そんなのは、帰ってから幾らでも出来る。相手さえ見つかれば。
リンジーさんの方を振り返ろうとしたら、後ろからジョルディさんに目隠しをされた。
「なんで?」
「女性の半裸が見たいとでも?これだから殿方は」
誤解を招いたようだ。
「違うって」
桐生君の方に向き直り、戦況を見守る。
後方軍が段陣形を組み始めた。彼らも戦いの流れを見守っていた。桐生君が倒れれば、一気に距離を詰める気だ。
進む速度は落ちていない。向い来るヘルの速度は逆に上がった。どうやら桐生君がロックオンされた。
次第に露わになる、ヘルフランケンの姿。
人造キメラ。混合体。
あらゆる獣、魔物、そして人の残骸たち。
アレのベースと成っている物。僕ら以外の、学校で亡くなったクラスメイトたち。
正確に数えるのは不可能だ。何せ、黒竜に消し炭にされたのが殆ど。頭部、手足、胴体。辛うじて形が残った部位を寄せ集められた集合体。
「酷い。何て事を」
冷静なジョルディさんでさえ口に手を当て、言葉を詰まらせた。
「僕は、犯人を知ってる」
「それは、知っていて黙っていた。と言う事ですか?」
「詳しくは、他のメンバーが戻って来たら。みんなの前で話すよ」
どうしてジョルディさんにだけは正直に話してしまうんだろう。幾ら考えても、やっぱり答えは出て来なかった。
無能君から貰った軍配を取出し、握る。
ぶつかり合うヘルと桐生君。そこに向かって差し向けた。
-スキル【天配】
並列スキル【裁量】【救済】【天光】
同時発動が確認されました。-
「さよなら、先生。僕を切り捨てた事、後悔してよ」
「ヒオシさん?ですか?」
「全く違う…」呼び名を説明するのは面倒いなぁ。
ヘルフランケンの真上。夕暮れ間近の薄暗い空から降り注ぐ淡い光。それは天に昇る一筋の道にも見えた。
根幹の人間の部分以外がポロポロと地に落ちて行った。
残すは本体。
「ガンバレ!ナイゾーーー」
クラスで初めて友達と呼べる人。
体格差5倍強。桐生は回り込み、打ち込み、振り下ろしの拳を受け、流す。
足首を薙ぎ蹴り、体勢が崩れた所で開いた脇腹から突き崩した。
身を捩り逃げるヘル。急所まで人間と同じなんて、皮肉以外の何物でもない。
あれは真に皮肉の塊だった。
崩壊して行くヘルフランケンを前に、桐生は大きな雄叫びを上げた。喜びの無い勝利を嘆き。
桐生が、白い光を纏ったまま引き返して来る。
予期せぬ急接近。
「ちょ、ちょっと。不味いかも…」
「え…?」
ざわめく周囲の中で唯一人。前へと歩み出る人が居た。
復活を果たした、アーチェ。
「おい、ナイゾウ」
白光が、アーチェの目前で急停止。それと同時に光は霧散した。
「…なんで?生き、てるの?」
「勝手に殺すな。それより帯を出せ。この道着?の正しい着方が解らんぞ。巻いてくれ」
「は、はい。只今」
赤茶色の道着に黒帯を巻き付け、前で結わえた。
「やれば出来るじゃないか。私の言った通りだろ?」
「う、うん。生きて、くれて、嬉しい」
戦場の真ん中で抱き締め合う2人。
-スキル【般若】はパートナースキル【羅刹】の
影響を受け、
最上位【般若】は【デュエルマスター】へ
最上位【羅刹】は【白夜叉】へと進化しました。-
「肌寒い。血を流し過ぎたようだ。温かい物でも食べに行こう」
「うん、行こう」
2人の視界には、周りの全ては映っちゃいない。
温かいオーラに包まれた向こう側。
天道の光に導かれ、クラスメイトの残省たちは、塵へと戻り静かに天へと昇って行った。
どうか、安らかにお休み。城島は心の中で、そっと祈りを捧げた。
飛び込むのが遅かった。
何もかもが、遅過ぎた。
何がいけなかった?全部だ。
あれはアーチェの僅かな時間稼ぎ。俺を逃がす為だけの。
導いて、くれるんじゃなかったのかよ。
こんな木偶の坊な役立たず。助ける価値なんてこれっぽっちも無かったのに。
壁に張り付いた数体まで。言葉通りに葬れたのは。
アーチェは壁に近付かれるのを嫌い、群れの中心に向かって突進を始めた。
こちらを一瞥した時の顔は、清々しい笑顔だった。
俺は何をしていた?ただ、上から眺めていただけ。
クソッタレのクズだった。
敵に囲まれた輪の中で、大きな拳を浴びせられ、大切な剣まで弾き飛ばされた。細い身体がくの字に曲がり、弾かれた独楽のように高く宙を舞った。
敵の容赦無く注がれる冷たい拳を見た瞬間。やっと俺の身体が動き出した。
「やーめーろー」
寸前で間に合わず、アーチェは激しく地面に激突した。
全身の骨が砕けるような衝撃と音。聞こえる耳を引き千切りたい。
両サイドに壁から何かの魔術が飛び、アーチェまでの道が出来上がった。
脇目も振らず駆け寄る。
腹部や胸部、肩肉まで抉れ、中の骨まで露出していた。
最上級の回復でも間に合わない。
「な、いぞう。私に、止め、を」
意識が在るだけでも奇跡に近い。何処までも強い人だ。
「でき、ないよ。アーチェ!」
出来るはずが無い。苦しいのは解ってる。それでもだ。
触れただけでも壊れそうな彼女の身体を、道着の上着で包んで抱え上げた。手足も全部折れ曲がっている。
「なら、ば。戦え、私の、ために…」
俺に一番欠けていた物。何かの為に。誰かの、為に。
戦い抜く、覚悟。
出掛かった答えを聞く前に。意識を失うアーチェ。
死んだと思った。誰が見てもそうだろう。彼女はもう、救い様が無いと。
-スキル【拳闘士】
並列スキル【慟哭】発動が確認されました。
これに伴い最上位スキル【拳闘士】は
【般若】へと進化しました。-
天に向かって獣の如く叫んだ。
誰がこいつらをここへ向かわせた。こんな人形を造り、差し向けたクソが居る。
この群れが続くその先に。
男だろうと女だろうと魔族だろうと構わない。神でも仏でも悪魔でも天使でも構わない。
全部。全ての敵を俺が葬る。
打ち砕いて土塊に変えてやる。
出来上がった空間に彼女の身体をそっと置き直す。
血の気の引いてしまった青白い頬に触れた。
立ち上がる。奮い立つ怒り、胸を突き上げる闘志。
走り出す。そこからの記憶は定かじゃない。
敵を排除する。彼女の周りから全て。安心して、眠れるようにと。
-スキル【般若】
並列スキル【闘魂】発動が確認されました。-
真っ白い光に包まれていた事など知らない。
遠くで誰かの声がする。そんな物もどうでもいい。
迫る拳を裏手で払う。
「どうして戦わない」彼女の声が、言葉が浮かぶ。
膝を折り、敵の懐に潜り込む。
「誰よりも強くなれるのに」
上方に突きを放ち、下腹部から風穴を通す。
「守れる者を、守る力が在るのに」
空けた穴から後方を覗き見た。先に進む程に敵の層が分厚く並んでいた。鬱陶しい。
太い腕、脚、腹、頭部。目に映る全ての邪魔な造形を粉砕しながら一直線に突き進んだ。
「意気地無し」
進んでは戻り、破壊し損ねた部位を叩いて回る。
「戦え。私の為に」
突き、殴り、蹴り上げ叩き付ける。
前段の掃除を終える。煩わしいブーツを脱ぎ捨て、素足で走り出す。
血肉に滑る地面を抉りながら、突き進む。
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美しく壮絶。桐生は激しい怒り包まれ、フランケンの群れを蹂躙しながら前進していた。
狂戦士なぞ比では無い。
場に居合わせる誰もが、呼吸を忘れて見守る。呆然と。
その姿は、歴史に名高き武神の如く。しかし怒りに振れ過ぎている。
敵の掃気が済めば冷める代物ではない。
あれが終わった途端。敵意がこちらに向けば。
最悪の結果が待っている。
リンジーは倒れるアーチェに駆け寄った。
彼を止められるのは、あれを生み出した彼女しか居ない。
掛けられた防具を外す。損傷は酷い。代わりの言葉が見つからない。意識は無いが、僅かな脈を感じ取れた。
残念だが回復術は間に合わない。
延命は堪え難い苦しみを与えてしまうだけ。
だが、もう一つだけ手は在る。BOXに渡された小瓶。
赤竜の生血。人間が一滴でも飲めば、死の淵からでも舞い戻り、身体の損傷も治る優れ物。
その代償は大きい。長寿。竜種並の寿命となってしまう。
何もせず生きれば、不死に匹敵。永き刻を生きる。
即ち彼女が愛する者との別れが待ち、心を蝕み内側から朽ち果てる。対する身体は朽ちはしない。
それがどれ程の苦しみか。通常の苦しみとは違う苦痛。どちらも茨の道に違いない。
「劣化させればいいんでしょ?やってみるよ」
魔改造が得意なタッチーの言葉だ。
術を施し、皆で分けたものの。未だ誰も試してはいない。
本当に、狙い通りの効果が在るのかも解っていない。
これは、飽くまでも緊急用。どうしようも無くなった時に使おうと結論を出した。
済まないアーチェ。これは私の業だ。
恨んでくれていい。責任は私が取ろう。
-スキル【森羅】
並列スキル【革命】発動が確認されました。-
瓶の半分を損傷の激しい傷に垂らした。
立ち所に塞がって行く傷。繋がり合う骨と肉。
深い呼吸が戻った。効果の程は素晴らしい。
ただ損傷した内臓だけは、口から飲用しないと元には戻らない。
判断は彼女自身に任せる。
アーチェの頬を粗く叩いた。
「起きてくれ。アーチェ」
彼女の瞼が薄く開いた。意識は戻った。
-----
僕は馬を降り、リンジーさんたちと先に向かってひた走る桐生君の間に立った。
ヘルフランケン。先生があれを製造していたとは未だに信じられない。信じたくない。
残りの道は、カルバンさんに賭けるしか。あんな不確かな希望に縋るしか。
最後尾のヘル、桐生君、僕。
一直線状に進路軌道が修正された。間違いなく狙いは僕らだった。
愛だの恋だの下らない。そんなのは、帰ってから幾らでも出来る。相手さえ見つかれば。
リンジーさんの方を振り返ろうとしたら、後ろからジョルディさんに目隠しをされた。
「なんで?」
「女性の半裸が見たいとでも?これだから殿方は」
誤解を招いたようだ。
「違うって」
桐生君の方に向き直り、戦況を見守る。
後方軍が段陣形を組み始めた。彼らも戦いの流れを見守っていた。桐生君が倒れれば、一気に距離を詰める気だ。
進む速度は落ちていない。向い来るヘルの速度は逆に上がった。どうやら桐生君がロックオンされた。
次第に露わになる、ヘルフランケンの姿。
人造キメラ。混合体。
あらゆる獣、魔物、そして人の残骸たち。
アレのベースと成っている物。僕ら以外の、学校で亡くなったクラスメイトたち。
正確に数えるのは不可能だ。何せ、黒竜に消し炭にされたのが殆ど。頭部、手足、胴体。辛うじて形が残った部位を寄せ集められた集合体。
「酷い。何て事を」
冷静なジョルディさんでさえ口に手を当て、言葉を詰まらせた。
「僕は、犯人を知ってる」
「それは、知っていて黙っていた。と言う事ですか?」
「詳しくは、他のメンバーが戻って来たら。みんなの前で話すよ」
どうしてジョルディさんにだけは正直に話してしまうんだろう。幾ら考えても、やっぱり答えは出て来なかった。
無能君から貰った軍配を取出し、握る。
ぶつかり合うヘルと桐生君。そこに向かって差し向けた。
-スキル【天配】
並列スキル【裁量】【救済】【天光】
同時発動が確認されました。-
「さよなら、先生。僕を切り捨てた事、後悔してよ」
「ヒオシさん?ですか?」
「全く違う…」呼び名を説明するのは面倒いなぁ。
ヘルフランケンの真上。夕暮れ間近の薄暗い空から降り注ぐ淡い光。それは天に昇る一筋の道にも見えた。
根幹の人間の部分以外がポロポロと地に落ちて行った。
残すは本体。
「ガンバレ!ナイゾーーー」
クラスで初めて友達と呼べる人。
体格差5倍強。桐生は回り込み、打ち込み、振り下ろしの拳を受け、流す。
足首を薙ぎ蹴り、体勢が崩れた所で開いた脇腹から突き崩した。
身を捩り逃げるヘル。急所まで人間と同じなんて、皮肉以外の何物でもない。
あれは真に皮肉の塊だった。
崩壊して行くヘルフランケンを前に、桐生は大きな雄叫びを上げた。喜びの無い勝利を嘆き。
桐生が、白い光を纏ったまま引き返して来る。
予期せぬ急接近。
「ちょ、ちょっと。不味いかも…」
「え…?」
ざわめく周囲の中で唯一人。前へと歩み出る人が居た。
復活を果たした、アーチェ。
「おい、ナイゾウ」
白光が、アーチェの目前で急停止。それと同時に光は霧散した。
「…なんで?生き、てるの?」
「勝手に殺すな。それより帯を出せ。この道着?の正しい着方が解らんぞ。巻いてくれ」
「は、はい。只今」
赤茶色の道着に黒帯を巻き付け、前で結わえた。
「やれば出来るじゃないか。私の言った通りだろ?」
「う、うん。生きて、くれて、嬉しい」
戦場の真ん中で抱き締め合う2人。
-スキル【般若】はパートナースキル【羅刹】の
影響を受け、
最上位【般若】は【デュエルマスター】へ
最上位【羅刹】は【白夜叉】へと進化しました。-
「肌寒い。血を流し過ぎたようだ。温かい物でも食べに行こう」
「うん、行こう」
2人の視界には、周りの全ては映っちゃいない。
温かいオーラに包まれた向こう側。
天道の光に導かれ、クラスメイトの残省たちは、塵へと戻り静かに天へと昇って行った。
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大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
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