生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第3章 大狼討伐戦

第45話 巨星、動く

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帝都はそのまま藤原が現状維持に勤める。
大きな動きがあるまで飛空挺は飛ばさない。
門藤が襲撃してきたら、逃げ出す。

聖女は再び西海岸へと戻った。
無能たちがランズハーケンで別れた頃。

西の大陸、キルヒマイセンでは二極化していた内乱が終決へと向い始めていた。


「マーマ」母の腕を掴み、ブンブンと揺らす。
「なんじゃ、騒々しい」

潤んだ瞳で母を見上げる娘。名はルドラ。
人間に比べれば短期間で幼女の域は脱した。
成長と共に、多少は荒れた性格が落着いた。

しかしどうしてか、甘味への欲求は増すばかり。

暫くの間は、唐黍の汁を煮詰めた黒砂糖で凌いでいたが、それもそろそろ限界が来た様子。

圧倒的にバリエーションが足りない。

砂糖水や蜜飴では飽きたのだ。

日々娘のイライラに自分も、下臣たちも頭を悩ませ震える毎日。

「早く、あんな虫けら蹴散らして。東の大陸へ向かいましょうよー」

「待つのじゃ。今その対策を考えておろう」

「そうやって何日経つの?早く、ケーキ、ショコラ、餡蜜、大福、たーべーたーいー。もういい!ママが行かないなら私1人で行くもん!」

「待てと言うに」

対策を練らねばならない理由。
東側を占領統治する蟲王には、自分たちが得意とする爆炎魔法が一切通じないからだ。

唯一有効な手段である冷気魔法。その使い手がこちら側には一人も居なかった。

こんな事なら、あの馬鹿を殺す前に、真っ先に打つけておくべきだった。

今現在いったい我らは何の為に戦っているのか。
発端は自己の人類への復讐心から始まったのは間違いない。それが今や、娘を満足させてやるのが命題に置き換わった。

象の足でも潰れない躯。虎の爪でも通せない外殻。
数多の多種多栄。大小数は減らした以上に戻される。

最初は火が通じる種類でも、数日すれば耐久性が上がる。

支配が通じる相手も、範囲も限られる。蟲王単体であればまだ道もあるが、文字通り蟲の壁で接近出来ず。

打開策が見つからない。ルドラの我慢も限界に達しようとしていた。

「もう、我慢できない!!」

ルドラの限界点が来た。そして訪れる狂気。

-スキル【解放】
 並列スキル【臨界】発動が確認されました。-

あの異端の父にして妾との正統な血娘。
背にするは、漆黒の翼。血走る眼。

「行くよ、ママ!」
「あ、あぁ。行こうぞ」

未知無類の侵攻。蹂躙劇が始まった。




-----

大きな日傘を持ち上げ、暗雲立ち籠める西の空を見上げる聖女。

「こ、これは…」
大切な果実水が入った水筒を地面へ落としてしまった。

上空で2つに割れる分厚い雲海。

西大陸の状勢が目まぐるしく変化している証拠。

-スキル【聖女】
 バラストスキル【偽装】が解除されました。
 これに伴い、最上位スキル【聖女】は、
 【天使】へと昇華しました。-

-スキル【天使】
 並列スキル【白倖】【御加土】同時発動されました。-

「アルバ様。…ゼウス様。どうか、お許しを!」

背にするは、純白の翼。
シンシアは、BOXの奥深くに手を差し入れた。

取り出すは、茨の長鞭。名をグリンガム。
太古の昔。或る女神が己が犯した愚行を律する為に造りし武具とされる物。

真上の空への飛翔。昼間の空でも輝く白光。
高く、高く、空高く。天が遣いし御遣い。

「さようなら。私の願いは、叶いました」

笑顔を浮かべた天使は。
分厚い暗雲の片割れを上空から突き破った。




-----

直ぐ隣を並列飛行をしていたアルバが不意に止まり、西を振り返った。

「シンシアさんが心配なら戻って」

「そうすっぺ。あれは、いけねぇだ」
顔面蒼白のアルバさんを見るのも初めてだ。


急に引き返したアルバを見届け、少し先で待つ2人の元へ飛んで貰った。

-何か心配事?-

「うーん、どうだろう。アルバさんや聖女さんなら大丈夫だと思うけど」

「アルバさん、急用?」
「この辺りでの停滞は危険です。タッチー、決断を早く」

この真下はミルフィネか。
ジェシカの生まれ故郷。立ち寄りたくないみたい。

「戻ろう!何だか胸騒ぎがする」

引き返したアルバを3匹と3人が追う。

遙か上空を通過する機影を、地上から見詰める存在。
ジェシカの懸念が、悪い方に的中してしまう事となる。




-----

「ほぉほぉ。やっと見つかったのかえ」
たっぷりと皺と白髭を蓄えた顔が、部下が持ってきた吉報に破顔した。

隙間だらけの歯を見せ笑う。

「皇帝のスキルが、消去から不死身へと変貌。密偵からの確かな情報です」

「不死身…、不死身…。遂に我が手に」

若かりし頃から追い求めてきた不老不死。
老いは諦めても、永劫の命は欲しい。

まだ身体が動かせる内に手に入れる。

生涯で使用回数が限られる【強奪】スキル。魔族でもない普通の人間の身体では限度が有った。

一度目は失敗。碌でもないスキルの取り込みに使ってしまった。
二度目は半分成功。【長寿】を取り込めた。所有者の寿命分だけの延命。
残すは一度切り。それが老いた身体の限界点。

クロアード・ロンドは願う。

死すればスキルは解放され、この世の誰かに移譲する。
それは血族の格率が非常に高い。

これは私の物だ。誰にも渡さない。

この強奪を欲して、親族や仲間の多くと長らく争ってきた。
老いや衰えが見え始め。争いは止み、周囲はこの身の崩御を待つようになった。

死んでやるものか。これは私の物だ。
不死さえ手に入れれば、ずっと私の物になると。

老体に鞭を打ち、何年か振りに自分の足で立ち上がった。

所有スキルは【強奪】【因果】【長寿】
伸びたはずの寿命は、因果に冒され身体を蝕んだ。
取り込んだ後で、因果と長寿は反発し合うスキルだと判明した。それからは苦しみの毎日。

全身の骨と筋肉が悲鳴を上げた。
「鳴け、喚け、好きなだけ。我は行く」
少ない歯を食い縛り、老人は落ちそうになる膝を抑えた。

杖を持って来た部下の手を振り払う。
「我は行く。この、苦行なる道を!」

神の領域。雷鳥が持っていたとされる【不死鳥】の道は断たれた。一度は諦め掛けた不死。

それが今、手の届く場所に在る。

老人は全身の痛みよりも、沸き上がる喜びに打ち震えた。

-スキル【因果】
 並列スキル【自衛】発動が確認されました。-

クロアードは笑いながら、重い一歩目を歩み出した。
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