生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第3章 大狼討伐戦

第54話 最後の閃光

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間一髪。真横を通り過ぎた熱線。
間はかなり取れたのに高温が伝わる。
冷や汗も吹き飛んだ。

半負傷状態のイオラたちに降下して貰い、一旦西に引き返した。

状況を把握。救いは中央の巨人が動かない事。
動けば後ろの山が浸食されるからと推測。あれはテリトリーを保っているだけで連携と呼べる物ではない。

辿れる道は。
南で多重障壁を展開する峰岸班の後方を迂回する道。
フェンリルが居るかも知れない北に入り込む道。
南から更に東に抜け不可思議な現象を止める道。

今の高度では山脈奥までは見渡せなかった。
大きな気配はしたもののフェンリルの姿は確認出来ず。
北側は未知のリスクが高過ぎる。


急遽峰岸班と合流。丁度中央の後衛部隊も前線まで追い付いた頃に不時着した。

一時的に分散していた異世界組が集結した。

リンジーと山査子で砦を形成。
祐子とカルバンで障壁+結界で防御壁を前面設置。

定期的に数発の熱線が打ち込まれたが、全発鏡面の壁で捻じ曲げほぼ真上上空へと流した。受け切るのは不可能に近い。

無駄だと解ったのか、打ち込みが止んだ。

飛び出そうとしていた桐生とアーチェを留めた。
「まだ何が在るかも解らないから」

不満顔のアーチェだったが、半壊した中央ルートの実情を見て閉口した。

見渡せる限り、平面も岸壁もドロドロに溶け、燻る溶岩化していたのだから個人の耐久性でどうにか成る代物ではなかった。

來須磨が峰岸に聞いた。
「何だよあのレーザーは」

「見誤った。あれは元々俺がユーコに撃たせた太陽光を集約した光熱線だ。遠距離で倒し切れたと。真逆吸収と物真似を同時にやって来るとはな」
悔しそうにテーブルを拳で叩いた。

オートがテントに入って来た。
「失礼しちゃうよ。いやー参ったね、あれは。でも幸い人的な被害は軽微。数人は離脱するけど死者は零。これは奇跡と言っていい」

この短時間で周囲の状況を集めて来た。リーダーとしての優秀さが窺える。

「今死んでないだけで、酷い火傷だよ。回復魔道具無かったらヤバかったわ」
「生きてはいる。それだけ」
救護班の鴉州と岸川の悲痛な声が聞こえた。

「あー、もう。手が足りない。まだまだそっちに行けそうにないから私たちは無視しといて」
鷲尾も救護班に加わっている様子だった。

「私を見ても躊躇無く打ち込むあの態度。ママと同格かそれ以上じゃ。流石にあの熱量を超える物は撃てぬ」
ルドラがキュリオの膝の上で腕組み、息巻いていた。
すっかり椅子として使われてる。

「中途半端に攻撃撃つと吸収されちゃうしな」

偵察に出ていた城島とジョルディから連絡が入った。
「大体状況が掴めたよ」
「また逃げようとした癖に…。東ルートは道自体が消失。冒険者部隊と国軍が完全に分断。前、辛うじて全滅は免れた模様ですが」
「時間の問題だと思う。勇気ある撤退だってば」
城島のサポートに回ったジョルディの好判断。逃亡を図った城島を捕まえたらしい。

西側も風浪を突破して前に出れば無事では済まない。
巨人に察知されれば遠く離れていても光線が飛ばされる。

序盤にして詰んだ。

巨人を撃破しないと前に進めない。
東の救援にも回れない。あれだけ忠告したのに、突っ込んだクリス男爵の失態だ。自業自得。と割り切れれば楽なんだけど。


「来たぞーーー」
外で警備班の声がした。

考える時間を与えない気だ。
慌てて外へ飛び出すと、上空一面に黒い集団。
蝙蝠かと思いきや、大きな鴉の大群だった。

バズバード。Aランクの下位。
吸血種の純粋な僕。主と認めた者にしか操れない。例え神であろうと、指揮権を奪う事は適わない。

「魔術厳禁。武を以て制す。国軍に伝達。弓隊前へ」
オートが冷静な指示を出す。

動揺を隠せない峰岸は押し黙ったまま動けずに居た。

「ユウコ君とカルバン君。防壁の維持に専念。投擲攻撃手のみ前に参戦」
尚も薄ら笑うオート。飄々と淡々と。
「ペペスは待機。無駄に使うな」
「歯痒いなぁ」

後援部隊からサリスが走って来た。
「ジェシカさん!風が得意だと聞きました。ヒオシさん!空刃なら行けそうです」
「急に大人じゃん」
「了解です」

-スキル【真勇者】
 並列スキル【斬刃】発動が確認されました。-
-スキル【闘真】
 並列スキル【空蝉】発動が確認されました。-
-スキル【陽炎】
 並列スキル【残像】発動が確認されました。-

-三種同時発動に因り、シークレットスキル
 【ハーベストウィンザ】強制発動されました。-

3つの空刃が重なり合い混じり合う。程なくそれは一陣の渦となり、やがて起きたのは細い竜巻。

打ち込む度に、重ねる度に太く強く回転速度を増した。

真上を貫く一本の風渦。放たれた弓矢を絡め取り、周囲のバズバードを巻き込んで天高く舞い上がる。

サリスが東に向けて剣を振り被ると、釣られて竜巻の頂点も首を傾けた。
軸の中心で破裂するバードたちを乗せ、誰も居ない東側の大地へと血の濁流となって叩き付けられた。

「油断は禁物。第二波来るよ」

ヒオシが舌打ちを咬む。
「切りがねぇ。もういっちょ」

「ちょっと待った。サリス、交代よ」
「アビ。俺ならまだ」

サリスの肩に鷲尾がそっと手を置いた。
「調子に乗らない。勝利はこの場に居る人で掴む物よ。私たちだって戦うわ。ね?」
「えー、連れて来たのは救護じゃないの?仕方ないなぁ」
鷲尾の後ろに隠れる様な素振りで顔を覗かせたのは、岸川だった。

「キュリオさん。操作系の底力、見せてあげましょ」
「はいはーい」

-スキル【聖像】
 並列スキル【演舞】発動が確認されました。-
-スキル【水拙】
 並列スキル【全域操作】発動が確認されました。-
-スキル【操術】
 並列スキル【影縫い】発動が確認されました。-

-三種同時発動に因り、シークレットスキル
 【ハーベストムーン】強制発動されました。-

岸川が打上げた幾本の矢は、鷲尾の円月輪を纏う。
輪は矢を軸に高速回転。停滞は僅か。

黒い標的を射貫き通す一本線。

「どう?凄いでしょ、私たち」自慢気にはしゃぐキュリオ。
「や、やるわね」一瞬だけ素に戻るルドラ。

「大半消滅。俺たちも見せてやれ」
オートの号令で弓隊が奮起した。

バズバードの殲滅には2時間も掛からなかった。

しかし未だ巨人が控えている。
倒し方が見つかっていない。近付けば焼き殺される。

戦闘狂の妻に若干引き気味の夫。そんな夫婦が動き出した。
「光を吸収し魔力としたのだよな。であるなら使い続ければどうなると思う?」
「わ、解り、ません」

「嘘を言うな。出て行くのが怖いのだろ?怒らないから正直に言ってみなさい」
「こ、怖いです」

鬼の形相に変化する嫁さん。狼狽える旦那。
どこの夫婦漫才っすか?

アーチェが分厚い砦の門に手を掛けた。

「ペペス!出番だ。2人に発動。最大射程は」
「200mが限界だ。いいのか?本当にいいんだな。ベースが高いと、どれだけ上がるか解らんぞ」

「あの2人なら大丈夫だ。惜しまずやれ」
「どうなっても責任は取れよ」

-スキル【特色】
 並列スキル【限界突破】発動が確認されました。-

爆発的に圧し上がる2人のステータス。
「う、うぉぉぉあああ」
あの日のように、桐生は白い光に包まれた。

「雄叫びは勝利の時だけでいい」
そう言って旦那の尻を蹴り上げ、先陣を切る嫁の姿。

絶対アーチェが最強でしょ。最凶かも。




-----

取り残された。訳ではない。
置いて行かれた。訳でもない。

ツーザサが心配だからと、アビ様に頼まれた。
町の警護を任された。

信じられる人が少ないからと。嬉しい言葉を悲しい顔で言われてしまっては。
「「「お任せを!」」」と元気に答えるしかありません。

立派な武装も頂いた。

大狼討伐が済めば、今度こそ一緒に旅をしよう。
アビ様のその言葉を胸に。
前回のような寂しさは感じない。

エドガー様の許可もあっさりと降り、エムール様の特別措置で市民権も得た。

西側からの遠征軍もプリシラベートを経由して帰路に。
商業の道を拓き、それを手土産にすると豪語した、憎きヒッテラン。

剣先をアビ様に向けた愚か者。許せぬ。

許せぬが、復讐の機会を逃してしまった。


中央広場の石碑。ただ静かに佇む姿。
頂点に突き立てられた大剣が、町全体を見守っているかのよう。

苦渋、慟哭、後悔。それらを寄せ付けまいと。

クイーズブランの国軍は、町の住人の総数よりも多い。
五百余りの兵士を束ねるのも、腹を満たしてやるのも中々に大変な作業。

それでも町の住人は町の安全と引き換えに、笑っていた。
本当の再興。本来の町の姿には程遠くとも。

町を襲った惨劇を乗り越え、ここに残り笑顔で踏み上がる姿には故国には無い躍動感を感じた。



突如鳴り響く警鐘。
「敵襲ー、敵襲ー」

「何事だ」上級兵士の怒鳴り声が響いた。

俄に戦闘態勢へと移る大半の国軍兵。
追従する形で後を追った。

町の西側からの強襲だった。
アビ様たちの留守。町を守れるのは我らと国軍。

「加勢する。敵の規模は」
「一般人は屋内へ」
「何人だろうと追い返す」

エストマは長剣を。サプリは斧を。ディートは槍を。それぞれに握り締め、死点へと向かう。

何度叩けば気が済む。激しい痛みを超えた先の、行く果ても戦。腑が煮えたぎりそうだ。

「自由にやらせて貰うぞ」

負傷して引き返してきた兵士とすれ違った。
「奴らは、強い。気を付けろ」脇腹から流れ出る血を押さえながら。


町外壁外の傍。短時間で寸前まで押し込まれていた。
「何者」

答える者は居なかった。
軍旗は掲げていない。しかし武装は整い過ぎていた。

敵兵総数は二百に満たない。寧ろ少数精鋭と感じる。
動きは素早く連携も取っているのに、肝心の指揮者の姿が見えず。

生きているのに、死んだ様な目をしている。
敵は、操り人形。ならば操縦者が隠れているに違いない。

全歩兵。騎馬が一騎も見当たらなかった。
この兵士たちは何処から湧いて出た。

思案している間にも更に押し込まれた。

人外。魔族に似た力。そうでなければ説明が付かない。

何も無かった空間から突然増援が現われた。
煌めく腕。構えたのは火の魔術。
「前線、退きつつ防御態勢!」国軍を束ねる者の号令。

だが足りない。
「一カ所に固まるな!焼かれたくないなら退け」

3人で背中合わせに前に出た。

今こそ。今でこそ。我らにもスキルが発現した。
アビ様にキスを頂いたあの瞬間に。

-スキル【閃斬】
 並列スキル【閃結】発動が確認されました。-

-スキル【尊容】
 並列スキル【包括】発動が確認されました。-

-スキル【厳突】
 並列スキル【魂砕】発動が確認されました。-

「「「死なば諸共!悔いは無し!!」」」

-三種同時発動に因り、シークレットスキル
 【レゾルバーニア】発動されました。-

荒れ狂う突風と混じり合う炎。業火に焼かれても怯まぬ風は町に住む者たちの心を表わしていた。

始めに宙へと飛び出したのは、槍を持つディート。伸びる風を巻きながら飛んだ。
続いたのは、斧を持つサプリ。自らも身体を軸に更に風を煽った。
乗り上げたのは、長剣を持つエストマ。渦の中心で動きを止めたサプリの斧の上に乗った。

エストマを真上に打上げたサプリは、同時に移動を開始した。誰一人寄せ付けず。

宙空でディートの槍柄を掴み、更なる高みへ。
振り切ったディートは敵が密集する場所に直滑降。

飛散する土煙と血肉の欠片。

間を抜けるサプリに続き、ディートも後を追う。
増援が現われた場所まで。


エストマは上空から周囲を見回した。
「見えた…」

地上に見えたのは、三隻の舟。超低空飛行で町へと接近していた。

頂点で折り返そうとした瞬間。手にしていた長剣が弾かれ目前に現われた影に左肩口を打たれた。

不可避。崩された体勢のまま、町の中央広場の方角へと叩き落とされた。

力不足。この高さから硬い石敷に当たれば即死。

アビ様。とても、楽しゅう御座いました。
後は頼んだぞ。サプリ、ディート。私は、ここまで…。
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