生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第3章 大狼討伐戦

第56話 天使の随伴

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門藤 良助。私の元世界での名前。
小学校に上がった頃。両親が事故で他界。
引き取るのが面倒になった叔父夫婦は、私を躊躇う事無く施設に入れた。

当時受け取っていた保険金を使い潰した後で。

知らぬが仏。事の詳細は成人してから聞いた。
本人たちから。違法性を指摘し、大学以降の学費や生活費を出させた。

最初の転移は大学三年の夏。
それまでも何度か記憶が曖昧になる時期は在った。

鮮明に記憶に留めて置けたのがそれだ。

特定の場所に呼び出され、毎回環境が違った。

来る度に過去の記憶が蘇り、帰ると大部分を消されるの繰り返しだった。

過去の自分の所業の痕跡を調べると、元世界と異世界の時間の流れの違いに気が付いた。

その差は数十倍。正確には計れる手段が無い。
しかし確かにそこには歴然足る差が存在した。

異世界で何年過ごそうと、元に戻れば1年も経過していない。

何度か行き来させられている内に、私を呼び付けた張本人と遭った。聞こえ感じただけの声と存在感。

伝え聞こえた話に因ると、三兄弟の次兄で他の二人から迫害を受けている。その状況を変える為に呼んだのだと。

呼び出せる条件の様な物も聞いた。

全くの別の異世界の住人である事。
自分と似た様な波長を持つ物。
世界を渡る意志を持つ物。
それらとは真逆の性質を持つ者でも、他に条件を満たせば可能と成る事を。

直ぐさま元世界で教員免許を取り、関東の公立高校の教員と成った。

異世界で召喚の土台を築かせ、元世界で人材を集めた。
生贄と呼ばれる存在が必要だった。
それが生徒の31名。

御方が欲するスキルを発現させる為の、札であり器。

入学当初から目を付けていた生徒を見繕い、数値合わせ要員も混ぜてみれば不自然さは無かった。

裏で校長と学年主任の弱みをチラ付かせれば、面白い様に事は運んだ。

元世界での準備を終え、後は知らせを待つのみ。
特別な儀式等も不要。

元世界からは付属品がある程度持ち込めるが、逆は不可。
帰る時は全裸になる為、場所は自宅に限定させた。

違和感を感じるシステムだった。聞けば他の神が干渉している所為だと解った。

元世界に神は居ないのか。答えは不明。
元世界からは拒絶を受けていないので、恐らく形態が違うのだろうと御方は言っていた。

今で言う忖度に似た措置かも知れないが、それこそが神のみぞ知る領域だ。

ともあれ世界間での干渉はされない。反対に許容内なら何をしても構わないのだと判断した。


過去の自分が何をしてきたのかを探る。
作業は然程難しくなかった。
逆算した時期を辿り、異世界の文明に沿わない魔道具や言葉を見つければ良いだけなのだから。

冒険者ギルドのステータスカードの製造器。
これは各自のスキルを視認化させるのに役立った。
意図せずギルドの発展にも貢献してしまったが、所詮は烏合の衆の冒険者。経緯よりも結果を重視した。

言葉は簡単。日本語に似た流系の中に、突然和製英語が混じっていれば見付け易い。
計算上自分の領域ではない場所や時代でも見つかった。
それは過去に同じ様に呼び出された者が居た、と言う話で難しくはない。大概が日本人ではないかと疑問符は残ったが気にしても意味は無い。


三大竜種。赤竜、黒竜、青竜。
赤竜はゼウスの使い魔。
黒竜はハーデスの使い魔。
青竜は御方の。あれは最後の…。
笑いが止まらない。


世界間の相違。
先ず異世界人はベースで身体能力値、詰りステが高い。
それが元世界でどんなにひ弱な弱小だったとしても。
異世界の武器や攻撃では傷付き難い特性を全員に与えられる。転移特典の様な物と捉えれば良い。
当然の話だが、個人の防御力を超える攻撃を食らえば普通に死亡する。
例えば黒竜の火で生徒の大半が滅した様に。

一方デフォルトで弱くなっている耐性も在る。
異世界から持って来た武器に因る攻撃。それらで受傷した傷は治り辛く、回復術も効果を示さず、再生スキルも無視される。例えそれが小さな果物ナイフでもだ。

召喚直後に生徒全員を葬る案も在ったが、当初は私もステは同列。桐生や山査子に反撃されれば、その場で計画は破綻する。
それが初期状態での戦闘を避けた理由だった。


多少のイレギュラーはあったが、漸くここまで辿り着いた。
今回ばかりは途中で帰れない。時間差的に実質のリタイヤに成る得る。

御方の降臨に必要なスキル。
その発現を見逃しては大きな痛手。

残る生徒には漏れなく個別スキルが着いた。
可能性が在るのは現世の住人の内の誰かが濃厚。

この時、門藤は複数スキルを所有する生徒たちの存在を外していた。


-スキル【虚無】発現が確認されました。-

-新規スキル枠の消滅に伴い、
 現フェーズはクローズされます。-

「なん…だと…」
目的のスキルは発現した。誰に着いたかは後回しだ。

それよりもフェーズクローズとは何だ。
そんな話は聞いていない。
この私の役目が終わったなどと、認める訳には行かない。

時間的猶予は無くなった。

あの本だ。本さえ手に出来れば生き残る道は残される。

カルバンから無能。無能からゴルザ。
奴らは本の真の価値に気付いていない。
ゴルザのBOX内なら万事休す。打つ手が無い。
今現在、ゴルザは真下に居る。

雑魚で固められたサイカル村に先回りし、塵を盾に本を奪い取るのが最短。

「ヒカジ!今直ぐ戻れ」
「…了解しました」継ぎ接ぎだらけの人形。
再構成時に人としての自我を抜いておいて正解だった。
今では従順な犬同然。


ここでも門藤は愚手を打つ。
敵が居ない遙か上空に居る安心感から、周囲への警戒を怠っていた。

西の方角から撃ち込まれる魔術攻撃の雨。

光学迷彩が効かないのは、相手が同列の存在の証。
「アルバニル。二度までも!」邪魔立てばかり。

想定よりも帝国の残機が出張るのが早い。
視認出来たのは数隻。恐らく先行させた舟。
事後で何かに使おうと破壊しなかった事を後悔した。

「下の三つは捨てる。残り八をセンゼリカ、同じく八をフラムに回せ」

迷彩を解き発進させた。本船を除き。
「両国の王都。落とせるなら落としてしまえ!私は一旦ここから離脱する」
勝機はゴルザが村に帰還するまでの間。
先手を取れなければ、何もかも終わりだ。



「あいやー。火力が足んねぇべよ」
姿を現わし蜂の子を散らすが如く、北と東に向かう機影を見詰め、アルバは嘆いた。

「大見得をお切りになった割りに、これですか?」
一旦は帝都に残ると言っていたシンシアが、やはりこちらが心配だからと結局アルバに付いて来てしまった。

「下にゴルザっちが居るもんでよぉ」

その理由は良く解らない。
もっと近距離の攻撃を進言したのに、効果の薄い遠距離を選択したのはアルバ本人。

「下へ行かないのなら、何方に?」
「東だっぺ」迷わずセンゼリカ方面を選択。

異端の存在はゴルザ様に任せるご様子。
数日遅れる後続部隊に期待を寄せる。

皇帝が乗るのだからと、臣下らが船の装飾に凝り出したのを拝見し、半ば呆れて帝都に背を向けました。
ネフタルには申し訳ない事をしましたが、あの様子なら平定迄に然程の苦労は無い様に思います。

先行組は五隻。十隻は帝都に温存。
残り三十五が後続部隊となる。
乗組員不足と工夫の技術不足が祟り、全機での出航は断念された。後人育成も急務。

今巻き込まれたら、抜け出せなくなる気がしました。
折角家督の柵みから解放されたと言うのに、二度とは戻りませんよ。アルバ様との旅も譲れません。

【天使】の能力を与えて下さったゼウス様にも、一度お会いしてみたいと切に願います。
尤もこちらからは存在自体は掴めませんが。
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