生まれ変わっても無能は無能 ~ハードモード~

大味貞世氏

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第3章 大狼討伐戦

第58話 感謝と成長

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到着目前で敵再構築は、その頭部を残すのみ。
右足首をブレイカーで崩しに掛かった。
続くのはキュリオとジェシカ。

左側はヒオシ、メイリダ、リンジー。

中央ではルドラが飛び上がった。

キョウヤも背から羽根を伸ばして上へ飛んだ。

薄皮を剥いでは収納を繰り返した。

隣のヒオシ方面は粉砕しながら足場を固めて行った。

破壊活動が再構築の速度を上回る。

左足を固められ、右を崩されれば、後は膝を落とすしか体勢を取れない。

振り落ちる右膝を大胆に回避。

2体の小さな飛翔体に翻弄され、上半身だけで腕を振り回していた。

相手が鈍い訳じゃなく、こちらの能力値が優った。

未完の首元に光が集約。
「全員、背面に回り込め!」

狙い通りなら、こいつは後方には光線を放てない。
案の定、撃ち場の無い光を真上に撃った。

「後方の山の向こうはフェンリルが居る。なら当然北側には打ち込めない。刻み放題、行くぞー」

各々返事を返し、背後から刻みに掛かった。

「ルドラ、キョウヤ。翼が生えそうなとこ潰して」
ルドラにはお願いしないと動いてくれないので、一応お願いの振りを。

「参加はせぬと言うたのに。後で覚えておれよ」
バレバレでした。

「吸血種の最高峰なら、翼も自然だな」

-スキル【真蟲王】
 並列スキル【破傷】発動が確認されました。-
-スキル【解放】
 並列スキル【切開】発動が確認されました。-

-二種同時発動に因り、シークレットスキル
 【クロスペイン】発動されました。-

上空の2人がクロスしながら飛び交う。

この時点でエンパイアの下半身はほぼ瓦解。
リンジーが上から土壁を張り、地中に埋もれていた。

蹲る様な姿勢を取ろうとする。余程魔石を取られたくないらしい。でも残念。

巨大過ぎた魔石は、背中からの綻びからでも見えた。


「収納!」
暴れる腕を回潜り、手を伸ばし最後の一手を叫んだ。

賭けではあった。しかしこれは勝率が高いギャンブル。

鷲尾とカルバン、サリスの合わせ技で傷が入っていないはずが無いと踏み切った。結果は。


エンパイアは最後の力で、自分の半身を引き千切り胴から反転した。僕らを見下げて崩れ掛けの口を大きく開いた。

「回避ーーー」

-スキル【有知有能】
 並列スキル【虚構】発動が確認されました。-

全員回避する物と思っていた、キュリオとジェシカが振り返った。
「「タッチー」」2人の声が届いた。

「何してんだよ!」ヒオシが珍しく怒ってる。

「大丈夫」大丈夫では済まないだろうけど。
それでも。

それでも、標的は必要だった。
エンパイアから最後の光が放たれた。




-----

斬られた脇腹から血が滲んでいた。
息苦しい、肺にも損傷を受けている。

頼みのゴルザ殿は前方で奮戦中。

頭を潰しても尚立ち上がる。
こいつらは以上だ。
プリシラの微温湯に浸かっていた私でも解る。

一つの目標。一つの目的。
求めている結果。その違いだけだった。

私たちと、敵である彼らの差は。


借り受けた長剣を引き摺る。振り上げる。

スーっと合間に息を整えた。

任された責任。逃げない努力。
私たちが逃げれば、全てをゴルザ殿に押し付けてしまう。

ゴルザ殿よりも前方。
相方の2人が舟の位置で十倍以上の敵を相手にしていた。

-スキル【閃結】
 並列スキル【帰結】発動が確認されました。-

抜き放った先端が目映い弧を描いた。
これは、終わりの舞い。
あの方の元で。あの方の元へ。

悲鳴を上げる全身の骨肉。面白い。
喰らえるなら、喰らって見せろ。

-スキル【閃結】
 単独シークレットスキル【エンドロール】
 発動されました。-

エストマの一撃は寸手空間を越えた。
距離さえも時間さえも。

初めての出会い。
あの方たちは、苦笑いを浮べるだけだった。

守る立場に在ったのは、出会いから数週。
気が付けば逆位置。あの方は。あの方たちは。

いつの間にか、前に居た。

輝く閃光。それは違わず、見えない舟の先端を砕いた。

弾ける血液。砕ける骨。有り難い。

これでこそ、あの方の役に立てた。


踏み込む。尚も踏み込む。
「邪魔だ!」

先の首を刎ね、兜ごと頭蓋を割り叩いた。

「立て!立ち上がれ。英雄一人に任せるな!」
残る国軍兵を鼓舞した。

前の2人が槍と斧を交差して笑い合う。

次が恐らく、最後との。


「成らぬ。許さぬ。乗り越えよ」
神言の如き言葉。

吐ける血反吐。命の輝き。それは閃光。
三つの輝きが交差した。

神の呪いを乗り越える石度。想いの欠片。

「愚かな。そして、何より美しい」

輝ける日々は。あの日の笑顔は。
全てを賭す価値が在った。

我らは。私たちは。後悔だけはしまい。

-三種同時発動に因り、
 シークレットスキル【クライシス】発動されました。-

交差した輝きは、遙か遠い意志さえも凌駕した。

儚い一瞬だとしても。瞬きの瞬間だとしても。
後悔だけはしまい。

私は。私たちは、手にする武器に力を込めた。




-----

治水手続きは終わった。
後は中央の判断を待つのみだった。

ラング隊の動きは素晴らしい。
指示を鵜呑みにするではなく、最良を選ぶのだから。

ルデインの町はもう大丈夫。
これ以上の領域は踏み込めない。

中央に戻るか更に東か。その二択。

大陸東を預かる身でも、東の国境を越えるのは容易ではなかった。

正直今更戻っても、碌に参加も出来ないだろう。
ならば。


公然の約束事。
極東の海域を預かる国々。諸島連合、アジサイ。

その西端を取り仕切る、首領に挨拶をする。
言葉の様に容易ではない。

当人は気難しさで有名。
しかしその姿を黙認出来た者は非常に少ない。

大きな船を借り、沖に出て間も無く。
邂逅出来た。運が良いのか悪いのか。

「難儀な連中だねぇ。物好きってほうが似合うかね」

そう彼女は。東部海域の首領。クイニィ・ビーンズ。

荒波に揉まれ、船酔いも疎ら。正気を保つのも難しい。

「有り難いとでも言っておこう」

航路を守る海賊船。異質な響きに聞こえるだろうが、それがこの海域のルールなのだから仕方ない。

東諸国連合。冒険者組合が根ざしていない領域。
それぞれの島が国と言ったら少々過言でも、それ程に国数が多い。

多さ故に過去の統一政府は管理を放棄し、自由連合として解体された。国としての体裁は、各々の第一貴族が頂点に立ち、管理を施していた。

漁船や商船は、目的の国か海賊に金を払い通商手形を受け取りメインマストに掲げなければ通航不可。
闇での航行では海賊たちに襲われても文句が言えない。


先の言葉は口で交わした物ではなく、海賊船と擦れ違った際に船首に立ち、こちらを伺う貴婦人の目がそう言っていた。かなりの手練れだと感じた。

連合西部の海域を縄張とするビーンズ海賊団。
あれがクイニィなら、私は運が良いのかも知れないな。

噂ではそのまま近隣国の管理までしていると聞く。
何処の国かまでは掴めていないし、地元民も公然の秘密として気にしていない素振りだ。
内政不干渉とは良く言った物。

我らが乗船させて貰った商船は、連合始まりの国スターラー領の通証を掲げていた。

ルデインから最寄りの国。現地調査の一環。
海の現況を知るには現地が最良と考えた。

沖に出て数日。海の異常は特に無く平穏無事に港町に到着した。

「俺、船初めて乗ったんすけど…。正直嘗めてました」
イニシアンの顔色が盛大に青い。船酔いが酷かった。

「私も十年以上振りだ」
自分もまずまず酷かった。

他の人員と乗組員は当然。手慣れた物で平然とした顔をしていた。当たり前だな。

2人だけ陸に降りると早速伸びをして気分を変えた。


役場に行く前に、少し海岸線を散策した。ここも特に異常は見当たらず、通りがかりの漁民に聞いても。
「ここいらの海はビーンズさんとこが掃除してくれてるからなぁ。今酷いのはもっと北側の海域だって聞いてるよ」
ルデインで得た情報とも差異は無い。

神妙な顔付きのラングが呟いた。
「大規模な氾濫なら、討ち漏らしが陸地まで攻め込んで来るからな。相手があいつなら、内陸も無事では済まないだろう」
ラングが言うあいつは、恐らくサーペント。強大な海蛇とでも言おうか。水は勿論、陸に上がっても長時間生きていられる特異種。大昔から何度も町や村が襲われた例は数え切れない。

「あいつだけは、この俺が…」怒りで口調が変わった。

ラングの拳にエマの手が優しく添えられた。
止めようとはせず、落ち着けと言っているようだった。

「隊長さんよ。本気で討伐する気なら、もっと人手集めないと」
「兄さんにしては慎重だね」
双子で顔はそっくりなのに性格だけは真反対。

「前に一回だけ遠目で見た事がある。あれは本物の化けもんだと、がきんちょの俺でも解った。遣り合うなら慎重にもなるさ」

「プルアの言う通り。今回は調査だけだ。北陸に寄ってみてもいいが、討伐には参加しない意向だ。尤も、目の前で町が襲われていたら別だがね」

落ち着きを取り戻したラングは、エマの手に手を重ねた。
「有り難う。大丈夫だエマ。あいつに恨みを持つ者は数知れず。私もその内の一人。私怨が強い。暴走したら止めてくれ、マクベス殿」

「了解した。全力を以て止めてやろう。案ずるな。近い将来には、強力な助っ人たちをここまで引っ張る積もりだからな。今回はその下見も兼ねている」

「助っ人?」

「内の2人は、ラングたちも良く知る人物だ。訳を話せば必ず協力してくれると思う」

サーペントの目撃情報や実被害数は、クイーズ領海とアジサイ側では極端に違う。
アジサイには、大蛇を引き寄せる何かが在る。
少なくとも私はそう捉え、今回の遠征で綻びだけでも掴みたいと考えていた。

「2人…。おぉ、あの2人か。元気だったか?」

「元気そのものだ。あれから急成長を遂げ、今頃は大狼討伐の中核を担っているだろう。それぞれ嫁を2人ずつ引き連れている程だ」

「嘘だろ。あいつらいつの間に。追い越された処か、引き離されてる…」
プルアが現状を知り、身震いしていた。
「兄さん。それどっちの話?」

「うっせぇよ。お前だって…」

エマが首を捻った。
「複数婚、という事は。それだけの財が国に認められたのですか?又はそれ程の功績を挙げたとか」

「いや両方だ。少人数で手負いの赤竜の討伐を果たし、且つ国を丸ごと買い取れる程の財も手にしている」

「「はぁ…」」
プルアとゼファーの落胆が激しい。是非奮起して欲しいものだ。

「そんな凄い人たちと知り合いなんすか?俺も早く会ってみたいっす」一人気を吐くのは、イニーだけだった。

「その前に、先ずは修行だ。横に並び立つのは無理でも責めて足元までには掛からないとな」

「ふぁい!死に物狂いで頑張りまっす」


「冗談キツいぜ。俺たちもやるぞ。やってやる」
「俄然燃えてきたね、兄さん」

3人の若者がその胸に闘志を滾らせていた。
良い傾向だ。これなら意外に成長も早いかも知れない。

「望んだのは、こう言う事だろ?ラングよ」
「あぁ。マクベス殿は人を乗せるのも上手いのだな」

褒められたのだと捉えておこう。
伊達や酔狂だけでは生き抜けない。先には多くの危険と死が付き纏う。それが冒険者稼業。

だがしかし。遙か高みを目指す若者を育てるのは、実に楽しいものだ。

ジョルディは女だ。女児を授かった時点で、冒険者には成って欲しくはなかった。

年頃の反発に乗じて、自ら冒険者の道を選び取った。
私自身が何かを教え込んだ事は無いに等しい。

年々死別した妻に似て行く娘。
貞淑を望み育てた積もりで居たが。私は何処かで間違えたのだろうか…。
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