お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第152話 闘技大会本戦前(後編)

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レイルにカレーを宅配した夜。

鯰と聞いた物は実は小骨が多いで有名な鱧だった。
「このお魚だったら湯引きにして小骨を刻んで梅肉ソースを付けて食べるのがお勧めよ」
「酸っぱい梅の実かえ?それは楽しみじゃの。こっちが片付いたらもう少し釣って行くぞい。今は監視が付いておるからのぉ」

現況をざっくり聞き、兎に角一般人には被害は出さないでとお願いして王都に引き返した。


翌午前にホースキさんが約束通りに現われノドガの情報を聞いた。

「ノドガの奴隷商との取引も最近では下火に成っていると伺いました。次期内務大臣候補に挙がっているのも事実の様子です。正確な序列は不明。ですが内定位置に居るからこそ控えているとの見通しです。
質問事項に有りました家族構成に付いては。亡くなられた正妻と存命の側室との間に、二女と一男を設けているそうです」
一部食い違いが有るが概ね2人が持ち帰った情報の通りだった。
「側室さんとお子さんたちの名前は」
「側室はマーメン。長女はミミル。長男はウォンド。
側室間に生まれた次女はラミル、だそうですが現在は行方知れずらしく。と言うよりも情報の把握が出来ていない様でした。正確な情報はやはりデブルが握っているのかと思われます」
「ありがと。そこまでで良いよ。追加で探って貰ってもいいけど藪蛇に成っても俺たちの所為ではないからな」
「承知致しました」

スタンがお礼を言って帰らせた。

寝室に隠れていた2人とクワンティをリビングに呼んで午後からの打ち合わせ。

「悪い。次女の話は聞けてなかったな」
「申し訳ありません」
「会ったばかりの人に余計な情報まで話さないと思うから大丈夫。聞いても怪しまれるだけ。一応これで長女長男の名前は真実だと解った」
「いよいよ望郷の出番ね」

世界地図上で1回。クワンジア内領内図で1回。
ベンツールの略図で1回。5人の位置関係を把握した所でスタンが首を捻った。

「どうかした?」
「いやぁ。情報通りなんだけど…。ラミルがゴッズの指輪と同じ位置に。地図上で倉庫街の一角に居るんだ」
「え…」

「敵の信者かどうかは解らねえが。味方なら第二の人質に成るな。ノドガの屋敷に盗聴器仕掛けられてたら内状を話せない理由にも成る」
ソプランさんの指摘ならしっくり来る。
「しかもミミルの位置がクエの西沖の上。移動してるぽいから船内に居る。更にウォンドの母親。亡くなっている筈のノドガの正妻さんが屋敷の奥に居るみたいだ」

「亡くなった事にしてるならそこには触れない方が良いわね。問題は船か…」
厄介ここに極まれり。
「船で行くにしても北側からだろ。セイムオート方面の沖には大型の海洋魔獣の目撃情報も有るからな」
忘れてはいけない港の情報。

水竜様。海の一角獣は討伐しても良いのですか?
「西の海域を隔てる壁役として置いた物だ。従属化防止で知能が低く従魔でもない物を選んだ。討伐は推奨せぬが引き連れて行くと他の船が落とされる。海に出るなら沿岸伝いに南下するのが善いだろう」
有り難う御座います!

「沖に出て出会さないように沿岸部を南下しましょう。態々セイムオートから出港する必要性は無いから。クワンティが飛べる範囲で南から出れば問題無いわ」
「クワッ」

「そうするか。号艇銘板は外して来たけど。唯一無二の装備品付けてて目立つから。可能な限り速攻で救出する。
他の人質も居て分散してる可能性も有る。殲滅はしない方向で。行くなら全員助ける」
「情報に無い人の選別はどうするの?」

「新作のグラサンと俺の鑑定スキルで選り分ける。重ね掛けで見破れないのは上位者だけだよ」
頼れる旦那様が久々に登場。本領発揮ね。

そして邪神の加護を受けた者が居なければ…。




---------------

マリスは船を諦め、陸路に切り替えた。
知恵は回るようじゃが未だ未だ足りぬ。妾がチャーチャに居座る限り、どの方角からも入れはせぬぞよ。

一度捉えた魚は逃さぬ主義じゃ。妾の幻術を打ち破れるとしたら本物の邪神の加護持ち以外に無い。

異界からの干渉具合もそれで知れよう。船を捨てたなら破られてはいまいな。

今宵はメリリとの約束が有るで手早く済ませたい所。

宿のフロントで当人とお喋りをしているとベントナが単独で西に走り出した。

馬か。加えて通信具を持っておる。
「暫く出掛けますわ。夕方には戻ります」
「行ってらっしゃいませ」
町娘の見送りも中々に乙な物。

気分良く宿を出てベントナよりも先に回り込み、停止するのを待った。


擬態道具でマリスと衣服を同一化し、暫し間を置いた。

西に向かう街道から逸れた北側の林の中。そこが逢瀬の場じゃな。

恋仲ならハグでもするのかの。素直に気色悪いがフィーネとの約束じゃから善処はしよう。

「ご機嫌麗しゅう。マリス様」
何じゃ普通の対応じゃのぉ。多少息を切らせる演技で。
「貴方も息災の様ですね。お久し振りですベーナ」
愛称は本人からだだ漏れじゃて。

「お早いお着きで。お一人でしょうか」
「貴方に早くお会いしたくて先行して参りました。世を渡る小舟は」
「細波の上で」
「揺蕩う」
心の合い言葉までだだ漏れじゃ。楽でええのぉ。

水門の鍵と通信具となる指輪が差し出された。
「地下道の鍵は無くされたとか。代案の手筈は」
「既に整って居ります。水門を抜けた先に居るカッチャと言う名の男が常駐しており。姫様が声を掛ければ中まで通れます」
「カッチャ…。事故で記憶が定かでは有りません。その方と面識は有るのでしょうか」
「姫様が覚えて居られずとも下々の者は存じています。ご心配には及びません」

「大義でした。これで私と民草の悲願が叶います。貴方の望みを今一度お聞かせ下さい」
大半は見えておるが。
「王国騎士団大将の座と…。マリス様との祝言を」
求めたのは妾じゃが気持ち悪い!

左手の甲を差し出すと即座にキスされた。焼けてしまうが浄化水で洗い流したい気分。
「…もう暫しの辛抱です。事を為せたなら、きっと。貴方は町で船と食糧の準備を。どうやら乗り付けた船では河辺を進めぬ様です」
「賜りました。どうぞご無事で」
「貴方も。愛しきベーナ」
妾は気持ち悪さで涙目。ベントナは熱い瞳を返して立ち去った。

町を南から入り直して偽装工作は無事に完了。

擬態道具も良好。異性にも化けられるならもっと掻き乱して遣れるが如何しよう。無理繰り遣れぬ事も無い…。

遣ってしまおう。


先程のポイントまで戻り、擬態道具と手の甲に残る忌々しいベントナの痕跡を利用して半擬態を施した。

一刻程が過ぎた頃にマリスが単騎で現われた。
「ご機嫌麗しゅう。マリス様」
跪いて恭しくマリスの顔を見上げる。
「お久し振りですねベーナ。先程から念話が繋がらないのですが」
「途中で知り合いと出会したもので外しました。代わりの船と食糧を急ぎ用意させて居ります。ご到着の頃には間に合わせます」

合い言葉を告げ、それらしい錠前の鍵を渡し、案内役のカッチャの名を伝えた。

「首尾良く運ばれる事を祈ります。私が出来るのもここまで。町中では言葉は交わさずお進み下さい」
「手配、感謝します。ベーナ…」

汐らしく首に腕を回して来た。意外に積極的じゃ。

周りを探り、マリス一人なのを見て唇を重ねた。
自分から来た割に驚きで眼を開いたが構わず舌を捻じ込んで味わった。ほうほう生娘じゃったか。

操っておるのも女かも知れぬな。
「あぁ愛しきマリス…。耐えられぬではないか」
大木に抑え付けて更に唇を貪った。尻を軽く撫でただけで小さく悲鳴を上げた。可愛らしいのぉ。
「こ、これ以上は。続きは成就した後に」
構わず脚を割って入れ、撫で回しながら首筋を舐めた。

風呂に入っていないのか汗臭いのを香水で抑えている。
身体の健康状態は悪くない。これなら術者を片付ければ元に戻すのも容易い。

「待ち遠しい。早く君と一つに」
本気の抵抗で押し退けられた。
「お願いです。今はお止めを」

「やはり私を使い捨てるお積りですね」
「ち、違います」

「では真実を語って下さい。王都に凱旋せず、隠れて引き戻る理由を」
さあ吐け。妾が戻す前に。
「…何を聞いても。私に付いて来てくれますか」
「勿論に御座います。地獄の果てまでも」
そんな物は無いがの。

「伯父上のピエールと」
「と?」
「隣国のケイルガードと、聖女を害し」
「は?」
はて、何の話じゃこれは。
「大きな戦争を起こすのです」
「マリス様。正直意味が…」

マリスの中の別人が微笑む。
「全ては邪神様の復活の御為」
「邪神…様?」

「魔族の魂では不向き。人間の、多くの魂を捧げれば儀式は簡略化出来。私は新たな巫女と成り得るのです」
ほおぉ。稀代の阿呆も居たものじゃ。異界の邪神も実に低脳じゃて。

海の底には無数の魚人族が居るのにのぉ。

「マリス様ご自身も。その身を捧げようと」
「いいえ。私や貴方。一部の人間だけは勝ち残ります。この世を統べる王として」
妾は笑いを抑えるのに必死。腹筋が攣りそうじゃ!

「何処までもお供致します。真の女王マリス様。しかしながら残った魔族共は如何されるのでしょうか」
「その様な愚劣は邪神様が掃除されます」

我らが小馬鹿にされておる…。じゃが半分は事実を語っておるで敢えて流してやろう。

もう半分は…楽しみじゃのぉ邪神とやら。

異界の知識全てが取り込めると考えておるなら大間違いじゃぞ。

貴様が慌てふためく姿が目に浮かぶ。


マリスの目的は解った。
離れた場所で擬態を解き、水筒の檸檬水で嗽した。宿に戻ったら歯を磨こう。

操る術者は年増の女。して南部の何処かに居る。直接は探れず見通せなかったが。

ソラリマに伝えさせるかの。

結局…貰った金はどう使えば良いのじゃ?




---------------

ベンツールの東から入り、堂々と偽装してノドガの屋敷の門前に立った。

先頭に立つソプランが招待状を出し。
「面会の約束が有る。主を連れて来た。門前払いすれば一生後悔すると伝えろ」

情報が行き届いてないのか門番は頻りに首を捻って。
「少々お待ち下さい」

表では人目に付くと待合室に通された。


応接室に移動して待っていると憔悴し疲れ切ったオーラの欠片も無いおっさんと兄ちゃんが揃って現われた。

おっさんの方が。
「生きていたのか!?宿で火事が起きたとか聞いたが」

「昨晩のあれか?」
「近くの宿でしたね。燃え広がらないか心配して居りましたよ」

「飲み屋で偶然出会った同年代夫婦の名前借りてた。火を着けたのがお前だって自白してるようなもんだぞ」
「断じて違う!私じゃない。情報を売ったのはこの馬鹿息子の方だ」
罪の擦り合いを始めた。
「済まない。俺の部下が一昨日の腹いせに敵に売ってしまったんだ。誤解の無いように王都ではなく東部地方に出張させた。この町に裏切り者は居ない。信じてくれ」

「まあいいや。宿で死んだあいつらは浮かばれねえが。実害は無かったしな。時間が勿体ねえからさっさと本題に入ろうや。今なら無償で助けてやるって言ってんだ。これ以上余計な真似すんなよ」

人質リストを受け取る前に自己紹介。
「スタ…。いやしかし今は王都に居る筈では」
「転移道具使ったに決まってるじゃあないの」
外交官の証をフィーネと同時に見せてお終い。

リストを検めると何と20人。男の子も含む。
取り敢えず知ってる名前は居なかった。

「ご存じの通り明後日に闘技大会の開会式がある。救出活動は実質明日まで。間に合わなかったら自分たちで頑張れ」
「出来る範囲で敵対活動を抑えてくれれば事後で改めて助けに行くから」
「むぅ…。仕方有るまい」

陸地の拠点が2つ。船が数隻。ミミルが何処に居るかは不明だと書いてあった。

「この他にも居る可能性は」
「そちらの情報自体が先月までの物。否定は出来ん」

「これからサクッと行って来る。今は救出が優先。拠点を潰しに行く訳じゃない。20人前後をここへ運ぶ。玄関ホールで受け入れ準備して置いて」
「今とは。これから?」

「まさか娘さん以外は受け入れられないとかケチ臭い事言わないだろうな」
「それは無いが」
「本当に、今から?」

「焦れったいな。何か問題でも?」
「いや問題無い。その情報が虚偽の場合は」

「その時はここと倉庫街を吹き飛ばす」
「目撃者は全員明日の朝日は拝めない。それ位の覚悟はしとけ」
「承知した。受け入れ準備を急ぐ。ウォンド。千載一遇の機会。腑抜けている場合ではないぞ」
「良し!やってやるとも」
痛そうな足を無理矢理折り曲げて悲鳴のような気合いを入れていた。

「しゃーないなぁ」
刷新された痛み止めと傷薬と湿布薬を提供。
「カメノス商団製の新薬だ。食後に4回に分けて飲んどけ。透明な方は痛み止め。そっちは痛む時に一口ずつ。飲み過ぎるとお腹壊すぞ」
「た、助かる」

舌打ちしたソプランを宥めて南西のクエ・イゾルバ近くの森林地帯に飛んだ。

ラミルに付いては突っ込まれなかった所を見ると今は手が出せないと踏んでいるんだろう。

クエが片付いたら覗いてみようかな。


土竜たちが棲まう森を遙か背に称え。そういや魔族も居たんだっけ。その人たちはレイルに丸投げしちゃお。

全員完全武装に衣替え。

「慣れねえなぁ。お前らのその格好」
俺とフィーネのフルメイルを見てソプランが呟いた。
「仕方ないじゃん。外嚢2つしか無いし。うっかり透明化の道具が無効にされた時に最適だろ」
今回は追加でグラサンも内臓中。

水性ゴーレムが出目金に進化。皆まで言うなし。
「何も言ってはいませんよ」
どうもどうも。

話をしながら500km双眼鏡を構えた。

人質リストとクエの略図を見比べ…。
「うわぁ。人質と場所は合ってるけど。塊の中に信者が紛れ込んでるぅ」
凹むわぁ。
「そんなのスタンしか解らないじゃない。班分けどうするのよ」
来る前は陸上と海上を班分けする予定だった。

『一つ。レイルが水門の鍵をすり替えて奪取に成功した様子だ。明日ならこちらに参戦可能だそうだが。と言うよりも放置したまま勝手に突っ込むと拗ねないだろうか』
おぉ忘れてた。
「でもなぁ。レイル連れて行くと被害が拡大し…」
自分たちの装備を見渡して。
「今更か。良し今日は偵察に専念して。明日合流後に白昼堂々一気に攫っちゃおう」
この場合は俺たちが誘拐犯になるの?

リスト中の14名は町の中に分散。覗ける範囲で沿岸諸島も確認したが該当者は居ない。必然的に残りは海上。船にも居なければ範囲外の島となる。

北部の野営地を決めに行くかと腰を上げようとした時。ふと背中に視線を感じた。
「ん?」
双眼鏡を構えたまま真東に向き直った。

「どした?」
「えーっと。今真に、あちらさんとバッチリ目が合ってる」
「あちらって、まさか」
「そのまさか」
アドリアーナさんたちと。

「睨まれてるの?」
「どっちかと言うと…。怯えてる?」
蝙蝠のような羽はボロボロ。紫色のお肌もボロボロ。
身に纏う服までボロボロ。顔色は判別不能だが健康状態は頗る悪いようだ。

手を振り返すと太い樹木の影に隠れてしまった。

「何か話が有るぽいけど。このまま接近したら戦闘になりそうだから明日レイル誘って行ってみようか」
「私のだと見えないわ。どれ位の距離なの?」
「ざっと350km地点」

「空飛ぶ連中とは遣り合いたくねえな」
「ですね。撃ち落とす前提なら構いませんが」

「今敵を増やすのは嫌だな。ソラリマ、悪いけどレイルに一言伝えて」
『御意』

下手に逃げられても困ると。着替えと打ち合わせ用に設営したテントを撤去。

クエ・イゾルバとセイムオートの中間点辺りに出港場所を選定して離脱した。




---------------

クエ・イゾルバへの襲撃は控えたようじゃ。
どうやら妾に気を回したらしい。解っておるではないか。

それより気になるのは蝙蝠の様な羽を生やした魔族の存在。該当種族は幾つか有るが何れであろう…。

土竜の臭気に上手く紛れて判別し辛い。

どうして態々西大陸から中央に移動した?
偵察にしては内陸に食い込み過ぎな気がしなくも無い。

「どうされました?何か考え事でも…。それとも私が相手では詰まらない、とか」
メリーが寂しそうな顔で拗ねた。
「いいえ、そんな事はないわ。メリーこそ私が相手で不満は無いのかしら。誰か好きな人とか、結婚していたり?」
「全然。全くですよ。憧れている方は居ますが」
ほほう。年頃らしい返答。して独身と。
「参考までに聞かせて。私はこの町の住人ではないし」
「絶対内緒ですよ。町の駐屯兵長のベントナ様です。でも謎が多い方ですし。何より想い人がいらっしゃるみたいで脈は無いんですけど」
あの男は止めた方が良いぞ。口が臭いし。

「へぇあの人。事情聴取の時に少し話した感じだと…。それ程魅力は感じなかったわね」
「レイルさんはお綺麗で旅の行商。お相手に不自由はされないでしょうが。私は町と王都を往き来するだけの生活で範囲が狭いんです」

川魚の衣揚げ、厚切りポテトフライ、細切り人参と葉物野菜の茹でサラダ。等を摘まみに安い赤ワインを嗜む。

以前なら普通の食事でもスターレンらが作り出す料理を食べてからは何れもこれも味気なかった。

あぁタイラントで食べたタルタルソースが欲しい。

「メリーも見識を広めたいならもっと外へ出るべきよ。何なら私と一緒に旅してみない?」
「大変に嬉しいお言葉なのですが。はぁ…」
深い溜息。
「どうしたの?」
「本来なら両親も他界して自由な身の筈なんですが。半年前に宿の住み込みで働いていた弟が突然、料理修業の旅に出ると言い出し。行き先も告げずに旅に出てしまい。それの帰りを待たないといけなくて。はぁ…」

「メリーの行き先を宿に残せば良いんじゃなくて?」
「凡そ七年もの間。親同然に世話してくれた宿の主夫婦に申し訳が立たなくて。実際弟の勝手にかなりお怒りで。怖くて頼めませんよ」

「弟さんのお名前聞いても良いかしら」
「ラメルと申します。何処かで野垂れ死んではいないかと心配で。当人は知らぬ存ぜぬでしょうが」
聞いた事は無い名じゃな。
「ラメル君ね。知らない名だけど。明日からチャーチャを離れるから。何処かで出会えたらお知らせするわ」
「有り難う御座います。会ったばかりの私にどうしてそこまで」

「旅の序でよ。もうお友達じゃない。それに私、丁度専属の従者や料理人を探していたの。因みにラメル君の料理の腕は」
「嬉しいお言葉。弟は夢ばかりの若輩です。周りの評判は悪くはなかったんですがどうでしょう。姉弟の贔屓目も有るので何とも」
「見付けたら何か作って貰おうかな」

「そうして頂けると。でも本当に私で良いのですか?宿の関連しか真面な仕事はして来なかったのに」
「接客に慣れているのは大きいわ。家事仕事や外の仕事も慣れているでしょうし。外向きの交渉役とかで働いて貰う積もりで居るの」
心配は要らぬぞ。これから直ぐにお友達以上の関係に成るのじゃからな。フッフッフッ…。

いかんいかん。まずは昼間の口直しを為ねば。

「成程。私にも出来るお仕事が有るのですね。弟が見付かったら改めて考えたいと。所でレイルさんはご結婚されていたりするんですか?」
「前に似たような関係に成った男は居たわ。でも相性が悪かったのか。いざ同棲してみると喧嘩ばかりでお別れしてしまったの。今は結婚よりも商売が恋人」
可愛い人間の女子が好物じゃ!

「現実は厳しいですね…。レイルさんに従伴するとして拠点は何方になるのでしょうか」
「今まで定住は決めて来なかったけど。今度タイラントの王都周辺の町に居を構える予定なの。半日も掛からない距離に二つも大きな町が在って。静かに商売をするのに打って付けな立地よ」
南のハイネは賑やかじゃが東のマッサラなら。

そろそろ東大陸の湖畔生活にも飽きていた。人間に化けられる眷属たちを連れてなら何時でも引っ越せる。
「何よりタイラントのお料理は何れも美味しいの。ラメル君もきっと気に入るに違いないわ」
多分じゃがの。

適当に勧誘し。店を切り上げ宿の部屋で飲み直した。
妾の話を信用したのかホイホイと付いて来る。宿の主人夫婦には金貨の袋を握らせ黙らせた。

人間はチョロいのぉ。
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