ラスボス・カラミティ

糖分99%

文字の大きさ
1 / 5

プロローグ

しおりを挟む
 名も付けられていない、深い森。

 そこには多種多様な魔物が暮らし、弱肉強食世界で、生きる為、種を残す為の営みを続けていた。

 また、そこには数々の亜人も暮らしていた。
 山野に暮らし、独自の文化を築き、自然と共に生きる人類。それが亜人だ。
 とはいえ、様々な亜人がおり、人間の住む場所から離れた場所で密かに生活を営む亜人もいれば、人間と交流し、人間の都市に住まう亜人もいれば、人間を喰らう亜人もいる。

 その中で人間の体に猫の耳、猫の尾を持ち敏捷性に優れる亜人、猫人は人間との交流が深い亜人の一つだった。
 この名も無き森に住まう猫人も近くの人間の都市との交流を始めた。猫人は人間に優れた人材と伝統工芸品を、人間は優れた技術を交易しあった。
 また、猫人は新しい世界と技術を求めて人間の都市へ、人間は美しい自然と文明を求めて猫人の集落へ、足を伸ばしていった。
 お互いの信頼は深まり、人間は名前の無かったこの森に、都市の名前『スフィト』をとって『スフィト大森林』と名付けた。
 この暖かい親交はいつまでも続いた。

 かの浮遊大陸が現れるまでは。

 なんの前触れもなく、ある沖合の高空に、その大陸は現れたのだ。
 そして、そこに住まう絶大な力を持つ者達が地上にも降りてきたのだ。

 彼らは暴虐の限りを尽くした。
 都市を襲い、金を奪い、強姦し、まるで理不尽に怒るかのように破壊の限りを尽くした。
 沿岸にある王国も軍を出したが、一掃された。
 王国の勇者も派遣されたが、一撃で殺された。
 恐ろしき彼らは、自分たちの事を『プレイヤー』と名乗り、彼らを恐れる民は天から降りた超越者、『堕天使』と呼び恐れた。

 そして、その魔の手はこの森にも伸びてきていた。

 都市から猫人の集落へと続く簡素な街道を進む馬車は、通常よりも早い速度で疾走していた。
 
「フェニィ、もっと! もっと飛ばして!」
「無理無理無理! これ以上速度出ないよ!」

 馬車を駆るのは猫人の行商見習い、フェニィ。それを急かすのは彼女の姉であり、一人前の行商、アジルニィ。
 姉妹は都市との交易の帰り道で、かの者と遭遇したのだ。

 そう、堕天使プレイヤーに。

 二頭の馬を鞭で急かしてはいるが、堕天使プレイヤーらの脚力はそれ以上らしく、時に嘲笑うように姿を見せ、姉妹に恐怖を植え付ける。
 対して馬と馬車は限界の速度で走っており、二頭の馬の息は切れ切れ。馬車もスピードの出し過ぎにより負荷がかかりすぎ、どこかの部品が外れたのか、軋むような音を鳴らし続けている。

 しかしそれでも姉妹は逃げる。
 何故なら、捕まったらもっと酷い目に遭うと知っているから。
 金品は奪われ、着の身着は剥がされ、犯され、最悪彼らの住まう浮遊大陸に連れ去られる。連れ去られた者で戻ってきた者は、いない。
 もしかしたら、死よりも恐ろしいものが待っているかもしれない。

 姉妹は逃げる。己が生命をかけて。

 だが堕天使プレイヤーは、すべてのスペックが上だった。
 何かが飛来し、それは馬に当たり、そして二頭の馬は上半身と下半身に分かれる。
 いきなり動力を失い、そして力無く倒れた馬の骸に車輪が取られ、大きく横転し、バウンドする。

「ヤダヤダヤダヤダ!」
「キャァァァアアア!」

 このまま木などに当たろうものなら、中にいる姉妹はタダでは済まないだろう。
 だが、そうはならなかった。まるで巨大なクッションに受け止められたかのごとく、優しく、その馬車は動きを止めた。
 恐る恐る、姉妹は外を覗く。
 するとそこには、煌びやかな白銀の全身鎧に身を包む者が、片手で馬車を受け止めていた。その膂力から推測するに、堕天使プレイヤーだろう。
 
 助かった。姉妹はそう思った。この堕天使プレイヤーは善性の堕天使プレイヤーだと。
 だが、この堕天使プレイヤーの行動が決して善意からではない事を、この姉妹は直後に知る事になる。

 茂みからこの姉妹を追っていた、黒装束を纏う他の堕天使プレイヤーが現れたのだ。
 そして鎧の堕天使プレイヤーと黒装束の堕天使プレイヤーは……親しげにハイタッチする。

「ナイスキャッチだ、アオト!」
「なぁに、楽勝楽勝! 死なれたら困るしな!」
「だな! 俺もリョナの趣味はないからな!」

 その堕天使プレイヤーの様子から、姉妹は悟った。
 先の行動は私達を助けるためではなく、生かして後で弄ぶ為だと。

 馬車内で蹲り抱き合う姉妹は未知なる力で馬車から引きずり出される。
 さらに、引きずり出された後は身動き一つ出来なくなる。
 見れば、黒装束の堕天使プレイヤーが糸を手繰るような動作をしていた。

「お、いいねぇ。やっぱ『サスケ』のジョブいいなぁ。」
「だろ? 拘束プレイも道具無しでお手軽にできるぜ。」
「お、いいねぇ。やべっ、想像したら鎧がキツく……」
「おいおい『セラフィムナイト』が獣慾にまみれていいのかね?」
「うっせ。なんの為に股間にモノがあると思っているんだ。」
「あ、言っとくけど独り占めすんなよ。パーティーメンバー合流すんだから。……っと、来た来た。」
「おう、やったか? ……おお! 上玉じゃん!」
「じゃ、俺は胸のデカイこのネーチャンで。」
「俺はちび一択な。」
「ハハハ、このロリコンめ!」

 さらに四人の堕天使プレイヤーを呼び寄せ、卑しい笑みを猫人の姉妹に向ける。
 絶望的だ。最早姉妹にあたうるのは2人で身を寄せ合い縮こまるのみ。
 
「それじゃ、俺からヤるわ。」
「俺もお先~。」
「あっ、ずりぃぞ!」
「文句言うなよ。実質的俺らが働いたんだからな。」
「だな。さぁて、お楽しみだ。」

 鎧の堕天使プレイヤーと黒装束の堕天使プレイヤーが手を伸ばす。
 その手の力は強くあっという間に姉妹の服を破ってゆく。

「嫌っ! 止めて! 触らないで!」
「いやぁ……えぐっ、止めてぇ……」
「へへ、そんなに嫌がるなよ。」
「俺はデカイのな。」
「じゃ、俺はちっさいので。やっぱ猫耳サイコーだな!」

 抵抗虚しく服が破かれてゆく。
 嫌がる猫人の様子を、ニタニタと他の堕天使プレイヤーも眺めている。
 
 神さま、助けて。

 姉妹は猫人の信仰する土着神へ祈りを捧げた。
 その時である。何かが空間を破って現れたのだ。
 
「な、なんだ?」
「くそっ、いいところで! 全員警戒態勢へ入れ!」
「おうっ!」

 祈りが通じた。姉妹はそう思った。
 だが、残念ながら違った。
 空間を破り現れたのは、彼女らの信仰する神ではなかった。
 何か、強大な力を持つモノ。この堕天使プレイヤーよりも強大な、恐るべき何か。
 それが、姉妹の前に現れたのだ。
 それも、二体。一つは光輝を纏った、巨大な、金属的な人影。もう一つは闇霧を纏った、やはり巨大で、鎖で碇や櫂と繋がっているような奇怪な人影。
 それが、彼らの前に姿を現したのだ。

「お、おい、こいつは……!」
「間違いねぇ、『世界神ワールド・ゴッズ』のうち二柱だ!」
「なんでこんなところで『世界神ワールド・ゴッズ』と遭遇するんだよ!? 普通審判迷宮ジャッジメント・ダンジョンを攻略しないと会えない代物だろ!?」
「くそっ、異世界転移してからNPCが自我を持ったように、同じNPCである『世界神ワールド・ゴッズ』も自我を持ってうろちょろしてるってわけか! 」
「勝てるわけがねぇ! 逃げるぞ!」

 堕天使プレイヤー達は意味の分からないことを叫びつつ、強大な二つの異形から逃げ出す。
 だが、それを二つの異形が許すことはなかった。
 闇霧を纏う異形が、音もなく、まるで空間を泳ぐかのように進み、堕天使プレイヤーの行く手を阻む。
 そして、闇霧を纏う異形はその巨大な碇と櫂を、光輝を纏う異形はその巨大な拳を、振り上げては堕天使プレイヤーに叩きつけた。

「アギャアアア!」
「やめっ、アァァァ!」
「がっ、ガァアッ!」
「あぐ……あ……」

 堕天使プレイヤーの断末魔の悲鳴が森に木霊する。
 悲鳴が響き渡る度に、姉妹の体は震え、硬くなってゆく。
 やがて二つの異形はこちらをゆっくりと向いた。その後ろには、堕天使プレイヤーだったモノが、細切れになって打ち捨てられていた。
 異形は真っ直ぐこちらに向かってくる。最早希望はない。あるとすれば、死ぬ際に苦痛なく死ねる事だ。

 身を寄せ合う姉妹の元に、二つの異形は立ちはだかる。そして-ーー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します

miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。 そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。 軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。 誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。 毎日22時投稿します。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

処理中です...