2 / 5
1.目覚め
しおりを挟む
うお……あ…………?
目が覚めた。それはもう、すっきりと。気持ちのいい、本当に気持ちのいい目覚めだ。
だが、なんだろう。この凄まじい違和感は。
なんとなく辺りを見回す。
そこは輝きに満ちた世界で、太陽や照明など見当たらないのにも関わらず、明るかった。自分は石造りの白亜の柱で構成された、何かを祀る神殿のような場所で眠っていたようで、どうやら神殿自体が光っているらしい。非常に神秘的だ、
その神殿はかなり広いらしく、遥か遠くに外の世界が見える。目を凝らせば、そこには青々と茂る芝が生い茂り、草花が輝かんばかりに咲き誇っていた。
この場所のことは知っている。自分の居城、『法廷』だ。
ではここに住む自分は何者か? 自分の名前は『ユーデクス』だ。ここで自分に挑戦してくる者を排除するのが役目だ。
記憶あり。そして記憶通りの周りの状況。
だが、それでも感じる謎の違和感。
その違和感の正体を全く掴めず、なんとなく立ち上がり、外に向けて歩き出す。
自分は相当な質量を持つのだろう、ズシリ、ズシリ、と重い音が足から鳴る。
だが、違和感の正体はこれではない。自分が相当な質量を持つことは知っている。事実、その質量を生かして挑戦者を叩き潰した記憶も、おぼろげながらあるのだから。
やがて自分は外に出て、ブラブラ歩いてみる。
外は太陽が優しく輝き、じんわりと自分の体を温めてゆく。
さらに遠くを見てみる。そこには地平線があった。
いや、違う。これは地平線というより、これより先に地面はないのだ。つまり、『法廷』は空中に浮かぶ小さな浮島、ということだ。
だがこれも知っている。記憶の通りだ。
草花を踏みしめ、やがて大きな池にたどり着く。そこで、水面に映る自分の姿を眺めてみる。
金属質な体だ。そりゃ重いだろう。
白金のような色の金属で体はできており、そんな体に淡い金色の金属が複雑な紋様を描いている。全体的なフォルムはすこし角張っている感じがする。腕は大きく、長めで、がっちりしている。それと比べると脚が短く貧弱に見えるが、あくまでも腕と比べた場合であり、脚も体に対して大きく、長めで、がっちりとしていた。つまり、格闘向きの体。
それに対して、頭はなんというか、気の抜けたような感じだった。真っ白で、そこに目である二つのぽっかりと暗い穴の空いた、円形の仮面のような顔。その仮面のような顔に目である穴以外顔に何もない。金属質な体とのコントラストがユーモラスで、ゆるい。
しかしこの姿も知っている。まじまじと自分の姿を見た事はないので、詳細は知らないが。
一体、この違和感はなんなのだ?
いよいよ分からなくなって、じっと池のほとりに佇んでいた。
すると、後ろから声をかけられる。
「ユーデクス様、ユーデクス様。」
「んん? あぁ、アルビテルの。」
「はい、そうでございます。」
自分に声をかけたのは1.7メートルほどの小さな人影。自分の身長は10メートル程あるので、自分の手の平に乗ってしまうだろう。
青いベレー帽のような帽子に、ゆったりとした青い服を着た、碧眼の金髪の少女だ。ただ、耳のあるべき場所には金属の突起が見え、地肌も所々金属が取り付けられている。さらに、華奢そうな体には見合わないような剣と盾を装備していた。
彼女は自分とともに挑戦者を排除する、自分に仕える何体かの『アルビテル』のうち一体だ。
そのアルビテルが、端正な顔に不安げな感情を浮かべて自分に問いかける。
「あの、ユーデクス様。何か違和感を感じませんか?」
「うん。確かに。自分も違和感を感じていたんだ。自分だけだと思っていたが、アルビテルもか。」
「はい。」
「そうか……」
自分はアルビテルをまじまじと見る。
何体かいるアルビテルに固有名詞はない。だがどれがどのアルビテルが見分けはつく。そして目の前にいるアルビテルも、記憶の中にいるアルビテルのうち一体と一致する。
だが、ここで強い違和感を感じた。
その、見た目上何の違和感もないアルビテルに。
じっとアルビテルを眺め続ける。アルビテルもまた、何か感じるところがあったのか、自分をじっと見上げ続ける。
と、その時。頭に電撃が走ったかのような衝撃を受けた。
「あぁ……。」
自分と目の前のアルビテルが呻くような声を発したのは、ほぼ同時だった。
何度も、何度も自分が受けた衝撃を噛み締め、理解し、そして初めて言葉に出す。
「気づいたかい?」
「ええ……思い出しましたわ。」
「何の違和感を感じていたか、これではっきりした。」
起きた時から違和感はあった。しかし、その正体を掴めたのは、アルビテルと会話したからだ。
そう、会話したからだ。
「そうだ、自分達には元々、自我なんてなかった。自分達は元々……『げぇむ』の『NPC』だったはずだ。」
「ええ……そうですわ。私達は考える事も、何か思う事も、会話する事もない、単なる傀儡だった……なのに今、こうして考え、思い、そしてユーデクス様と会話している。」
「……なんらかの異常事態が起きたのでしょう。アルビテル、他のアルビテルに『NPC』である我々に自我が生まれるという異変が起きた事を伝え、他に異常事態がないか確認せよ!」
「はっ!」
走り去って行くアルビテルを見送り、自分もキョロキョロと辺りを見回す。
何か異変が起きていないか、自分も確かめなくてはならない気がしたのだ。
自分は、生まれて初めて『恐怖』を覚えた。
『恐怖』の効果を与える魔法が使えないわけでもないし、おぼろげな記憶の中にも、自分が『恐怖』の効果を受けたこともある。
だが、ここまで自分のありとあらゆる行動が抑制され、なんとも形容しがたい、内から来るような寒さを感じたのは初めてだった。
そういった混乱の為、何が何だかわからなくなってしまう。
「何なんだ……何なんだ一体!」
どういう事だ⁉︎ なぜ、自分達は自我を持った⁉︎
自分で考え、行動できるというのは『自由になった』と言い換える事もできるだろう。
だが、この異変によって『自由』を得た代償に、何かを失ったかもしれない。
そして何かを失っていたとして、一体何が失われているのか全く未知だった。というより、何故こんなことが起きたのかも全く見当もつかない。
恐怖はさらなる恐怖と焦りを生み、焦りは怒りをも生み出す。
気づけばドスドスと足取り荒く地面を踏みしめ、大地に大きな窪みをつけていた。
しかし、そんな事をしても事態は解決しないと、自分の頭の隅で冷静な自分が嘯いた。
瞬間、さっと熱を持っていた頭が冷えてゆく。
そうだ、重要なのはここで熱くなって地団駄を踏む事ではない。現状の把握だ。
自分が『げぇむ』の『NPC』である事は知っている。だが、『げぇむ』が何で、『NPC』がどういった存在なのか、それは全くわからない。
とりあえず分かる事は、『NPC』は自我のない存在である事。いや、だった事だ。
それが今の自分のように自我を持って動いている。もしかしたら、何か他にも変わっている事があるかもしれない。
以前は自我はなかったが、以前の記憶はある。非常に無機質な記憶が。
そんな無機質な記憶を頼りに、現在の自我を持った世界を観察する。
しかし、自我を持った事により見る世界が色付けられたせいか、どれもこれもが一様に違和感があるように思え、何が変わったのかさっぱりわからない。
よってここに、一つの結論が出た。
「よし、諦めよう。」
無理なものは無理だ。自我を持つという大きすぎるイベントのせいで、ちょっとした変化も霞んで見えなくなっているのかもしれない。
ならば、この生まれた自我に慣れるのを待つのみ。つまり、もう何が起きようとも全て受け入れるのだ。
そうやって『諦める』という選択をしてみると、何だか体から力が抜けた気がして、張り詰めていたものがあっという間に緩み、消えていく気がした。
率直に言ってしまえば、楽になった。
ゆっくりと神殿の縁に腰掛け、足をふらふらと揺らす。
そして怠惰にダラァと体を後ろに傾ける。
その先に見えるのは、青々と広がる空。薄く、光を反射して幻想的に輝く雲。柔らかな風によってさわさわと揺れる芝。
何故だか、こうやって景色を見ているだけで、満たされた気分になる。
自我を得た結果だろう。普段から見ていたものが、何か特殊なものに見えてくる。
自分の体の内が熱くなったり、冷たくなったり、また穏やかな感じになったり。
これが、自分という存在に知識だけ存在していた、『感情』というものか。
「ユーデクスさ……ま。確認終わりました。」
感情。その二文字を脳裏に浮かべ、しばしそのまま転がっていると、アルビテルの一人に声をかけられる。この異変後最初に会ったアルビテルだ。
何故だか自分の名を呼ぶとき自分を見て微妙な表情をしていたが、多分気のせいだろう。
「どうだった?」
「はい。他には特に異変はないようです。……ただ、他のアルビテルも大変混乱しているようでして、正直隅々まで確認が行き届いているかは甚だ疑問ではあります。」
「そうか。ありがとう。」
「ところで、何を……されているのですか?」
いきなりの質問に、思わずアルビテルを二度見してしまう。
その質問の意図を全く掴めない中、自分はありのままに答える。
「空を見ている。」
「空、ですか?」
「ああ、空だ。こうやって自我を持って、感情も得てから空を見ていると、なんだか吸い込まれていくような感じがしてね。」
「は、はぁ……」
なんだか微妙な返事だ。
もしかして、アルビテルにはこの感覚は理解できないのだろうか?
「……わからない?」
「……ちょっと、わからないです。いつもの、この異変前と同じ空ではないですか。」
「いや、まぁ、そうなんだけど……」
参った。どうやら自我や感情を持つとこういう差が生まれてしまうようだ。
『感情』を共有する事は難しい、と脳内のメモ帳に書き込んでおく。
自分は体の構造上『忘れる』という事がない。だから同じ過ちを繰り返す事は無いだろう。
とはいえ、この空を見ている間の満たされた感覚を共有できないというのは、なんとなく惜しい。
どうやら変に頑固なところがあるらしい自分は、もう一度空を眺める。
「ほら、綺麗ではないか。その澄み渡るそ……」
空を指差し、アルビテルに自分の感覚をできるだけ共有しようと説明しようとした時、曇りない空になかったはずのものを見つける。
青天の霹靂、というべきか。それは黒い点だった。だがしかしそれは、確実に大きくなり、近づいている。
「ユーデクス様! 危険です、離れてください!」
「ああ、わかっている!」
自分とアルビテルは飛び退いて数十メートル後退する。
アルビテルは兎も角、自分の金属製の重い体でここまで飛べるのは、単に自分の馬力が強いからだろう。
そして間も無く、その黒い点はみるみる大きくなり、近づき、我が居城『法廷』に墜落した。
目が覚めた。それはもう、すっきりと。気持ちのいい、本当に気持ちのいい目覚めだ。
だが、なんだろう。この凄まじい違和感は。
なんとなく辺りを見回す。
そこは輝きに満ちた世界で、太陽や照明など見当たらないのにも関わらず、明るかった。自分は石造りの白亜の柱で構成された、何かを祀る神殿のような場所で眠っていたようで、どうやら神殿自体が光っているらしい。非常に神秘的だ、
その神殿はかなり広いらしく、遥か遠くに外の世界が見える。目を凝らせば、そこには青々と茂る芝が生い茂り、草花が輝かんばかりに咲き誇っていた。
この場所のことは知っている。自分の居城、『法廷』だ。
ではここに住む自分は何者か? 自分の名前は『ユーデクス』だ。ここで自分に挑戦してくる者を排除するのが役目だ。
記憶あり。そして記憶通りの周りの状況。
だが、それでも感じる謎の違和感。
その違和感の正体を全く掴めず、なんとなく立ち上がり、外に向けて歩き出す。
自分は相当な質量を持つのだろう、ズシリ、ズシリ、と重い音が足から鳴る。
だが、違和感の正体はこれではない。自分が相当な質量を持つことは知っている。事実、その質量を生かして挑戦者を叩き潰した記憶も、おぼろげながらあるのだから。
やがて自分は外に出て、ブラブラ歩いてみる。
外は太陽が優しく輝き、じんわりと自分の体を温めてゆく。
さらに遠くを見てみる。そこには地平線があった。
いや、違う。これは地平線というより、これより先に地面はないのだ。つまり、『法廷』は空中に浮かぶ小さな浮島、ということだ。
だがこれも知っている。記憶の通りだ。
草花を踏みしめ、やがて大きな池にたどり着く。そこで、水面に映る自分の姿を眺めてみる。
金属質な体だ。そりゃ重いだろう。
白金のような色の金属で体はできており、そんな体に淡い金色の金属が複雑な紋様を描いている。全体的なフォルムはすこし角張っている感じがする。腕は大きく、長めで、がっちりしている。それと比べると脚が短く貧弱に見えるが、あくまでも腕と比べた場合であり、脚も体に対して大きく、長めで、がっちりとしていた。つまり、格闘向きの体。
それに対して、頭はなんというか、気の抜けたような感じだった。真っ白で、そこに目である二つのぽっかりと暗い穴の空いた、円形の仮面のような顔。その仮面のような顔に目である穴以外顔に何もない。金属質な体とのコントラストがユーモラスで、ゆるい。
しかしこの姿も知っている。まじまじと自分の姿を見た事はないので、詳細は知らないが。
一体、この違和感はなんなのだ?
いよいよ分からなくなって、じっと池のほとりに佇んでいた。
すると、後ろから声をかけられる。
「ユーデクス様、ユーデクス様。」
「んん? あぁ、アルビテルの。」
「はい、そうでございます。」
自分に声をかけたのは1.7メートルほどの小さな人影。自分の身長は10メートル程あるので、自分の手の平に乗ってしまうだろう。
青いベレー帽のような帽子に、ゆったりとした青い服を着た、碧眼の金髪の少女だ。ただ、耳のあるべき場所には金属の突起が見え、地肌も所々金属が取り付けられている。さらに、華奢そうな体には見合わないような剣と盾を装備していた。
彼女は自分とともに挑戦者を排除する、自分に仕える何体かの『アルビテル』のうち一体だ。
そのアルビテルが、端正な顔に不安げな感情を浮かべて自分に問いかける。
「あの、ユーデクス様。何か違和感を感じませんか?」
「うん。確かに。自分も違和感を感じていたんだ。自分だけだと思っていたが、アルビテルもか。」
「はい。」
「そうか……」
自分はアルビテルをまじまじと見る。
何体かいるアルビテルに固有名詞はない。だがどれがどのアルビテルが見分けはつく。そして目の前にいるアルビテルも、記憶の中にいるアルビテルのうち一体と一致する。
だが、ここで強い違和感を感じた。
その、見た目上何の違和感もないアルビテルに。
じっとアルビテルを眺め続ける。アルビテルもまた、何か感じるところがあったのか、自分をじっと見上げ続ける。
と、その時。頭に電撃が走ったかのような衝撃を受けた。
「あぁ……。」
自分と目の前のアルビテルが呻くような声を発したのは、ほぼ同時だった。
何度も、何度も自分が受けた衝撃を噛み締め、理解し、そして初めて言葉に出す。
「気づいたかい?」
「ええ……思い出しましたわ。」
「何の違和感を感じていたか、これではっきりした。」
起きた時から違和感はあった。しかし、その正体を掴めたのは、アルビテルと会話したからだ。
そう、会話したからだ。
「そうだ、自分達には元々、自我なんてなかった。自分達は元々……『げぇむ』の『NPC』だったはずだ。」
「ええ……そうですわ。私達は考える事も、何か思う事も、会話する事もない、単なる傀儡だった……なのに今、こうして考え、思い、そしてユーデクス様と会話している。」
「……なんらかの異常事態が起きたのでしょう。アルビテル、他のアルビテルに『NPC』である我々に自我が生まれるという異変が起きた事を伝え、他に異常事態がないか確認せよ!」
「はっ!」
走り去って行くアルビテルを見送り、自分もキョロキョロと辺りを見回す。
何か異変が起きていないか、自分も確かめなくてはならない気がしたのだ。
自分は、生まれて初めて『恐怖』を覚えた。
『恐怖』の効果を与える魔法が使えないわけでもないし、おぼろげな記憶の中にも、自分が『恐怖』の効果を受けたこともある。
だが、ここまで自分のありとあらゆる行動が抑制され、なんとも形容しがたい、内から来るような寒さを感じたのは初めてだった。
そういった混乱の為、何が何だかわからなくなってしまう。
「何なんだ……何なんだ一体!」
どういう事だ⁉︎ なぜ、自分達は自我を持った⁉︎
自分で考え、行動できるというのは『自由になった』と言い換える事もできるだろう。
だが、この異変によって『自由』を得た代償に、何かを失ったかもしれない。
そして何かを失っていたとして、一体何が失われているのか全く未知だった。というより、何故こんなことが起きたのかも全く見当もつかない。
恐怖はさらなる恐怖と焦りを生み、焦りは怒りをも生み出す。
気づけばドスドスと足取り荒く地面を踏みしめ、大地に大きな窪みをつけていた。
しかし、そんな事をしても事態は解決しないと、自分の頭の隅で冷静な自分が嘯いた。
瞬間、さっと熱を持っていた頭が冷えてゆく。
そうだ、重要なのはここで熱くなって地団駄を踏む事ではない。現状の把握だ。
自分が『げぇむ』の『NPC』である事は知っている。だが、『げぇむ』が何で、『NPC』がどういった存在なのか、それは全くわからない。
とりあえず分かる事は、『NPC』は自我のない存在である事。いや、だった事だ。
それが今の自分のように自我を持って動いている。もしかしたら、何か他にも変わっている事があるかもしれない。
以前は自我はなかったが、以前の記憶はある。非常に無機質な記憶が。
そんな無機質な記憶を頼りに、現在の自我を持った世界を観察する。
しかし、自我を持った事により見る世界が色付けられたせいか、どれもこれもが一様に違和感があるように思え、何が変わったのかさっぱりわからない。
よってここに、一つの結論が出た。
「よし、諦めよう。」
無理なものは無理だ。自我を持つという大きすぎるイベントのせいで、ちょっとした変化も霞んで見えなくなっているのかもしれない。
ならば、この生まれた自我に慣れるのを待つのみ。つまり、もう何が起きようとも全て受け入れるのだ。
そうやって『諦める』という選択をしてみると、何だか体から力が抜けた気がして、張り詰めていたものがあっという間に緩み、消えていく気がした。
率直に言ってしまえば、楽になった。
ゆっくりと神殿の縁に腰掛け、足をふらふらと揺らす。
そして怠惰にダラァと体を後ろに傾ける。
その先に見えるのは、青々と広がる空。薄く、光を反射して幻想的に輝く雲。柔らかな風によってさわさわと揺れる芝。
何故だか、こうやって景色を見ているだけで、満たされた気分になる。
自我を得た結果だろう。普段から見ていたものが、何か特殊なものに見えてくる。
自分の体の内が熱くなったり、冷たくなったり、また穏やかな感じになったり。
これが、自分という存在に知識だけ存在していた、『感情』というものか。
「ユーデクスさ……ま。確認終わりました。」
感情。その二文字を脳裏に浮かべ、しばしそのまま転がっていると、アルビテルの一人に声をかけられる。この異変後最初に会ったアルビテルだ。
何故だか自分の名を呼ぶとき自分を見て微妙な表情をしていたが、多分気のせいだろう。
「どうだった?」
「はい。他には特に異変はないようです。……ただ、他のアルビテルも大変混乱しているようでして、正直隅々まで確認が行き届いているかは甚だ疑問ではあります。」
「そうか。ありがとう。」
「ところで、何を……されているのですか?」
いきなりの質問に、思わずアルビテルを二度見してしまう。
その質問の意図を全く掴めない中、自分はありのままに答える。
「空を見ている。」
「空、ですか?」
「ああ、空だ。こうやって自我を持って、感情も得てから空を見ていると、なんだか吸い込まれていくような感じがしてね。」
「は、はぁ……」
なんだか微妙な返事だ。
もしかして、アルビテルにはこの感覚は理解できないのだろうか?
「……わからない?」
「……ちょっと、わからないです。いつもの、この異変前と同じ空ではないですか。」
「いや、まぁ、そうなんだけど……」
参った。どうやら自我や感情を持つとこういう差が生まれてしまうようだ。
『感情』を共有する事は難しい、と脳内のメモ帳に書き込んでおく。
自分は体の構造上『忘れる』という事がない。だから同じ過ちを繰り返す事は無いだろう。
とはいえ、この空を見ている間の満たされた感覚を共有できないというのは、なんとなく惜しい。
どうやら変に頑固なところがあるらしい自分は、もう一度空を眺める。
「ほら、綺麗ではないか。その澄み渡るそ……」
空を指差し、アルビテルに自分の感覚をできるだけ共有しようと説明しようとした時、曇りない空になかったはずのものを見つける。
青天の霹靂、というべきか。それは黒い点だった。だがしかしそれは、確実に大きくなり、近づいている。
「ユーデクス様! 危険です、離れてください!」
「ああ、わかっている!」
自分とアルビテルは飛び退いて数十メートル後退する。
アルビテルは兎も角、自分の金属製の重い体でここまで飛べるのは、単に自分の馬力が強いからだろう。
そして間も無く、その黒い点はみるみる大きくなり、近づき、我が居城『法廷』に墜落した。
0
あなたにおすすめの小説
親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します
miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。
そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。
軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。
誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。
毎日22時投稿します。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
繰り返しのその先は
みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、
私は悪女と呼ばれるようになった。
私が声を上げると、彼女は涙を流す。
そのたびに私の居場所はなくなっていく。
そして、とうとう命を落とした。
そう、死んでしまったはずだった。
なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。
婚約が決まったあの日の朝に。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる