ラスボス・カラミティ

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2.墜落したもの

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 『法廷バシリカ』の芝生に墜落したそれは、土砂を大きく跳ね飛ばした。
 よほどの勢いで墜落したのか、かなりの重量を持つ自分も振動で少し飛び跳ね、土砂を一身に浴びる事となった。
 
「ゲッホ、ゲホッ!」
「アルビテル、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。ユーデクス様は?」
「自分は何も。しかしこれは……」

 『法廷バシリカ』に堕ちたそれ。自分の記憶が正しければ天翔る船、『空船スカイシップ』のはずだ。
 その『空船スカイシップ』は帆船型で、全長100メートル程あるだろうか。自分の身長が約10メートルなので、ざっくり十倍ほどか。帆船型とはいえ、材質は金属質で、黒っぽい。船体の至る所に銀色の金属で複雑な紋様が装飾されており、自分に装飾されているものと似ている気がした。帆はくすんだ灰色で、やはり船体と同じような模様が描かれている。また、船体の周囲にはその『空船スカイシップ』を守るかのように暗く黒い霧が漂っていた
 
「『空船スカイシップ』……だよな?」
「『空船スカイシップ』……ですね。」

 惚けたようにアルビテルとその墜落した『空船スカイシップ』を眺めていると、遠くから何やら騒ぎ出す音が聞こえてくる。
 振り向けば、他のアルビテル達が大慌てでこちらに向かってくるところであった。

「ユーデクス様! 大丈夫ですか!?」
「先ほどの振動はなんですか!? 何があったのですか!?」

 バタバタと駆け寄ってくるのは、青いベレー帽のような帽子に、ゆったりとした青い服を着た、所々金属的な碧眼の金髪の少女達。どれも同じに見えてしまうが、髪が短かったり、服を少しいじっていたりとところところ違う点がある。また、帯剣しておらず、代わりに杖や銃、ガントレットを装備する者もいる
 彼女ら合計四人全て、アルビテルだ。

「なんなんですか、これ! 『空船スカイシップ』ですか!?」
「こんなところになぜ……『法廷バシリカ』にこんなものが来たことなかったはずなのに……!」
「これも、異変の一つなのでしょうか?」

 アルビテル達が口々に墜落した『空船スカイシップ』を指差して騒ぎ立てる。
 が、彼女ら、何か忘れてないだろうか?

「おーい、アルビテル達。騒ぐのはいいけど、中の人助けようよ。」

 墜落した、という事は中で救助を待つ人がいるというのが普通ではなかろうか?
 どうやら、自我を持ったアルビテルは少々能天気らしい。

「あっ、はっ、はい! それもそうですね!」
「うん。自分は体が大きすぎて入り口に入れないだろうから、よろしく頼む。」
「はい、了解いたしました!」

 いそいそと墜落した『空船スカイシップ』に駆け寄るアルビテル達。
 と、突如あたりに声が響いた。

『あーっイタタタ……やっちゃった。衝突しちゃったよ……』

 若い女性の声。落ち着いた声だが、口調はなんだか明るい雰囲気がする。
 そんな声が響いたかと思うと、『空船《スカイシップ》』が纏う暗く黒い霧が深く、濃くなり、『空船スカイシップ』をすっぽりと覆い尽くす。
 そして次の瞬間には霧散し、中から全く別のものが浮かび上がった。
 それは身長3メートルほどの若い女性だった。深い藍色のドレスを着ており、それは白いフリルも目立ち、豊かな胸を強調しているようなデザインだった。腰のあたりには大きな碇を象った金属装甲が取り付けられており、至る所に櫂や帆や碇などを象った装飾がなされている。顔は目のあたりだけを覆い、口や頬を曝け出す船首を象った仮面で覆われており、更に青薔薇が飾られた藍色のヘッドドレスから垂れた純白のレース付きのヴェールが目のあるあたりを重ねて隠している。ドレスから覗く華奢な腕は金属的なものに見える。艶やかで腰より長い髪は青い。
 それだけではない。彼女の本来なら脚の映えるデザインのドレスからは、本来あるはずの脚がなかった。代わりにそこから無数の弛んだワイヤーが伸び、あたりに浮遊する無数のパーツと繋がっていた。繋がっているのは先ほどの『空船スカイシップ』を小さくして分解したようなもので、船首、左右の船体、船倉、大砲、帆がワイヤーにつながれ浮かんでいた。さらに、まるで龍の翼のような櫂も四つ繋がれ、巨大な青薔薇が取り付けられた碇もまた、ワイヤーで繋がれ浮遊していた。
 まさに異形。あたりに浮遊する、ワイヤに繋がれたパーツをも入れれば自分と同じくらいの大きさだろうか。
 そんなものがいきなり前に現れ、ポスポスとドレスについた土を払っているのだ。

「えっと……どちら様でしょう?」
「ん? あ、私?」
「ええそうです。」
「ふふん。では教えて差し上げましょう。我の名はプラエド! 闇霧纏し時空を渡る者だ!」

 ババーン、という擬音が聴こえてしまいそうなノリで自己紹介するプラエドと名乗る女性。
 さて、どう反応したら良いのだろうか?
 凄い自信満々といった様子で自己紹介しているが……これは自分達も乗ったほうがいいのだろうか? いやでも、ちょっと恥ずかしいというか……
 それに、最初一人称は『私』だったのに、この奇っ怪な名乗り方の時は『我』にシフトしている。この意味もまたわからない。
 結論。自分にはこのノリは無理。よって普通通り自己紹介する。

「……自分はこの『法廷バシリカ』に住んでいるユーデクスです。彼女らは自分に仕えているアルビテル達です。」
「アルビテルです。」

 そう、名乗った瞬間だった。
 疾風すら霞む速度でプラエドは自分に接近し、体をその金属質の華奢な腕で掴み、顔をこちらに近づける。その白いヴェールの奥から赤い双眸がこちらを睨んでいるのが感じ取れた。
 あまりに突然のことに防衛行動に移る事も出来ず、呆気にとられた自分に、プラエドは叫ぶ。

「なんで……なんで私の渾身のセリフをスルーするのよぉ!」
「…………はい?」
「あのセリフは私がこの異変の後誰かにあったら言おう言おうと思ってじっくり考えたセリフなのに!」
「……え、ちょ、待っ……」

 あのセリフそんなに重いものなの!?
 
「それを! それをあんたは軽く、軽くスルーするなんてぇ……」

 いや、わからないですから! そういうのわからないですから! 言ってくれないとわからないですから!

「えぐっ……ひぐっ……」

 しかも泣き出した!
 この人、自分以上に起伏が激しくない? これが所謂『情緒不安定』ってヤツだよね!?
 ああそんな大騒ぎするからアルビテル達が危険と見なして武器を構え出したよ。
 正に一触即発。まずい、まずすぎる。

 取り敢えず自分は『余計な手出し無用』と腕のみでなんとかジェスチャーを行ってアルビテル達を宥めた。
 結局その後、しこたま泣いたプラエドは自分から離れ、どこからか取り出したちり紙で鼻をかみ、それを燃やすと改めて自分に向き直った。

「先ほどはすみませんでした。反省しております、ハイ。」
「うん。まぁ、いいよ。」

 全然良くないけど。
 とにかく根は多分明るい人なのだろう。自我を持ったアルビテル達にもいないタイプだ。あと、落ち着いた声なのにもかかわらず、口調は少し軽い感じがする。
 まぁ、そんな事はどうでもいい。知りたいのはここに来た理由だ。

「ところで、プラエドは一体、何をしに来たのです?」
「あー、はい。私は自分や眷属達が自我を持った異変に気が付いて、色々自由がきく事が分かったので、拠点である『孤独ソリトゥス狭間スパティウム』から抜け出して、それで色んな場所をウロウロしていたんです。そしたらたまたまここを見つけまして。それで突っ込んでみたんですが、勢い余って衝突してしまって。」
「衝突っていうか墜落だったけどね。それにしても、貴女も異変に気が付いたんだ。」

 途端、プラエドは声を一気に明るくして、手を胸の前でぎゅっと握りしめ、熱弁する。
 その際、胸が両腕に挟まれこれでもかとばかりに強調されたのを見た瞬間、なぜかそこから目をそらさねばならない、そんな気がした。

「そうなんですよ! なんたって自我ですよ自我! この思考は自分のもの! この体は自分のもの! この自由は自分のもの! 嗚呼自我最高!」
「お、おう。落ち着いて……」
「あ、すみません。コホン。はい。」

 シュンとしたプラエドは仮面に隠れていない頬を真っ赤に染める。耳まで真っ赤だ。これが『羞恥』という感情を得た結果の『赤面する』というヤツだろう。自分は赤面しようがない体なので、なんとなく羨ましい。アルビテルは『赤面』、できるのだろうか。

「取り敢えず、ここに来たのはプラエドの興味、ということですね?」
「そんなところです。あ、迷惑だったら帰りますよ?」
「いや、折角なので……この異変について、何か知っていることはありますか? 例えば以前と変わったこととか。」

 プラエドの素性は知らないが、性質は悪くはなさそうだし、それに色んなところを見てきたなら、色々気づいたこともあるはずだ。この未知の状況を知る上で、ここで情報を引き出すのは重要だろう。
 プラエドはしばし中空を見つめたあと、首を振った。

「ん~、特にはないですね~。というか、『孤独ソリトゥス狭間スパティウム』から抜け出したのが今回初めてなので、何が変わったのかも全くわからないんですよね~。」
「ううむ、そうですか……」

 残念。だが当たり前か。
 自我がなかったが故に、何かに注意してものを見るということはしなかった。だから『自我がなかった時と違う点はない?』と聞かれても、首をひねるしかないだろう。
 モヤモヤするが、こういう時こそ『諦める』だ。なんと便利な選択か。

 と、その時、「あ」と間の抜けた声とともにプラエドが手を打った。

「そういえば、ここに来る途中で飛行中の中型の『空船スカイシップ』を鹵獲したんですよー。」
「ちょ、鹵獲って……」
「多分そこに乗ってた子なら何か知っていると思いますよ。どうも私たちとは違う存在みたいなので。」

 そういって空に両手を掲げる。
 すると両手の先が消え去り、アッと思った時には消えた両手は自分の体よりも大きな10メートル程のクルーザー型の『空船スカイシップ』を掴んで現れていた。

「よっこいせ。さぁて、出てきてくださいなー。」

 ゴンゴンゴンゴンとその『空船スカイシップ』の船体をノックする。
 すると扉の一つがそっと開いた。
 注視して見てみると、その隙間からこちらを覗く目があった。

「ああ出てきた出てきた。」

 そしてプラエドはそれをひょいとつまみ上げる。

「この子この子。どうも『ぷれいやぁ』らしいよ?」
「は、はなせっ! 俺を喰ってもうまくないからっ!!」

 プラエドがつまみ上げるもの。それは必死に身をくねらせプラエドの手から逃れんとする、金髪の少女、いや、幼女だった。
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