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進みゆく秋
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「それじゃあ、おやすみなさい」
2人に挨拶をして部屋に戻ってくると、すぐに災いに関する本を開く。
どこかに、種がある場所のヒントが書いてあるかもしれない。1文字ですら見逃さないように集中して文字を追っていく。
ふと本から気を抜くと、外から何かの鳥の鳴き声が聞こえてきた。
閉じていた窓を開けると、少し冷たい風が吹いていて頬をかすめる。日が経つにつれ、だんだんと空気が冷たくなっていくのを感じる今日この頃。
私の住んでいるところは冬と言っても雪はほとんど降らないけれど、ここはどうなんだろう。カレンダーを見ると10月で、自分の住んでいるところの10月よりも大分夜は冷え込んでいる。
一面真っ白の雪化粧を想像すると、子どもが雪を見て興奮するが如く、私の心も踊ってくる。
災いなんて早く消えて、この地に平和が訪れればいいのに。ねえ、どこなの? キセキバナは、どこにあるの?
私は本当に、この世界を救うことができるの?
「真由さん、顔色、悪くないですか?」
1週間が経った。だけどシドウさんはまだ現れずに、私は日々ラベンダーティー作りに勤しむ。
最近は、夜遅くまでハーブや災いの本を読んでいるせいで少しだけ寝不足気味。
それでも自分を動かすのは、今までの皆との思い出で、そこから溢れ出す優しさを思うと、どうしてもこの街を灰の下に埋めることなんて出来ない。
「大丈夫ですよ、ちょっと疲れてるだけだから」
「でも……」
もう1度大丈夫と言おうとしたとき、カイさんが肩に手を置いて私が話すのを止める。
「今日は休め。な?」
心遣いは有り難いけれど……。
「いえ……今日、シドウさんが来るかもしれないですし」
「来たら教えてやるから、それでまではここで寝てろ」
カイさんの口調は強く、何を言っても多分折れない。
「そんな眠たそうな顔で接客されたらお客様どう思う?」
「それは……」
確かにそうだ。
カイさんの言う通り、笑顔すらまともに作ることのできない自分が今カフェに立つ資格があるのかと考えると、答えは簡単に出る。
「な? だから今日はゆっくり休んでまた明日から頑張ればいい」
「はい……」
シドウさんは私たちの話をどこかで聞いているのだろうか、私の言葉通り、午後にシドウさんはカフェを訪れた。
すぐにシドウさんの元へ行く。
「やあ、真由ちゃん。早速ハーブティーを淹れてくれるかな?」
「はい」
午前中寝ていたおかげか、大分意識がはっきりとしてきて、ハーブティーに集中できそうな気がする。
深呼吸をしてゆっくりと口から吐いて。
シドウさんの心の平穏を願って、ラベンダーティーを淹れていく。うん、花の良い香りが漂ってくる。落ち着く。心が鎮まっていくこの香り。
シドウさんにも届いているかな?
そんなことを思いながら、つぎは金色に輝く蜂蜜をほのかに紫に色付くハーブティーに注いでいく。蜂蜜の甘さ。全身の疲れがふっと消えていく感じがする。
「どうぞ」
「うんん、ラベンダーだね」
匂いを楽しむシドウさんの姿からは剣のある雰囲気は微塵も感じられず、ただ1人のハーブティーを楽しむお客様に見える。
「ラベンダーティーに蜂蜜を加えました。シドウさんに、リラックスした時間を過ごしてほしくて……」
「なるほど」
シドウさんが私の淹れたラベンダーティーを口に含ませる。緊張する。どんな言葉が降ってくるのか、どんな表情をするのか、固唾を呑む。
「ああ、ラベンダーの花の香りの中に蜂蜜のまろやかな甘さが絶妙にマッチする」
その言葉を聞いた瞬間、肩の力がすっと抜けて同時に視界が暗くなった。
2人に挨拶をして部屋に戻ってくると、すぐに災いに関する本を開く。
どこかに、種がある場所のヒントが書いてあるかもしれない。1文字ですら見逃さないように集中して文字を追っていく。
ふと本から気を抜くと、外から何かの鳥の鳴き声が聞こえてきた。
閉じていた窓を開けると、少し冷たい風が吹いていて頬をかすめる。日が経つにつれ、だんだんと空気が冷たくなっていくのを感じる今日この頃。
私の住んでいるところは冬と言っても雪はほとんど降らないけれど、ここはどうなんだろう。カレンダーを見ると10月で、自分の住んでいるところの10月よりも大分夜は冷え込んでいる。
一面真っ白の雪化粧を想像すると、子どもが雪を見て興奮するが如く、私の心も踊ってくる。
災いなんて早く消えて、この地に平和が訪れればいいのに。ねえ、どこなの? キセキバナは、どこにあるの?
私は本当に、この世界を救うことができるの?
「真由さん、顔色、悪くないですか?」
1週間が経った。だけどシドウさんはまだ現れずに、私は日々ラベンダーティー作りに勤しむ。
最近は、夜遅くまでハーブや災いの本を読んでいるせいで少しだけ寝不足気味。
それでも自分を動かすのは、今までの皆との思い出で、そこから溢れ出す優しさを思うと、どうしてもこの街を灰の下に埋めることなんて出来ない。
「大丈夫ですよ、ちょっと疲れてるだけだから」
「でも……」
もう1度大丈夫と言おうとしたとき、カイさんが肩に手を置いて私が話すのを止める。
「今日は休め。な?」
心遣いは有り難いけれど……。
「いえ……今日、シドウさんが来るかもしれないですし」
「来たら教えてやるから、それでまではここで寝てろ」
カイさんの口調は強く、何を言っても多分折れない。
「そんな眠たそうな顔で接客されたらお客様どう思う?」
「それは……」
確かにそうだ。
カイさんの言う通り、笑顔すらまともに作ることのできない自分が今カフェに立つ資格があるのかと考えると、答えは簡単に出る。
「な? だから今日はゆっくり休んでまた明日から頑張ればいい」
「はい……」
シドウさんは私たちの話をどこかで聞いているのだろうか、私の言葉通り、午後にシドウさんはカフェを訪れた。
すぐにシドウさんの元へ行く。
「やあ、真由ちゃん。早速ハーブティーを淹れてくれるかな?」
「はい」
午前中寝ていたおかげか、大分意識がはっきりとしてきて、ハーブティーに集中できそうな気がする。
深呼吸をしてゆっくりと口から吐いて。
シドウさんの心の平穏を願って、ラベンダーティーを淹れていく。うん、花の良い香りが漂ってくる。落ち着く。心が鎮まっていくこの香り。
シドウさんにも届いているかな?
そんなことを思いながら、つぎは金色に輝く蜂蜜をほのかに紫に色付くハーブティーに注いでいく。蜂蜜の甘さ。全身の疲れがふっと消えていく感じがする。
「どうぞ」
「うんん、ラベンダーだね」
匂いを楽しむシドウさんの姿からは剣のある雰囲気は微塵も感じられず、ただ1人のハーブティーを楽しむお客様に見える。
「ラベンダーティーに蜂蜜を加えました。シドウさんに、リラックスした時間を過ごしてほしくて……」
「なるほど」
シドウさんが私の淹れたラベンダーティーを口に含ませる。緊張する。どんな言葉が降ってくるのか、どんな表情をするのか、固唾を呑む。
「ああ、ラベンダーの花の香りの中に蜂蜜のまろやかな甘さが絶妙にマッチする」
その言葉を聞いた瞬間、肩の力がすっと抜けて同時に視界が暗くなった。
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