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終わらない冬
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「やあ、ハーブティー飲みに来たよ。ミコトも一緒にね」
「シドウさん」
と、もう一人、この前キキョウさんといた女の子……と言っても歳は私と同じくらいで、十五、六に見える。
「ちょっと、いいかしら」
その人は私を見るなり剣のある声を出す。
やっぱり、嫌われている…………。
「はい」
カイさんを見ると、小さく首を縦に振る。
ミコトさんに連れてこられたのは人気のないカフェの影。
「あなた、どうせ今のままじゃ人間界に帰れないわよ」
それは、絶望とでも言うべき内容。
「え?」
どうして?
「災いを止められたからと言って、人間に対する憎悪も消えたと思ってる? 人間によって虐められた動物たちの思いはまだ残ってる。あなたはそれによって破滅させられる。それから、キキョウには近付かないで。人間がキキョウに近付くなんて、反吐が出る」
帰られない? 破滅?
そんな、だって、災いを終息させたのに……?
でも、ミコトさんが嘘を言っているようには見えず、その掴めない事実にただ目の前が暗くなるばかりだった。
その後のことは覚えてない。
急に体の力が抜けて、ハーブティーを淹れられる状態になんかなくて、そのまま家に帰って眠りについた。
次に目を開けた頃には、日が変わっていた。
「散歩してきますね」
まだ優れない体調、外の新鮮な空気を吸いたい。
「大丈夫か?」
「ちょっと、疲れただけです、ごめんなさい」
足が向かったのは、初めにハトリさんと会ったあの森で、静寂が広がっている。
雪が降っていて、真っ白な世界が目の前にあって、気を抜くとその白に飲み込まれそうな気がした。
「はあ」
息を吐くと白くなり、雪を掴もうとすると手の上で溶けていく。
しんしんと音も立てずに積もる雪を見ていると、一気に天候が悪化した。
冷たい風が頬を突き刺すように舞い、このまま立っていたら凍え死にそうになる。
走ってどこか隠れる場所を探そうとした時、山小屋が見えた。
「ここで、少しだけ……」
がらっと扉を開けると、中にはおばあさんの姿が1人いることが確認できた。
その人は声を出さずに私の姿をじっと見ている。
その姿に、得体の知れない恐怖がじわじわと心を侵食していく。
「あ、あの……雪が止むまで休ませてもらえませんか?」
「ああ…………いいよ」
「ありがとうございます」
そのお婆さんは、私の顔をジロリと見てニヤリと笑う。
……気持ち悪い……。
けれども、扉が吹雪でかたかたと音を立てていて風の強さを示しており、今外に出るのは危険すぎる。
出来るだけ近づかないようにと部屋の端で雪の待つのを待っていると、その人は口を開いた。
「……人間だね?」
「は、はい」
「待っていたよ。ここに、三つの玉がある。見てご覧」
水晶のようなガラス玉、見ると中で黒い霧のようなものが渦巻いている。
ずっと見ていると、頭の中までその霧が入り込んできそうだ。
「憎しみ、悲しみ、痛み、動物たちが人間から受けたものが凝縮されてこの玉の中にある。この短刀で玉を壊せたその時、これらは昇華して妖付きから憎悪が消える」
お婆さんは私に短刀を渡してきた。
早速思いっきり腕を振りかざし、その玉目掛けて刀の先を落とす。
「痛っ」
ガラスには傷一つ付かず、逆に力の衝撃が手に波打つように伝わってきて麻痺する。
体が、吹き飛ばされる。
「妖付きから認められた時にその短刀が光る。その時がこの玉を壊せる時」
「でも、どうやって……?」
「それくらい自分で考えなさい。甘えるな。お前が妖付きのものにできることはなんだ? それを精一杯やるしかない」
お婆さんの言葉はきつい。でも、確かにそうだ。なんでも人に頼っているだけじゃダメなんだ。
風が止んだ。窓から光が差す。
「せいぜい力を尽くすことじゃな」
その言葉と同時に、建物もおばあさんも三つの玉も、短刀以外の全てが、最初から無かったかのように目の前から消えた。
「シドウさん」
と、もう一人、この前キキョウさんといた女の子……と言っても歳は私と同じくらいで、十五、六に見える。
「ちょっと、いいかしら」
その人は私を見るなり剣のある声を出す。
やっぱり、嫌われている…………。
「はい」
カイさんを見ると、小さく首を縦に振る。
ミコトさんに連れてこられたのは人気のないカフェの影。
「あなた、どうせ今のままじゃ人間界に帰れないわよ」
それは、絶望とでも言うべき内容。
「え?」
どうして?
「災いを止められたからと言って、人間に対する憎悪も消えたと思ってる? 人間によって虐められた動物たちの思いはまだ残ってる。あなたはそれによって破滅させられる。それから、キキョウには近付かないで。人間がキキョウに近付くなんて、反吐が出る」
帰られない? 破滅?
そんな、だって、災いを終息させたのに……?
でも、ミコトさんが嘘を言っているようには見えず、その掴めない事実にただ目の前が暗くなるばかりだった。
その後のことは覚えてない。
急に体の力が抜けて、ハーブティーを淹れられる状態になんかなくて、そのまま家に帰って眠りについた。
次に目を開けた頃には、日が変わっていた。
「散歩してきますね」
まだ優れない体調、外の新鮮な空気を吸いたい。
「大丈夫か?」
「ちょっと、疲れただけです、ごめんなさい」
足が向かったのは、初めにハトリさんと会ったあの森で、静寂が広がっている。
雪が降っていて、真っ白な世界が目の前にあって、気を抜くとその白に飲み込まれそうな気がした。
「はあ」
息を吐くと白くなり、雪を掴もうとすると手の上で溶けていく。
しんしんと音も立てずに積もる雪を見ていると、一気に天候が悪化した。
冷たい風が頬を突き刺すように舞い、このまま立っていたら凍え死にそうになる。
走ってどこか隠れる場所を探そうとした時、山小屋が見えた。
「ここで、少しだけ……」
がらっと扉を開けると、中にはおばあさんの姿が1人いることが確認できた。
その人は声を出さずに私の姿をじっと見ている。
その姿に、得体の知れない恐怖がじわじわと心を侵食していく。
「あ、あの……雪が止むまで休ませてもらえませんか?」
「ああ…………いいよ」
「ありがとうございます」
そのお婆さんは、私の顔をジロリと見てニヤリと笑う。
……気持ち悪い……。
けれども、扉が吹雪でかたかたと音を立てていて風の強さを示しており、今外に出るのは危険すぎる。
出来るだけ近づかないようにと部屋の端で雪の待つのを待っていると、その人は口を開いた。
「……人間だね?」
「は、はい」
「待っていたよ。ここに、三つの玉がある。見てご覧」
水晶のようなガラス玉、見ると中で黒い霧のようなものが渦巻いている。
ずっと見ていると、頭の中までその霧が入り込んできそうだ。
「憎しみ、悲しみ、痛み、動物たちが人間から受けたものが凝縮されてこの玉の中にある。この短刀で玉を壊せたその時、これらは昇華して妖付きから憎悪が消える」
お婆さんは私に短刀を渡してきた。
早速思いっきり腕を振りかざし、その玉目掛けて刀の先を落とす。
「痛っ」
ガラスには傷一つ付かず、逆に力の衝撃が手に波打つように伝わってきて麻痺する。
体が、吹き飛ばされる。
「妖付きから認められた時にその短刀が光る。その時がこの玉を壊せる時」
「でも、どうやって……?」
「それくらい自分で考えなさい。甘えるな。お前が妖付きのものにできることはなんだ? それを精一杯やるしかない」
お婆さんの言葉はきつい。でも、確かにそうだ。なんでも人に頼っているだけじゃダメなんだ。
風が止んだ。窓から光が差す。
「せいぜい力を尽くすことじゃな」
その言葉と同時に、建物もおばあさんも三つの玉も、短刀以外の全てが、最初から無かったかのように目の前から消えた。
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