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終わらない冬
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夢…………?
穏やかに振る雪を見ると今目の前で起きたことに現実味が持てなくてそう感じてしまうけど、手には確かに短刀があって、これが夢ではないことを教えてくれる。
とりあえず、戻らなきゃ。
力の抜けた体をなんとか引っ張って、カイさんの家に戻る。
既にカイさんの姿はカフェにあり家には私1人で、考えるのにちょうどよかった。
あの玉を破壊しなければ私は破滅する。動物たちの憎しみも、悲しみも、痛みも消えることはない。
ていうか、あのお婆さんは誰なの?
厳しい目をしていて、でもそれは体の底からの嫌悪じゃない、なんとなくそう感じる。
でも、私なんかに出来るのかな。
考えれば考えるほど不安の渦に飲み込まれていって、自信がどんどんと削がれていく。
だめ、こんなに弱気じゃ。
思い出すんだ、自分の中にある苦しみや悲しみ、痛みを。きっと、それ以上の苦しみを動物たちは受けていて。
でも……どうして?
…………何故? 何故私がそこまで……?
自分の中にある痛みや憎悪でさえ消化できていないのに、なんで私が他のものの痛みのことも考えなきゃいけないの……?
普通に生きていただけなのに、なんで私だけ?
「真由さん」
「キ……キョウさん?」
いつの間にかキキョウさんが目の前にいて、透き通る瞳で私のことを見ていた。
立っていたキキョウさんはしゃがんで私と視線を合わせる。
そして、ふんわりと大きな柔らかい手で私の手を包み込んで、優しい笑顔をくれる。
恥ずかしい。私は今何を思っていたの?
「大丈夫。真由さんなら大丈夫」
その言葉が、割れかけていた私の心の隙間に入っていく。
「知って……るんですか?」
「一応ね。でも、本当かどうかは分からなかったから、真由さんには言わないでおいたんだ。大丈夫、真由さんは自分らしくしてればきっと、皆真由さんの優しい心を理解してくれるはず。……ミコトも」
なんで、キキョウさんはいつも優しい言葉をくれるのだろう。
流したくないのに、溢れてくる涙。
「キキョウさん……ありがとうございます」
キキョウさんの言葉は屈折なく私の心に入ってきて、すうっと染み込んでいく。
壊れかけていた私を修復してくれる。
こんな風に思うのはキキョウさんが初めてで……。
「キキョウさん…………好きです」
「え……?」
「あっ、いや……」
私、何を言ってしまって。
「ありがとう。僕も、好きだよ、真由さんのこと。だから、絶対に破壊しないと。三つの玉を」
「はい……」
キキョウさんの『好き』をどう捉えればいいのかが分からなくて、でもその瞳から感じる慈しみの思いに救われる。
大丈夫、キキョウさんが大丈夫と言うなら、きっと大丈夫。
私は今まで通りカイさんの元で、美味しくて幸せな気分をもたらしてくれるハーブティーを作るだけ。そしたらきっと、伝わる。
「何かあったらいつでも僕のところに来て」
「はい」
手が離れた瞬間、また触りたいと思ってしまった。
「じゃあ、僕は行くね」
「キキョウさんっ、本当にありがとうございます」
キキョウさんがいなくなって冷静になると、さっき自分の言った言葉が頭の中で反響して、心臓がうるさいほどに早く動いた。
穏やかに振る雪を見ると今目の前で起きたことに現実味が持てなくてそう感じてしまうけど、手には確かに短刀があって、これが夢ではないことを教えてくれる。
とりあえず、戻らなきゃ。
力の抜けた体をなんとか引っ張って、カイさんの家に戻る。
既にカイさんの姿はカフェにあり家には私1人で、考えるのにちょうどよかった。
あの玉を破壊しなければ私は破滅する。動物たちの憎しみも、悲しみも、痛みも消えることはない。
ていうか、あのお婆さんは誰なの?
厳しい目をしていて、でもそれは体の底からの嫌悪じゃない、なんとなくそう感じる。
でも、私なんかに出来るのかな。
考えれば考えるほど不安の渦に飲み込まれていって、自信がどんどんと削がれていく。
だめ、こんなに弱気じゃ。
思い出すんだ、自分の中にある苦しみや悲しみ、痛みを。きっと、それ以上の苦しみを動物たちは受けていて。
でも……どうして?
…………何故? 何故私がそこまで……?
自分の中にある痛みや憎悪でさえ消化できていないのに、なんで私が他のものの痛みのことも考えなきゃいけないの……?
普通に生きていただけなのに、なんで私だけ?
「真由さん」
「キ……キョウさん?」
いつの間にかキキョウさんが目の前にいて、透き通る瞳で私のことを見ていた。
立っていたキキョウさんはしゃがんで私と視線を合わせる。
そして、ふんわりと大きな柔らかい手で私の手を包み込んで、優しい笑顔をくれる。
恥ずかしい。私は今何を思っていたの?
「大丈夫。真由さんなら大丈夫」
その言葉が、割れかけていた私の心の隙間に入っていく。
「知って……るんですか?」
「一応ね。でも、本当かどうかは分からなかったから、真由さんには言わないでおいたんだ。大丈夫、真由さんは自分らしくしてればきっと、皆真由さんの優しい心を理解してくれるはず。……ミコトも」
なんで、キキョウさんはいつも優しい言葉をくれるのだろう。
流したくないのに、溢れてくる涙。
「キキョウさん……ありがとうございます」
キキョウさんの言葉は屈折なく私の心に入ってきて、すうっと染み込んでいく。
壊れかけていた私を修復してくれる。
こんな風に思うのはキキョウさんが初めてで……。
「キキョウさん…………好きです」
「え……?」
「あっ、いや……」
私、何を言ってしまって。
「ありがとう。僕も、好きだよ、真由さんのこと。だから、絶対に破壊しないと。三つの玉を」
「はい……」
キキョウさんの『好き』をどう捉えればいいのかが分からなくて、でもその瞳から感じる慈しみの思いに救われる。
大丈夫、キキョウさんが大丈夫と言うなら、きっと大丈夫。
私は今まで通りカイさんの元で、美味しくて幸せな気分をもたらしてくれるハーブティーを作るだけ。そしたらきっと、伝わる。
「何かあったらいつでも僕のところに来て」
「はい」
手が離れた瞬間、また触りたいと思ってしまった。
「じゃあ、僕は行くね」
「キキョウさんっ、本当にありがとうございます」
キキョウさんがいなくなって冷静になると、さっき自分の言った言葉が頭の中で反響して、心臓がうるさいほどに早く動いた。
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