妖の木漏れ日カフェ

みー

文字の大きさ
66 / 74
終わらない冬

65

しおりを挟む
「んんっ」

 ここは……カイさんの家……。

「真由、痛くないか? 背中。これ飲んで少し休め」

「ありがとうございます」

 体を起こそうとすると、ずきんずきんと痛みが走った。

 でも、渡されたものを飲むと、さっきのものと同じかな、また痛みがすうっと消えていく。

「真由、俺がどうしてカフェをやっているのか知りたいか?」

 カイさんは、私の力のない手を握ってくれる。

「はい、ぜひ」

 あまり自分のことを話さないカイさんが初めてそのことについて口を開く。
 
 こんな時だからこそ、聞きたい。

「俺の両親は、洋食の小さなレストランを経営していたんだ」










 俺は、直接口には出したことはないものの、父さんの料理が好きで、朝昼夜の食事の時間が1日の中で1番楽しみだった。

 毎日、ハンバーグやオムライス、パスタにピザ、色とりどりの野菜も毎日違ったソースで楽しむことができ、飽きることなんてなかった。

 ある日、家に人間が来た。

 その人は幼い俺とハトリの面倒をいつも見てくれて、父さんがいつも入れてくれるホットミルクのように温かい人だった。

「本当に、美味しいですね。毎日食べていても飽きないです」

 知らない世界に来たその人は時折哀愁帯びた表情を見せたけど、父さんの料理を食べる時はいつも朗らかな顔を見せて、そんな料理を作ることの出来る父さんのことを密かに尊敬していた。

 けれどある日、この何気ない幸せな時間は呆気なく崩れ去る。

 人間をかくまっていたことがばれ、それだけならまだよかったものの、シドウを見た瞬間人間は恐怖の色に顔を染め、「来るなっ」と声を出してしまった。

 シドウの表情は今でも覚えている。

 全てを一瞬で凍らせてしまうかというような冷たい目に、空気が止まった。

 両親と人間は連れて行かれ、何故か俺だけには手を出そうとはしなかった。

 絶望に打ちひしがれ、俺は家で何も食べずに何日も過ごした。

 その時、ハトリの親が俺のもとに訪ねて、手を差し伸べてくれた。

 その日から、ハトリの家で暮らすようになった。

 初めは、何も食べられなかった。食欲が湧くことはなく、だんだんと痩せていった。

 その時、ハトリの父親がハーブティーを淹れてくれた。

 それを飲むと涙が止めどなく出てきて、俺は声を上げて泣き続けた。

 悲しい、その思いが溢れてきたのは事実だが、それよりもそのハーブティーを飲んだ時に感じた温かさに、固まっていた心が溶けていったんだ。

 それからは食事も喉を通るようになり、ハトリの母親が作ってくれる和食に救われた。

 とても優しい味がした。

 両親の作る洋食はもちろん絶品だったが、ハトリの母親の作る和食もそれに負けないくらい心を満足させてくれた。

 どんなに悲しくても、辛いことがあっても、そんな温かみのある料理を食べるとまた前を向かないとと思わせてくれたんだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...