【完結】カラスとすずらん ~意識低い系冒険者パーティの台所を預かっています~平凡なわたしと、闇を抱えた彼の恋の話~

天草こなつ

文字の大きさ
6 / 385
【第1部】1章 花と少女

5話 うららかな午後 そして、しゅご

しおりを挟む
「……はぁ、大量に同じ物作るのって、けっこうつらいんだな」

 今週も大量に肉を焼いて、大量のおにぎりをにぎって、大量のパンケーキを焼いた。
 金曜日の夜に大量に作り置きをして、土曜の夜と日曜の昼はさらに補充をする。

 いっぱい料理を作るということは、それに比例して大量のゴミと生ゴミが出る。とても臭い――だけど、これも少しの辛抱。
 
「よいしょ、と」

 ゴミ箱に土の魔石をポンと放り投げた。
 こうすることで生ゴミは土に還る。翌朝には栄養のある土に生まれ変わって、匂いもほとんどなくなる。すごい、魔石すごい。
 できた土は、農家、花屋さん、植物園、それからわたしが通う薬師の学校なんかが買い取ってくれる。
 空き時間にグレンさんとジャミルが売りに行ってるみたい。

「わたしにもちょっともらえないかなあ……」

 砦の中庭に、小さな畑がある。傭兵団の人たちがここで食材を自給自足したりするためのものだそうだ。
 出来上がった土をここに移植して、お花とかハーブとか植えたい……。
 
「ふぅ、退屈……」

 みんなが冒険……というか配達に行っている間、わたしは本を読んだり勉強したり、ちょっとお菓子を作ったりして好きに過ごしているわけだけど、何回かそれが続くとさすがにヒマになってくる。
 今は、中庭に植わっている木の下にあるベンチに腰掛けて本を読んでいるわけだけど……。

(ねむくなってきちゃった……)

 あたたかい春の日射しに柔らかい風。森の中だから色んな鳥の声も聞こえる。
 ――こんな癒やしの空間で、ずっと起きていることが果たしてできるでしょうか……。
 
 限界を迎えたわたしは、そのまま目をつむってしまった……。
 
 
 ◇
 
 
「おい、おい、レイチェル! 起きろ!」
「へあっ!?」

 ジャミルに大声で起こされて、ヘンな声をあげてしまう。
 目を開けると、冒険から帰ってきた3人。
 空は赤かった。

「はっ!! 夕方!?」
「こんなとこで寝てんなよな……」
「気を失ってるのかと思った」

 ジャミルとグレンさんが呆れたように言う。

「ここは安全な方だけど、外で寝るのはよくない。襲われたりするかもしれないから、眠くなったら自室で休んだ方が良い」
「あ……はい。すみません……」

 注意されてしまい、ちょっとへこんでしまう。確かに無防備だったかも……。

「いや、別に怒ってないけど。メシにしようか」
「おなかがすいた」
「わかったわかった」
 
 
 ◇
 
 
「うーん、うまいなーこれ」
「ありがとうございます」
「天才じゃないかな?」
「あ……はは」

 食堂に移動して、みんなで夕食を食べる。
 豚肉のソテーを食べたグレンさんから、お褒めの言葉をいただいた。
 グレンさんはお肉を平らげたあと、今度は半熟卵ののったカルボナーラを食べ始めた。
 ……いっぱい食べるなあ……。

「このパスタもうまいな」
「あ、それはジャミルが」
「なるほど、ジャミル君が」
「…………」

「さすがはジャミル君。天才だな」
(やっぱり言った……)
 
 グレンさんは何でもおいしいおいしいと言いながら残さずに食べて、挨拶代わりに「天才」と言う。
 天才と言われたジャミルはパスタをフォークに巻きつけながらあくびをして、「どーも」と返すだけだった。
 ずっと言われてきたんだろうな……ひょっとして、1000回くらい聞いてるのかも。

「うん。でもこれ、本当においしい。お店で出るものみたい! ジャミルって料理上手なんだね」

 カルボナーラは麺がもちもちで、クリームとチーズの配分が絶妙。卵もとろとろで、本当においしい。

「ジャミル君は、普段は酒場の厨房で働いてるからな」
「へえ、すごい!」
 
 と、わたしが言ったの同時に、それまで無言でホットケーキとお肉を食べていたルカが突然スッと立ち上がってグレンさんを見た。

「……お兄ちゃま」
「……グレン、グレンだ。その呼び方はやめろって何度も言って――」
「……好き」
 
 空気が凍りついた。
 
(突然の、告白……!!)

 どう反応していいのか分からずとりあえずジャミルを見ると、気まずそうに目をそらされてしまう。
 言われたグレンさんは、額に手をやって大きなため息をついた。

「……好きって、何が」
「これ」

 ルカがカルボナーラを指差す。

「なるほど。パスタ! パスタがな! うまかったのか」

 ――"パスタ"をすごい強調したな、今。無理もないけど……。

 ルカはグレンさんを見ながら、遠い目でまた「好き」とつぶやく。
 顔が赤い――きっと、おいしかったからだろう。
 けどセリフのせいで愛の告白にしか見えない……。

「なるほど分かった、良かったな。……ルカの言葉には主語が足りない。気をつけてくれ」
「しゅご……」
「そうだ」
「……とは?」

 ルカが小首をコテンとかしげる。

「……『主語』とは! 文の中で『誰が』『何が』などを指し示す重要な言葉! です! これを忘れると意図が伝わらなかったり、大きな誤解を生んだり大きな誤解を生んだりすることがあります! 気をつけましょう!」

(大きな誤解いっぱいされたんだ……)

 きっとさっきみたいなやりとりを何度もしてきたんだろう。大変だなあ……。
 
「……よく、分からない」
「さっきので言うと『私はこのパスタが好きです』」

 グレンさんがまたまた大きなため息をついて例文を言ってみせる。
 なんだか先生みたいだ。

「わたしは、パスタが、好きです」
「……そう。それから、それは作ったジャミルに言うように」
「ジャミル」
「へっ? ああ……」

 突然話を振られたジャミルがちょっと驚いて気の抜けた返事をする。

「ジャミル、パスタが好き」
「いや、ちげぇ……」
「ん……ちょっと違うけど、まあいいだろ」
「……ふふっ」

 男の人2人が小柄な女の子1人の言動にワタワタしているのがおかしくて、思わず吹き出してしまう。

 その後ルカはカルボナーラの大皿をペロリと平らげ、ホットケーキも5枚くらい食べた。
 あんなに食べてるのに小柄でほっそりしてるのすごいな……ちょっとうらやましい。
 
 
 ◇
 
 
「あの、グレンさん」
「……ん?」

 食事を終えて片付けをしたあと、部屋に戻ろうとするグレンさんに声をかけた。

「畑に何か植えていいでしょうか」
「何かって……花とか?」
「はい。ヒマなので花とかハーブを育てようと思うんです。せっかくいい土も大量にありますし」
「ああ……まあ、かまわないけど」
「ありがとうございます!」
 
 ――良かった! これでたくさんハーブを育てられる。自分専用の畑が欲しかったんだよね!
 家で育ててるのは学校の課題用だから、何か別の薬草やハーブや花を育てようかな?
 でも、そうすると週にもう1回くらいここに通った方が良さそう? うーん……。
 
「……レイチェル」
「あっ はい!」

 完全に自分の畑の妄想に入っていたところを、グレンさんに呼ばれて引き戻される。

「あの、ルカって子、いるだろ」
「はい」
「あの子ちょっと……いや、かなり個性的で、何を言ってるか分からなかったり言動に振り回されることがあると思うんだけど」
「あ……はい」

 珍しく真面目な話だ。
 確かにさっきの食事のときのやり取りといい、話が噛み合わなそうな感じの子だ。今まで出会ってきた中では、ちょっといないタイプ。

「仲良くしてやってくれってわけじゃないんだ。ただその……ある程度、大目に見てやって欲しいんだ」
「はい……分かりました」

 そう返すと、グレンさんは少し笑って「じゃあ」と階段を駆け上っていった。
 具体的にどうすればいいのかなぁ? と思いながらも、特に気に止めることなくわたしも自室に戻った。

 ……翌日、その意味を大いに知らされることになるとも知らず……。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

処理中です...