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3章 おしゃべり貴族令嬢
6話 望まない力
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「……これでよし、と」
グレンさん達が出かけたあと、買ってあったハーブの種を中庭に植えた。
厨房で飲み物をついできて中庭のベンチに座り、一休み。
――レモングラスが成長したら、お茶にしたいの。
レモングラスの隣の列には、ひまわりの芽が顔を出している。ひまわりの季節が終ったら種をおいしくいただく予定だ。
他は何植えようかな。ラベンダーとか、あとは料理に使えるバジルやローズマリーとかもいいなぁ。
「どうしよっかなー。ふふっ」
――お給料の使い道を考えるの、楽しいな。
来月からだいぶ減っちゃうけど、おしゃれにあんまり興味ないから高い服とかアクセサリーを買ったりとかしないし、貯金は毎月増えていくはず。
……そんな風な妄想にふけっていると、窓の向こうの廊下を歩いているベルナデッタさんと目が合った。
「……あ」
昨日、会話の途中でそっけなくなってしまったベルナデッタさん。今日もやっぱり気まずそうに目をそらされてしまう。
けれどすぐにわたしのほうに歩いてきて、なんとなく様子を伺うような感じで「おはよう」とあいさつをしてきた。
「おはようございます、ベルナデッタさん」
「あの……昨日は、ごめんね。あたし、ちょっと避けてて……」
――ああ、やっぱり避けられてたんだ。
「わたし……何か失礼なこと言っちゃったでしょうか」
「ううん、違うの。……ちょっと、ちょっとね。昔の友達のこと思い出しちゃって」
「お友達……」
「うん。ヒルデガルト薬学院に行ってたの。それで、……ごめんね。あなたはあの子とは違うのにさ」
そう言うと、彼女は少し太陽が高くなった空を見上げながらため息をつく。
「幼なじみで、ずっと仲良かったのよ。あの子……薬師になったのかなぁ……」
「今は、連絡取ってないんですか?」
「うん……その子、本当は回復術師になりたかったけど、魔法の資質がなかったのね」
「えっ」
――わたしと同じ……。
「あたしは一応、魔法の資質はあるとは言われてたけど、からきしダメで。ほら、生まれてすぐにさ、水鏡で調べるじゃない?」
「はい」
ミランダ教では子供が生まれると、教会に行って水鏡に血を一滴垂らし、洗礼を受けるという習わしがある。
魔法の素質があれば、水鏡の盤の火・水・土・風を表す印のどこかが光るようになっている。
光と闇の印もあるんだけど、それは人間全てが心に抱えているものだから必ず光る。魔法の資質がない人間は、その2カ所しか光らない。
わたしも、わたしの両親もそうだった。
ちなみに水鏡に血を垂らすと、魔法の資質のほかにその人の魂が生まれ出でた日――つまり、生年月日が光る文字で表れる。
どういう仕組みなのか分からない。不思議だ。
ミランダ教以外の人も、身元不明の人の生年月日や魔法の資質を知るためにこの水鏡を使うことがあるらしい。
「あたしは、水と風がもや~っと光る程度だったの。……で、実際魔法も全然使えなかったのよ」
――『資質を持っているからと言って、すぐに魔法を使えるとは限らない』ってジョアンナ先生が言ってたな。
子供の時から使える人もいれば、大人になってやっと目覚めるという人も少なくないそうだ。
「学校の成績もそんな良くなかったし、運動音痴でどん臭くて。そんなあたしをその友達が色々かばってくれたり、勉強教えてくれたりしてたの。あたし、お菓子作るの好きだからお礼にお菓子作って、おしゃべりしながらそのお菓子食べて……楽しかったな」
そう言いながらベルナデッタさんはわたしの隣に腰掛け、大きなため息をつく。
「……だけど15歳の時かな、あたし癒やしの力に目覚めちゃって。それが間の悪いことに、あの子がヒルデガルト薬学院に合格した頃で」
ベルナデッタさんが伏し目がちに、金の巻き髪をいじる。
「あの子あたしを睨みつけながら『なんであんたなんかが』って泣いて……それで、絶交されちゃってそれきり」
「……」
「『パティシエになりたい!』とか夢語ったりしてたお気楽なあたしが、何の努力もせずにあの子の欲しくてたまらないものを、ポッと手に入れちゃったのよ。あたしなんかよりあの子の方がよっぽど勉強もできて、気立ても良くて、色んなこと知ってて努力家で……敬虔なミランダ教徒だったのにさ」
「ベルナデッタさんは悪くないと思います……でも、ごめんなさい。わたしも回復魔法使えるようになりたかったから、そのお友達の気持ちも……分かります」
「そうよね……」
わたしもメイちゃんが回復魔法を使えるようになったらやっぱり羨ましくて妬ましくて、素直に祝福できないと思う。
薬師を目指している人は大体、回復術師になりたかったけど資質がないという人ばかりだから。
「あたし、この力いらないとまではいかないけど、そういう経緯もあるしやっぱ好きじゃなくてさ。でも自分を売り込むのに『回復魔法が使えます』ってやっぱ言っちゃうのよ。社会で生きるのにそれが唯一最大のアピールポイントだから。ここも、給仕係希望で来ておきながらそれ言っちゃったし……好きじゃないのにすがっちゃうのよね」
「……」
――何をどう返していいか分からなかった。
正直、魔法が使えるのは羨ましい。だけどこの人もグレンさんも、自分の力は好きじゃない。
友達と仲違いしたり、きっとグレンさんが言うところの「怖い人が近づいてくる」ことだってある。
『魔法使えるなんて羨ましい! そんなこと言うなんて贅沢!』なんて一概には言えない……言っちゃ駄目なんだろう。
「あ~ゴメン、あたし喋りすぎよね? だからね、回復係じゃなくてお菓子係で雇われたのなんて初めてで」
沈んだ顔をしていたベルナデッタさんに笑顔が少し戻る。
「『回復魔法はいらない。パンケーキだけ作ってくれればいい』ですって。びっくりしちゃった」
膝に手を置いて頬杖をついて、やがて嬉しさを抑えられないといったかんじではにかむ。元々見目麗しいこともありとても可愛らしい。
「……ハッピハッピーですか?」
「そう! それ!」
ベルナデッタさんはニコニコ顔でピースサインをしてみせる。
「ふふっ」
「えへへ……ごめんね。これから、よろしく」
「はい」
「敬語はやめてよ。それとあたしのことはベルって呼んでね。"ベルナデッタ"って、長いでしょ」
「えと……じゃあ、よろしく、ベル」
「うん!」
グレンさん達が出かけたあと、買ってあったハーブの種を中庭に植えた。
厨房で飲み物をついできて中庭のベンチに座り、一休み。
――レモングラスが成長したら、お茶にしたいの。
レモングラスの隣の列には、ひまわりの芽が顔を出している。ひまわりの季節が終ったら種をおいしくいただく予定だ。
他は何植えようかな。ラベンダーとか、あとは料理に使えるバジルやローズマリーとかもいいなぁ。
「どうしよっかなー。ふふっ」
――お給料の使い道を考えるの、楽しいな。
来月からだいぶ減っちゃうけど、おしゃれにあんまり興味ないから高い服とかアクセサリーを買ったりとかしないし、貯金は毎月増えていくはず。
……そんな風な妄想にふけっていると、窓の向こうの廊下を歩いているベルナデッタさんと目が合った。
「……あ」
昨日、会話の途中でそっけなくなってしまったベルナデッタさん。今日もやっぱり気まずそうに目をそらされてしまう。
けれどすぐにわたしのほうに歩いてきて、なんとなく様子を伺うような感じで「おはよう」とあいさつをしてきた。
「おはようございます、ベルナデッタさん」
「あの……昨日は、ごめんね。あたし、ちょっと避けてて……」
――ああ、やっぱり避けられてたんだ。
「わたし……何か失礼なこと言っちゃったでしょうか」
「ううん、違うの。……ちょっと、ちょっとね。昔の友達のこと思い出しちゃって」
「お友達……」
「うん。ヒルデガルト薬学院に行ってたの。それで、……ごめんね。あなたはあの子とは違うのにさ」
そう言うと、彼女は少し太陽が高くなった空を見上げながらため息をつく。
「幼なじみで、ずっと仲良かったのよ。あの子……薬師になったのかなぁ……」
「今は、連絡取ってないんですか?」
「うん……その子、本当は回復術師になりたかったけど、魔法の資質がなかったのね」
「えっ」
――わたしと同じ……。
「あたしは一応、魔法の資質はあるとは言われてたけど、からきしダメで。ほら、生まれてすぐにさ、水鏡で調べるじゃない?」
「はい」
ミランダ教では子供が生まれると、教会に行って水鏡に血を一滴垂らし、洗礼を受けるという習わしがある。
魔法の素質があれば、水鏡の盤の火・水・土・風を表す印のどこかが光るようになっている。
光と闇の印もあるんだけど、それは人間全てが心に抱えているものだから必ず光る。魔法の資質がない人間は、その2カ所しか光らない。
わたしも、わたしの両親もそうだった。
ちなみに水鏡に血を垂らすと、魔法の資質のほかにその人の魂が生まれ出でた日――つまり、生年月日が光る文字で表れる。
どういう仕組みなのか分からない。不思議だ。
ミランダ教以外の人も、身元不明の人の生年月日や魔法の資質を知るためにこの水鏡を使うことがあるらしい。
「あたしは、水と風がもや~っと光る程度だったの。……で、実際魔法も全然使えなかったのよ」
――『資質を持っているからと言って、すぐに魔法を使えるとは限らない』ってジョアンナ先生が言ってたな。
子供の時から使える人もいれば、大人になってやっと目覚めるという人も少なくないそうだ。
「学校の成績もそんな良くなかったし、運動音痴でどん臭くて。そんなあたしをその友達が色々かばってくれたり、勉強教えてくれたりしてたの。あたし、お菓子作るの好きだからお礼にお菓子作って、おしゃべりしながらそのお菓子食べて……楽しかったな」
そう言いながらベルナデッタさんはわたしの隣に腰掛け、大きなため息をつく。
「……だけど15歳の時かな、あたし癒やしの力に目覚めちゃって。それが間の悪いことに、あの子がヒルデガルト薬学院に合格した頃で」
ベルナデッタさんが伏し目がちに、金の巻き髪をいじる。
「あの子あたしを睨みつけながら『なんであんたなんかが』って泣いて……それで、絶交されちゃってそれきり」
「……」
「『パティシエになりたい!』とか夢語ったりしてたお気楽なあたしが、何の努力もせずにあの子の欲しくてたまらないものを、ポッと手に入れちゃったのよ。あたしなんかよりあの子の方がよっぽど勉強もできて、気立ても良くて、色んなこと知ってて努力家で……敬虔なミランダ教徒だったのにさ」
「ベルナデッタさんは悪くないと思います……でも、ごめんなさい。わたしも回復魔法使えるようになりたかったから、そのお友達の気持ちも……分かります」
「そうよね……」
わたしもメイちゃんが回復魔法を使えるようになったらやっぱり羨ましくて妬ましくて、素直に祝福できないと思う。
薬師を目指している人は大体、回復術師になりたかったけど資質がないという人ばかりだから。
「あたし、この力いらないとまではいかないけど、そういう経緯もあるしやっぱ好きじゃなくてさ。でも自分を売り込むのに『回復魔法が使えます』ってやっぱ言っちゃうのよ。社会で生きるのにそれが唯一最大のアピールポイントだから。ここも、給仕係希望で来ておきながらそれ言っちゃったし……好きじゃないのにすがっちゃうのよね」
「……」
――何をどう返していいか分からなかった。
正直、魔法が使えるのは羨ましい。だけどこの人もグレンさんも、自分の力は好きじゃない。
友達と仲違いしたり、きっとグレンさんが言うところの「怖い人が近づいてくる」ことだってある。
『魔法使えるなんて羨ましい! そんなこと言うなんて贅沢!』なんて一概には言えない……言っちゃ駄目なんだろう。
「あ~ゴメン、あたし喋りすぎよね? だからね、回復係じゃなくてお菓子係で雇われたのなんて初めてで」
沈んだ顔をしていたベルナデッタさんに笑顔が少し戻る。
「『回復魔法はいらない。パンケーキだけ作ってくれればいい』ですって。びっくりしちゃった」
膝に手を置いて頬杖をついて、やがて嬉しさを抑えられないといったかんじではにかむ。元々見目麗しいこともありとても可愛らしい。
「……ハッピハッピーですか?」
「そう! それ!」
ベルナデッタさんはニコニコ顔でピースサインをしてみせる。
「ふふっ」
「えへへ……ごめんね。これから、よろしく」
「はい」
「敬語はやめてよ。それとあたしのことはベルって呼んでね。"ベルナデッタ"って、長いでしょ」
「えと……じゃあ、よろしく、ベル」
「うん!」
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