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【第2部】7章 風と鳥の図書館
3話 招かれざる客
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「う――ん……」
――月曜日。
図書館を、首を捻りながら周る。
今日は司書の席にグレンさんがいない。
ジャミルから引き継いだパーティの活動報告書によると隔週で王立図書館に届け物をしているらしいから、それかな?
あと週2で護衛と警備もしているってことだけど……。
(週2っていうと図書館と同じ……ここのことなのかな?)
ジャミルとカイル、フランツも言っているけどグレンさんは剣術がすごいらしい。
最近方針転換してカイルと一緒に魔物退治に行くようになった。倒す魔物のランクは高めで、いつも無傷で帰ってくる。
確かに体格もいいし、戦士っぽい。ここには司書としていつも座っているけど、護衛と警備という方がしっくりくるかも……。
(って、こののんびりした図書館の何を守ってるの? って話だよね……)
……と、いったことを考えながら図書館の中を巡っているわけですが。
「うーん、うーん……やっぱり本が減ってるなぁ」
そう、本棚の中の本がここ数ヶ月で確実に減ってきているのだ。中にはスカスカのものもある。
(なんでだろう? まさか……ん?)
ぐるぐる回っていると、魔法関係の本棚の所に学生らしき紫の髪の男の子が立っていた。
赤いブレザーに銀の刺繍、腕には火と杖の絵柄が入ったエンブレム。
(魔術学院の制服だ……)
確か専攻している属性とか階級によって服の色やエンブレムが違うって聞いた。
火のエンブレムってことはこの人は火の魔法を勉強しているんだろう。
(こんな所に来るなんて珍しいな……)
魔術学院は魔術書をたくさん所蔵する大きな図書館を有しているし、そこからさらに足を伸ばせば王立図書館もある。
本を借りるのにここまで来る必要はなさそうだけど……。
不思議に思いなんとなくその男子学生を見ていると本棚の本を指差しながら1冊の本を探し当て、そしてその本を自分の鞄に素早くしまい込んだ。
「あっ!!」
「!!」
わたしが思わず大きい声をあげると、男子学生は慌てて鞄を背に隠しこちらを睨む。
紫の髪に緑の目。確か隣の国ディオールの人の特徴だ。
「……なんだよ?」
「……あの、本の貸し出しはあっちですよ?」
わたしはドキドキしながら司書の席を指差す。
「うるさいな。どけよ!」
男子学生が歯を食いしばってこっちを睨みつけて大声をあげた。
こ、怖い……。で、でも!
「だだだ、ダメですよ! このまま本を持っていったら泥棒になりますよ!? そ、それに魔術の本が読みたいんだったらあなたの学校にいくらでも――」
「どうでもいいだろ! どけ! 無能力者が!!」
「きゃあっ!」
男子学生が手をこっちにかざすと何か見えない衝撃波のようなものに当たって身体が吹き飛ばされ、後ろの本棚に背中を打ち付けた。
あまり本が入っていない本棚がひっくり返り、数冊の本がバサバサと落ちてきて膝やスネに本の角が当たってしまう。
背中ほどじゃないけどすっごい痛い。青タンになっちゃう……。ていうかちょっと擦りむいてる。
「つっ……ううう……」
わたしが打ち付けた背中と足の痛さにうめいているその隙に男子学生はどかどかと図書館を立ち去っていく。
「ううう、痛い……何よあの人ぉ、ひどい……」
――それに、『無能力者』って何? 魔法使えない人のこと? 信じられないー……。
「ああ……大変だ。レイチェルさん。大丈夫ですか」
「あ……テオ館長……」
物音を聞きつけたテオ館長が杖を手にわたしの元にやってきた。
「すみませんね。席を外している間にこんなことに……立てますか?」
「あううすみません……本棚に思いっきりぶつかっちゃって背中が」
「ああ、大変だ。ちょっとまってくださいね……」
テオ館長が目を閉じて、両手に杖を持ちわたしの方へかざすと淡い緑色の光がわたしを包んだ。
柔らかくて温かい光。身体の痛みがどんどん引いていくのを感じる。
(回復魔法……)
「さあ、これで大丈夫ですかな。痛みは?」
「あ……すごい、なんともない……」
痛くて動けなかったけど館長の魔法のおかげで痛みが引いた。本が落ちてきて擦りむいたスネもきれいになっている。
「あの、ありがとうございます」
ようやく立ち上がったわたしは館長にペコリと頭を下げた。
「いえいえ、それにしても……また本が盗まれましたか」
「”また”? よく盗まれるんですか?」
「ええ……私が所有している魔術書もいくつか置いてあるんですが、老いぼれ一人でやっているからか今日のように盗まれることが多くてね」
「……ひどい」
こののどかで優しい図書館でそんなことをする人がいるなんてなんだか悔しい。
グレンさんの言うところの『シマ』を荒らされた気分。
「参りました……マクロード君がいない時に限ってこういうことに」
「グレンさん、ですか?」
「ええ……実はこういう時のために司書という名目でここを守ってもらっているんですよ。彼が司書の席に座っていれば大抵の人間は妙な気を起こしませんから」
「あ……」
やっぱり、そうだったんだ。
「あのー、今日はどうしてグレンさんはいないんですか?」
「…………」
わたしが質問するとテオ館長は無言になってしまう。
「……ごめんなさい、プライベートですもんね。あはは」
「いいえ。……実はね、月に2回、ここの魔術書を王立図書館に運んでもらっているんです」
(隔週の配達業務もここの仕事だったんだ……)
「そう……なんですね。本が減ってるのはそれでなんですね」
「いえ、実は……黙っていてすまないね」
「はい??」
「……この図書館、今月いっぱいで閉館するんですよ」
――月曜日。
図書館を、首を捻りながら周る。
今日は司書の席にグレンさんがいない。
ジャミルから引き継いだパーティの活動報告書によると隔週で王立図書館に届け物をしているらしいから、それかな?
あと週2で護衛と警備もしているってことだけど……。
(週2っていうと図書館と同じ……ここのことなのかな?)
ジャミルとカイル、フランツも言っているけどグレンさんは剣術がすごいらしい。
最近方針転換してカイルと一緒に魔物退治に行くようになった。倒す魔物のランクは高めで、いつも無傷で帰ってくる。
確かに体格もいいし、戦士っぽい。ここには司書としていつも座っているけど、護衛と警備という方がしっくりくるかも……。
(って、こののんびりした図書館の何を守ってるの? って話だよね……)
……と、いったことを考えながら図書館の中を巡っているわけですが。
「うーん、うーん……やっぱり本が減ってるなぁ」
そう、本棚の中の本がここ数ヶ月で確実に減ってきているのだ。中にはスカスカのものもある。
(なんでだろう? まさか……ん?)
ぐるぐる回っていると、魔法関係の本棚の所に学生らしき紫の髪の男の子が立っていた。
赤いブレザーに銀の刺繍、腕には火と杖の絵柄が入ったエンブレム。
(魔術学院の制服だ……)
確か専攻している属性とか階級によって服の色やエンブレムが違うって聞いた。
火のエンブレムってことはこの人は火の魔法を勉強しているんだろう。
(こんな所に来るなんて珍しいな……)
魔術学院は魔術書をたくさん所蔵する大きな図書館を有しているし、そこからさらに足を伸ばせば王立図書館もある。
本を借りるのにここまで来る必要はなさそうだけど……。
不思議に思いなんとなくその男子学生を見ていると本棚の本を指差しながら1冊の本を探し当て、そしてその本を自分の鞄に素早くしまい込んだ。
「あっ!!」
「!!」
わたしが思わず大きい声をあげると、男子学生は慌てて鞄を背に隠しこちらを睨む。
紫の髪に緑の目。確か隣の国ディオールの人の特徴だ。
「……なんだよ?」
「……あの、本の貸し出しはあっちですよ?」
わたしはドキドキしながら司書の席を指差す。
「うるさいな。どけよ!」
男子学生が歯を食いしばってこっちを睨みつけて大声をあげた。
こ、怖い……。で、でも!
「だだだ、ダメですよ! このまま本を持っていったら泥棒になりますよ!? そ、それに魔術の本が読みたいんだったらあなたの学校にいくらでも――」
「どうでもいいだろ! どけ! 無能力者が!!」
「きゃあっ!」
男子学生が手をこっちにかざすと何か見えない衝撃波のようなものに当たって身体が吹き飛ばされ、後ろの本棚に背中を打ち付けた。
あまり本が入っていない本棚がひっくり返り、数冊の本がバサバサと落ちてきて膝やスネに本の角が当たってしまう。
背中ほどじゃないけどすっごい痛い。青タンになっちゃう……。ていうかちょっと擦りむいてる。
「つっ……ううう……」
わたしが打ち付けた背中と足の痛さにうめいているその隙に男子学生はどかどかと図書館を立ち去っていく。
「ううう、痛い……何よあの人ぉ、ひどい……」
――それに、『無能力者』って何? 魔法使えない人のこと? 信じられないー……。
「ああ……大変だ。レイチェルさん。大丈夫ですか」
「あ……テオ館長……」
物音を聞きつけたテオ館長が杖を手にわたしの元にやってきた。
「すみませんね。席を外している間にこんなことに……立てますか?」
「あううすみません……本棚に思いっきりぶつかっちゃって背中が」
「ああ、大変だ。ちょっとまってくださいね……」
テオ館長が目を閉じて、両手に杖を持ちわたしの方へかざすと淡い緑色の光がわたしを包んだ。
柔らかくて温かい光。身体の痛みがどんどん引いていくのを感じる。
(回復魔法……)
「さあ、これで大丈夫ですかな。痛みは?」
「あ……すごい、なんともない……」
痛くて動けなかったけど館長の魔法のおかげで痛みが引いた。本が落ちてきて擦りむいたスネもきれいになっている。
「あの、ありがとうございます」
ようやく立ち上がったわたしは館長にペコリと頭を下げた。
「いえいえ、それにしても……また本が盗まれましたか」
「”また”? よく盗まれるんですか?」
「ええ……私が所有している魔術書もいくつか置いてあるんですが、老いぼれ一人でやっているからか今日のように盗まれることが多くてね」
「……ひどい」
こののどかで優しい図書館でそんなことをする人がいるなんてなんだか悔しい。
グレンさんの言うところの『シマ』を荒らされた気分。
「参りました……マクロード君がいない時に限ってこういうことに」
「グレンさん、ですか?」
「ええ……実はこういう時のために司書という名目でここを守ってもらっているんですよ。彼が司書の席に座っていれば大抵の人間は妙な気を起こしませんから」
「あ……」
やっぱり、そうだったんだ。
「あのー、今日はどうしてグレンさんはいないんですか?」
「…………」
わたしが質問するとテオ館長は無言になってしまう。
「……ごめんなさい、プライベートですもんね。あはは」
「いいえ。……実はね、月に2回、ここの魔術書を王立図書館に運んでもらっているんです」
(隔週の配達業務もここの仕事だったんだ……)
「そう……なんですね。本が減ってるのはそれでなんですね」
「いえ、実は……黙っていてすまないね」
「はい??」
「……この図書館、今月いっぱいで閉館するんですよ」
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