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【第2部】7章 風と鳥の図書館
4話 終わりまであと少し
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「……閉館……ですか?」
さっき本棚に叩きつけられた以上の衝撃に襲われる。
今月いっぱいってことはあと2週間とちょっとしかない……。
テオ館長は少し淋しげに微笑む。
「ええ……妻とここで図書館を始めて40年以上やってきましたが、その妻も5年前亡くなり……孫夫婦が一緒に暮らさないかと言ってくれてるんです。客入りもあまりよくありませんし、何より私も年で図書館の環境を維持するだけの魔力がありません」
「環境を維持する、魔力……?」
「魔石の力もありますけれど、ボケ防止の為に魔法を使って灯りや空調をコントロールしているんですよ」
そう言いながら館長は右手をかざす。すると手の甲に風を示す紋様が浮かび上がり、緑色に淡く光る。
「……紋章……!」
『女神の祝福』と呼ばれる紋章。
通常杖や腕輪や指輪などの魔器を介してのみ使うことができる魔法。それが魔器なしで使える。
グレンさんとルカが手に宿している。
グレンさんは人の『色』が見える。ルカは人や花の『水』が見えるって言っていた。
そうだ……テオ館長はよく『いい風』って言っていた。それは風の紋章があるからだったんだ。人の『風』が見えてたんだ。
確かにこの図書館はいつも室内の温度が快適だ。勾配のかかった天井、その梁に取り付けてあるファンがいつも回っていて、空気を循環させている。
光の魔石の入った灯りがふわふわと浮いているし、特定の時間になると薄い影が板状になって天窓を覆って、日光がきつくなりすぎないように調整されている。
――あれもこれも、館長の魔法で作り出されていたんだ。
「全部、テオ館長が魔法で……? すごい……紋章ってそんなことができるんですね」
魔器を介して撃つ魔法だと、同時にそこまではできないだろう。
「いえいえ。一つ一つは微弱なものですから」
「でも、疲れますよね」
「そうですね、ですから営業時間も短くしているんです。昔は9時から18時で土日以外毎日開けていたんですが、今は10時から17時で、火曜日と木曜日はお休み。金曜日は本の整理のために来ているだけですから、実質稼働しているのは月曜日と水曜日だけなんです」
「えっ……そうだったんですか? 知りませんでした」
わたしはちょうど月曜日、たまに水曜日に来ているだけだった。その日しか営業してなかったなんて。
「……寂しいです」
わたしがぽつりと言うと、館長は少し微笑む。
「ありがとう。……閉館まであと20日弱ですが、また来てくれると嬉しいです」
「…………」
寂しいな。小さい頃からずっとずっと慣れ親しんできたお気に入りの場所だったのに。グレンさんは、もちろん知ってるんだろうな。どう思ってるんだろう……?
◇
「……こんにちは」
水曜日。わたしはまた図書館を訪れ、グレンさんに声をかけた。
司書の席にはおらず、本棚から出した本を箱に詰めていた所だった。箱にくっついている紙には『寄付用』と書いてある。
「……どうした? 水曜日来るのは珍しいな」
「……ここが、閉館するって聞いて」
月曜日だけだと、ここにはあと3回しか来れない。
だから閉館する日まで営業日は必ず訪れることにしたのだ。
「ああ……聞いたのか」
「グレンさんは……知っていたんですよね」
「まあな。……元々『閉館までの後片付け業務』で来ていたから。最初は裏方だったけど、本をパクろうとする奴をとっ捕まえたから護衛と警備もすることになったんだ」
「そうだったんですか……」
「――そういえば、泥棒に怪我させられたと聞いたが大丈夫か」
「あ、はい。館長が怪我治してくれましたし……」
「次からそういうのを見かけたら俺かテオドールさんを呼ぶようにしてくれ。その為に俺がいるんだから」
「はい……まさか吹っ飛ばされるとは思いませんでした。って、『テオドールさん』って? テオ館長ですか?」
「そう。テオドール・アイレンベルク」
「そういう名前だったんだ……」
『テオ館長』としか呼ばないから知らなかった……。
わたしと話している間にも、グレンさんは本を箱にしまっていく。
「……吹っ飛ばされたって? 魔法でか?」
「はい。彼が手をかざしたらこう、見えない力……空気でドンって押された感じで」
「……相手の特徴は」
「えと、魔術学院の制服――赤いブレザーで、火と杖が描かれたエンブレムでした。紫の髪で緑の目で……」
「ディオール人だな」
「はい。……あ、その人わたしに『無能力者』って言ってきたんですけどそれって――」
「――無能力者?」
わたしが最後まで言う前にグレンさんが聞き返してきた。眉間にシワが寄っている。
「あのー……それって、魔法使えない人のこと、ですよね?」
「……忘れろ、そんなもの。馬鹿馬鹿しい」
「は、はい」
いつになくキツめの口調。
す、すごく怒ってらっしゃる……? そんなに不快な言葉なんだろうか?
「……また来たりとかしませんよね?」
「どうだろうな……顔も見られてるわけだし一度泥棒に入った所にまた来るとは考えにくいが……」
グレンさんはいっぱいになった箱を持って立ち上がる。
「まあ、もし見かけた場合は教えてくれ。慌てず騒がずにな……またケガさせられたんじゃつまらないだろう」
「そうですね。やっぱりちょっと怖かったですし……」
「なるほど分かった」
「えっ?」
「今度そいつが来たあかつきには隊長が2つに折って捌いてやろう」
「こ、怖いですよ……穏便にお願いします」
わたしがそう言うと、グレンさんはにやりと笑って本の入った箱を持って行った。
ま、まさか本当に2つに折ったりしないよね……?
さっき本棚に叩きつけられた以上の衝撃に襲われる。
今月いっぱいってことはあと2週間とちょっとしかない……。
テオ館長は少し淋しげに微笑む。
「ええ……妻とここで図書館を始めて40年以上やってきましたが、その妻も5年前亡くなり……孫夫婦が一緒に暮らさないかと言ってくれてるんです。客入りもあまりよくありませんし、何より私も年で図書館の環境を維持するだけの魔力がありません」
「環境を維持する、魔力……?」
「魔石の力もありますけれど、ボケ防止の為に魔法を使って灯りや空調をコントロールしているんですよ」
そう言いながら館長は右手をかざす。すると手の甲に風を示す紋様が浮かび上がり、緑色に淡く光る。
「……紋章……!」
『女神の祝福』と呼ばれる紋章。
通常杖や腕輪や指輪などの魔器を介してのみ使うことができる魔法。それが魔器なしで使える。
グレンさんとルカが手に宿している。
グレンさんは人の『色』が見える。ルカは人や花の『水』が見えるって言っていた。
そうだ……テオ館長はよく『いい風』って言っていた。それは風の紋章があるからだったんだ。人の『風』が見えてたんだ。
確かにこの図書館はいつも室内の温度が快適だ。勾配のかかった天井、その梁に取り付けてあるファンがいつも回っていて、空気を循環させている。
光の魔石の入った灯りがふわふわと浮いているし、特定の時間になると薄い影が板状になって天窓を覆って、日光がきつくなりすぎないように調整されている。
――あれもこれも、館長の魔法で作り出されていたんだ。
「全部、テオ館長が魔法で……? すごい……紋章ってそんなことができるんですね」
魔器を介して撃つ魔法だと、同時にそこまではできないだろう。
「いえいえ。一つ一つは微弱なものですから」
「でも、疲れますよね」
「そうですね、ですから営業時間も短くしているんです。昔は9時から18時で土日以外毎日開けていたんですが、今は10時から17時で、火曜日と木曜日はお休み。金曜日は本の整理のために来ているだけですから、実質稼働しているのは月曜日と水曜日だけなんです」
「えっ……そうだったんですか? 知りませんでした」
わたしはちょうど月曜日、たまに水曜日に来ているだけだった。その日しか営業してなかったなんて。
「……寂しいです」
わたしがぽつりと言うと、館長は少し微笑む。
「ありがとう。……閉館まであと20日弱ですが、また来てくれると嬉しいです」
「…………」
寂しいな。小さい頃からずっとずっと慣れ親しんできたお気に入りの場所だったのに。グレンさんは、もちろん知ってるんだろうな。どう思ってるんだろう……?
◇
「……こんにちは」
水曜日。わたしはまた図書館を訪れ、グレンさんに声をかけた。
司書の席にはおらず、本棚から出した本を箱に詰めていた所だった。箱にくっついている紙には『寄付用』と書いてある。
「……どうした? 水曜日来るのは珍しいな」
「……ここが、閉館するって聞いて」
月曜日だけだと、ここにはあと3回しか来れない。
だから閉館する日まで営業日は必ず訪れることにしたのだ。
「ああ……聞いたのか」
「グレンさんは……知っていたんですよね」
「まあな。……元々『閉館までの後片付け業務』で来ていたから。最初は裏方だったけど、本をパクろうとする奴をとっ捕まえたから護衛と警備もすることになったんだ」
「そうだったんですか……」
「――そういえば、泥棒に怪我させられたと聞いたが大丈夫か」
「あ、はい。館長が怪我治してくれましたし……」
「次からそういうのを見かけたら俺かテオドールさんを呼ぶようにしてくれ。その為に俺がいるんだから」
「はい……まさか吹っ飛ばされるとは思いませんでした。って、『テオドールさん』って? テオ館長ですか?」
「そう。テオドール・アイレンベルク」
「そういう名前だったんだ……」
『テオ館長』としか呼ばないから知らなかった……。
わたしと話している間にも、グレンさんは本を箱にしまっていく。
「……吹っ飛ばされたって? 魔法でか?」
「はい。彼が手をかざしたらこう、見えない力……空気でドンって押された感じで」
「……相手の特徴は」
「えと、魔術学院の制服――赤いブレザーで、火と杖が描かれたエンブレムでした。紫の髪で緑の目で……」
「ディオール人だな」
「はい。……あ、その人わたしに『無能力者』って言ってきたんですけどそれって――」
「――無能力者?」
わたしが最後まで言う前にグレンさんが聞き返してきた。眉間にシワが寄っている。
「あのー……それって、魔法使えない人のこと、ですよね?」
「……忘れろ、そんなもの。馬鹿馬鹿しい」
「は、はい」
いつになくキツめの口調。
す、すごく怒ってらっしゃる……? そんなに不快な言葉なんだろうか?
「……また来たりとかしませんよね?」
「どうだろうな……顔も見られてるわけだし一度泥棒に入った所にまた来るとは考えにくいが……」
グレンさんはいっぱいになった箱を持って立ち上がる。
「まあ、もし見かけた場合は教えてくれ。慌てず騒がずにな……またケガさせられたんじゃつまらないだろう」
「そうですね。やっぱりちょっと怖かったですし……」
「なるほど分かった」
「えっ?」
「今度そいつが来たあかつきには隊長が2つに折って捌いてやろう」
「こ、怖いですよ……穏便にお願いします」
わたしがそう言うと、グレンさんはにやりと笑って本の入った箱を持って行った。
ま、まさか本当に2つに折ったりしないよね……?
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