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◇7-8章 幕間:番外編・小話

ジニアの花―何もかもお見通し

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「うーん、う――ん……」
 
 最近新しく買った服をベッドに並べて思案中。
 
 まだデートに誘われてはいないんだけど、もし誘われた時の服を……ですねぇ……。
 夏休みにおみやげを持っていった時「かわいい」って言われて、あの時は白いワンピースと黄色いボレロで……ああいう感じがいいのかな?
 ……そう思ってワンピースとか、ひざ丈くらいのスカートを買ってきたわけですが。
 
「うーん……どういうのが好きなのかなぁ……」

 セクシーなの? キュートなの? どっちが好きなの? な~んて……。

「レイチェルちゃん? 入るわよー」

 ノックの音と共に、お母さんが入ってきた。
 
「返事待たないで開けないでよぉ。……何?」
「うん。この本買ってきたから、読むかなーって思って」

 ……と言ってお母さんが手渡してきたのはキャンディ・ローズ先生の小説。
 実はキャンディ・ローズ先生は大ベテランの作家さん。
 わたしはお母さんの影響でキャンディ・ローズ先生の本を読み始めたのだ。
 
「あらら、新作? 最近バタバタでチェックできてなかったなぁ」
「ふふ、ここ置いとくわね」
「は~い」
 
「……それで。また随分服を買ってきたのねぇ。しかもなんだか暗い色合いばかりじゃない?」
「あ……やっぱりそう思う?」
「うん。黒とか紫とか紺とか……お母さんは、レイチェルちゃんはもっと明るい色の方が似合うと思うけど」
「そうかなぁ……」

 秋だし、大人っぽいシックなのがいいかなと思ってダークなのを買ってきたんだよね……お金はいっぱいあるし。

「隊長さんもきっとそう思うんじゃないかしら」
「そうかなぁ……」
 
 …………。
 …………。
 
 !?
 
「えっ、え」
「だからね、隊長さんがどういうのが好みか知らないけど、レイチェルちゃんは明るいのがかわいいって思うと思うのね」
「ま、ま、待って待って……え!? 今なんて!?」
「え? 隊長さんとデートするんでしょ? 違うの?」
「え? え!? ち、ちが」
 
 まだデートするわけじゃないからそこは違うけど、なんで?
 お母さんに恋愛相談なんてしたことないのに。
 
「デートはまだなの? お付き合いはしてるのよね?」
「な、なななな なんで? なんで知ってる……」
「え、だって。レイチェルちゃんしょっちゅう隊長さんの話してたし。好きなんだなーって」
「そ、そんなに話してたっけ?」

 隊長さんがあの図書館で働いてるんだよ~ ぐらいの軽い世間話のつもりだったのに、そんなに話してた??
 
「うん。あれよ、ジャミル君やカイル君の話もしてたけど、隊長さんの話の時はワクワクの風が吹いてたわよ」
「わ、ワクワクの風!!」
 
 お母さんがいたずらっぽく笑ってウインクしてみせた。
 40数年やっていたテオ館長の図書館は、お母さんも常連さんだった。
 ていうかそもそもわたしがあそこ行ってたのは、お母さんに連れられていったのが始まりだし……。
 そんなわけで当然、テオ館長の「風」の言い回しも知ってる。
 ワクワクの風?? そんなに吹いてたの?
 
「それにね、最近レイチェルちゃん鏡の前で色んな髪型試したりしてたし、その花だって毎日うっとりしながら見てるんだもの。あー、恋する乙女だーって思いながら見てたわ」
「さ、さようでございますか……」
 
 そう言われるとぐうの音も出ない。バレバレだったのね……!
 確かにグレンさんに「髪下ろしてる方がいいな」とか言われて以来、鏡の前で髪いじったりしてたわ……。
 そしてお母さんの言う「その花」とは、グレンさんがお見舞いにくれたジニアの花。花瓶に入れて飾ってしばらくしてから、ドライフラワーにする為に吊してある。
 うっとりしながら見てたのね……いえいえ、うっとりするでしょ。
 だって告白された時のこと思い出すじゃない。思い出すじゃない。
 
「話聞く限り、隊長さんもレイチェルちゃんのこと憎からず思ってくれてそうだって思ってたけど。ただの風邪だし、バイト休んだわけでもないのにわざわざこのお花持ってきてくれるんだもの。あ、レイチェルちゃんに気があるんだな~って思ったわ。しかもジニアの花よ」
「う、う……」

 お花を持ってきてくれたのにはあれこれ事情があったんだけど……!

「えと、えと……"しかも"ジニアの花って? 何か特別な意味あったっけ?」

 花言葉は「不在の友を想う」。
 友達かぁ……ってちょっとヘコんだりしたんだけども。
 
「だって隊長さんもキャンディ・ローズ先生読んでるんでしょ? だからって思ったんだけど……」
「ん??」
「あっ、それはこの本の話だったわ、ごめんね。詳しくは読んでね! うふふ」
「え? え?」

 お母さんは乙女のようにキャッキャとはしゃぎながら退室していった。
 
 
 ◇
 
 
 その夜、お母さんが買ってきたキャンディ・ローズ先生の新作を読んだ。

 ヒロインとその男友達は学年トップを競い合うライバル。
 時にケンカして時に勉強を教え合ったりもしながら、そのうちにお互いのことを意識し始める。
 だけど二人共意地っ張りだから、なかなか好意を示せない。

 ところでヒロインは両親を亡くし奨学金で学校に通っているんだけど、奨学金は常に成績上位でなければ下りない。
 だから具合が悪くてもそれを押して学校に来ようとする。
 それを心配してなんとか言葉をかけようとする男友達だけどとんでもない口下手が災いして
「休めよ。みんなに感染うつったら迷惑だから」なんて言ってしまい、カッとなったヒロインは「あなたに何が分かるの」と言って大泣き、そして倒れてしまう。
 自分のせいで彼女が倒れてしまったと思った男友達は、彼女の暮らす寮の寮母さんに手紙と花を言付ける。
 それがジニアの花。花言葉は、「不在の友を思う」。
 それを知っている彼女は少し涙してしまうが、手紙を見てさらに驚く。
「あんな言い方してごめん。君が心配です。無理しないでゆっくり休んで。戻ったら、直接君に好きだと伝えたい」
 その後、男友達は先日のことを謝罪。彼女に胸の内を伝え、彼女もそれを受け入れる。
 紆余曲折ありながらも彼と肩を並べて生きていく――そういう内容だった。
 
 
「う…………うう」
 
『あんな言い方してごめん。君が心配です。無理しないでゆっくり休んで。戻ったら、直接君に好きだと伝えたい』
 
 ――顔が熱い。

 グレンさん、これ読んであのジニアの花持ってきた? そして直接好きだと伝えに……?
 さ、さすがにそれは確認できない……!

「ひぃいいん!」

 わたしはお母さんが何もかもお見通しだったことも含めて、悶絶してベッドでバタバタと暴れ倒した。
 ちなみにグレンさんと付き合ってることについては、
「成人なんだし好きにしたら。……学業が疎かにならない程度にね。でもお父さんはぜーんぜん気付いてないみたいだから内緒にしておくわね」
 と、これまたウインクしながら言われた。
 
 ていうか、砦のみんなは誰も気付いてなかったっぽいのに、お母さんにはバレバレだったんだなぁ。
 うまく隠せてるとか思ってた自分が恥ずかしい……。
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