愛を知らない空っぽ屍霊術師は、泥の人形に泡沫の恋をする

天草こなつ

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3章 変調

3話 ダブルバインド

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 トモミチの部屋を出たあと、渡された"色見本"を見つめながら今日の予定について考えを張り巡らせていた。
 
 トモミチが望む色の食べ物を手に入れたいなら、南の都を越えた先――中の都か西の都にある異世界人の居住区画へ行けばいい。
 規模が大きいのは中の都だが、僕はあそこは好かない。行くなら西の都になるが、距離が少し離れている。往復の時間を考えると昼前に出た方がいい。だが、昨日アンソニーへの申し送りをしていない。
 
 ――"申し送り"というのは、師ゴーチエが考えた護衛の者との間の取り決めだ。
 このいおりには本宅と別に召使い用の"離れ"がある。護衛の者、召使いはそちらに在駐させて、街に出るなど用事があるときは前日の夜10時までに召使いに便りをよこさせる。
 それがないときは次の日街に出るなりなんなり好きにしろ、本宅に入るのは自由だが、重要な報告など用事がない限り、主の部屋に来るな――そういう取り決めだ。
 "便りをよこす召使い"は、ゴーチエが生きていたときは僕が担当していた。今はレミがその役をやっている。
「街に行く」という予定ができたから、手紙を書いてレミに言付けなければいけない。
 だがそうなると街に出るのは明日の朝になり、トモミチに食材を提供できるのは昼以降になってしまう――。
 
(別に、それでいいじゃないか……?)
 
 ホロウに食べ物は必要ない。トモミチ自身も「どうせ味が分からないから用意しなくていい」と言っていた。
 用意したところで食べないかもしれないものを、急いで買いに行かなくてもいい。
 だがそれまでの間、トモミチはまた何も食べず水だけで過ごすことに……。
 
「………………」
 
 ――僕は、魔術に関することとゴーチエが定めたルール以外のことを考え出すのがひどく苦手だ。
 
 ゴーチエはことあるごとに僕を「愚かだ」と断じた。
「少しは自分で考えられんのか」と言いながら、僕が自分の考えを述べると「お前の考えなど聞いていない」とののしる。
 結果僕は、ゴーチエが考える通りにしか動けない人間になっていた。
 今のように「街に行く」という予定すら満足に立てられない……。
 
『オレはロラン君個人をすごいって言うたんやで』
『その"ゴーチエ先生"がどんだけすごいんか知らんけど。少なくとも"栢木先生"は、ロラン君は色んなことよう知ってるし、すごいとおもてるで』――。
 
「…………」
 
 昨夜のトモミチの言葉が頭の中に響く。
 ゴーチエのルールに従っていれば楽だ。何も考えなくていい。
 だが、果たしてそれでいいのだろうか……。
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