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「ブラックを平仮名表記にするとどうでしょうか。ぶらっくコーヒー。うんうん。コーヒーも平仮名にすると、ぶらっくこーひー。あ、ダサくないですか?」

目を閉じ、想像し終えた彼女は満足げに笑った。

笑うと少し、綾姉に似ているな。

「くろまめ、でもいいかもしれません」

「それは最早コーヒーかどうか分からないよ」

「確かに‥。私が頼んだカプチーノは、平仮名表記にすると‥かぷちーの。あぁ、可愛くなりました」

「素敵な妄想力を持ってるね」

「カンジョーくんには負けます」

「どういう意味かな?」

「綾姉と‥」

楽しそうだねぇ。とマスターがコーヒーとカプチーノ、そしてサンドイッチを持ってきてくれた。

「これはサービスね。みっちゃんが初めてお友達を連れてきてくれたから」

「友達ではありません。‥初対面です」

「へぇ。でも、友達ってさ、定義が無いじゃない。そこまで楽しそうに話していると、僕には仲の良い友達に見えるけどな」

ごゆっくり、と爽やかにマスターは去っていく。

「さぁ、本題に入りましょう」

「いやまてまて。綾姉、の続きは」

「取るに足らないことです。そんな事はさておき、飲み物も来たので本題に」

「君、友達いないだろ」

「カンジョーくんには負けますよ」

はい、本日二度目。日本語は不思議だ。あなたには勝てません、という言葉も、少し前提が変わるとここまで不快に変わるとは。

「まぁいいや。それで?相談って何」

カプチーノの一口含んだ日高さんは、少し苦い表情をした。
ざまーみろ。背伸びした結果だ。

俺もブラックコーヒーを一口含む。

うん‥苦い。

「カンジョーくん。一つ提案があります」

「なにかな」

「マスターから友達認定をされた事ですし、私たちはこれから友達ということでいいですか?」

「うーん。それはどうだろう。友達って俺にはよく分からないんだよね。それをする事で何かいいことが?」

「カンジョーくん。友達とは素晴らしいものです。その関係性は、自分を少し、楽にしてくれます」

「と、いうと?」

「友達とは、お互い見栄を張らずにすむ関係性です。その上位互換に、隠し事が何一つない親友、という関係性もあります」

「ほう。それでいくと、今、俺たちは前段階の初対面だが‥見栄を張らずにすむ友達という関係性にもなれるかもしれないと」

「そうです。私から歩み寄ります。マスター」

マスターは「はいはい」と笑顔でこちらに来た。

「このカプチーノは苦いです。甘くしてほしい」

「あははっ。ごめんね。意地悪してしまって。それで、君は?」

見透かされたように俺も、気恥ずかし気にこう言った。

「俺も、砂糖とミルク貰えますか?出来れば、二つ」

俺も優男と言われて見栄を張ってしまったのだ。

「これでお互い、見栄を張る事はなくなりました」

晴れて友達となったわけだ。
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