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夏休み初日ということもあってか、平日の朝早い時間にも関わらず店内は中々の賑わいを見せていた。

「一番奥の席が私のおすすめです」とそう言って一番奥の席へと歩いていく。

奥のテープには『ご予約あり』との札が中央に置いてあった。

わざわざ予約していたのか。

「いらっしゃい。おや、みっちゃん。彼氏かい?」

奥からハンサムな男性がメニュー表を持って現れる。
髪はセミロングで中央で分けている。
年は分からない。二十代でも通用する若々しさがあった。

「おはようございます、マスター。そう見えますか?」

マスターと呼ばれた男性は腕を組み「うーん。いや、見えないね」と笑った。

何故かホッとする日高さん。
多分この子は自身の服装で笑われている事に気づいていないのだろうな。

「注文はいつものでいいよね?」

「いいえ。今日はカプチーノで」

「‥へぇ。分かった。そこの優男くんはどうする?」

「え、あ、俺?」

優男なんて、言われた事がなくて戸惑う。
ふっとニヤける日高さんは視界から排除し、俺は店長からもらったメニュー表を見る。

「じゃあ、コーヒーを」

「コーヒーね?砂糖とミルクは?」

「あ、ブラックで」

「大人だねぇ。ちょっと待っててね」

メニュー表を受け取ったマスターはそのままカウンターへ戻った。

「カンジョーくん。大人なんですか?」

「それはどういう意図を込めた質問かな?日高さん」

「いえいえ。ただ、ブラックって響きに男の子は憧れると聞いたので。見栄を張ったのかなと」

「ははっ。俺は見栄を張る相手を間違えないよ」

「そうなんですね。また一つカンジョーくんのことを知れました」

表情を変えずに俺の目を見て話す日高さん。何だろう。彼女とは初対面なのに、俺はこの子が苦手だ。
その理由は見当がつく。多分、恐らくだけど、彼女は俺の事が嫌いだ。

「ブラックコーヒーって‥」

「まだその話題続くの⁈もう本題に入らない?

「いえいえ、コーヒーと、あ、ごめんなさい。コーヒーとカプチーノが来るまで少し待ってください。私、緊張すると喉が渇くんです」

君のカプチーノも大分背伸びをしてそうだけどね。

「ブラックコーヒーって何で格好良く聞こえるのかについて考えませんか?」

「別に俺はブラックコーヒーを飲める=格好良いとは思ってないよ」

「そうなんですね。でも少し分かる気がしませんか?」

「まぁ、多少はね」

「これをダサく出来ないですかね」

「なんでそんなことをしなくちゃいけないのかな?」

「ダサくなっても飲めるかどうかの実験です」

それは飲めるだろう。何がしたいんだこの子は。
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