『ことばたちのストライキ』

小乃 夜

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トゲトゲと小さな言葉たち

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(※表紙:タケルくんが、口から「バカ!」というトゲトゲした文字を飛ばしている。隅っこでひらがなの「あ」や「お」が泣いている)



(P.1-2)
 タケルくんは、げんきな おとこのこ。
 でも、くちから でてくる ことばは、いつも トゲトゲ イガイガ。
「おかあさん、ごはん! はやく!」
(お母さんに、命令するように叫ぶタケルくん)
「うるさい! あっちいけ!」
(※友達を押しのけるタケルくん。飛ばされた「あっちいけ」の文字が、友達に刺さっている)



(P.3-4)
 タケルくんが そういうたびに、
 おへやの すみっこで、
 ちいさな ちいさな「ことば」たちが、シクシク ないていました。
「おはよう」も、「ありがとう」も、「ごめんね」も。
 みんな、タケルくんの トゲトゲことばが こわくて、
 まっくろに よごれて、ふるえていました。
(※部屋の隅の暗がりに、小さなひらがなの姿をした「ことば」たちが、傷だらけになって泣いている)



(P.5-6)
 つぎのひの あさ。
 タケルくんは、ベッドから とびだして、びっくり。
 しーん……。
(※がらんとしたタケルくんの部屋。壁に貼ってある「あいうえお表」の文字が、全部消えている)
 まちじゅうが、おとを なくしていました。
 いえも、くるまも、いぬも、ねこも、
 みんな くちを パクパク させるだけ。
「おかあさん?」
 タケルくんが よんでも、こえが でません。
(※テレビも、スマホも、まっしろな画面。音も文字もない)



(P.7-8)
「ことば」が、ぜんぶ いなくなって しまったのです。
 タケルくんは、おなかが すきました。
 でも、「おなかすいた」が いえません。
 おなかを ポンポン たたいてみます。
 おかあさんは、かなしそうな かおで くびを ふりました。
(※タケルくんがお腹を叩くのを見て、お母さんが「おなかが痛いの?」と心配しているが、声が出ない)



(P.9-10)
 タケルくんは、こうえんへ はしりました。
 ともだちが ブランコに のっています。
(ねえ、あそぼう!)
 タケルくんは、ともだちの うでを ぐいっと ひっぱりました。
 ともだちは、びっくりして、おこった かおで プイッ!
(※言葉が使えないので、乱暴に腕を引っ張ってしまい、友達が怒ってどこかへ行ってしまう)
 ひとりぼっちに なった タケルくん。
 いいたいことが つたわらないって、こんなに さみしいんだ……。
(※公園の真ん中で、うつむいて立ち尽くすタケルくん)



(P.11-12)
 そのとき。
 すべりだいの かげから、ちいさな なきごえが きこえました。
 シクシク……
 エーンエーン……
(※泣き声がする方へ、こわごわと近づくタケルくん)



(P.13-14)
 そっと のぞいてみると……
 そこには、タケルくんの しっている「ことば」たちが、
 みんなで かたまって ないていました。
(「あ」「い」「う」「え」「お」…「ありがとう」「おはよう」「だいすき」…たくさんの文字が、真っ黒に汚れて、ボロボロになって泣いている)



(P.15-16)
 いちばん よごれた「バカ」が、タケルくんを にらみつけました。
「もう キミの ところには いかないぞ!」
「ぼくたち、キミに つかわれると、とっても いたいんだ!」
「『ありがとう』も『おはよう』も、トゲトゲが こわくて、もう でてこられなく なったんだ!」
(「バカ」や「うるさい」といった乱暴な言葉たちが、先頭に立ってタケルくんを責めている。後ろで優しい言葉たちが怯えている)



(P.17-18)
 タケルくんは、むねが ギュッと いたくなりました。
(ごめんなさい……)
 こえは でません。
 だから、タケルくんは、
 ちが でるくらい くちびるを かんで、
 いっしょうけんめい、あたまを さげました。
(※タケルくんが、言葉たちに向かって、深く深くお辞儀をしている。目から涙がこぼれている)



(P.19-20)
 ポタッ。
 タケルくんの なみだが、じめんにおちたとき。
 てのひらの なかに、なにかが ポンッ と もどってきました。
 ちいさな、ちいさな、
「ご」と、「め」と、「ん」と、「ね」。
(※タケルくんの手のひらに、「ごめんね」の四文字が、きれいに光って戻ってくる)



(P.21-22)
「……ごめんね」
 タケルくんが ちいさな こえで いうと、
「ことば」たちは いっせいに かおを あげました。
「ごめんね」の まわりが、フワッと あかるくなります。
 すると、「ありがとう」が たちあがり、
「おはよう」が わらいだし、
「だいすき」が タケルくんの ほっぺに とびつきました。
(※タケルくんの周りを、きれいになった「ことば」たちが、キラキラと飛び交い始める)



(P.23-24)
「おかあさん、ただいま! それから、ごめんなさい!」
「あら タケル。おかえりなさい!」
 タケルくんの こえは、
 おかあさんの こえは、
 なんて あたたかいんだろう。
(※家に帰り、お母さんに抱きつくタケルくん。二人の周りを「ありがとう」や「だいすき」の言葉が優しく飛んでいる)



(P.25-26)
(※裏表紙)
 つぎのひの こうえん。
「いっしょに あそぼう!」
「いいよ!」
「ありがとう!」
 タケルくんの まわりには、
 キラキラ かがやく ことばたちが、
 ニコニコ わらって とんでいました。
(※友達と笑顔で遊ぶタケルくん。彼らの周りを、カラフルで丸い、優しい「ことば」たちが楽しそうに飛び回っている)



(おわり)
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