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「勝利の女神の塔」編
5.異邦人 vs 捕食者Ⅱ
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自分の戦いを終えた俺は、まずヴィエイラに目をやってみる。
「いぃぃやっはぁー!」
「ぬうん⁉︎」
丁度、ヴィエイラの斧をジェンナーロがギリギリで受け止めたところだった。この感じだと、こちらは全く問題なさそうだ。
そもそも、ヴィエイラは成長著しい若手冒険者のトップの一人で、この塔での戦いを見てきた限り、限りなくA級に近い実力を持っていた。
対するジェンナーロは、かつては世界一のパーティメンバーの一人だったが、今やロートルの域に踏み込みつつある年齢。ヴィエイラの相手はちょっと無理だろうな。バトルマニアのヴィエイラは自分の戦いに手を出されたくないだろうし、放っておこう。
「ふっ! はっ! ええい、ちょこまかと!」
「……チェストぉぉぉ!」
続いてホンダを見てみると、これまで無事冷静に立ち回っていたようで、マルコに疲れが出たと見るや否や、気合い一閃。見事に袈裟懸けの一撃を決めた。
ホンダ自身にも疲れといくらかの傷が見えるものの、これでもう勝ちは揺るがない。客観的な実力差から見て、俺達の中で一番の大金星だな。
となると、残るはアメリアだが……
「い、い、イクぜぇぇ⁉︎」
「く、来るなぁ! このケダモノめ!」
弓使いの彼女は、間合いを取れさえすれば槍使い相手に負けるわけがないのだが、生憎とここは建築物の中。逃げ場は限られており、抜群のスピードを誇るマリオに追い詰められつつあった。
結構危ないところだったな。ヴィエイラは自分の戦いに夢中で、ホンダは助けに行く余裕がない。
依頼主に欠けられては困るので、俺はアメリアに再度魔術をかけてやる。
「こっちに来い、『転移』」
魔術が届くと、アメリアの体が瞬時に俺の隣にまで移動してくる。あと一歩で届く寸前で槍を躱されたマリオは、キョロキョロと辺りを見回すとすぐこちらに気付いて、何が起こったのか理解したらしい。
「そ、そ、そいつは俺の獲物だ! か、返せ!」
「ダメだ、代わりにこいつを受け取れ。『稲妻』」
俺の指先から、マリオに向けて赤い光が走る。が、マリオはなんとそれを槍で弾いて無効化した。
「あの槍、何か魔法がかかってるな」
「そうだ、私の矢も全て弾かれてしまった。おそらくは『呪禁』あたりだろう」
魔術は魔法に勝てない。魔法とはいわばこの世界に定められた法で、魔術などそれを人が利用できるようにした術にすぎないからだ。
「じゃあ、作戦は決まったな。まずはあの槍をあいつから引き離す。それで魔術を食らわせられるようになったら、もう終わりだ」
「では、それをどうやる? 私は今回は弓以外持ってきていないし、あいつの槍の腕は相当なものだ。お前がやれるのか?」
俺は肩をすくめて応える。
「やってみるさ。こいつを借りてな」
そう言って俺が指差したのは、先ほど倒したカリムの腕に巻かれたセスタスだ。使った経験はないにせよ、素手であの槍の相手をするよりかは楽になるだろう。
結構しっかり止め紐が巻かれていて外すのに難儀したが、これで拳と腕を多少金属が覆ったので、盾代わりにできる。
「つ、次は、お、お、お前が相手か。カ、カリムの武器を勝手につ、使って、ず、ず、ズルい奴だ」
「いきなり槍を投げつけてきたお前に、ズルいと言われたくはないな。それより、待っててくれたのか? 悪いな。もう一つ悪いが、大人しく倒されてくれ」
「そ、そんなことして俺になんの得がある? へ、へ、変なことを言う奴だ。く、くたばれ!」
俺はいきなり顔面に向けて突き出されてきた穂先を弾き、懐に入ろうとする。が、槍は素早く引き戻されて、再び突き出される。
確かに大した腕だ。会話した限りではかなり知能の低そうなマリオが、こんなに合理的な槍術を修めているとは信じがたい。つくづく、才能ってのは罪なもんだ。
しばらくこっちが防戦一方で躱し続ける羽目になったが、マリオの体力はまるで落ちない。もしかすると、向こうのパーティの中で、こいつが一番素質に恵まれていたのかもしれないな。
「お、お前、なかなか、やる、な!」
「そっちこそ、大したもんだ。だがーーここまでだ!」
マリオの腕自体は厄介なものの、こっちは槍を手放させればそれでいい。俺はこいつが俺と俺のセスタスに集中しきっているのを確信し、仕掛ける。
「アメリア、今だ! あれをやれ!」
アメリアは今、丁度マリオの背後に位置取っていた。だがマリオも野生の反射神経で反応し、俺から距離をとってアメリアの方に向き直る。
「あ、あれとはなんだ⁉︎」
しかし、当のアメリアは何もせず、疑問を顔に浮かべているーーそう、それでいい。
マリオもアメリアの態度に戸惑い、一瞬だけ固まる。
そして、嘘の合図を発した直後に動いていた俺は、この隙にマリオのすぐそばまで接近していた。これで、俺の間合いだ。
「だ、騙したな! この……」
ふたたびこちらに振り向きざまに、マリオは石突きで俺の胸を狙った。が、これだけ直線的かつ単発の動きなら、苦もなく避けられる。
「お前も言っただろ、俺はズルいんだっ、よっ!」
マリオの背中に前蹴りをかましてバランスを崩させ、同時に突き出された槍を掴み、捻り上げて奪い取る。マリオはその拍子に倒れこんでしまった。
「よし、よくやった! これで奴は何もーー」
「……いや、こいつは……?」
褒めてくれたアメリアには悪いが、この手に持ってみて分かった。この槍は業物ではあるものの、特別な力はない。ということは、魔術を弾いたのはマリオ自身の力だったのか?
「か、か、返せ……そ、その槍を、返せ!」
いや、起き上がってきたマリオには、妙に焦りが見える。仮にマリオ本人に魔術を弾く力があったとするなら、この態度は不可思議だ。
「ま、試せばいいか」
もしかすると赤魔術への耐性があっただけなのかもしれないので、今度は青魔術の「水霊波」を放ってみる。
「うごばっ!」
果たして、魔術による水流はマリオを呑み込み、壁に激突させる。奴は水圧のダメージに耐えきれず、そのまま気絶したようだ。
ははーん、分かったぞ。槍に特別な力があるわけではなかったが、かといってマリオ自身の力でもない、と。つまり、この槍とマリオが一緒にある時にだけ発生する特殊能力であるわけだ。
まあ、そういう魔法と思えば納得もいく。マリオ自身も理屈はともかくその事実は分かっていて、槍に固執したのだろう。
となると、最初に槍を投げつけてきたのはなんだったのか。おそらくは……単に頭が足りなかったのでは? 今となってはどうでもいいか。
振り返って見てみると、ヴィエイラもホンダもなんとか相手を戦闘不能に陥らせ、勝利を収めていた。幸いどちらも大怪我はしていないようで、白魔術で軽く回復してやれば元通りのコンディションとなった。
「さあ、もう少しこいつらから事情でも聞いてみるか? 全員息はあるんだろう?」
ヴィエイラの提案に、アメリアが強く頷く。
「当たり前だ。この私に槍を向けたのだ。絶対に落とし前をつけさせてやるぞ」
もう少しでマリオにやられそうになっていたくせに、この強気な態度。ここまでくると一周回って感心してしまう。
「となると、一番話が分かりそうなのは、カリムかな。こいつ、俺と同じクランなんだぜ。普段全然仲良くなかったけど」
ヴィエイラはそう言うと、気絶しているカリムに水を浴びせて強引に叩き起こした。それ以外の三人は縄で縛り、まとめて転がしておく。
さあ、こいつからどんな話が出てくるのか。聞いてやるとするか。
「いぃぃやっはぁー!」
「ぬうん⁉︎」
丁度、ヴィエイラの斧をジェンナーロがギリギリで受け止めたところだった。この感じだと、こちらは全く問題なさそうだ。
そもそも、ヴィエイラは成長著しい若手冒険者のトップの一人で、この塔での戦いを見てきた限り、限りなくA級に近い実力を持っていた。
対するジェンナーロは、かつては世界一のパーティメンバーの一人だったが、今やロートルの域に踏み込みつつある年齢。ヴィエイラの相手はちょっと無理だろうな。バトルマニアのヴィエイラは自分の戦いに手を出されたくないだろうし、放っておこう。
「ふっ! はっ! ええい、ちょこまかと!」
「……チェストぉぉぉ!」
続いてホンダを見てみると、これまで無事冷静に立ち回っていたようで、マルコに疲れが出たと見るや否や、気合い一閃。見事に袈裟懸けの一撃を決めた。
ホンダ自身にも疲れといくらかの傷が見えるものの、これでもう勝ちは揺るがない。客観的な実力差から見て、俺達の中で一番の大金星だな。
となると、残るはアメリアだが……
「い、い、イクぜぇぇ⁉︎」
「く、来るなぁ! このケダモノめ!」
弓使いの彼女は、間合いを取れさえすれば槍使い相手に負けるわけがないのだが、生憎とここは建築物の中。逃げ場は限られており、抜群のスピードを誇るマリオに追い詰められつつあった。
結構危ないところだったな。ヴィエイラは自分の戦いに夢中で、ホンダは助けに行く余裕がない。
依頼主に欠けられては困るので、俺はアメリアに再度魔術をかけてやる。
「こっちに来い、『転移』」
魔術が届くと、アメリアの体が瞬時に俺の隣にまで移動してくる。あと一歩で届く寸前で槍を躱されたマリオは、キョロキョロと辺りを見回すとすぐこちらに気付いて、何が起こったのか理解したらしい。
「そ、そ、そいつは俺の獲物だ! か、返せ!」
「ダメだ、代わりにこいつを受け取れ。『稲妻』」
俺の指先から、マリオに向けて赤い光が走る。が、マリオはなんとそれを槍で弾いて無効化した。
「あの槍、何か魔法がかかってるな」
「そうだ、私の矢も全て弾かれてしまった。おそらくは『呪禁』あたりだろう」
魔術は魔法に勝てない。魔法とはいわばこの世界に定められた法で、魔術などそれを人が利用できるようにした術にすぎないからだ。
「じゃあ、作戦は決まったな。まずはあの槍をあいつから引き離す。それで魔術を食らわせられるようになったら、もう終わりだ」
「では、それをどうやる? 私は今回は弓以外持ってきていないし、あいつの槍の腕は相当なものだ。お前がやれるのか?」
俺は肩をすくめて応える。
「やってみるさ。こいつを借りてな」
そう言って俺が指差したのは、先ほど倒したカリムの腕に巻かれたセスタスだ。使った経験はないにせよ、素手であの槍の相手をするよりかは楽になるだろう。
結構しっかり止め紐が巻かれていて外すのに難儀したが、これで拳と腕を多少金属が覆ったので、盾代わりにできる。
「つ、次は、お、お、お前が相手か。カ、カリムの武器を勝手につ、使って、ず、ず、ズルい奴だ」
「いきなり槍を投げつけてきたお前に、ズルいと言われたくはないな。それより、待っててくれたのか? 悪いな。もう一つ悪いが、大人しく倒されてくれ」
「そ、そんなことして俺になんの得がある? へ、へ、変なことを言う奴だ。く、くたばれ!」
俺はいきなり顔面に向けて突き出されてきた穂先を弾き、懐に入ろうとする。が、槍は素早く引き戻されて、再び突き出される。
確かに大した腕だ。会話した限りではかなり知能の低そうなマリオが、こんなに合理的な槍術を修めているとは信じがたい。つくづく、才能ってのは罪なもんだ。
しばらくこっちが防戦一方で躱し続ける羽目になったが、マリオの体力はまるで落ちない。もしかすると、向こうのパーティの中で、こいつが一番素質に恵まれていたのかもしれないな。
「お、お前、なかなか、やる、な!」
「そっちこそ、大したもんだ。だがーーここまでだ!」
マリオの腕自体は厄介なものの、こっちは槍を手放させればそれでいい。俺はこいつが俺と俺のセスタスに集中しきっているのを確信し、仕掛ける。
「アメリア、今だ! あれをやれ!」
アメリアは今、丁度マリオの背後に位置取っていた。だがマリオも野生の反射神経で反応し、俺から距離をとってアメリアの方に向き直る。
「あ、あれとはなんだ⁉︎」
しかし、当のアメリアは何もせず、疑問を顔に浮かべているーーそう、それでいい。
マリオもアメリアの態度に戸惑い、一瞬だけ固まる。
そして、嘘の合図を発した直後に動いていた俺は、この隙にマリオのすぐそばまで接近していた。これで、俺の間合いだ。
「だ、騙したな! この……」
ふたたびこちらに振り向きざまに、マリオは石突きで俺の胸を狙った。が、これだけ直線的かつ単発の動きなら、苦もなく避けられる。
「お前も言っただろ、俺はズルいんだっ、よっ!」
マリオの背中に前蹴りをかましてバランスを崩させ、同時に突き出された槍を掴み、捻り上げて奪い取る。マリオはその拍子に倒れこんでしまった。
「よし、よくやった! これで奴は何もーー」
「……いや、こいつは……?」
褒めてくれたアメリアには悪いが、この手に持ってみて分かった。この槍は業物ではあるものの、特別な力はない。ということは、魔術を弾いたのはマリオ自身の力だったのか?
「か、か、返せ……そ、その槍を、返せ!」
いや、起き上がってきたマリオには、妙に焦りが見える。仮にマリオ本人に魔術を弾く力があったとするなら、この態度は不可思議だ。
「ま、試せばいいか」
もしかすると赤魔術への耐性があっただけなのかもしれないので、今度は青魔術の「水霊波」を放ってみる。
「うごばっ!」
果たして、魔術による水流はマリオを呑み込み、壁に激突させる。奴は水圧のダメージに耐えきれず、そのまま気絶したようだ。
ははーん、分かったぞ。槍に特別な力があるわけではなかったが、かといってマリオ自身の力でもない、と。つまり、この槍とマリオが一緒にある時にだけ発生する特殊能力であるわけだ。
まあ、そういう魔法と思えば納得もいく。マリオ自身も理屈はともかくその事実は分かっていて、槍に固執したのだろう。
となると、最初に槍を投げつけてきたのはなんだったのか。おそらくは……単に頭が足りなかったのでは? 今となってはどうでもいいか。
振り返って見てみると、ヴィエイラもホンダもなんとか相手を戦闘不能に陥らせ、勝利を収めていた。幸いどちらも大怪我はしていないようで、白魔術で軽く回復してやれば元通りのコンディションとなった。
「さあ、もう少しこいつらから事情でも聞いてみるか? 全員息はあるんだろう?」
ヴィエイラの提案に、アメリアが強く頷く。
「当たり前だ。この私に槍を向けたのだ。絶対に落とし前をつけさせてやるぞ」
もう少しでマリオにやられそうになっていたくせに、この強気な態度。ここまでくると一周回って感心してしまう。
「となると、一番話が分かりそうなのは、カリムかな。こいつ、俺と同じクランなんだぜ。普段全然仲良くなかったけど」
ヴィエイラはそう言うと、気絶しているカリムに水を浴びせて強引に叩き起こした。それ以外の三人は縄で縛り、まとめて転がしておく。
さあ、こいつからどんな話が出てくるのか。聞いてやるとするか。
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