閃き輝く異世界無敵語り/行きて帰りたい物語

横山剛衛門

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「勝利の女神の塔」編

7.最高の二人

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「紹介しよう、彼女はホマレ。私達は、以前ある迷宮で攻略を競い合った仲なのだ。その時は私が先んじることができたが、本当にギリギリのところだった。今思い出しても、あんな心踊る冒険はーーそうはないものだ」

「皆さんはじめまして、ホマレと申します。私はホンダさんと同じ獣人でして、剣と盾をメインで使います。いつもはヴィエイラと一緒で前衛役なのですが、今は仲間とはぐれてしまって……ここまで一人で来たんです」

「そのくらいの実力があるのだ、ホマレには。それに、私に匹敵するリーダーシップもある。彼女が率いるパーティは鉄の意志を持つ、と有名なのだぞ」

 ようやく二人だけの世界から帰ってきたアメリアとホマレが、交互に説明してくれる。
 ホマレは普段、アメリアの祖国であるユーエスエイ帝国にて活動しているそうで、今回はこの塔の攻略のために、はるばるここイーユウ連邦までやってきたらしい。
 道理で、俺は見たことがない顔のわけだ。ホンダは彼女と出身国が同じだが、やはり会ったことはなく、ヴィエイラも初対面だった。

「ここまで本当に大変だったよ。やっぱり引き返せばよかったかな……」

「いやいや、たった一人でここまで辿り着くとは、さすがホマレだな。しかしこの先はより難度が増すだろうし、いっそ我々のパーティに参加してはどうだ? もちろん、途中で元の仲間と出会えたなら、そこで別れればいい」

 アメリアの提案に、ホマレはパッと顔を輝かせる。

「え……いいの? でも、他の皆さんの意見も聞かないと……」

「俺は構わないぜ。けど、俺達より先行しているパーティがいる様子はないし、別にそのまま最後まで一緒でもいいんじゃないか?」

「……拙者も構わん」

「それだと、構成はどうする? 四人と五人じゃまるで勝手が違うだろ」

 誰も反対はしないものの、実際問題としてこれからの戦い方を考え直さなくてはならないことになる。俺はそこを懸念して聞いてみたのだがーー

「前衛は一人でいいだろう、ホマレにはホンダと共に遊撃手を務めてもらえばいいのではないか」

「はい、それでよければ、任せてください!」

 と、方針は案外あっさりと決まった。こいつらくらいの手練れならば、対応力も並ではないからな。いらぬ心配だったか。
 ホマレも休憩は不要だそうなので、とりあえずそういうことで、次の階に進んでいくことにしたのだった。

 ***

 率直に言って、ホマレの実力は、アメリアが語った以上のものだった。
 魔物との戦いになった際、ヴィエイラが敵の第一波を押し留めた次の瞬間には既に攻撃を繰り出しているし、しかもそれがしょっちゅう致命的なダメージとなる。
 かといって手柄を焦るわけではなく、彼女より素早さで劣るホンダが斬り込みやすいように、わざと盾で敵の攻撃を受け止めて囮を引き受けることもある。
 また、状況判断が的確で、アメリアに遠慮しながらも時折、流れを絶妙に見極めた指示を出す。これでまだB級だそうだが、リーダーとしてはまず間違いなく超一流だ。
 いよいよ俺の出番がなくなってありがたい限りな上、そんなホマレの活躍にご満悦なのか、なんとアメリアから俺に対する叱責はすっかりなくなっていた。
 
「この調子だと、五階の探索はあっという間に終わりそうだな。ホンダが探してる槍をさっさと見つけて、早く六階に行こうぜ。俺の興味はもうここの迷宮の主ダンジョンボスだけだ」

 五階に出没する魔物は、強い魔力を持つ魔女や悪魔など、四階に輪をかけて危険な力を持つ種族ばかりだった。が、そんなホマレの参戦により、ヴィエイラはむしろ退屈になってしまったようだ。
 そうして順調に進み続けた俺達は、やがて大きな扉の前に立った。施された派手な装飾は、この部屋が持つ意味の大きさを示している。

「絶対ここだろ! ここになきゃどこにあるんだってくらい、怪しいぜ」

 ヴィエイラのはしゃいだ声に、ホンダが目を鋭くする。自分ではなく友のために、大きな危険を冒してまでここに辿り着いたこいつには、色々と思うところもあるだろう。

「……いざ」

 いつも通り少ない口数の中に、張り詰めた感情を匂わせるホンダに続き、全員が部屋の中に入る。
 重い扉の向こうに広がっていたのは果たして、幾多の財宝がひしめく光景だった。
 金貨や銀貨の詰まった宝箱に、神鎧魔剣と思しき武具の類、いかにも神秘の効果がありそうな秘薬の詰まった瓶などが、所狭しと置かれている。

「おお……なんと美しきことか……」

 思わずといった感じで、アメリアが呟く。
 稀に迷宮で見つかるこうした宝物庫は、大抵が攻略直前の場所にあり、いわば苦労を乗り越えてきた冒険者へのご褒美みたいなものだ。
 残念ながら、これらの宝は魔術で保護されていて、部屋から持ち出せる物は一人ひとつまでとなっていることが多い。

「『試練に耐えし汝に報いるは、無限の栄誉とただ一つの贈り物也』ってあそこに書いてあるな。ちぇっ、ケチな話だぜ」

 ここにある宝は、どれも売れば十年は遊んで暮らせる価値があるのだが、ヴィエイラにとってはそんなに大したものではないらしい。
 それはさておき、俺は部屋全体を見渡して、俺の中で「閃き」が灯るか待った。こういう時にも、あらゆる問いに答えをくれる俺のスキルは役に立つのだ。
 が、しばらくしても何も起こらない。どうやら、ここに俺が求めるものはないようだ。ならば、持っていくのはなんであろうが変わらない。
 その辺に転がっていた剣を適当にひと振り拾って俺の取り分とし、他の四人の様子を見てみる。
 奥の方にいたホンダの前には、一本の槍があった。目的のものが見つかったのだろう。顔は見えないが、後ろ姿にも喜びが溢れている。

「おい、なんかいいのあったか……? ああ、あいつの槍は見つかったんだな。おいホンダ、よかったな! それ持ってもう帰るのか?」

 ヴィエイラが大声で呼びかけると、ホンダは振り返って槍を掲げてみせる。
 それからこっちに近づいてきて、ニヤリと笑って言った。

「そんな不義理な真似はせん。最後まで付き合うとも……お主達のおかげでここまで来られた、礼を言う」

 それを聞いた俺とヴィエイラは顔を見合わせ、続いて二人揃って爆笑した。

「ホ、ホンダがこんなに流暢に話すのを聞くのは初めてだぜ! おい、もっかい言ってみろよ、言えって!」

 また憮然とした顔になったホンダの肩を叩きながら、ヴィエイラはしつこくそんなことを言い続けた。

 ***

 ヴィエイラの笑いの発作がやっと治まった頃、アメリアとホマレも自分が持ち帰る分を決めたらしく、合流してきた。

「見よ、これが名にし負う赤牛の霊薬だ……なかなかの品ではないか。しかし、私の真の目的はただ一つ、塔の頂上にあるという黄金の聖杯のみ。皆、この部屋での用は済んだのだな?」

 アメリアの確認に、四人とも頷いて応える。

「では行くぞ。いよいよ、最後の決戦だ……」

 決意を新たにした俺達は、この部屋を後にすべく、閉まっていた扉を開いて外に出ようとしたーーその時。
 外向きに押し開いたはずの扉が、抗いがたい勢いで閉じていき、俺達は部屋の中に取り残された。

「何が起きた! なぜ扉が閉まるのだ⁉︎」

 この手の宝物庫にこんな罠があった話など、聞いたことがない。誰もが同じだったらしく、見合わせた顔に戸惑いの表情を浮かべている。

ーーグオオオォォォ

 そして、俺達の後ろ、部屋の奥の方から、深く重い息づかいの音が聞こえてきた。
 ここに至って、俺はようやく理解した。これは罠ではなく、掟を破った罰なのだと。

「誰か、宝を二つ持って行こうとしたな?」

「ッ⁉︎ バカな、まさかそんな愚か者がいるとは! 誰だ! 正直に言え!」

 アメリアの追及に誰かが答える前に、ズシン、ズシン、とありえないほどの重量を思わせる足音が聞こえてくる。
 先ほどの息吹といい、この足音といい、間違いないーー財宝の守護者は、ドラゴンと相場が決まっている。

「犯人探しは後だ。絶対に生き残るぞ」

 俺は先ほど拾った剣を抜き放ち、迫り来る巨大なの影の方に向かって突きつけた。
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