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「勝利の女神の塔」編
8.財宝の守護者達
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いくらこの部屋が広いとはいえ、こんなデカい化け物がいたら気付かないはずがない。しかし、現実にどこからともなく現れた二匹のドラゴンは、口から赤い光をチラチラこぼしながら、鼻で大きく息を吸った。
同時に、膨大な魔力がその身に溜まっていくのが伝わってくる。
「ヴィエイラ、炎の息吹が来るぞ! 防げるか?」
「任せとけ!」
パーティの先頭に躍り出たヴィエイラは、斧を背負うような構えをとり、大振りした際の風圧で炎を吹き飛ばす態勢に入る。
「ヴィエイラが初撃を防いだら、ホンダとホマレが一匹ずつ当たってくれーーホマレ? どこだ、ホマレ!」
声をかけていて気付いた。見れば、この場には四人しかいない。まさか……?
「ホマレ? 変だぞ、さっきまでそこにいたはずなのに……?」
アメリアも戸惑いを隠せないでいる。マズい、こんな混乱した状況のまま戦闘に入ったら、予期せぬミスが出てしまう。
「一旦ホマレのことは忘れろ、また四人体制で行くしかない。一匹は俺が引き受ける」
宝物庫の守護者は、その迷宮に出没する魔物及び迷宮自体の難易度とは無関係に、一定の強大さを与えられている。本来は、冒険者が勝つことなど絶望的なほどの……
「来るぞ!」
ヴィエイラが警告を発した直後、凄まじい熱の放射が襲いかかってきた。放たれた二筋の炎は、俺達に迫る途中で合わさり、より強大な破壊の化身となった。
「うおおおおお!!!」
それに負けじと、ヴィエイラが裂帛の気合と共に斧を振り回す。
「『巨体化』!」
俺の緑魔術で倍ほどの身の丈になったヴィエイラの斧が、ドラゴンの炎と激突する。
炎にはいったいどれほどの魔力が込められていたのか、大部分は防いだものの、いくらか受け損ねた分がヴィエイラの全身を包み込んだ。
すぐさま白魔術でダメージを軽減させるが、さすがのヴィエイラもすぐには動けそうにない。
「アメリアはヴィエイラを頼む、ホンダ、行くぞ!」
だが、攻めるには今が好機。ヴィエイラの好守をムダにすることのないよう、俺とホンダは一気にドラゴン達の懐へと飛び込む。
「チェストォォォーー!」
ホンダの大太刀が唸る。鱗と宝石で覆われた腹の、わずかに空いた隙間を狙った、乾坤一擲の切り上げだ。
しかし、ほんの小さな身動ぎによって急所を避けられてしまい、甲高い音と共にドラゴンが纏う天然の鎧を削るにとどまる。
そのドラゴンは、明らかにニヤリと凶悪に笑った。そして、長い爪の生えた前足を大きく振り上げる。
全力をかけて大太刀を振り切ったホンダに、それを避ける余裕はない。
「ッッッ!」
せめて刀で受けようと構えるが、ドラゴンの巨大な足がもたらす破壊の前では無意味だろう。
ホンダが覚悟を決めたであろうその瞬間ーードラゴンの体は大きく吹っ飛んでいた。
もう一匹を片付けた俺が、横合いから思いっきり蹴りつけたのだ。互いの体重差からすればありえないことのようだが、現にそうなっているのだから仕方ない。
「……⁉︎ この一瞬でドラゴンを一匹倒していただと? そんなことが……」
信じられないという表情のホンダに、俺は折れた剣を掲げて見せる。
「おかげで俺の分のボーナスはパーだがな。まあ、気にするな」
「それはさっきの……まさか、一度に限りどんな相手であれ葬れるという『時空の剣』だったのか? それくらいの魔宝でなければ、とてもあれほどのドラゴンを倒すことなどできまいが……」
「さあ、そうだったのかもな。もう折れちまったし、分からん。とにかく、あいつは別の手で片付ける必要がある。やるぞ」
俺にはまだ自前の剣があるが、これは訳あってここでは抜きたくない。また、このレベルの魔物だと、直接的な魔術は効かない可能性があり、最悪反射してくるかもしれない。使うなら、少なくとも特殊能力を確かめてからだ。
なので攻撃自体はホンダの大太刀に任せることにして、俺は魔術でのアシストに回ることにする。
とりあえず攻撃を強化する魔術「巨体化」と「永久の戦士」の重ねがけ状態で仕掛けてもらうが、ダメージこそ与えられるものの、まだ決め手に欠けるようだ。
渾身の一撃でドラゴンを吹き飛ばして距離が開いたところで、「巨体化」の効果が切れたホンダが一旦引いてきて、荒い息をつく。
「どうも、単にタフネスが高いのではなく、一定以下のダメージは通らないようだな」
「……うむ、某では役者不足の様子……面目ない」
相手を崩せない現実を見せつけられたことが疲れ以上にガックリきたようで、ホンダの顔色(というか毛色)が悪い。
ホンダにこれ以上打つ手はないようだ。冒険者なら切り札の一枚や二枚は隠し持つものだが、こいつは真面目すぎてそういう気配がない。
転ばされたドラゴンは、短い手足のせいでまだ起き上がるのに苦労しているとはいえ、そう時間は置かずまた襲ってくるだろう。
仕方ない……俺の出番か。
「分かった、俺がやる。だが、一つだけ条件がある。アメリアもいいか?」
「あ、ああ……」
ホンダはいぶかしみながらも頷き、アメリアは生返事ではあるものの、ちゃんと聞こえたようだ。
「これから見ることは、絶対に口外するな。それだけだ」
「……どういうことだ? 何をする気だ」
「いいから、約束は守れよ」
俺は納得のいかなそうなホンダから、ドラゴンに向き直る。
「こうなったのはこっちのせいなんだろうが、許せよ。俺がいたのが運の尽きと諦めてくれ」
鞘から抜いた俺の剣は、鈍い輝きを放っている。本当に大したことのない、正真正銘の駄剣だ。
それでも、この俺が持てば話は変わる。手をついてクラクチングスタートの構えを取り、剣は右の逆手で強く握り締める。
ついに起き上がったドラゴンが、ギラつく目でこちらを睨み、大きな雄叫びを浴びせかけようとしたその時。
思いきり右足で地面を蹴って走り出した俺は、二、三歩目で音を置き去りにする速度に達し、ドラゴンとの間にあった距離を瞬時に消滅させる。
振動によって対象を破壊するドラゴンの雄叫びーー音波は移動速度と相対的に周波数が変わるために威力を失い、俺はダメージをほぼ負うことなく、自分の間合いに到達していた。
「終わりだ」
最後の一歩を強く踏み込んで跳び上がった俺は、ドラゴンの額に向かって思い切り剣を振り下ろす。
ドラゴンにとっても額は確かに急所だが、そこは鱗と宝石と肉と骨によって厳重に守られている。しかし、それらの守りを、俺の駄剣は軽々と打ち破った。
これは、魔術でも奥義でもなんでもない。単に、極端なパワーとスピードが成し得た、純粋な物理現象だ。
反動で剣は粉々に砕け散るものの、すでに用は果たしている。剣と衝突した部分を中心に、ドラゴンの頭は完全に陥没していた。
振り返ると、アメリアとホンダ、それに息を吹き返したヴィエイラが、一様になんとも言い表せない表情でこちらを見ている。
俺はそれに軽く手を挙げて応え、ゆっくりとした足取りで三人の方に近づいていった。
***
「あの剣が凄かった……わけじゃないんだよな」
「……拙者の目には、間違いなく、無銘のなまくらと映った」
「では、あれはお前自身の腕が為したことなのか?」
ヴィエイラ達は三者三様に、それでいて同じことを俺に聞いてくる。
二匹のドラゴンを倒した直後、あの部屋は大きく揺れ出して、あっという間に崩れ去ってしまった。幸い扉は開いたので、四人とも慌てて脱出して事なきを得ている。
それから近くの安全地帯まで辿り着いて、そこで休憩を取るはずが……俺への質問責めが始まっていた。
「分かった分かった。うるさくて敵わんから少しは教えるが、絶対に他言するなよ」
そう言ってやると、三人は黙って聞く態勢に入る。
「まず、何度も言ったように、あれは別に大した剣じゃなかった。だから、あれは俺の腕かと言えば、確かにそうだ」
「ならば、なぜこれまでは積極的に戦闘に参加しなかった?」
これまでも何度か同じことを言われてきたこのアメリアの質問にも、今や俺を責める意図は感じられない。
「それは、上手く加減ができないからだ。一撃で使い物にならなくなるんじゃ、剣が何本あっても足りない」
これ以上は言わないが、なぜそれほどのパワーがあるかというと、俺の体には異世界版超人体質とでも呼ぶべき特性があるからだ。
その特性とは、おそらく、白兵戦において俺がある方法で攻撃すると、その攻撃方法に関しては次から倍の威力になる、というもの。
ゲーム的に言えば、レベルアップに必要な経験値が常に1しかないので戦闘後は必ずレベルが上がり、しかもその際のステータスの上昇率が以前の二倍という、異常な設定である。
傍目には良いことのように思えるだろうが、ここまで極端にパワーの最大値が上がると、調整がどんどん難しくなり、日常生活に支障をきたす。なので、俺はなるべく直接攻撃を避けるようにしていた。
「何本か持ってればまだマシなんじゃねえの?」
「重くてめんどくさい」
「……ならば徒手空拳の技を用いれば……」
「それも加減ができないし、殴るのはこっちも痛い」
これの本当の理由は、それもパワーが上がってしまうからだが。
「しかしその割には、ギルドで短略的に男を痛めつけていたではないか」
ん? アメリアが変なことを言った。なんであの出来事を知ってるんだ?
「見てたのか?」
「あっ……う、うむ。それが、どうした」
VIPルームで初対面のような顔をしていたくせに、こっそりこっちの様子を窺っていたとは。意外に小心者で、可愛いところもあるもんだな。
「あれは、以前にオノって獣人から教わった『柔』という技でな。相手の力をそのまま返す仕組みなんで、やられた分だけやり返すことになって、加減が楽なんだ。あくまで人間相手の技だがな」
「オノ? "柔"のオノ殿か? なんと……」
ホンダはあの猿の獣人を知っているらしい。確かに只者じゃなかったから、有名なのかもな。
「一本だけ持ってたのは、ボス相手に使うつもりだったからだが……こうなったからにはもう、出たとこ勝負だ」
そうして俺は話を終える。
それから、さすがに今日はここで野営をして、明日迷宮の主に挑むということで決まった。
「そうか、そういうことだったのか……くく、そうかそうか。おもしれえ……」
それにしても、この話の後から、ヴィエイラの俺に対する視線がなんだか変わった気がする。おかしなことにならなきゃいいが。
おかしなことと言えば、ホマレは結局消えたままだ。こうなると、あいつが掟を破って財宝の守護者を呼んだという疑いが消えない。
アメリアは、絶対にそんなことはない、何かの間違いだと言い張るが……ホマレを見つけるまでは、この問題は置いておくしかない。
長かったこの塔の攻略も、いよいよ明日で終わる。とっておきを失ったことがどう影響するのか……考えても仕方ないな。
同時に、膨大な魔力がその身に溜まっていくのが伝わってくる。
「ヴィエイラ、炎の息吹が来るぞ! 防げるか?」
「任せとけ!」
パーティの先頭に躍り出たヴィエイラは、斧を背負うような構えをとり、大振りした際の風圧で炎を吹き飛ばす態勢に入る。
「ヴィエイラが初撃を防いだら、ホンダとホマレが一匹ずつ当たってくれーーホマレ? どこだ、ホマレ!」
声をかけていて気付いた。見れば、この場には四人しかいない。まさか……?
「ホマレ? 変だぞ、さっきまでそこにいたはずなのに……?」
アメリアも戸惑いを隠せないでいる。マズい、こんな混乱した状況のまま戦闘に入ったら、予期せぬミスが出てしまう。
「一旦ホマレのことは忘れろ、また四人体制で行くしかない。一匹は俺が引き受ける」
宝物庫の守護者は、その迷宮に出没する魔物及び迷宮自体の難易度とは無関係に、一定の強大さを与えられている。本来は、冒険者が勝つことなど絶望的なほどの……
「来るぞ!」
ヴィエイラが警告を発した直後、凄まじい熱の放射が襲いかかってきた。放たれた二筋の炎は、俺達に迫る途中で合わさり、より強大な破壊の化身となった。
「うおおおおお!!!」
それに負けじと、ヴィエイラが裂帛の気合と共に斧を振り回す。
「『巨体化』!」
俺の緑魔術で倍ほどの身の丈になったヴィエイラの斧が、ドラゴンの炎と激突する。
炎にはいったいどれほどの魔力が込められていたのか、大部分は防いだものの、いくらか受け損ねた分がヴィエイラの全身を包み込んだ。
すぐさま白魔術でダメージを軽減させるが、さすがのヴィエイラもすぐには動けそうにない。
「アメリアはヴィエイラを頼む、ホンダ、行くぞ!」
だが、攻めるには今が好機。ヴィエイラの好守をムダにすることのないよう、俺とホンダは一気にドラゴン達の懐へと飛び込む。
「チェストォォォーー!」
ホンダの大太刀が唸る。鱗と宝石で覆われた腹の、わずかに空いた隙間を狙った、乾坤一擲の切り上げだ。
しかし、ほんの小さな身動ぎによって急所を避けられてしまい、甲高い音と共にドラゴンが纏う天然の鎧を削るにとどまる。
そのドラゴンは、明らかにニヤリと凶悪に笑った。そして、長い爪の生えた前足を大きく振り上げる。
全力をかけて大太刀を振り切ったホンダに、それを避ける余裕はない。
「ッッッ!」
せめて刀で受けようと構えるが、ドラゴンの巨大な足がもたらす破壊の前では無意味だろう。
ホンダが覚悟を決めたであろうその瞬間ーードラゴンの体は大きく吹っ飛んでいた。
もう一匹を片付けた俺が、横合いから思いっきり蹴りつけたのだ。互いの体重差からすればありえないことのようだが、現にそうなっているのだから仕方ない。
「……⁉︎ この一瞬でドラゴンを一匹倒していただと? そんなことが……」
信じられないという表情のホンダに、俺は折れた剣を掲げて見せる。
「おかげで俺の分のボーナスはパーだがな。まあ、気にするな」
「それはさっきの……まさか、一度に限りどんな相手であれ葬れるという『時空の剣』だったのか? それくらいの魔宝でなければ、とてもあれほどのドラゴンを倒すことなどできまいが……」
「さあ、そうだったのかもな。もう折れちまったし、分からん。とにかく、あいつは別の手で片付ける必要がある。やるぞ」
俺にはまだ自前の剣があるが、これは訳あってここでは抜きたくない。また、このレベルの魔物だと、直接的な魔術は効かない可能性があり、最悪反射してくるかもしれない。使うなら、少なくとも特殊能力を確かめてからだ。
なので攻撃自体はホンダの大太刀に任せることにして、俺は魔術でのアシストに回ることにする。
とりあえず攻撃を強化する魔術「巨体化」と「永久の戦士」の重ねがけ状態で仕掛けてもらうが、ダメージこそ与えられるものの、まだ決め手に欠けるようだ。
渾身の一撃でドラゴンを吹き飛ばして距離が開いたところで、「巨体化」の効果が切れたホンダが一旦引いてきて、荒い息をつく。
「どうも、単にタフネスが高いのではなく、一定以下のダメージは通らないようだな」
「……うむ、某では役者不足の様子……面目ない」
相手を崩せない現実を見せつけられたことが疲れ以上にガックリきたようで、ホンダの顔色(というか毛色)が悪い。
ホンダにこれ以上打つ手はないようだ。冒険者なら切り札の一枚や二枚は隠し持つものだが、こいつは真面目すぎてそういう気配がない。
転ばされたドラゴンは、短い手足のせいでまだ起き上がるのに苦労しているとはいえ、そう時間は置かずまた襲ってくるだろう。
仕方ない……俺の出番か。
「分かった、俺がやる。だが、一つだけ条件がある。アメリアもいいか?」
「あ、ああ……」
ホンダはいぶかしみながらも頷き、アメリアは生返事ではあるものの、ちゃんと聞こえたようだ。
「これから見ることは、絶対に口外するな。それだけだ」
「……どういうことだ? 何をする気だ」
「いいから、約束は守れよ」
俺は納得のいかなそうなホンダから、ドラゴンに向き直る。
「こうなったのはこっちのせいなんだろうが、許せよ。俺がいたのが運の尽きと諦めてくれ」
鞘から抜いた俺の剣は、鈍い輝きを放っている。本当に大したことのない、正真正銘の駄剣だ。
それでも、この俺が持てば話は変わる。手をついてクラクチングスタートの構えを取り、剣は右の逆手で強く握り締める。
ついに起き上がったドラゴンが、ギラつく目でこちらを睨み、大きな雄叫びを浴びせかけようとしたその時。
思いきり右足で地面を蹴って走り出した俺は、二、三歩目で音を置き去りにする速度に達し、ドラゴンとの間にあった距離を瞬時に消滅させる。
振動によって対象を破壊するドラゴンの雄叫びーー音波は移動速度と相対的に周波数が変わるために威力を失い、俺はダメージをほぼ負うことなく、自分の間合いに到達していた。
「終わりだ」
最後の一歩を強く踏み込んで跳び上がった俺は、ドラゴンの額に向かって思い切り剣を振り下ろす。
ドラゴンにとっても額は確かに急所だが、そこは鱗と宝石と肉と骨によって厳重に守られている。しかし、それらの守りを、俺の駄剣は軽々と打ち破った。
これは、魔術でも奥義でもなんでもない。単に、極端なパワーとスピードが成し得た、純粋な物理現象だ。
反動で剣は粉々に砕け散るものの、すでに用は果たしている。剣と衝突した部分を中心に、ドラゴンの頭は完全に陥没していた。
振り返ると、アメリアとホンダ、それに息を吹き返したヴィエイラが、一様になんとも言い表せない表情でこちらを見ている。
俺はそれに軽く手を挙げて応え、ゆっくりとした足取りで三人の方に近づいていった。
***
「あの剣が凄かった……わけじゃないんだよな」
「……拙者の目には、間違いなく、無銘のなまくらと映った」
「では、あれはお前自身の腕が為したことなのか?」
ヴィエイラ達は三者三様に、それでいて同じことを俺に聞いてくる。
二匹のドラゴンを倒した直後、あの部屋は大きく揺れ出して、あっという間に崩れ去ってしまった。幸い扉は開いたので、四人とも慌てて脱出して事なきを得ている。
それから近くの安全地帯まで辿り着いて、そこで休憩を取るはずが……俺への質問責めが始まっていた。
「分かった分かった。うるさくて敵わんから少しは教えるが、絶対に他言するなよ」
そう言ってやると、三人は黙って聞く態勢に入る。
「まず、何度も言ったように、あれは別に大した剣じゃなかった。だから、あれは俺の腕かと言えば、確かにそうだ」
「ならば、なぜこれまでは積極的に戦闘に参加しなかった?」
これまでも何度か同じことを言われてきたこのアメリアの質問にも、今や俺を責める意図は感じられない。
「それは、上手く加減ができないからだ。一撃で使い物にならなくなるんじゃ、剣が何本あっても足りない」
これ以上は言わないが、なぜそれほどのパワーがあるかというと、俺の体には異世界版超人体質とでも呼ぶべき特性があるからだ。
その特性とは、おそらく、白兵戦において俺がある方法で攻撃すると、その攻撃方法に関しては次から倍の威力になる、というもの。
ゲーム的に言えば、レベルアップに必要な経験値が常に1しかないので戦闘後は必ずレベルが上がり、しかもその際のステータスの上昇率が以前の二倍という、異常な設定である。
傍目には良いことのように思えるだろうが、ここまで極端にパワーの最大値が上がると、調整がどんどん難しくなり、日常生活に支障をきたす。なので、俺はなるべく直接攻撃を避けるようにしていた。
「何本か持ってればまだマシなんじゃねえの?」
「重くてめんどくさい」
「……ならば徒手空拳の技を用いれば……」
「それも加減ができないし、殴るのはこっちも痛い」
これの本当の理由は、それもパワーが上がってしまうからだが。
「しかしその割には、ギルドで短略的に男を痛めつけていたではないか」
ん? アメリアが変なことを言った。なんであの出来事を知ってるんだ?
「見てたのか?」
「あっ……う、うむ。それが、どうした」
VIPルームで初対面のような顔をしていたくせに、こっそりこっちの様子を窺っていたとは。意外に小心者で、可愛いところもあるもんだな。
「あれは、以前にオノって獣人から教わった『柔』という技でな。相手の力をそのまま返す仕組みなんで、やられた分だけやり返すことになって、加減が楽なんだ。あくまで人間相手の技だがな」
「オノ? "柔"のオノ殿か? なんと……」
ホンダはあの猿の獣人を知っているらしい。確かに只者じゃなかったから、有名なのかもな。
「一本だけ持ってたのは、ボス相手に使うつもりだったからだが……こうなったからにはもう、出たとこ勝負だ」
そうして俺は話を終える。
それから、さすがに今日はここで野営をして、明日迷宮の主に挑むということで決まった。
「そうか、そういうことだったのか……くく、そうかそうか。おもしれえ……」
それにしても、この話の後から、ヴィエイラの俺に対する視線がなんだか変わった気がする。おかしなことにならなきゃいいが。
おかしなことと言えば、ホマレは結局消えたままだ。こうなると、あいつが掟を破って財宝の守護者を呼んだという疑いが消えない。
アメリアは、絶対にそんなことはない、何かの間違いだと言い張るが……ホマレを見つけるまでは、この問題は置いておくしかない。
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