閃き輝く異世界無敵語り/行きて帰りたい物語

横山剛衛門

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「勝利の女神の塔」編

1-3.思いがけない依頼主3

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 ***

 俺達はアメリアの後について、ギルドの裏手にある修練場に出てきた。
 ちなみに、ボスは一緒に来てはいないーーこんな茶番に付き合っている暇はないということだろう。

「まったく……本来この私とパーティを組むのにふさわしいのは、"魔神"ズラタンか" 勝利者"アヴエイロ、さもなくば"救世主"リオネルくらいのものだというのに、こんな奴らを呼ぶとは……さあ、誰からでもいい。何ができるのか見せてみろ」

 アメリアにそう言われてまず前に出たのは、やはりと言うべきかヴィエイラだった。

「じゃあ俺からいくぜ、よく見てろよ――っとぉ!」

 ヴィエイラは肩に担いでいた巨大な戦斧を構えると、掛け声と共に思い切り投げ放った。
 風を斬る轟音を纏いながら高速で飛んでいった戦斧は、空高く飛んでいた鳥に追いついて、あわやぶつかる――と思われた寸前に向きを変え、そのままぐるりと円を描いて戻ってきた。

「ほらよ、こんなんでどうだ?」

 そう言ってヴィエイラが見せてきた斧の刃には、たった一本だけ羽根が付いていた。

「……いいだろう。もとよりお前の噂は十分に聞いていた。では、次は?」

 アメリアの言葉に満足気な顔をしたヴィエイラは、斧に軽く口づけをしてから、刃についた羽根を振り落とす。
 それに続いて、ホンダが得物の大太刀を両手で掲げた。そしてそれを腰に構えたと思った瞬間、チン、と鍔鳴りの音がして、見ればまだ宙に浮いていた羽根が真っ二つ――いや、四つに寸断されていた。
 居合抜き、だな。これほどの長さがある刀身であの剣速を出せ者は、これまで見たことがない。

「なるほど……お前もそれなりの腕はあるようだな。では、最後はお前だ」

 今の太刀筋にやや驚いた様子を隠せないまま、アメリアは俺を見た。
 俺はその目をまっすぐ見返すと、腰に差してある剣の柄に手をやりーーそれから手を離す。

「……? 今何かしたのか? 私に見えなかっただけか?」 

 前の二人の腕前に少し気圧されていたアメリアの口調は、再び見下したものになっている。ここで主導権を取り戻したいという気持ちが、ありありと見て取れた。

「違う、これからだ。見ていろ」

 そう言って、俺は一瞬でヴィエイラの手から斧を奪い取り、それを奴が先ほどやったように投げ放つ。そして、弧を描いて戻ってきたところで腰の剣を抜き放った。
 その場にいた俺以外の三人は、斧と剣が衝突し、甲高い剣戟と火花が飛び散ると思っただろう。
 そのままだったら確かにそうなっていたし、どちらか――おそらく安物である俺の剣の方が折れていたはずだ。
 だが、現実にはそうはならない。
 俺は激突する瞬間に剣を柔らかく引いて衝撃を殺し、かつクルリと体ごと回転して、斧を完全に受け止めていた。
 パワー、スピード、テクニック。どれをとっても、俺には先の二人に負けないものがあるとこれで伝わっただろう。
 それから、剣の刃に載せたままの斧をヴィエイラに差し出す。

「すまんな、借りた。返すぞ」

 目を見開いていたヴィエイラだったが、すぐにその口の端を大きく吊り上げて満面の笑みを作った。

「やるじゃあねえか! 改めて、よろしく頼むぜ!」

 我ながら無礼な真似をしたと思うが、こいつは毛筋ほども気に留めていない。なんて奴だ。
 ふとアメリアを見れば、色白の顔が赤らんでいる。

「ま、まあまあだな。よかろう、お前達にこの依頼を託すとしよう……!」

 俺の実力を見抜く目を持たないのが恥ずかしかったのだろうが、無事依頼を任せる気になったのなら、それでいい。これが彼女なりに精一杯の強がりなのだと、こちらも受け入れることにしよう。
 俺はやれやれと首を振ってヴィエイラとホンダを見やり、二人も同じく良しとしたのを確認した。

 ***

 さあ、これでようやく本題に入ることができる。言い忘れていたが、俺の名はミサキ・ツバサ。"希望ワンダー"ミサキ・ツバサだ。
 そこそこの性能、といって神から与えられたこの体だが、その実、無限のパワーと最高のスピード、それから究極のテクニックが秘められていた。まあ、役には立つから文句はない。
 とにかく、ここからまた、新しい仕事を始めるとしようーー俺が元いた世界へ帰る手掛かりを得るために。
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