8 / 20
「勝利の女神の塔」編
1-3.思いがけない依頼主3
しおりを挟む***
俺達はアメリアの後について、ギルドの裏手にある修練場に出てきた。
ちなみに、ボスは一緒に来てはいないーーこんな茶番に付き合っている暇はないということだろう。
「まったく……本来この私とパーティを組むのにふさわしいのは、"魔神"ズラタンか" 勝利者"アヴエイロ、さもなくば"救世主"リオネルくらいのものだというのに、こんな奴らを呼ぶとは……さあ、誰からでもいい。何ができるのか見せてみろ」
アメリアにそう言われてまず前に出たのは、やはりと言うべきかヴィエイラだった。
「じゃあ俺からいくぜ、よく見てろよ――っとぉ!」
ヴィエイラは肩に担いでいた巨大な戦斧を構えると、掛け声と共に思い切り投げ放った。
風を斬る轟音を纏いながら高速で飛んでいった戦斧は、空高く飛んでいた鳥に追いついて、あわやぶつかる――と思われた寸前に向きを変え、そのままぐるりと円を描いて戻ってきた。
「ほらよ、こんなんでどうだ?」
そう言ってヴィエイラが見せてきた斧の刃には、たった一本だけ羽根が付いていた。
「……いいだろう。もとよりお前の噂は十分に聞いていた。では、次は?」
アメリアの言葉に満足気な顔をしたヴィエイラは、斧に軽く口づけをしてから、刃についた羽根を振り落とす。
それに続いて、ホンダが得物の大太刀を両手で掲げた。そしてそれを腰に構えたと思った瞬間、チン、と鍔鳴りの音がして、見ればまだ宙に浮いていた羽根が真っ二つ――いや、四つに寸断されていた。
居合抜き、だな。これほどの長さがある刀身であの剣速を出せ者は、これまで見たことがない。
「なるほど……お前もそれなりの腕はあるようだな。では、最後はお前だ」
今の太刀筋にやや驚いた様子を隠せないまま、アメリアは俺を見た。
俺はその目をまっすぐ見返すと、腰に差してある剣の柄に手をやりーーそれから手を離す。
「……? 今何かしたのか? 私に見えなかっただけか?」
前の二人の腕前に少し気圧されていたアメリアの口調は、再び見下したものになっている。ここで主導権を取り戻したいという気持ちが、ありありと見て取れた。
「違う、これからだ。見ていろ」
そう言って、俺は一瞬でヴィエイラの手から斧を奪い取り、それを奴が先ほどやったように投げ放つ。そして、弧を描いて戻ってきたところで腰の剣を抜き放った。
その場にいた俺以外の三人は、斧と剣が衝突し、甲高い剣戟と火花が飛び散ると思っただろう。
そのままだったら確かにそうなっていたし、どちらか――おそらく安物である俺の剣の方が折れていたはずだ。
だが、現実にはそうはならない。
俺は激突する瞬間に剣を柔らかく引いて衝撃を殺し、かつクルリと体ごと回転して、斧を完全に受け止めていた。
パワー、スピード、テクニック。どれをとっても、俺には先の二人に負けないものがあるとこれで伝わっただろう。
それから、剣の刃に載せたままの斧をヴィエイラに差し出す。
「すまんな、借りた。返すぞ」
目を見開いていたヴィエイラだったが、すぐにその口の端を大きく吊り上げて満面の笑みを作った。
「やるじゃあねえか! 改めて、よろしく頼むぜ!」
我ながら無礼な真似をしたと思うが、こいつは毛筋ほども気に留めていない。なんて奴だ。
ふとアメリアを見れば、色白の顔が赤らんでいる。
「ま、まあまあだな。よかろう、お前達にこの依頼を託すとしよう……!」
俺の実力を見抜く目を持たないのが恥ずかしかったのだろうが、無事依頼を任せる気になったのなら、それでいい。これが彼女なりに精一杯の強がりなのだと、こちらも受け入れることにしよう。
俺はやれやれと首を振ってヴィエイラとホンダを見やり、二人も同じく良しとしたのを確認した。
***
さあ、これでようやく本題に入ることができる。言い忘れていたが、俺の名はミサキ・ツバサ。"希望"ミサキ・ツバサだ。
そこそこの性能、といって神から与えられたこの体だが、その実、無限のパワーと最高のスピード、それから究極のテクニックが秘められていた。まあ、役には立つから文句はない。
とにかく、ここからまた、新しい仕事を始めるとしようーー俺が元いた世界へ帰る手掛かりを得るために。
0
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる