2 / 7
ミスター・ドラゴン
しおりを挟む
「竜殺しなんてやるもんじゃない」
彼は疲れきった顔でそう言った。
「準備は大変だし命がけだし、首尾よく終えても呪いをかけられることだってある。そもそもドラゴン自体がそういるもんじゃない」
まさにその通りで、特に最近はめっきり減ったということだ。かつてはどの森もどの山も、そこの主と呼ぶべきドラゴンが棲み着いていたそうだが、今やそんなのはほとんど伝説まがいの話になっている。
「地方によって神獣だったり魔物だったり、単に古代の生き物の生き残りだったりで千差万別だから、毎度毎度扱いを変えにゃならん。これも大変なことだ。なんせちょっとしくじると、当のドラゴンだけじゃなく住民まで怒り出す」
そこまで言ったところで汗を腕で拭い、懐から取り出した鉄の水筒を呷る。中身は水ではないだろう。吐き出した息が明らかに酒精で満ちている。
「家族にも理解されん。わざわざ自分からそんな危ないことに突っ込んで行こうとするのはやめてくれと何度頼まれたことか。金だって馬鹿みたいにかかる。だが、俺はこれしかできんからな。やめられるものならやめてもいいが、そうもいかんのだ」
付き合いが長いわけでもない私に、こんなに愚痴を聞かせることは珍しかった。彼なりに思うところもあるのだろう。もちろん、今はひと仕事やりきって心が緩んでいるのもあるのは間違いない。
「さあ、もう行かねば。東の方から鳴き声が聞こえる。ありゃデカいぞ。黒竜かもしれん。だったら大仕事だ、やれやれ」
そう言って、ミスター・ドラゴンは先程仕留めたばかりの赤竜ンダドワカの死体から腰を上げて歩き出した。
彼以外の耳には、なんの鳴き声も聞こえなかったに違いない。なにせ今はこの辺りを十年以上にわたって荒らし回った災厄の獣が退治されたおかげで、そこら中が喜びの狂乱に満ちているのだから。
獲物の噂を聞いたと言ってふらりと現れたミスター・ドラゴンは、どこで調べたのかこの悪竜が山の魔力を受けた火の化身であると突き止めたのち、まず罠を仕掛けて奴を湖の水に沈めて弱らせ、次いでよく燃える酒を浴びせて火をつけた。
火は奴の好物であるから、ンダドワカは嬉々として己にまとわりつくそれを喰らった。が、獣の頭では、その酒が聖別されていたためにこの火が自らには毒であることまでは見抜けなかった。
腹の中から力を封じられ、もはや火を吐くことも飛ぶこともできず鱗がボロボロと剥がれ落ちていったところへ、古来竜殺しに用いられるという黒い鏃の矢が信じられないほどの大弓から放たれて、トドメを刺したのだった。
本当に鮮やかな手並みだった。
ミスター・ドラゴンが現れてからンダドワカが死ぬまでは実にあっという間だったが、我々はほとんど絶望しかけるほど苦しめられていた。あの日々から解き放たれたことがにわかには信じられない。そしてこんな竜がまだいるというのも、やはり信じられない。
しかし、彼がいると言うなら間違いはない。確かに竜はいるだろう。次の仕事が彼を待っている。
彼は疲れきった顔でそう言った。
「準備は大変だし命がけだし、首尾よく終えても呪いをかけられることだってある。そもそもドラゴン自体がそういるもんじゃない」
まさにその通りで、特に最近はめっきり減ったということだ。かつてはどの森もどの山も、そこの主と呼ぶべきドラゴンが棲み着いていたそうだが、今やそんなのはほとんど伝説まがいの話になっている。
「地方によって神獣だったり魔物だったり、単に古代の生き物の生き残りだったりで千差万別だから、毎度毎度扱いを変えにゃならん。これも大変なことだ。なんせちょっとしくじると、当のドラゴンだけじゃなく住民まで怒り出す」
そこまで言ったところで汗を腕で拭い、懐から取り出した鉄の水筒を呷る。中身は水ではないだろう。吐き出した息が明らかに酒精で満ちている。
「家族にも理解されん。わざわざ自分からそんな危ないことに突っ込んで行こうとするのはやめてくれと何度頼まれたことか。金だって馬鹿みたいにかかる。だが、俺はこれしかできんからな。やめられるものならやめてもいいが、そうもいかんのだ」
付き合いが長いわけでもない私に、こんなに愚痴を聞かせることは珍しかった。彼なりに思うところもあるのだろう。もちろん、今はひと仕事やりきって心が緩んでいるのもあるのは間違いない。
「さあ、もう行かねば。東の方から鳴き声が聞こえる。ありゃデカいぞ。黒竜かもしれん。だったら大仕事だ、やれやれ」
そう言って、ミスター・ドラゴンは先程仕留めたばかりの赤竜ンダドワカの死体から腰を上げて歩き出した。
彼以外の耳には、なんの鳴き声も聞こえなかったに違いない。なにせ今はこの辺りを十年以上にわたって荒らし回った災厄の獣が退治されたおかげで、そこら中が喜びの狂乱に満ちているのだから。
獲物の噂を聞いたと言ってふらりと現れたミスター・ドラゴンは、どこで調べたのかこの悪竜が山の魔力を受けた火の化身であると突き止めたのち、まず罠を仕掛けて奴を湖の水に沈めて弱らせ、次いでよく燃える酒を浴びせて火をつけた。
火は奴の好物であるから、ンダドワカは嬉々として己にまとわりつくそれを喰らった。が、獣の頭では、その酒が聖別されていたためにこの火が自らには毒であることまでは見抜けなかった。
腹の中から力を封じられ、もはや火を吐くことも飛ぶこともできず鱗がボロボロと剥がれ落ちていったところへ、古来竜殺しに用いられるという黒い鏃の矢が信じられないほどの大弓から放たれて、トドメを刺したのだった。
本当に鮮やかな手並みだった。
ミスター・ドラゴンが現れてからンダドワカが死ぬまでは実にあっという間だったが、我々はほとんど絶望しかけるほど苦しめられていた。あの日々から解き放たれたことがにわかには信じられない。そしてこんな竜がまだいるというのも、やはり信じられない。
しかし、彼がいると言うなら間違いはない。確かに竜はいるだろう。次の仕事が彼を待っている。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる