CLOVER±H【天使病】 ~天使のように可愛い幼馴染が天使(化け物)になったので救いの旅に出たけど、悪魔に捕まってしまった~

響城藍

文字の大きさ
2 / 26

[2話] 俺は幼馴染と過ごす日常が好きだ

しおりを挟む
 エレナは俺の手を掴んでそれを奪う。
 一瞬だけ見えたエレナの顔は、沸騰しそうなくらいに赤かった。
 ああそう言えば、おもちゃの宝石をエレナにあげたことがあったな。
 なんでまだ持っているのだろう、と疑問に思いながらエレナに追いついて隣を歩く。

「……お守りなんだ。だから失くしたくなかったの」
「そっか。失くしても俺が見つけてやる」
「……えへへ、ありがとう」

 嬉しそうに笑うエレナを見ていると、俺も嬉しくなる。
 俺も人のことを言えないくらいに、お節介なのかもしれない。


 ◆◇◆


 俺は学校に通っているため、朝起きたら学校に向かわねばならない。
 朝食を食べ終えたらすぐに家を出る。
 家の前で俺は空を見上げた。雲を探してもどこにもありゃしない。

「立ったまま寝てるでしょ?」

 俺を覗き込むようにしてエレナが後ろからやってきた。
 後ろというのは1つ隣の家である。
 俺とエレナの家はお隣さんだ。親同士仲が良いのもあって、物心ついた時から一緒に過ごしている。

「誰かさんが遅いからあくびがでそうだったんだ」
「テオが早いだけだよ」

 悪口を言ったのに、エレナは嬉しそうに笑いながら学校へ向かって歩き出す。俺も隣を歩く。
 この町に学校は1つしかない。だから必然と同じ場所へ向かうことになる。
 学校は上・中・下の3つのクラスに分かれている。
 7歳から12歳までの下クラス、13歳から15歳までの中クラス、16歳から18歳までの上クラス。
 町の規模が小さいのもあって、1クラスの人数は両手で数えられるかギリギリの人数だ。
 1人1人に合わせて先生は寄り添って教えてくれている。
 俺は17歳なので、もうすぐ卒業して本格的に商店を継ぐだろう。
 だけどエレナはどうするのか、視線を向けると何故か目があった。

「前見ないと転ぶぞ?」
「て、テオこそ、よそ見してると飛んでっちゃうよ?」
「俺は紙切れじゃないんだがな」

 外されない視線に疑問を抱いていると悪口を言われたので、俺は素直に前を向く。
 まあなんだかんだエレナなら大丈夫だろう。世渡り上手というのか、器用なところもあるからな。
 学校にはすぐに着いた。なんせ小さい町だからな。
 他の生徒は大体ギリギリに来る。俺たちはいつも1番乗りだ。
 綺麗とは言えない教室に入って、席に向かう。

「あっ、」
「ん? どうした……」

 エレナの声に反射で振り向いてしまって、俺は呆気にとられた。

「振り向かないで……っ」

 エレナのスカートが柱の凹んでいる部分に引っかかっていた。
 木造でよく開け閉めする入り口は何度も修復されているが、また修復せなばならないだろう。
 まあ要するに、スカートの下が見えているわけであって。
 同時に引っかかるスカートを取ろうとするエレナの手に傷が出来てしまっているのも見えたわけで。
 目のやり場に困るのも事実なので、俺は素早くスカートに手を伸ばす。

「ごめん。痛くないか?」
「……かすり傷だよ」
「ほら座れ」

 俺はスカートを直してエレナの傷を心配したが、エレナは手を後ろに隠してしまった。
 かすり傷とは言え手当はするべきだと、俺は先に席に座ってエレナを呼ぶ。
 恥ずかしそうに俺の後ろの自分の席に座ると手を机に置いた。ちなみに本来の俺の席はエレナの左隣だ。手当するあいだだけこの席を拝借させてもらう。
 鞄から救急セットを取り出してエレナの手を見る。確かにかすり傷ではあるが、なんか嫌だ。

「ふふっ、許してあげる」
「不可抗力なのにな」

 手当に集中している俺はなんでエレナの機嫌がいいのか分からなかったが、エレナが嬉しそうならなんでもいいや。
 手当を終えて、他愛無い会話をしていれば、生徒が集まりだして、授業が始まる。
 最初の授業ではこの前のテストの返却が行われた。
 教壇へ行って受け取ったテストはいつもの満点。俺にとっては当たり前のことだ。
 自分の席に座って前を見ると絶望した顔でテストを眺めながら帰って来るエレナがいた。これもいつものことだ。
 あとで甘いものでも買ってやるか、なんて思いながら俺は授業を受ける。

 授業は午前で終わり、学校に残る理由もないので鞄を持って席を立つ。
 だが、隣の席で落ち込んでいるエレナを置いては行けない。
 俺は隣に立ってエレナを見る。なんだか泣きそうだと思って、俺はエレナの頭を撫でた。
 俺の手に驚いたエレナは不思議そうに俺を見上げてくる。

「どこが分からなかったんだ?」
「うーん、半分くらい……分からないかなぁ」
「そっか」

 俺は自分の席に座り直してエレナと席をくっつけた。

「テオ? 帰らないの?」

 教科書とノートを広げてエレナを見る。

「置いて帰ったら、誰かさんが悲しむだろ」
「……テオはなんでも知ってるなぁ」
「天才らしいからな?」
「自覚ないところがずるいなぁ」

 口をとがらせながらもエレナはノートを広げた。

「全部覚えたら、好きな菓子買ってやる」
「えへへっ、頑張る理由ができたっ」

 エレナを本気にさせるくらい朝飯前だ。だって俺はエレナの幼馴染なのだから。

 30分ほど居残りして、俺はエレナのご褒美を買いに連れまわされている。
 いや確かに好きな菓子を買うとは言ったが、何個も買っていいとは言ってない。
 まあエレナが本気で頑張ったので、気が済むまで買ってやるんだが。
 この町にはパン屋がある。そこの甘いパンがエレナのお気に入りだ。
 俺は甘いものが苦手なのだが、甘いパンを選ぶエレナを見るのは好きだったりする。
 トレーにもう乗らないくらいになるまで選んでいて、パンを眺めながらエレナが選び終わるのを待つ。

「テオ、選び終わっ」
「っ!」

 エレナが嬉しそうにパンを見せながら俺に駆けてくる。勢いがよすぎて転びそうになったエレナを支えてトレーを受け取った。
 よかった、パンは無事のようだ。
 俺の胸に収まるようにして固まっているエレナの肩を叩いてみるが反応がない。どこか痛めたのだろうか。

「エレナ、会計に行けないんだが」
「……ぁ、ごめん、ついぼーっとしちゃってた……」
「頭使いすぎて疲れたんだろ。パン買って来るから家に帰ったら食べろよ」
「……うん、テオが買ってくれたから食べるよ」

 少しだけ顔が赤い気がすると思って、トレーを持っていない方の手でエレナの額を触る。
 ビクリ、とエレナが揺れて驚かせてしまったことを謝ろうと手を離す。

「急にすまない、熱はないみたい……」

 熱はないはずなのに、エレナの顔はどんどん赤くなっていく。
 なんだか今日のエレナは様子がおかしい。

「買ってくるから、外の風でもあたってろ」
「……うん」

 逃げるように小走りで店を出たエレナを見送ってから、俺はパンを購入する。エレナの好きなパンランキングの10位以内に入っているパンしかないな。食べ過ぎてお腹壊さなきゃいいけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...