CLOVER±H【天使病】 ~天使のように可愛い幼馴染が天使(化け物)になったので救いの旅に出たけど、悪魔に捕まってしまった~

響城藍

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[8話] 悪魔の正体

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 料理をしているのだと言ってしまっていいのかと不安になる。だって包丁の先には何もないから。

「できました。どうです? 今日のはとても自信があります」
「うん、おいしそう」
「さすがデス様です!」

 皿はあるが何も乗っていない。俺が人間だから見えないだけなのだろうか。
 中性的な少女は興奮しているのか、俺を抱える腕に力が入って、胸が近付く。
 やめてくれ、ラッキースケベはエレナ限定でありたいんだ。

「では、いただきます」

 そう言って真っ白な青年は皿を持ち上げて口を開ける。
 皿を傾けて大きく吸ってそのまま飲み込んだように見える。

「ふふふっ、おいしすぎて昇天しそうです」

 満面の笑みを見せたあと、白いハンカチで口を拭きながら俺を見た。

「お待たせして申し訳ありません。僕はデスと申します。死神をやらせて頂いております。貴方のお名前は?」
「教える代わりに、俺の言う事を聞いてもらえるか?」
「……はい。僕にできることでしたら」
「俺はテオ。んで、そろそろ降ろしてほしいんだが?」
「ふふふっ、リリィ、コフィン、よく見つけましたね。それではコフィン、もうテオさんを支えなくていいですよ」
「承知ですよ、デス様」

 デスという死神の言葉を聞いた瞬間、中性的な少女――コフィンは俺を離した。
 床に落ちた衝撃で腰を痛めた気がするが、すぐに体勢を整える。
 さっきまでだるかった身体は何不自由なく動くことに疑問を抱いて手を見つめた。

「コフィンの能力は欲望を増加させることです。テオさんの生きたいという欲望がコフィンの身体に触れていたことで増幅しました」
「それであんな抱え方を?」
「ふふふっ、コフィンの抱え方は癖なんです」

 クスクスと楽しそうに笑うデスは俺の傍に寄って来て、手を差し伸べた。
 俺の中で死神とは怖い印象だったのに、その手は温かく感じて自然と手を掴んでいた。
 デスに引っ張られて立ち上がった俺は、そのまま部屋の奥へ連れていかれる。
 真っ白すぎて分からなかったがいくつか扉があるらしい。
 そこにあったもう1つの部屋も白く、広さは先ほどの部屋の半分くらいだろうか。豪華な白い椅子とテーブルが部屋の中心を彩っている。
 椅子は全部で6脚で、3つずつテーブルを挟んで並んでいる。
 デスは扉側の端に俺を連れてきて、立ち止まる。

「少し長くなりそうですので、座っていてください。嫌いなお茶はありますか?」
「毒入り以外ならなんでも」

 俺の言葉がおかしいのか、デスは笑い声を漏らしながらさっきの部屋に戻っていく。キッチンへお茶を淹れに行ったのだろう。
 その様子を眺めてから部屋に視線を戻すと、いつの間にか後を追いかけて来たコフィンとリリィは並んで椅子に座っていた。
 俺は2人と向かい合うように椅子に座っていて、気付かれないように視線だけで様子を伺う。
 なんというか、2人は仲が良い。いや一方的にというのか、コフィンがリリィにベッタリなのだ。リリィは無機質とでもいうのか、感情が読み取れない。
 コフィンは椅子から落ちる勢いで隣に座るリリィを見つめている。リリィとの距離を縮めながらもリリィはぼんやりと正面を見ている。壁でも見ているのだろうか。
 椅子の間隔は大人が2人立ったくらい開いているので行儀が悪いとも受け取れる。彼女たちは飛べるから床に落ちることはないだろうけど。

「お待たせしました。毒入りは嫌いとのことでしたので、ただの緑茶ですが」

 そう言いながらデスは俺の前に湯飲みを置いた。
 パッと見は普通の緑茶にしか見えないが、果たして本当にただの緑茶だろうか。

「コフィン、お茶をこぼさないようにしてくださいね」
「はーい」
「リリィも熱いので気を付けてください」
「うん」

 テーブルにお茶を置いてからデスはリリィの隣の椅子に座った。
 動かないリリィの隣でコフィンは姿勢を正してお茶が入った湯飲みを掴む。
 俺はデスの真正面でその様子を眺めていれば、デスは自分のお茶を一口飲んだ。それを見て俺も一口、口に含んで喉を潤す。高級な緑茶だというのは平凡な日常を送っていた俺でも分かるほどだ。
 いやもしかしたら劇薬が入っているかもしれない。だけど美味くて飲むと落ち着いてしまってもう一口飲んでからテーブルに湯飲みを置く。

「さて、何から話しましょうかねぇ。まずテオさんの疑問を解決しましょうか」
「疑問しかないんだが?」
「そうですねぇ。テオさんはどうして天使と会っていたのですか?」

 何故デスが天使と会っていたことを知っているのか。
 コフィンとリリィにも直接は天使に会ったところを見られていない。まあ天使の魔法で木に磔にされていたからすぐに状況を理解できるものなのだろう。本当はどうなのか、俺は悪魔じゃないから分からないけど。
 そんな俺の心境を読み取ったのか、デスは俺に微笑んだ。

「大分薄れていますが、テオさんの体には天使の残り香があります」

 デスの言葉に反応して自分の体を嗅いでみる。
 自分じゃよく分からなかった。そもそも天使の匂いってなんだ。

「それと、少し不思議な匂いがします。テオさんの体内に天使のような香りが混ざっているような……」
「デス、人間は最近、天使になるんだって」
「人間が天使に……ああ、天使病ですね。ならテオさんの身近にそうなった方がいらっしゃるのですね?」
「……そうだ。その子に肩を喰われたな。治してくれたけどしつこく噛んでくるんだ」

 隠し事をしても無駄なのだと理解して、起こったことを説明する。
 エレナのこと。エレナが天使病になったこと。天使に会ったこと。エレナが天使に攫われたこと。
 それを聞いたデスは顎に手を当てて少し考えてから俺を見た。

「テオさんはエレナさんのことが大好きなのですね」
「ぶふぁ!?」

 俺は飲んでいた緑茶を盛大に噴出した。咄嗟に横を向いたので人に当てずに済んだが。
 咳込んで口を手で拭いながら、俺はデスを睨む。

「ただの幼馴染なんだが?」

 咳込んでいるからか顔が熱い。
 呼吸を整えようと背筋を伸ばすと、赤い瞳と視線が交わる。
 俺が座るとリリィの身長的に彼女の胸の辺りにちょうど顔が来る訳で。
 タオルを持ったまま俺を見下すリリィの服装は目のやり場に困ってしまうほどだ。
 あれ、っていうか今少し胸が見えた気がする。あれ、平らすぎた気が……っていうか下着は?

「どうしたの?」
「え、いや、ちょっと、もっとこう気にした方がいいのでは?」
「なにを?」

 いや、無関心なんだろうなって思っていたけど、その服装で近付かれたら目線を逃す場所がなくなる。

 ――ガシャン

 何かが割れた音でリリィは俺から離れて音のした方へ歩き出す。
 そこには湯飲みを落としたコフィンが、悪魔のように怖い顔をして俺を見ていた。
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