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[24話] どうしても欲しいものがある
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「わたしの教育は厳しいですよ~? ラズちゃんはついてこられますかね~?」
「メルルがキツイのはイヤなくらい知ってるよ」
苦笑しながらラズはメルルの小指に自分の小指を絡ませる。
ラズに向けて微笑んだあとすぐに手を離して、メルルはコフィンを支えるために背中へ手を回した。
「メルルちゃんばっかりズルいっ! コフィンも教育したいっ」
「動けるようになったらですよ~。コフィンちゃんの言うことなら聞いてくれる人がいるでしょうから~」
「うんっ! 仲良くなった悪魔ちゃんたちがいるからねっ!」
コフィンはこの施設にやって来てからずっと天使病を治すための方法を研究していた。その時に研究専門の悪魔たちと切磋琢磨してきたのを俺もよく目にしていた。コフィンの明るい性格は人を魅了する。だからコフィンだって大丈夫だと自信を持って言える。
「皆さんよくやりましたね」
「うむ、立派じゃのぅ」
デスとイリスはいつの間にかコフィンたちの傍で3人を見守っていた。
天使と悪魔はそれぞれ引き継ぐ相手が見つかったのだから、褒めて当然だろう。
天使病がどのくらいで終息するかは未知だ。
だからなるべく長い年数を引き継ぐ必要があるだろう。
そのために俺に出来ることはなんなのかを考える。
俺は人間と天使の血を引き継いでいる。ならそういう人間に引き継ぐ必要があるだろう。
そういう人間がいないのなら、つくることはできる。
だから俺は隣でコフィンたちのやりとりを嬉しそうに見つめるエレナへ体ごと視線を向ける。
緊張しながらエレナを見続けていると、俺の視線に気づいたのかエレナは不思議そうに俺を見つめ返してくれた。
やるべきことが見つかったんだ。いてもたってもいられない。
エレナの手を勢いよく、だけど優しく握る。
「エレナ、デートしよう」
「……えっ」
エレナは驚いた表情で俺を見つめる。
だんだんと赤くなっていく顔が愛おしいと見つめ続ければ、隠すように俯かれてしまう。
俺はデートとか恋人らしいことはよく分からない。
だけど、エレナを幸せにしたい。
「ふふっ、テオらしいね」
「俺は感情が態度にでるらしいからな?」
自分で自分の言っていることが分からなくなってきた。
エレナの笑顔が眩しいから動揺してしまっているのかもしれない。
エレナは手を握り返してくれて、隠していた顔を上げて俺に笑顔を向けてくれる。
その顔が近付いてきて、俺は動揺しているのか動けない。
「……でももっとムードとか知ってほしいな」
背伸びして近付いてきた顔は、少し不機嫌だった。
俺にだけ聞こえるように囁いてから顔は離れて行く。
ムードってなんだっけ。いや、ムードくらい知っているに決まっているだろ。
「エレナ……?」
俺の手を引いてエレナは病室を離れて行く。
どうしてエレナに手を引かれているのだろうか。
「デートするんでしょ?」
「えっ……あ、ああ」
俺の心を読んだのか、小悪魔みたいな笑顔で振り向かれる。
喧嘩していたような気もするけれど、していなかったような気もする。
エレナの笑顔を見ていればどうでもよくなるものだ。
俺はエレナには勝てないのだからな。
堂々と俺の手を引くエレナの隣に並んでしっかりと歩く。
俺はもっと恋人らしいことを学ぶべきだと思った。
エレナの笑顔がいつでも見られるように。
いろんな笑顔が見られるように。
それに、もうひとつ見たい笑顔ができたから。
◆◇◆
エレナと初デートをしてから3年ほどの月日が経った。
この3年間は慌ただしくもあり充実していたとも言える。大声で笑ったこともあったし、大声で泣いたこともあった。
俺は俺のできることをやり続けた。ひとつは趣味の筋トレ。それ以外は施設内の整備や点検、エレナの手伝いなど。雑用と言われることも色々やった。俺は色んな感情を知りたいんだ。俺の感性は独特みたいだから、エレナの気持ちに少しでも近づけるように、エレナを見ながら学んだことも多い。
エレナは相変わらずお人好しを発揮して、色々と首を突っ込んでいる。基本的に料理と掃除がメインのはずなのだが、困っている人の手助けの方がメインになっている。これは錯覚ではないと思うのは俺だけなのだろうか。
メルルの厳しい教育のおかげで、ラズは歌うことを覚えた。まだ難しい曲は歌えないようでメルルが言うには「まだまだ赤ちゃんですね~」と辛口である。
コフィンは研究員の悪魔たちとのコミュニティーができていて、『欲望を増幅させるため力の使い方』の教師として日々活動している。
コフィンは最近リリィのことを話さなくなった。メルルに対しても「夢を見なくていいからメルルちゃんは歌を教えてあげて」とお互いの教育に専念している。
それもあってか、ここ最近はメルルとコフィンの仲が良くなった気がする。親友とでも言えばいいのか、本音を言い合える仲なのだと見ていて感じる。
デスとイリスはCLOVER±Hの幹部として内側から支える存在になっている。組織である以上必要な決まりというものが生まれてきているので、それを考えてくれたりしている。デスに関しては「ザックリ・お悩み相談室」なんてものを始めている。意外と人気であるが俺は相談したくないな。
デスが引き籠りがちなので、イリスはよく施設内を回っているのを見かける。困っている人がいたらよく声をかけているし、お悩み相談室より俺は好感を持てる。
俺とエレナは忙しい日々の合間をぬってデートに行く回数も増えた。
俺は恋人らしいことを学んで、エレナの笑顔をたくさん見て来た。
結婚もした。プロポーズした時の天使のようなエレナの笑顔は一生忘れないだろう。
派手に祝うことはしなかったけど、身近な天使と悪魔たちが喜んだり泣いたりしながら祝福してくれたのが最近のようにも、懐かしいとも感じる。
それだけあっという間に日々は過ぎているのだ。
そして今日は俺にとって人生の転機なのだろう。
いや、大げさかもしれない。
いや、もっと弾けてもいいのかもしれない。
まあよく分からないくらい、今日は大切な日になるということが決まっているのだ。
俺には欲しいものがある。
俺はエレナから欲しいものをたくさんもらったのに、贅沢だとも思う。
でも、どうしても欲しいのだと、握った手に力を入れて願い続ける。
願いは叶うのだと、俺はここで知ったんだ。
不安もある。だけど、今日は絶対に願いが叶うという自信がある。
「メルルがキツイのはイヤなくらい知ってるよ」
苦笑しながらラズはメルルの小指に自分の小指を絡ませる。
ラズに向けて微笑んだあとすぐに手を離して、メルルはコフィンを支えるために背中へ手を回した。
「メルルちゃんばっかりズルいっ! コフィンも教育したいっ」
「動けるようになったらですよ~。コフィンちゃんの言うことなら聞いてくれる人がいるでしょうから~」
「うんっ! 仲良くなった悪魔ちゃんたちがいるからねっ!」
コフィンはこの施設にやって来てからずっと天使病を治すための方法を研究していた。その時に研究専門の悪魔たちと切磋琢磨してきたのを俺もよく目にしていた。コフィンの明るい性格は人を魅了する。だからコフィンだって大丈夫だと自信を持って言える。
「皆さんよくやりましたね」
「うむ、立派じゃのぅ」
デスとイリスはいつの間にかコフィンたちの傍で3人を見守っていた。
天使と悪魔はそれぞれ引き継ぐ相手が見つかったのだから、褒めて当然だろう。
天使病がどのくらいで終息するかは未知だ。
だからなるべく長い年数を引き継ぐ必要があるだろう。
そのために俺に出来ることはなんなのかを考える。
俺は人間と天使の血を引き継いでいる。ならそういう人間に引き継ぐ必要があるだろう。
そういう人間がいないのなら、つくることはできる。
だから俺は隣でコフィンたちのやりとりを嬉しそうに見つめるエレナへ体ごと視線を向ける。
緊張しながらエレナを見続けていると、俺の視線に気づいたのかエレナは不思議そうに俺を見つめ返してくれた。
やるべきことが見つかったんだ。いてもたってもいられない。
エレナの手を勢いよく、だけど優しく握る。
「エレナ、デートしよう」
「……えっ」
エレナは驚いた表情で俺を見つめる。
だんだんと赤くなっていく顔が愛おしいと見つめ続ければ、隠すように俯かれてしまう。
俺はデートとか恋人らしいことはよく分からない。
だけど、エレナを幸せにしたい。
「ふふっ、テオらしいね」
「俺は感情が態度にでるらしいからな?」
自分で自分の言っていることが分からなくなってきた。
エレナの笑顔が眩しいから動揺してしまっているのかもしれない。
エレナは手を握り返してくれて、隠していた顔を上げて俺に笑顔を向けてくれる。
その顔が近付いてきて、俺は動揺しているのか動けない。
「……でももっとムードとか知ってほしいな」
背伸びして近付いてきた顔は、少し不機嫌だった。
俺にだけ聞こえるように囁いてから顔は離れて行く。
ムードってなんだっけ。いや、ムードくらい知っているに決まっているだろ。
「エレナ……?」
俺の手を引いてエレナは病室を離れて行く。
どうしてエレナに手を引かれているのだろうか。
「デートするんでしょ?」
「えっ……あ、ああ」
俺の心を読んだのか、小悪魔みたいな笑顔で振り向かれる。
喧嘩していたような気もするけれど、していなかったような気もする。
エレナの笑顔を見ていればどうでもよくなるものだ。
俺はエレナには勝てないのだからな。
堂々と俺の手を引くエレナの隣に並んでしっかりと歩く。
俺はもっと恋人らしいことを学ぶべきだと思った。
エレナの笑顔がいつでも見られるように。
いろんな笑顔が見られるように。
それに、もうひとつ見たい笑顔ができたから。
◆◇◆
エレナと初デートをしてから3年ほどの月日が経った。
この3年間は慌ただしくもあり充実していたとも言える。大声で笑ったこともあったし、大声で泣いたこともあった。
俺は俺のできることをやり続けた。ひとつは趣味の筋トレ。それ以外は施設内の整備や点検、エレナの手伝いなど。雑用と言われることも色々やった。俺は色んな感情を知りたいんだ。俺の感性は独特みたいだから、エレナの気持ちに少しでも近づけるように、エレナを見ながら学んだことも多い。
エレナは相変わらずお人好しを発揮して、色々と首を突っ込んでいる。基本的に料理と掃除がメインのはずなのだが、困っている人の手助けの方がメインになっている。これは錯覚ではないと思うのは俺だけなのだろうか。
メルルの厳しい教育のおかげで、ラズは歌うことを覚えた。まだ難しい曲は歌えないようでメルルが言うには「まだまだ赤ちゃんですね~」と辛口である。
コフィンは研究員の悪魔たちとのコミュニティーができていて、『欲望を増幅させるため力の使い方』の教師として日々活動している。
コフィンは最近リリィのことを話さなくなった。メルルに対しても「夢を見なくていいからメルルちゃんは歌を教えてあげて」とお互いの教育に専念している。
それもあってか、ここ最近はメルルとコフィンの仲が良くなった気がする。親友とでも言えばいいのか、本音を言い合える仲なのだと見ていて感じる。
デスとイリスはCLOVER±Hの幹部として内側から支える存在になっている。組織である以上必要な決まりというものが生まれてきているので、それを考えてくれたりしている。デスに関しては「ザックリ・お悩み相談室」なんてものを始めている。意外と人気であるが俺は相談したくないな。
デスが引き籠りがちなので、イリスはよく施設内を回っているのを見かける。困っている人がいたらよく声をかけているし、お悩み相談室より俺は好感を持てる。
俺とエレナは忙しい日々の合間をぬってデートに行く回数も増えた。
俺は恋人らしいことを学んで、エレナの笑顔をたくさん見て来た。
結婚もした。プロポーズした時の天使のようなエレナの笑顔は一生忘れないだろう。
派手に祝うことはしなかったけど、身近な天使と悪魔たちが喜んだり泣いたりしながら祝福してくれたのが最近のようにも、懐かしいとも感じる。
それだけあっという間に日々は過ぎているのだ。
そして今日は俺にとって人生の転機なのだろう。
いや、大げさかもしれない。
いや、もっと弾けてもいいのかもしれない。
まあよく分からないくらい、今日は大切な日になるということが決まっているのだ。
俺には欲しいものがある。
俺はエレナから欲しいものをたくさんもらったのに、贅沢だとも思う。
でも、どうしても欲しいのだと、握った手に力を入れて願い続ける。
願いは叶うのだと、俺はここで知ったんだ。
不安もある。だけど、今日は絶対に願いが叶うという自信がある。
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