CLOVER±H【天使病】 ~天使のように可愛い幼馴染が天使(化け物)になったので救いの旅に出たけど、悪魔に捕まってしまった~

響城藍

文字の大きさ
24 / 26

[24話] どうしても欲しいものがある

しおりを挟む
「わたしの教育は厳しいですよ~? ラズちゃんはついてこられますかね~?」
「メルルがキツイのはイヤなくらい知ってるよ」

 苦笑しながらラズはメルルの小指に自分の小指を絡ませる。
 ラズに向けて微笑んだあとすぐに手を離して、メルルはコフィンを支えるために背中へ手を回した。

「メルルちゃんばっかりズルいっ! コフィンも教育したいっ」
「動けるようになったらですよ~。コフィンちゃんの言うことなら聞いてくれる人がいるでしょうから~」
「うんっ! 仲良くなった悪魔ちゃんたちがいるからねっ!」

 コフィンはこの施設にやって来てからずっと天使病を治すための方法を研究していた。その時に研究専門の悪魔たちと切磋琢磨してきたのを俺もよく目にしていた。コフィンの明るい性格は人を魅了する。だからコフィンだって大丈夫だと自信を持って言える。

「皆さんよくやりましたね」
「うむ、立派じゃのぅ」

 デスとイリスはいつの間にかコフィンたちの傍で3人を見守っていた。
 天使と悪魔はそれぞれ引き継ぐ相手が見つかったのだから、褒めて当然だろう。
 天使病がどのくらいで終息するかは未知だ。
 だからなるべく長い年数を引き継ぐ必要があるだろう。
 そのために俺に出来ることはなんなのかを考える。
 俺は人間と天使の血を引き継いでいる。ならそういう人間に引き継ぐ必要があるだろう。
 そういう人間がいないのなら、つくることはできる。
 だから俺は隣でコフィンたちのやりとりを嬉しそうに見つめるエレナへ体ごと視線を向ける。
 緊張しながらエレナを見続けていると、俺の視線に気づいたのかエレナは不思議そうに俺を見つめ返してくれた。
 やるべきことが見つかったんだ。いてもたってもいられない。
 エレナの手を勢いよく、だけど優しく握る。

「エレナ、デートしよう」
「……えっ」

 エレナは驚いた表情で俺を見つめる。
 だんだんと赤くなっていく顔が愛おしいと見つめ続ければ、隠すように俯かれてしまう。
 俺はデートとか恋人らしいことはよく分からない。
 だけど、エレナを幸せにしたい。

「ふふっ、テオらしいね」
「俺は感情が態度にでるらしいからな?」

 自分で自分の言っていることが分からなくなってきた。
 エレナの笑顔が眩しいから動揺してしまっているのかもしれない。
 エレナは手を握り返してくれて、隠していた顔を上げて俺に笑顔を向けてくれる。
 その顔が近付いてきて、俺は動揺しているのか動けない。

「……でももっとムードとか知ってほしいな」

 背伸びして近付いてきた顔は、少し不機嫌だった。
 俺にだけ聞こえるように囁いてから顔は離れて行く。
 ムードってなんだっけ。いや、ムードくらい知っているに決まっているだろ。

「エレナ……?」

 俺の手を引いてエレナは病室を離れて行く。
 どうしてエレナに手を引かれているのだろうか。

「デートするんでしょ?」
「えっ……あ、ああ」

 俺の心を読んだのか、小悪魔みたいな笑顔で振り向かれる。
 喧嘩していたような気もするけれど、していなかったような気もする。
 エレナの笑顔を見ていればどうでもよくなるものだ。
 俺はエレナには勝てないのだからな。

 堂々と俺の手を引くエレナの隣に並んでしっかりと歩く。
 俺はもっと恋人らしいことを学ぶべきだと思った。
 エレナの笑顔がいつでも見られるように。
 いろんな笑顔が見られるように。
 それに、もうひとつ見たい笑顔ができたから。


 ◆◇◆


 エレナと初デートをしてから3年ほどの月日が経った。
 この3年間は慌ただしくもあり充実していたとも言える。大声で笑ったこともあったし、大声で泣いたこともあった。

 俺は俺のできることをやり続けた。ひとつは趣味の筋トレ。それ以外は施設内の整備や点検、エレナの手伝いなど。雑用と言われることも色々やった。俺は色んな感情を知りたいんだ。俺の感性は独特みたいだから、エレナの気持ちに少しでも近づけるように、エレナを見ながら学んだことも多い。

 エレナは相変わらずお人好しを発揮して、色々と首を突っ込んでいる。基本的に料理と掃除がメインのはずなのだが、困っている人の手助けの方がメインになっている。これは錯覚ではないと思うのは俺だけなのだろうか。

 メルルの厳しい教育のおかげで、ラズは歌うことを覚えた。まだ難しい曲は歌えないようでメルルが言うには「まだまだ赤ちゃんですね~」と辛口である。
 コフィンは研究員の悪魔たちとのコミュニティーができていて、『欲望を増幅させるため力の使い方』の教師として日々活動している。

 コフィンは最近リリィのことを話さなくなった。メルルに対しても「夢を見なくていいからメルルちゃんは歌を教えてあげて」とお互いの教育に専念している。
 それもあってか、ここ最近はメルルとコフィンの仲が良くなった気がする。親友とでも言えばいいのか、本音を言い合える仲なのだと見ていて感じる。

 デスとイリスはCLOVER±Hの幹部として内側から支える存在になっている。組織である以上必要な決まりというものが生まれてきているので、それを考えてくれたりしている。デスに関しては「ザックリ・お悩み相談室」なんてものを始めている。意外と人気であるが俺は相談したくないな。

 デスが引き籠りがちなので、イリスはよく施設内を回っているのを見かける。困っている人がいたらよく声をかけているし、お悩み相談室より俺は好感を持てる。

 俺とエレナは忙しい日々の合間をぬってデートに行く回数も増えた。
 俺は恋人らしいことを学んで、エレナの笑顔をたくさん見て来た。
 結婚もした。プロポーズした時の天使のようなエレナの笑顔は一生忘れないだろう。
 派手に祝うことはしなかったけど、身近な天使と悪魔たちが喜んだり泣いたりしながら祝福してくれたのが最近のようにも、懐かしいとも感じる。
 それだけあっという間に日々は過ぎているのだ。

 そして今日は俺にとって人生の転機なのだろう。
 いや、大げさかもしれない。
 いや、もっと弾けてもいいのかもしれない。
 まあよく分からないくらい、今日は大切な日になるということが決まっているのだ。
 俺には欲しいものがある。
 俺はエレナから欲しいものをたくさんもらったのに、贅沢だとも思う。
 でも、どうしても欲しいのだと、握った手に力を入れて願い続ける。
 願いは叶うのだと、俺はここで知ったんだ。
 不安もある。だけど、今日は絶対に願いが叶うという自信がある。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...