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第45章:冥犬ケルベロスデス

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 「「「ワンワンワンワン!!」」」

 『本当にケルベロスか…?』

 「「「ワンワン!!」」」

 『むぅ…』

 純白に変わり果ててはいるが、どうやら本物のケルベロスらしい。

 真ん中がケルバス。

 右がカベロ。

 左がビスル。

 それぞれに個性があり、それぞれが別々の鳴き声を上げる癖に、我輩にじゃれつく時だけは一斉に普通の犬のように鳴く冥府の番犬だ。

 冥犬ケルベロスとは、よく呼ばれたものだ。

 元々は巨獣テュポーンと蛇女王エキドナの間に産まれた3匹の手が付けられぬ魔犬だったが、我輩が3匹とも鳴かなくなるまで躾け、我が血にて魂を混ぜ合わせてやった結果生まれた犬だ。

 それ以来、我輩に懐いていた。

 しかしまさか…

 『お前達もこちらの世界に来ていたとはな…』

 「「「ワンワン!クゥ~ン…」」」

 ケルベロスめ、我輩に触れられないので悲しんでおるわ。

 これで案外可愛い奴なのだ。

 『お前達。
 もうじき我が目的地に着く。
 そこまで着かず離れずこの列車を追えるか?』

 「「「ワン!!!」」」

 我輩の言葉に、ケルベロスは一鳴きし、屋根からトンと降りていった。

 『ふむ…よもやあ奴らとはな…
 しかしこの世界にいると言うことは、奴らも殺されたと言うことか…』

 ケルベロスは、ヘラクレスの12功業という下らん試練の一環で、一度陽の下に連れ出されたことがあるのだが、その時悶え苦しみつつも、毒の吐息を地上に吐き出し、"トリカブト"という毒草を作り出し、冥界に帰還したと言う、中々に不死身な逸話を残す犬だ。

 地上に出ても消し飛ばずにいられる者など、我輩のような冥府の神に名を連ねる者か、余程の力を持つ者に限られる。

 つまりケルベロスは、余程の力を持つ者なのだ。

 そんなケルベロスを殺すとは…

 『やはりゼウスめ…許すまじ…』

 我輩はバイデントを管理者スコルの元へ送り返した後、思わずそんな言葉をこぼしながら、己が器に戻るのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ピンポンパンポーン…ジジジッ…

 『魔獣の姿は見えなくなりました。
 当列車はこのままの速度を維持し、冒険者の街ドルドンムへと到着いたします。』

 我輩が目を開けると同時に、列車内に声が響いた。

 周りの有象無象どもは安堵の溜め息を吐いている。

 我が兄姉はというと…

 「がー…がー…」

 「くぅ…くぅ…」

 我が体を任せたというのにも関わらず、爆睡していた。

 愚図どもが。

 バチチン!!
 
 「いってぇ!!」

 「きゃああっ!?」

 兄姉両方の頬を叩き、目覚めさせる。

 本当ならば百叩きだ。

 我輩にしては生温いな。

 「なんだ!?魔獣か!?!
 んがっ!?エウレス!!?」

 「いたぁーい…父さん母さんにめ叩かれたこと無いのにぃ~…」

 「起きろ愚図どもが。
 そろそろドルドンムの街だ。
 それとも置いて行こうか?」

 「も、もう!?いけね!!
 荷物荷物…!!」

 「じんじんする~…
 痛いよエウレス~…」

 「まだ食らうか?」

 「分かったわよ~…」

 我が父母は相当甘く子を育てて来たようだ。

 我輩など、産まれてすぐに父親に"将来神の座を脅かしかねない"という理由で丸呑みにされたと言うのに。

 しかも、我輩とポセイドンに関しては、母神・レアの庇護もなしだ。

 なんと嘆かわしい…

 『間も無くドルドンム。
 ドルドンムです。』

 「僕は先に行くぞ。」

 「待ってよー!!」

 「おい!ちょ!ミレス!
 荷物!!!」

 我輩の分の荷は無いので、慌てて荷を降ろす兄姉を尻目に、駅に降り立つ。

 そこには…

 「キャアアアアアア!!!子供が目の前に…!!!」

 「君ぃ!!早く逃げろぉ!!!
 親はどこだあ!!!」

 「早く憲兵を呼べ!!いや、A級冒険者か!?どっちでもいい!!
 早くしろぉ!!」

 「あの子食べられちゃうわよぉー!!」

 我輩の降り立った場所の目の前で座り、尾を振るケルベロスが居た。

 大騒ぎを引き連れて。

 
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