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第129章:伝承を検証デス

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 ラゴラム建国記・定礎の書より。

 曰く、それは天の穴より飛来し。

 曰く、それは八頭八尾の様相を呈し。

 曰く、八頭は八峰に及び。

 曰く、その腹は血に塗れ濡れ滴り。

 曰く、その尾は山河を滅し。

 曰く、収束せしめし胴の強靭鋼たること。

 八岐大蛇ヤマタノオロチは突如としてこの地に降り立った。元々は緑と水に溢れ、生源あらたかであった土地は瞬く間に枯れ、腐り果て、山は火を吹き、地は乾きのみを示す。

 地神も死に絶え、いよいよ最期の時かと思われたその時。この地にかの者現る。

 純白の鱗日輪の如し。

 放つ気迫は日光の如し。

 眼光鋭く剣尖の如し。

 威風堂々たる様、まさしくこれ一尾の竜の最たる証。

 名をレンハというその竜の戦士は、闇を切り裂き火を跳ね除け、八岐大蛇に鍔迫り合いの死合いを仕掛けた。

 さしもの大蛇もこれにはたまらず、真の力を発揮せん。

 すなわち火水光木闇土瘴雷。それぞれの頭が持つ、八つの災いなり。

 再びその勢いを取り戻した八岐大蛇。レンハを追い詰め、その力を召し食わんと八つ首を伸ばす。

 その時であった。

 レンハはカッと目を見開き、八つ首をまとめあげるとその無双怪力で伸張し緩んだ首を筋と骨ごと引き千切った。

 かくして、八岐大蛇は断末魔と共にこの地に沈んだのだ。

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 「…これが、我が国ラゴラムに伝わるヤマタノオロチの伝承だ。」

 「まるで伽話だな。」

 「アチシ達もそう思ってたでちゅ…」

 「…どういうことだ?」

 「…この伝承には続きがあった…」

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 レンハはその地、すなわち八岐大蛇亡き後の美しさを取り戻したる地に居を構え、嫁を召し抱える。

 名をライカという。

 レンハとライカは大層仲睦まじく、多くの子を成し、やがて居は村に、村は町に、町は国へと発展していった。これがラゴラムの基盤であり、まさしく建国の瞬間である。

 全てが幸福と順調に満たされたかに見えたその国に、突如として暗雲たちこめん。

 民の間に病が流行る。

 そもそもが病になど侵されるはずのない竜族が、突然苦しみ死ぬという異常事態。被害は100万にも200万にも及ぶ。死体には一様に黒の八方紋が浮き上がったという。

 都に不穏と混乱吹き荒れる中、ついに病はレンハを襲う。

 歴戦の勇者たるレンハも、病には打ち勝てず、やがて病床にて苦悶するのみの存在と成り果てる。

 そんなある日、突然レンハが城から消えた。

 ライカや家族が国中を探すも、レンハは見つからず。

 諦めかけたその時、国外れの森から轟音響き地を揺らす。

 そこには黒く染まり、体から瘴気を放ち、今にも崩れ堕ちてしまいそうなレンハがいた。

 レンハは息絶え絶えの最中、ただ一つ白く無事なる鱗を剥がし、それを剣に変えこう言った。

 "我、八岐大蛇の墓標とならん。残しつる愛民家族に幸多かれ。"

 そしてレンハは自らの頭から全身を貫くように剣を突き刺し、その身に病を封じ込め、生き絶えたのだ。

 それ以来、国外れの森のその場所は、レンハ塚と呼ばれ、終生奉られていくことになる。

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 「…これが全ての伝承だ。」

 「病…だと言ったな…」

 「そう。…正確に言うと病では無かったのだよ。アレは…ヤマタノオロチの生き代探しだ。」

 「生き代…」

 「そうだ。ヤマタノオロチはたとえその身を滅ぼされようとも、力と悪意は失わなかったのだ。その想像を絶するエネルギーは、かつての王にして英雄、レンハ様をも呑み込んだ。」

 「アチシの…お父ちゃまも…」

 「ヤマタノオロチだと分かったのは、病に侵された我が息子の皮膚を、解析魔法で解析してからだ。…まさか…レンハ様が亡くなられて以後…ヤマタノオロチが再びこの世に現れるとは…」

 病云々もそうだが、我輩にはそれよりも気になっていることがあった。

 「天の穴…と言ったな。」

 「ぬ?」

 「ヤマタノオロチは…天の穴より飛来したと言ったな。」

 「そう言い伝えられているが…」

 「天の穴…」

 思い出すのは我が肉体が細小であった時代。赤子の頃の記憶。

 教会から神域に侵入し、神を自称する管理者を下したあの後…

 我輩は穴を見た。穴というよりも門か…?"大いなる流れ"とやらへ続く道…

 まさかヤマタノオロチとは…流れの一部なのか…?
 

 
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