人間少年→獣人中年〜無チート転生で異世界の裏番に〜

やあ

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喫茶店→オルドワ商会

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 信じてもらえるかはどうでもよかった。

 信じてもらえるとも思っていなかった。

 とにかく、転生神のことや元の世界のこと、自分が本当は小学5年生…11歳であることを、吐き出すように話していった。

 途中で父親や母親、祖父母や友達、その他知り合いの顔などを思い出し、何度も泣きながら。

 全てを話し終わった頃には、昼飯時になっていた。

「……ううっ…これが、…僕の、うぐっ……ふー…僕の正体…です……」

「…」

「…」

 ミコトもマスターも、しばらく何も言えなかった。

(やっぱり信じてもらえないよな…)

 そう思ったイチだったが、2人の反応は違った。

「まさか…転生がそのような条件下で起こるとは…!」

「転生神…初めて聞いたわん。そんなプロセスがあったなんてねん…!」

「えっ…信じて…くれるんですか…?」

「当然だ!しかしながら、さぞ辛く心細かろう!」

「そうねん…辛いわねん…」

「え、あの…なんで、信じてくれるんですか?」

「転生者・転移者はこの国や他国に現れたり召喚されたりする!珍しいが、そう聞かない話ではないのだ!」

「でもん、その転生者達とあなた…イッちゃんが違うのはん、強力な力を持っていない、どころかアタシ達とまるっきり同じってところねん。」

「そうなんですか…!?」

「ええ。普通転生者はステータス?画面だかなんだかを使えるし、最初からすごく強いし、ほとんどが若い姿か、男前・美人の姿で召喚されるんだけどん…」

「ぼ、僕は…」

「う~ん…獣人中年とはねん…」

「私は可愛らしいと思うぞ!愛玩に値する!」

「そんな…僕だけ……」

 イチの頭は真っ暗になり、うなだれた。

 自分と同じような人達がいるのには少し慰められたが、あの転生神の言う通り、自分にはなんの力も授けられていなかったのだ。

 ステータス画面を開けないことから、明らかだった。

(…そうだ…!)

「あの!」

「む?なんだイチ殿!」

「も、元の世界に!日本に戻れた人はいないんですか!?帰る方法とか、そんなのは無いんですか!?」

「ない!」

「えええええっ!!」

 パリーン!

 即答され、思わずココの入ったカップを落としてしまった。

「イヤアアアン!!!カップが!!」

「そんな…ほ、ほんとに…ないんで…」

「ない!…いや!正確には、私は知らん!転生者および転移者の生涯は、この世界で終えられるとしか裏番の資料には無かったと思う!マスターはどうだ?!」

「ぐすん…聞いたことないわねん。そんな情報。あったとしてもタダでは教えられないわん。イッちゃんに情報料が出せるのかしらん?」

「…い、いくらですか…?」

「あなたが今飲んでたココが、一杯500レンだからん…それ千杯分かしらん。」

(500の千倍…50万レン!!?)

「た、高い…無理です…」

「まぁ、無いから売れないけどねん。」

「うむ!それにマスターの店の情報は確かで良心的な値段だぞ!50万では安いくらいだ!」

「まぁ、そこは諸々の経費にもよって違うんだけどねん。うちに無い情報の場合、最低でも50万はかかるわねん。」

「そう…ですか…」

 どの道無い情報に期待するわけにもいかない。一瞬湧き上がった希望が一瞬で消え、イチは先程より深くうなだれた。

「うう…どうしよう……」

「…しかし不思議だ!何故貴公の名は冒険者組合の帳簿になかったのか!」

「あ…そ、それは多分、僕の作ったこのキャラクターの名前と、僕の名乗った名前が違うからだと思います。…僕、このキャラクターあまり使ってなくて…覚えてなくて…」

「むぅ…ゲームの話とはいえ、使う使わないだのと、心地の良い話では無いな!我らの世界も舐められたものだ!」

「す、すいません…」

「いや!貴公は悪くない!ふざけているのはその転生神とやらだ!心底腹の立つ!」

「そうねん…元の世界になんの不満も不遇もない、年端のいかない若者を、こんな殺伐とした世界に無理矢理連れてくるんだものねん。しかも、おじさんにしちゃうなんて…」

「…うう…」

「…よし!事情は理解した!貴公を…いや!君を信じよう!イチ!私の家へ来るが良い!」

「え?」

「部屋ならいくらでも空いている!宿だけであれば貸してやれるぞ!」

「い、いいんですか?」

「うむ!うちで今後の身の振り方について考えたまえ!」

「ありがとうございます…!」

「ちょ、ちょっとミッちゃんいいのん?そのおじ…その子、未確定とはいえ転生者よん?転生者って…」

「イチは大丈夫さ!なぁ!?」

「え?は、はい…?」

「それに万が一襲われたとしても、私の方が強い!」

「そうだけどん…」

「さぁ!行こう!イチ!!」

「はい!あの…マスターさん、これ、ごめんなさい…このお金で足りるか分からないけど、使ってください。」

「あっ!ちょっとん…!!」

 イチはカバンから3000レンを取り出し、カウンターに置くと、店から出るミコトを慌てて追いかけていった。

「…貰いすぎよん…悪い子じゃ無さそうだけどん…」

 不安を拭えないマスターだったが、とりあえず床を拭きつつ、新しいカップを買う算段をつけ始めるのだった。

___________________

 「あの、マスターさんが言ってたの、どういうことですか?」

 イチは先程のミコトとマスターの会話が気になり、道すがら尋ねてみた。

 気になることはなんでも質問するように。そう学校の先生から教わっていたので、気になることはすぐに聞く。気になったことすら忘れないようにするためだと、先生は言っていた。

「む?ああ。転生者のことか。」

「はい。あの、僕が襲うとかって…」

「うむ。転生者は元の世界で不満や不遇を抱えている場合が多く、それをこちらの世界で発散させる輩がほとんどなのだ。」

「え…そうなんですか?」

「ああ。具体的には強盗や殺人、強姦など、様々な犯罪に手を染めたりだな。ほかにも、洗脳魔法でハーレムを形成したり、違法な商売で経済を狂わせたりなど様々だ。マスターの店で裏番の業務について説明したな?」

「あ、はい…」

「そういった転生者の討伐に当たるのも、裏番の仕事だ。」

「え!?」

「ワハハハ!心配するな!今のところ、君にそういった危険性は感じない!」

「あ、はあ…」

「だが」

「?」

「もし万が一私を襲おうとした時には、問答無用で斬り捨てる。」

「は、はい!大丈夫です!僕、そんなことしません!助けてくれたミコトさんに怪我させようとするなんて…しません!だから殺さないでください!」

「…ワハハハハ!大丈夫だと言っただろう!そんな君だから、信用してみることにする!」

「よ、よかったです…」

 イチには襲うという意味が分かってなかったが、転生者の中には往来で平気で異性と交わろうとして襲いかかる輩もいる。
 そういった意味での"襲う"だったのだが、イチにはそもそもその発想がない。

 それゆえの信用だった。

「しかしひどい神だな。君の本当の名前まで奪うとは。しかもその奪ったという事実を覚えさせたままだとは。よほど適当な神らしい。」

「そう、ですね…イチ…では無かったと思うんです…苗字も、ショウじゃなくて…思い出せないですけど…」

「そうだな。昨日の時点で、私がもっと注意深く聞いてやれていれば良かったが。」

「いえ!助けていただいただけで、僕はもう…ありがとうございます…」

「…ふむ!この話題は暗くなるからやめよう!さぁ!そろそろ見えてくるぞ!私の家だ!」

「え…うわぁ…!」

 場所は商店街の少し開けたところ、建物は見上げるほどにでかい豪邸だった。

 入り口には『オルドワ商会』と掲げられている。

「す、すごい…あ!」

「ん?どうした!」

「僕、オルドワさんって聞き覚えがあったんですけど、ど忘れしてたっていうか、頭が混乱してて…でも、今思い出しました!モアワールド…ゲームでも、ミコトさんがいました!」

 喫茶店での説明の際、イチはゲームの説明もしていた。この世界にはゲームは無く、苦労したが、仮想現実ということで理解してもらえた。

「なに!そうか!」

 オルドワ商会…プレイヤーが初めて降り立つ街・ファスタにて、オルドワ財閥とそれに連なるオルドワ商会グループを取り仕切る女性頭首…NPCノンプレイヤーキャラクターだ。両親を無くしており、若くして財閥の舵を取るやり手として、プレイヤーだけでなく、他のNPCからの人望も高い。

「でも、裏番の設定なんて聞いたことないです…」

「それは裏だからな!一般市民はもちろん、転生者にも秘密裏に動く!わざわざ脅威を表沙汰にして、騒がせる理由もあるまい!」

「あれ?マスターさんの店では、知らないのは珍しいって…」

「あの時は君が工作員かと思っていたからな!当然知っているかと思っていた!冒険者や敵対国の間者には、もちろん我々の存在が知れ渡っている!でなければ抑止力にならんからな!」

「そうなんですね…でも、それなら転生者にも知れるようにすれば、それこそ変な犯罪も防げそうですけど…」

「当然の提案だが、過去それをして世界大戦にまで発展した事例がある!人間は脅威を排除しようとする面を持ち合わせている!転生者でも例外はなく、各国の裏番と転生者の戦争になった歴史がな!それ故に内緒だ!」

「なるほど…」

 難しい話はよくわからなかったが、とにかく自分のようなゲームプレイヤーや転生者には秘密で活動する団体らしいということは分かった。もしかするともっと細かいルールがあるのかも知れないが、それ以上聞いてもこんがらがるだろう。イチは納得の意を示す返事をした。

「さあ!立ち話もなんだ!入りたまえ!さあ!さあ!!」

「は、はい。お邪魔します…」

 グイグイとミコトに促され、大きな玄関をくぐるイチだった。


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