転生!ブレードシスター

秋月愁

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17:石板の力

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 「それはそうよ、最後の石板は、私が隠しているのだから」

 特務兵団「ロウブレイド」の砦、その飾り気のない指揮官室で、修道女剣士ミラリアは、赤髪、眼帯の女団長ソレーヌとPTの仲間達に「最後の一つ」の「賢者の石板」を、自分が隠していると告げた。

 「それは、どういう事だ、ミラリア」

 仮面の白騎士にして、ミラリアの相棒でもあるシルヴァンが問う。困惑の表情を浮かべて。

 「冗談にしては、度が過ぎますわね。説明していただけるのかしら」

 赤衣の貴族令嬢にして、付与術師のセリーヌが険しい顔でミラリアを咎めるように訊く。

 が、ミラリアは平然と、表情に笑みを張り付けたまま、これに答える。

 「だって、下手に揃ったら、どこかの誰かさんが「大いなる力」を使っちゃうでしょ。だから、最後の一枚は、私が、ルガート議長本人に直接渡すことにするわ」

 ソレーヌがその隻眼に威を込めて、ミラリアを睨みつける。

 「団内の者を疑うのかミラリア!それほどに、私達は信用が置けないか!!」

 「違うわよソレーヌ団長」とミラリアはその剣幕を受け流すして、冷静に、真面目な表情になり説明を始める。

 「私の知っているルガートは「石板の力」なんてあやふやなものは基本当てにしないわ。自分の力でなすべき事をなす人よ。そうなると議会の高い位に就く誰かの案ということになるわ。そして私は、そんな机上のお偉い様は、信じない」

 「なるほど、ありそうな話だね。議長はともかく、後の議員はクセ者揃い。裏でなにか画策してても不思議はないね」

 手品師兼盗賊の「トリックスター」を自称する、ロイザードが、青いシルクハットを手を整え直して相槌を打つ。


 「しかしそうなると、石板の運搬をどうするかも課題になる。ここにある分にはいいが、運搬中に襲われでもしたら、今までの苦労が水の泡になってしまう」

 仮面の黒騎士、シグフォードが懸念を示す。そして、ソレーヌがため息をついて「よくわかった」と決断をする。

 「ルガート議長を私が、私的なルートでこの砦に呼ぶ。最後の石板の所には、ミラリア、お前が直接案内しろ」

 「分かりました。「賢者の石板」がもたらす「大いなる力」は議長にこの砦で直接、使って頂きましょう。それでいいわよね?みんな」

 「君の判断だ。それで行こう」白騎士シルヴァンが言うと、

 「シルヴァン様がいいというなら仕方ありませんわ」付与術師セリーヌも合意。

 「貴方が決めた事なら、私も異論はありません」黒騎士シグフォードも頷く。

 「いいんじゃない。議長本人が使う分には、僕も賛成だし」手品師ロイザードも片目を瞑ってみせる。

 「決まりだな。近いうちにルガート議長をここに呼ぶ。そしてミラリア、石板の件の詰めは、お前とルガート議長にまかせる。信じていないわけではないが、念のために言っておく、無理はするな」


 「はい!」

 団長のソレーヌの言に、年相応のあどけなさの残る少女の笑顔で、ミラリアはこれに答えた。


                    ☆


 …そして、数日後の事、ソレーヌの密使に呼ばれて、ルガート議長が砦の地下通路を使って、側近の剣士二人を従えて指揮官室まで護衛されて来訪した。

 ソレーヌが事の説明をして、ミラリアが案内を願い出ると、側近の剣士二人を指揮官室に留めおいて、ルガート議長はミラリアの後につき、砦の地下牢の一つに案内された。

 ミラリアは地下牢の壁の一部をずらして、砦の秘密の扉を開いた。かつて帝王レルギスの配下時代にこの砦を預かった前世の魔剣士ヘルヴァルドであったときの、記憶からくる知識である。

 お忍び姿のルガートは、フードのついた茶色の外套をまとっていたが、この段でこれを脱ぎ、黒い刺繍入りの正装姿になる。用心のためか、帯剣もしている。

 「まさかこんな所に隠し部屋があったとはな。ヘルヴァルドから教わったのか?」

 まだルガート議長の中では、この修道女剣士は「ヘルヴァルドの隠し子」で通っているようだ。

 なので、ミラリアは昔話をしてみせた。

 -昔この砦がゼムドとよばれていた時代、黒い剣士と黒衣の太刀使いが争って、黒い剣士が勝利しました-

 -その黒衣の太刀使いは女の赤子に転生して、修道院に拾われて育ちました-

 -村を襲う山賊の襲撃を迎撃するために少女は剣を取って戦い、その後に修道女でありながら剣の道を選んだ事-

 そこまで聞くと、ルガート議長もさすがに察しがついたようで、

 「つまり、君は黒衣の剣士ヘルヴァルドの生まれ変わりという訳か。それにしてはずいぶん可愛らしく育った物だ。見事に騙されたな」と苦笑した。

 隠された宝物庫で、最後の石板を手にしたルガート議長は、特務兵団「ロウブレイド」の団員達に大広間に全ての石板を並べさせた。

 「石板が揃ったら、いかがなさるおつもりで?まさか世界が欲しいなんていわないでくださいよ」

 ソレーヌが聞く。この女団長は、かつてのルガート率いるラクティア解放軍の一員でもあり、時に思い切った事も言える。しかしこの冗談に、ルガート議長は真剣な表情で頷いて返した。

 「それは、ある意味間違っていない。俺は、この石板の力でこの世界の「管理者」に成るつもりだ。そして、この大陸をかつての仲間達がそう願ってたように、平和な物に「改革」する」

 「なっ、本気ですが議長、いや、ルガート…」

 呆気にとられるソレーヌを尻目にそして、一面に並べられた、石板の上を通り、中心の一つのぽっかり空いた一部分に、ミラリアが渡した最後の石板をはめ込む。最後のピースとなる石板をはめた、ルガート議長の身体は光に包まれた。

                  ☆

 ルガートは、宇宙のような、それでいて足場のある空間で、曲がりくねった杖を持った黒い外套の老人と面していた。老人がしわがれた声で語り掛ける。

 『言わずとも全ては承知の上じゃ「世界の管理者」になりたいのじゃろう?ならば、現管理者の儂を倒して奪うが良い。儂も疲れておるのでな。案外楽かもしれぬぞ?』

 黒い外套の老人はそう言うと「蒼い守護獣の竜」の姿をとった。しかし、かなり衰弱しているのか、その姿は弱々しい物だった。

 「そうか…恨みはないが、世界のため…御免!」

 ルガ-トは愛用の長剣を抜きはなった。

 こうして「世界の管理者」の椅子をかけたルガートと蒼い守護竜の闘いは始まった。

                  ☆

 「グォォォォォ…」

 「やったか…」
 

 …この戦いは、結果的にルガートの愛用の長剣の突きによって、この竜の心臓が貫かれることで終わりを告げたが、ルガートには竜になった老人には、勝つ気が最初から無いようにも見えた。


 そして蒼い守護獣の竜は霞のように消え去り、ルガートの頭に膨大な知識が流れ込む。

 「ぐぬう…むむう…」

 しばらくの間、彼はうずくまった。その頭の中は混沌としていたが、やがてそれは整合化されて「世界の管理者」として、ルガートは「覚醒」した。

                  ☆


 ミラリア達の目の前で、石板の光に飲み込まれたルガートは、金色の翼を生やして、フードのついた光輝く金色のローブを着た姿で戻って来た。

 敷かれた石板は、力を失いガラガラと崩れて瓦礫とかした。

 「皆、よくやってくれた。おかげで私は「管理者」として世界の改革に乗り出せる。その前に、一番の功のあるものに、恩賞を授けようと思って、一時だけ戻って来た」

 そして、ミラリアを指さして「今度は私が、君の望みを叶えよう。遠慮なく言ってくれるといい」と言った。

 ミラリアは、しばし茫然としていたが、立ち直ると、少し考える仕草をみせて、一つの願いを、そう、ほんのささいな願いを訴えた。

 「地に落ちたか、天に昇ったかは分かりませんが、あなたが昔討ち取った、かつての私が仕えた帝王レルギスに、どんな形でもいい、一目会わせて頂きたい。それが、私の願いです」

 「…そうか、よくわかった。それでいいなら、叶えよう」

 黄金の翼を持つ「管理者」と化したルガートは、瞑目してミラリアに右手をかざすと、まばゆい光につつまれて、ミラリアは「幻界」へと転移した。


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