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第九話

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 その時であった。

 突如として会場内に暗雲が立ち込め、黒い霧が人々を飲み込もうとする。

 マデリーンはその光景に魔法陣を空中へと展開させ、暗雲を魔法陣で押しとどめると外へもがいて出ようとする霧ごと封じ込めた。

「マデリーン!」

「エイデン! 下がっていて!」

 そんなマデリーンの静止を聞かずにエイデンはマデリーンを庇うようにして立った。

「エイデン!?」

「マデリーンこそ後ろに下がって!」

 この場で一番強いのはマデリーンであろう。けれどそんなことエイデンには知った事ではない。

 愛しい物を守るのは、婚約者としての務めでもある。

『っは!お前本当にやるとは思っていなかったぞ。』

 突然黒い暗雲の中から異形の悪魔が現れると、面白そうにぎゃぎゃぎゃっと笑い声を上げながらそう聞こえた。

 エイデンは目を丸くし、その悪魔を見つめた。

「お前は・・・。」

『人間とは本当に面白いなぁ……まさか、理と鎖をいとも簡単に壊すとは。』

 マデリーンは、エイデンの横に立つと声を上げた。

「さぁ!理も鎖も壊したわ!エイデンの呪いを解いて!」

 その言葉にエイデンは目を丸くし、悪魔はにやりとその口元を歪めた。

『くくく……そうだなぁ……。』

「マデリーン!?」

 マデリーンは悪魔のその様子に違和感を覚えた。

 何だと訝しんだ瞬間に、乙女ゲームのワンシーンが頭をよぎっていく。

 悪魔が蘇り、呪いの暴走が始まる、物語のラストに近いシーン。

 マデリーンは、その事を悟るとポケットの中に仕込んでいた何十もの魔法陣を空中へと展開し始める。

 その光景は異質であり、その場にいた皆が息を飲む。

「マデリーンダメだ!そんなに大量に魔力を使っては!」

 エイデンはマデリーンを止めに入ろうとするが、マデリーンの周りには結界がはってあり、マデリーンに触れる事さえ敵わない。

 マデリーンはエイデンを一瞬見つめると笑みを浮かべた。

 絶対にこの人を幸せにしてみせる。

 その為には、ここでたとえ魔力を使い切ろうとも、この悪魔をどうにかしなければならないのである。

『なっ!何だこの魔法陣の数は!お前、最初から俺を倒す気でいたな!』

 悪魔の雄叫びが響き、マデリーンはにっこりと笑った。

「約束を破ろうとするからこうなるのよ!」

『っくそ!異質の魔女めがぁぁぁ!』

「悪魔の口約束なんて破られると思っているに決まっているでしょう!下準備しておくに決まっているじゃない!」

『人間の癖にぃぃぃ! ぎゃややあぁっぁぁっぁぁ!』

 マデリーンは全魔力を魔法陣へと注ぎ込み始める。

 その様子を見たエイデンは慌てて周りにいた他の魔法使いたちに言った。

「マデリーンへ魔力の譲渡を頼む!このままでは彼女が!」

 その言葉に弾かれた様に魔法使いたちは動き、マデリーンへと魔力を送り始めた。

「王子たちは避難を!他の生徒達の誘導を先生方は!」

 エイデンの言葉に皆がはっとしたように動き、そして生徒らはその場から慌てて走り去っていく。

 悪魔はその体を魔法陣へとどんどんと飲み込まれ始め、そして魔法陣が圧縮していく。

「私の…エイデンの呪いをときなさいぃぃぃぃぃぃ!」

 マデリーンの声が響き渡り、エイデンはマデリーンの黒髪が魔力によってふわりと浮く姿を見つめた。

 漆黒の魔女。

 誰かがそうマデリーンを呼んでいた。

 悪魔をねじ伏せるその姿は、異質なものである。

『ぎゃぁぁっぁぁぁ!』

 悪魔の悲鳴と共に、魔法陣が消え、そして悪魔は水晶化されて地面へと落ちた。

 それと同時に、マデリーンの体から力が抜ける。

 エイデンはその体を支え、抱きしめた。

「お願いだから…無茶しないでくれ。」

「ふふ。エイデンの為ですもの。あぁ…髪…戻ったわね。」

「え?」

 マデリーンの指がエイデンの金髪を優しく撫でる。

「髪の色が…。」

「どの色でも似あうけれど、貴方はやっぱり光の中が似合うわ。」

「マデリーン。」

 ふにゃっと笑って気を失ったマデリーンの額にエイデンはキスを落とした。

 精霊の加護が久しぶりに戻った体は異様に軽く、エイデンはマデリーンを抱き上げると呆然としていた者達へと動くように指揮を執る。

 じっとしてはいられない。

 事態をいち早く収束させなければならないとエイデンは感じ、水晶化された悪魔は他の魔法使い達に何重にも封印するように伝えるとマデリーンを医務室へと運んだ。

「今度は僕がキミを守るよ。」

 本当に恐ろしいのは、悪魔よりも人間だ。

 エイデンは瞳を鋭く輝かせると、立ち上がった。

 マデリーンに誰も触れることが出来ないように医務室に封印をかけ、足を進める。

「キミは、僕の物だ。」

 

 
 

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