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婚約者がクズだと結構大変なんです。政略結婚とはままならない

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 王立学園に通うアンバース公爵家の長女ローナ・アンバースには産まれた時から決められている婚約者がいる。

 レルダ王国第一王子ジョナサン・ニア・レルダ。

 レルダ王国の第一王子であり、金髪碧眼の、正真正銘の王子様である。

 ローナはそんなジョナサンを、二階の小窓から眺めていた。

「まぁまぁ、なんてはしたないことでしょうか」

 学園という公の場であるのにもかかわらず、ジョナサンはただいま、ガーラン男爵家令嬢のリカの膝枕で心地よさそうに昼寝をしている。

 ローナは自慢の金髪の縦ロールの髪を指先でくるくるとまわしながら、菫色の瞳を伏せた。

「はぁ」

 ため息をつく姿には、色気があり、同じ部屋内にいる生徒会役員たちはその姿に顔を赤らめた。

 むっちりとした体つきは目の毒であり、足を彼女が組み替える度に、擦れる布の音に、誰かしらが唾を飲む。

「お嬢様、どうなさいますか?」

 傍に控えていた彼女の執事は、冷ややかな視線をジョナサンに向ける。

 ローナはため息をまたつくと、視線を、同じ生徒会役員であり、一つ年下の第二王子アルスへと向ける。

 すると、楽しそうにアルスは笑顔でローナに言った。

「義姉上も大変ですね」

 笑ってそういうあたりが性格が悪い。ローナは産まれてくる順番をこの王子達は間違えたのだろうと内心思いながら、視線をジョナサンへと戻す。

 すると、恐らく二人はキスを交わし始めていた。

 しかも、結構な濃厚な奴である。

「え……」

 ローナは顔を引きつらせると、執事へと視線を向ける。

 執事は心得たとばかりに、窓のカーテンをバッと閉めた。

 見た目は飽満ボディで、色気をまき散らすローナではあるが、十六歳の少女である。

 何度見ても、濃厚なキスシーンは見たいと思えるものではなかった。しかもいずれ自分にもするのかと思うと、鳥肌が立つ。

「はぁ」

 ため息をつくローナに、アルスは笑みを深めると言った。

「婚約者交代しますか?」

 爆弾発言に、生徒会内にいる貴族の令息、令嬢らは聞こえないふりに徹する。

 ローナはその言葉に、にっこりとほほ笑みを浮かべて返事を返す。

「私の婚約者はジョナサン殿下ですので」

「それは残念」

 ここ最近、本気でアルスがそう呟き始めたことにローナは気づきながらも、あえて冗談であるように言葉を返す。

 出来ることなら王位争い何てものは起きない方がいい。

 そう考えるものの、ローナは先ほどの濃厚なキスシーンが頭をよぎり、顔を引きつらせたくなるのをぐっと我慢した。


 ローナは、何度か男爵令嬢であるリカに、分を弁えるよう伝えたものの、弁えるどころか最近では加速する一途である。

「リカ様。もう一度忠告いたします。人の婚約者にちょっかいをかけるのはおやめください」

 人払いした学園の一室にてローナがそう言うと、リカはキッとローナを睨みつけて言った。

「私とジョナサンは愛し合っているんです!」

「……愛とか、そういうのはね、関係ないのよ?」

 ローナだってジョナサンを愛しているわけでも結婚したいわけでもない。ただ、これは貴族としての務めである。

 貴族令嬢としてうまれたからには、国のために政略結婚だってやむを得ないのである。

 けれど、どうにもリカには分かってもらえない。

「私はジョナサンを愛しているの! 誰にも、邪魔はさせないわ!」

「そうだとも! 俺も、リカを愛している!」

 そう言ってヒーロー登場とばかりに扉を勢いよく開けて言ったジョナサンに、ローナは頭が痛くなるのを感じながらも、美しく一礼をしながら言った。

「王国の太陽である第一王子殿下にご挨拶申し上げます」

「ふむ。ローナ。これはどういうことだ?」

 ローナは顔をあげると、小首を傾げた。

「どう、とは?」

「俺の愛おしいリカをいじめるとは、お前はそんなに非常な女だったのか?」

 頭がずきずきと痛みだすのを感じながらも、ローナは、いじめたわけでもないことや弁えるように伝えた事などをジョナサンに伝えるが、どうにも会話が成立しない。

「ローナ。醜い嫉妬は止めろ。お前はいずれ俺の正妃となるのだぞ?」

「え?」

 その言葉に驚いたのは、ローナではなくリカである。

「正妃? ジョナサン! どういうことなの!? 何でローナ様が正妃なの!?」

「む? いや、それは決まっている事だからだが、大丈夫。リカのことも第二妃として大切にする」

「はぁぁ?! 第二? どういうことなのよ」

「むむ? 何故そこで怒る?」

 どたばたと痴話げんかを始めた二人に、冷ややかな視線を向けていると、扉からもう一人。この場をややこしくする人物が現れた。

「わぁ。大変そうですね」

「む? アルス? どうした?」

「兄上。生徒会の仕事で、義姉上を迎えに来たんです」

「あぁ。そうか。ではローナ。お前は行け。俺は可愛いリカを慰めてやらなければな」

「ははっ。兄上は忙しそうですから、さぁ、義姉上、行きましょうか?」

 さりげなく私の手を取り、アルスは部屋をさっさと出ると歩き始める。

 そして、階段下へとローナを引き込むと、その腕の中にローナを抱きしめて言った。

「それで? ローナ。そろそろ決心決まらない? もうそろそろ、僕が限界なんだけれど」

 耳元でそうアルスにささやかれ、ローナは顔を真っ赤にするとアルスを突き飛ばし、そして言った。

「私の婚約者はジョナサン殿下です。お戯れはおやめください」

「ちぇっ。まぁでも、そのうち義姉上が白旗を上げるのを、僕はいつでも待っているからね」

 天使のような笑顔でアルスはそう言うと、その後は何事もなかったかのようにローナをエスコートして生徒会室へと向かう。

 ローナは静かに廊下を歩きながら言った。

「それでも私は公爵家の令嬢として、自分の役目を果たさなければなりません。アルス殿下、申し訳ありませんが、お戯れは、おやめください」

 はっきりとそう告げると、アルスは肩をすくめた。

「本当に、義姉上は手強い。クズなやつの婚約者なんて普通なら早々に降りたくなるものなのにね」

「それが成り立っては、政略結婚の意味がありません」

 ローナはたとえ嫌であろうが、嫌悪感を抱いておろうが、自分の役目を下りるつもりはない。

「それに、ジョナサン殿下も弁えておいでです。先ほども、私を正妃とおっしゃってましたし」

「ふーん。それが、ちゃんと続くといいね」

 その言葉に、顔を引きつらせた数日後に、ジョナサン殿下から第二妃となりリカを支えてくれと、言われた時にはローナは本気で殴ってやろうかと、初めて殺意を抱いたとか、なんとか。

 貴族令嬢の政略結婚も、ままならない、というお話である。







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みんなの感想(6件)

月白
2021.04.14 月白

そもそも通常、王家に嫁げるのは伯爵家以上の令嬢で、子爵・男爵家では門前払いのはずなんですけどね。
男爵令嬢に入れあげた時点で、この王子の廃嫡は待った無しなんですわ。

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micu
2021.04.10 micu

お花畑ざまぁと第二王子との攻防の続きが見たくなりましたw

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セライア(seraia)

次期王妃(主人公)に対する「お前は第2妃になれ」発言の元凶として、
男爵令嬢が不敬罪とか国家騒乱罪でサクッと処刑されて、
第2王子の野心(横恋慕?)も潰れる・・・ってのも有り?!(笑)

かのん
2021.03.21 かのん

おおおおーーーー
ありですねぇ!!!!

解除
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