【完結】私の愛しの魔王様

十四話

　アナスタシアはアルベルトに命じられると、震えながら父親に頼み込んで入れ替りの魔法を教えてもらい実行したことを話した。

　すぐにフィオーナとアナスタシアの体は元に戻され、アナスタシアの一家は辺境の地へと追放が決まったということであった。

　フィオーナは出来るだけ早急に国民に花嫁は無事であることを証明する必要があると、次の日には結婚式を挙げることとなった。

　つつがなく式は行われ、魔族の民衆へと挨拶をしたフィオーナは、やっと大役が終わったのだとほっと胸を撫で下ろした。

　その日の夜。

　フィオーナはドキドキとしながら寝室でアルベルトが訪れるのを待っていた。

　そして、部屋に入ってきたアルベルトを見た瞬間、フィオーナはどうしようとさらにドキドキとする。

　アルベルトは獣の姿でフィオーナにすりより、フィオーナはその体を抱きしめて撫でながら、顔を真っ赤にした。

「一つ聞きたいことがある。」

「な、なんでしょうか？」

「君はもしや、人の姿の俺は嫌か？」

　フィオーナはきょとんと目を丸くすると、首を横に振った。

「いえ。アルベルト様も素敵です。」

「そ、そうか。」

　アルベルトはもしやフィオーナは獣姿の自分にしか興味がないのではないかと心配していたが、そうではないとわかり、ほっとした。

　今まで獣の時にとても嬉しそうにしていたのは、自分に会えたことを喜んでいたのだと思うことができた。

　フィオーナは、少しばつが悪そうに言った。

「その。実は魔王様にもアルベルト様にも・・その、惹かれていて・・だから、私は自分が淫乱な浮気者なのではないかと実は悩んでいたのです。」

「は？」

「その。ですから、愛しの魔王様とアルベルト様が同一人物で本当にほっとしました。」

　突然聞かされる事実に、アルベルトは目を丸くした。

「君は知らないで、俺の二つの姿に惹かれていたのか？」

「は、はい。」

　顔を真っ赤にするフィオーナが可愛らしくて、アルベルトはペロリとフィオーナの頬をなめた。

「ひゃぁ！」

　びくりと震えるフィオーナに、アルベルトはさらに目を丸くすると、潤んだ瞳でフィオーナに見つめられ、心臓が煩くなる。

　こんな感情は初めてであり、アルベルトはフィオーナが可愛らしく見えて仕方がなくなる。

　だが、次の言葉に思わず固まる。

「そ、その！で、出来れば最初は人の姿で、お願いします。その・・人の姿になれると知った以上・・あの、初めてで、獣姿は、私にはハードルが高いかと・・！」

　アルベルトは顔を真っ赤にして人形へと姿を変えると、フィオーナの両肩に手をのせて言った。

「変な勘違いをさせてすまない。君を怖がらせないように、獣姿のほうがいいかと思ったのだ。断じて獣姿で、君をどうこうしようとしたわけではない。」

「ひゃっ、ひゃい！そうですよね。すみません。変な誤解をしました！」

「いや。こっちこそすまない。」

　フィオーナは獣姿の自分に抱かれる気でいたのかと思うとさらに顔に熱が籠っていく。

　二人の間に沈黙が落ちる。

「そ、その。」

「あ、あぁ。」

「魔王様、これから、よろしくお願い致します。」

「こちらこそ。よろしく頼む。」

　アルベルトは顔を赤らめるフィオーナの頬を優しくなで、そして、その唇に優しくキスをした。