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二十五話

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 アリーの嬉しそうな笑顔が、頭から離れない。

 シルビアンヌはベッドの中でごろごろところがりながら、アリーの言葉を思い出してはにやにやとしていた。

『ぼ・・・僕でいいのならば。僕は・・・元から貴方の物ですから。』

 奇声を上げるのを必死に堪え、にやにやしながらベッドの上でのたうちまわる。

 けれどふとシルビアンヌは思う。

 本当に攻略対象者達は良かったのだろうか。

 悪役令嬢にヒロインちゃんを奪われるなどBLにはご法度であるはずだ。自分ももし読者ならばブーイングの嵐だっただろう。

 それにと思う。

 もしかしたら、ヒロインであるアリーの運命の相手は自分ではないかもしれない。

 だから、もしかしたら自分は死ぬかもしれない。

 そう思うと、背中にぞくりとしたものが走る。

 死が間近に感じられて怖い。けれど、と、シルビアンヌは拳を握る。

 アリー以外は考えられない。だから、もしアリーが運命の番でなくても、笑って死ねると思う。

 そんな事をシルビアンヌが考えていた時であった。

 手に、ピリリとした痛みが走り、シルビアンヌは眉間にしわを寄せた。

「ん?・・これ・・・何?」

 手の甲に不思議な紋様が浮かび上がったかと思った、次の瞬間、体の中で魔力がまるで暴れまわっているかのような激痛が襲い、シルビアンヌは悲鳴を上げた。

 痛みで意識が遠のいていく。

 部屋に、侍女が慌てた様子で入ってきたのを見たのを最後に、シルビアンヌは気を失った。



 壁にはいくつもの魔術や怪しげな魔方陣の図が至るところに貼られてる。そんな部屋の一室にて、一人の少年が目の前にある光輝く硝子玉を見つめながらにやりと笑った。

「上手くいった。ふふ。これで魔女は、私の物だ。」

 硝子玉に触れればまるで生きているかのように脈打ち、そして温かさを感じる。

「ふふ。シルビアンヌ嬢を迎えにいく手はずを整えなければならないな。あぁ・・・長かった。あのお茶会で瞳があった瞬間から、ずっと・・ずっと恋い焦がれてきたキミが、やっと手に入る。」

 にやりと笑うと、黒髪を後ろへかきあげ、天井を仰ぎ見る。

「私の傍に誰かいると?ふふ・・・いるわけがないだろう。私はずっと一人だ。だが、君が手にはいればそれは終わる。」

 真っ赤な美しい赤髪の魔女。彼女が魔女だという事に気付くまでにそう時間はかからなかった。

 そもそも黒目黒髪に微笑みかける事の出来る存在など、どのくらいいるだろう。

 彼女を手にいれればきっと自分の欲求は満たされることだろう。

 黒目黒髪の自分を否定し続けてきた人間を、この国を、やっと見返すことが出来るはずだ。

 そう考えるだけで笑みが浮かぶ。

 手袋を外せば、そこにはシルビアンヌの手の甲に現れた紋様と同じものが刻まれている。

「さあ。すぐに迎えにいくから、待っていてくれ。」

 静かな笑い声が、石造りの部屋に響き渡った。


 


 
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