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第三十話 混浴風呂

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 ユグドラシルはルシフェルにお願いをして、エドも一緒に温泉へと移動してもらったのだが、温泉へ入ろうと誘ってもエドは顔を真っ赤にして首を横にぶんぶんと振った。

「ひっ一人で入れるから!」

 その声に、ユグドラシルは唇を尖らせた。

「一緒に入った方が楽しいよ!」

「君は女の子だろう!?」

「まだ十一歳だからいけるって!」

 何がいけるのだろうか。

 ルシフェルは元の姿に戻ると、ぱちんと指を鳴らした。

 するとユグドラシルは可愛らしい水着のようなワンピースに、そしてエドも短パンのような姿へと変わった。

 その様子に少女のような悲鳴を上げたのはエドであった。

「きゃぁぁっ!」

「可愛い。エド。」

 思わずと言ったようにユグドラシルはそう呟くと、エドに抱き着いた。

「ふふふ!可愛いね!」

「やっやめて!」

 年上であろうにユグドラシルに翻弄されるエドにルシフェルは多少同情しながら二人を温泉の中へと突き落とした。

 温泉に入ると見る見るうちにエドの体にこびりついていた汚れたちは消え始め、体の至る所についていた傷も消えていく。

 そして次の瞬間エドは自分のお尻のあたりにある違和感に気が付くと、目を丸くした。

「切られて・・・もう・・・生えてこないと思ってた・・・・」

「何が?」

「俺の尻尾・・・」

 エドには銀色の美しい長い尻尾が生えており、水にぬれて艶やかに輝いていた。

 そしてはっとユグドラシルに慌てて視線を向けると尻尾を隠した。

 以前看守に異形で醜いと切り落とされた恐怖と激痛が蘇り体が震える。

 ユグドラシルは隠された尻尾に、にやりと笑みを浮かべるとエドに飛びかかった。

 エドはぎゅっと固く目を瞑り痛みに耐えようとしたが、訪れたのは痛みではなく、くすぐったさだった。

「綺麗な尻尾!素敵!」

「っひゃ・・・くすぐったい・・・」

 丁寧に優しく撫でられ、その指の感覚にエドは身悶えた。

「乾かしたらきっともっと綺麗だろうねぇ・・・はぁ・・・温泉で体があったまったら、乾かしてからまた触らせてね。」

 尻尾を解放されたのは良いが、楽しみだと言わんばかりに恍惚とした笑みを浮かべてこちらをにっこりと見つめられたエドは顔を引きつらせてルシフェルの方へと助けを求めるように視線を向けた。

 エドはリスのような生き物が人型の姿に変わった瞬間も驚きはしたが、それ以上に、今、助けを求められるのがルシフェルしかいないと、縋り付くような視線を向けると、ルシフェルはため息をついた。

「ユグドラシル・・・そんなに容易く男性に触れていいものではないよ。」

「じゃあ温泉からあがったら、ルシフェルをもふもふしてもいい?」

「まぁ子ども同士だしな、仲良くなるのはいいこと。やっぱりいい。」

 すぐさま見捨てられたエドは目を見開いたが、ユグドラシルの嬉しそうな笑顔に、何とも言えず、静かに温泉につかると、体を洗った。

 お湯につかったのはいつぶりであろうか。

 そんなことをエドは考えながらお湯の滑らかさに小さく息をついた。

「ねぇ、エド様。」

「・・・エドでいい。」

「ふふ。なら私の事はユグドラシルって呼んでね?」

「・・・長いな・・・」

「なら、ユシーで。」

「うん。ユシー。」

 名前を呼ばれたユグドラシルは嬉しそうににこにこと微笑を浮かべた。

 エドは優しい笑顔など久々に見たからなのか心臓がどくどくといってとまらず、顔をお湯でばしゃばしゃと洗った。

「あのね、エド。これからのことなんだけど・・・・お父さんの所に、戻りたい?」

 突然の事に、エドは動きを止めた。

 父上の所に・・・だが次の瞬間、エドの体は震えだす。

 もしかしたら、またあの場所へと戻されるかもしれないと言う恐怖を感じ、そこで、エドは自分の本心を悟った。

 父上の事を、もう、信じられない。

 何故?

 ユグドラシルと会う前までは確かに、父上の所に言って、助けを求めて、父上のためにと思っていたのに。

「エド?」

 心配げな声にはっと顔を上げて、ユグドラシルの瞳を見て、エドは知った。

 自分に向けるユグドラシルの澄んだ瞳と、父親の瞳。

 なるほどと、自嘲気味にエドは笑みを浮かべると、父親の自分に向けていた瞳が優しさなどひとかけらも含んでいなかったことを知った。

 この瞳を知ったから、自分は父上の事が信じられなくなったのだなと、エドはため息をつくと首を横に振った。

「帰りたくない・・・もし、ユシーがいいなら・・・ユシーの傍にいたら、ダメか?」

「本当に!?」

 ざばんと温泉の中で立ち上がったユグドラシルは瞳をキラキラと輝かせ、そして嬉しそうに頬を緩めてにこにこと笑っている。

「ユシーが・・・いいのなら。一緒にいたい。」

 おずおずとそう言うと、ユグドラシルはエドに勢いよく抱き着き、二人は温泉の中に沈んだ。

 突然の事にエドは驚いて温泉の中で目を見開らいたが、ユグドラシルにぎゅっと抱きしめられて、その体の細さや柔らかさに堪えきれずに水面へと出ると顔を真っ赤にして言った。

「一緒にいたいけど、女の子はそんなに簡単に抱き着いちゃダメだよ!」

「だって嬉しいんだもん!私、ずっとルシフェルしか傍にいてくれなかったから、嬉しい!」

「そっ・・・それは・・・」

 まんざらでもない様子のエドの様子に、ルシフェルはにやにやと笑みを浮かべていた。

 最初こそ呪われた王子はどんなに嫌な奴で、ユグドラシルを傷つけるのではないかと思って心配していたが、それが杞憂に終わったことにほっとする。

 それと同時に、ユグドラシルが一緒にいようと初めて思える相手が出来た事がルシフェルは嬉しかった。






 
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