魔法使いアルル

かのん

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22話

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 そんな中、ノアは私たちに次々に攻撃を仕掛けてくる。

 それを弾き飛ばしながらも、次第にどんどんと押されていく。

「アルル! 距離を取ろう!」

「了解!」

 ノアから闇があふれ出し、それが翼のように広がると、一瞬で間合いを詰められ、気づけば私の目の前にいた。

 仄暗いノアの瞳が、こちらを覗き込む。

 そして、私の首に、ノアの魔法の杖が当てられる。

「さっきのお返しです」

「アルル!」

 レオが、私の腕を引きノアの方へと杖を向けた。

 ノアの瞳が見開かれ、その口元が弧を描く。

「ほう……レオナルド殿下。いい、瞳の色ですね」

「アルルに近寄るな」

 聞いたことのない背筋が寒くなるような声が、レオから聞こえた。

 ノアは杖をこちらに向けてレオとにらみ合いながら言った。

「王座が空席である以上、姫君にも殿下にも、私は何でも会いにきますよ。何故ならば、今、王座に最もふさわしいのは、お二人だから」

「アルルはそちら側には渡さない!」

 ノアは楽しそうにくくくっと笑う。

「……黒い魔法使いはいなくならない。もし私を倒したとしてもです。王が手に入るまで、何度でも、何度でも、永久に……」

 ぞっとする瞳。

 私は体勢を整えるとノアに向かって魔法を放つ。

「捕縛せよ!」

 けれど、魔法がノアの纏う闇に呑み込まれてしまう。

 ノアは、杖を振り炎を燃え上らせると言った。

「いずれかならず……我らが王よ……お待ちしております。では、本日はこれにて」

 闇の炎が広がり、私とレオはすぐさま防御壁を張るとどうにかそれを防ぐ。

 しかし、地上の植物は次々にその炎に呑まれていった。

「「業火の炎よ! 消えよ!」」

 私たちは協力してその炎を消していく。

 そして消え終わった時、マリアさんの悲鳴が響き渡った。

「マリアぁぁぁ」

 その場に泣き崩れるマリアさんを見て、私は胸が痛くなった。

「アルル、ノアはきっと魔力の限界が来ていたんだ。だから、逃げたのだと思う。気持ちを切り替えて、ここをどうにかしよう」

「レオ……うん。そうだね。とにかく、マリアさんをどうにかしないと」

 私はレレナの元へと駆けていくと言った。

「マリアさんを、連れてくる。レレナ、気をしっかり持って」

「私の、私のせいだわ。うぅぅぅぅぅ。私が、楽になろうとしたから。ああぁぁぁ」

 うずくまるマリアさん。

 今は何を言ってもダメだろう。

 私とレオはすぐにほうきに乗ると、マリアさんの元へと向かった。

 先ほどまでは緑で輝いていたと言うのに、大地は黒く焼け焦げ、そして太陽の花の木も、焦げて、黒くなってしまっている。

 光も、あれほど輝いていたはずなのに、今では消えそうだ。

「マリアさん……」

 黒く焦げた幹の間に、マリアさんの体はあった。

 どうしたらいいのだろう。私とレオがどうするか対処法に悩んでいた時であった。

 みどりの風が吹き抜けた。

「え?」

 顔をあげると、そこには、森の王であるジプソフィラさんとスターチスさんが姿を現したのである。

「どうして二人が?」

「緑がないところには、来れないって言っていたのに」

 私たちが驚くと、二人は優しく微笑んでいった。

「緑の悲鳴が聞こえたの」

「その声を追って、ここに来たのさ。アルル、レオ、久しぶり」

 二人は私たちの頭を優しく撫でる。

 私は、泣きそうになるのをぐっと堪える。

「で、でも、緑は……燃やされちゃったのに……」

 拳をぎゅっと握りしめてそうつぶやくと、二人が手を伸ばす。すると緑の風がきらりと輝く。

 その光は、レレナの元へと続く。

 レレナの周辺の植物だけは、枯れていなかった。

 三重の魔法を厳重にかけていたから、あそこだけは守られていたのだ。

「彼らが、アルルとレオの危険を知らせてここへ呼んでくれたんだ」

 スターチスさんの言葉にジプソフィラさんも優しく微笑み、それから視線を太陽の花の木へと向ける。

 二人はじっとそちらを見てからその幹に手を触れた。

「あぁ……この人が、ヤドリギね」

「ふむ。同化しているな」

「えぇ」

 二人の言葉に、私は尋ねた。

「マリアさんを助けられる!? お願い! 力を貸して!」

 二人は、私の言葉に静かに首を横に振った。

 それを見て、私はダメなのか、方法はないのかと、不安になっていると、レオが私の肩に手をまわして、支えてくれる。

「アルル、大丈夫?」

「うん……ねぇ、ジプソフィラさん、スターチスさん! 助けられないの……?」

 マリアさんを助けられたら、きっとレレナも救われる。

 たった一人の妹さんを、助けてあげたい。

「アルル。この子は、もう人としては生きていけないの」

「ヤドリギとして、太陽の花に、同化してしまっているんだ」

 二人の言葉に、私は、心臓がぎゅっとなって痛くなる。

 今まで、いろんな困難があった。

 だけど、その度に乗り越えてきた。

 でも……。

 涙が溢れてきて、そんな私をレオが支えてくれる。

「アルル、顔をあげて」

「でも、でもレオ……助けられない……」

 レオは顔をあげて二人に尋ねた。

「マリアさんは太陽の花から引き離したら、どうなりますか?」

 ジプソフィラさんがそれに答えた。

「もうね、引き離せないのよ」

 スターチスさんもうなずく。

「彼女は、太陽の花と同じ存在なんだ。分かるかな」

「お願い、その人を助けたいの。どうにか、方法はない?」

 私が縋るようにそう尋ねると、二人はお互いの顔を見合わせた後に、静かに言った。

「人として生きることは無理だわ。でも」

「体から解き放たれ、精霊となる道はある」

 その言葉に、私は首を傾げた。

「せい、れい?」

「えぇ。これほどの力を有しているならば。でもそのためにはアルルとレオに手伝ってもらう必要があるわ」

「この体は大きすぎる。そこから、解き放つためにね」

 私とレオはうなずいた。

「それで、マリアさんが、助かるなら!」

「できることはします!」

 私たち二人の言葉に、ジプソフィラさんとスターチスさんはうなずくと、優しい風で私たちを包み込む。

「さぁ、じゃあ杖をかまえて」

「ヤドリギを、切り離す。そのために彼女の体と心を守ってくれ」

「「わかった!」」

 私とレオは杖をかまえ、そしてマリアさんに守護魔法と結界魔法をかけていく。

 すると、ジプソフィラさんとスターチスさんが、木の肌に触れ、そして優しく、キスを落とした。

 次の瞬間、巨大な木が揺らぎ脈打ち始め、天井から大量のツルが落ちてくるとうねりをあげた。

 私とレオはそれからジプソフィラさんとスターチスさんを守るためにまた魔法を放つ。

「「二人を守る盾となれ!」」

 二人はそれに優しく微笑むと、お互いの手を取り、歌い始める。

 最初こそ暴れまわっていたツルたちは、次第に動きを止めて、地面へと、ゆっくりと落ちていく。

 緑の新芽が木のツルに次々に生え始め、花が咲き始める。

 色とりどりに咲き誇る花は、風にゆれる。

 そして、私とレオが魔法で守っていたマリアさんの体の周りにも、花が咲き始めた。

「これは……」

「どう、なっているんですか? あの」

 私とレオが戸惑っていると、ジプソフィラさんが言った。

「さぁ、魔法を解いて。もう、大丈夫よ」

「アルル、レオ、ヤドリギだった彼女が、目覚めるよ」

 言われた通りに、私とレオが魔法を解いたその瞬間、温かな、太陽の香りがした。

 どこか懐かしい香りだった。

 色とりどりの花が咲き誇り、そしてそこから小さな光が生まれる。

 その光は、一目散にレレナの方へと向かって飛んでいく。

 私たちはその後を追って、レレナの元へと向かうと、うつむき、泣いているレレナの前で光が輝いていた。

 私とレオは、レレナに欠けていた魔法を解いた。

「……?」

 黒い、仄暗い瞳のレレナが、顔をあげた。

「……太陽の……香り?」

 瞳からは黒い涙がとめどなく溢れている。

 すると、光がレレナの周りを飛び回り、そしてその姿が、変わる。

「お姉様……」

「え?」

 レレナの瞳から、涙が止まった。

「お姉様」

 可愛らしい少女の声だった。

 光は姿を変え、マリアさんによく似ているが、太陽のように赤い髪の妖精ほどの小さな少女がそこにはいた。

「ま……マリア?」

 少女はにっこりと微笑む。

「お姉様、ごめんなさい。ずっと、ずっと謝りたかったの。お願い。私のせいでくらいところにいかないで。お姉様、私は、お姉様が大好きよ」

 マリアさんがそう言って、レレナの額にキスを送る。

「マリア……マリア……」

 優しくレレナさんがマリアさんを手で包み込み抱きしめる。

 マリアさんは私とレオの方へと視線を向けると言った。

「力を貸して。お姉様の暗い闇を、はらいたいの。お願い」

 私とレオはおおきくうなずき、杖をかまえる。

「「我ら、闇をすべし力を持つもの、我らは願う。闇よ影に帰れ、闇よ、住まいし地に帰れ」」

 次の瞬間、レレナに纏わりついていた暗い闇が、影の中へと吸い込まれるようにして消え、そして、闇の気配は消
えたのだった。


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