【完結】玩具の青い鳥

かのん

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 かつて偉大なる王が、聖なる塔での一騎打ちにより、呪われた黒竜を打倒した。それ以来、青は幸福を、翼は王を、空は神の領域を示す時代がここにある。

 鳥達は敬われ、空を飛ぶことを許されるは王と獣のみであった。

 南国のこのフリュンゲル国は5つの国、兵士の国・貿易の国・おもちゃの国・緑の国・竜の国を統治する国であった。その周りは海に囲まれ、兵士の国の国境を越えねば他国と一切関わりを持つ事が出来ない。そして、兵士の国により、敵国からの侵略は防がれ、平和が保たれているのであった。

 この豊かな国は、青の翼を持つ王が神との契約により土地を守護している。

 王都は国の中央に位置する湖に浮ぶ島にあり、そこを国民はエデンと呼んだ。

 そんなエデンとは少し離れた位置にあるのが貿易の国。この国の中にはガラクタの町があった。そしてそこは何でもものの行き交う物流の町であった。

 新しい物好きはよっといで。古い物好きは見ていきな。特に買う気がなくても大いに結構。結局買うっきゃなくなるのさ。さぁさぁ誰でもよっといでぇ。

 軽快な口調で店先に立つ商人らは声をかけ、お客を次々に引き込んでいく。

 そんな姿を見つめていたのは鮮やかな青いマントに身を包んだ、身長の低い仮面の少年であった。

 少年は顔の上半分を黒の仮面で覆っている為、容姿があまりよくわからない。ただその翡翠の瞳は印象的であり、見る人をひきつけてしまうだろう。

 少年は、しばらく商店町を見つめていたのだが不意に鼻を鳴らし、空を見上げた。すると黒い煙が町の外れから上がっている。

 この匂いからして、木屑を燃やしているのだろう。だがそれに混ざって色々なゴミの匂いがする。それを思うだけで少年の心は弾んだ。

 商店町から一つ細い道に入るだけで大分人の数は減り、そして日の差し込む明るさも変わる。先ほどまではカラッとした乾いた空気があたりに流れていたが、今はどちらかというと湿っぽい風が頬をかすめていく。

 レンガ造りの道を駆け抜け、ただその狼煙のような煙を目印にしばらく走っていくといつのまにかあたりは静まり、喧騒はなくなり、気がつけば人一人見かけなくなった。それに多少の違和感を覚えながらも少年は道を進んでいった。不意に、太陽の光が眩しいくらいに当たり視野が翳った。

 手を太陽にかざし、少年は瞬きを数度繰り返しながら、瞳をゆっくりと開いた。

「これは・・・・・」

 ゴクリとつばを飲み込んだ少年の目の前に広がったのは、鉄屑、ゴミ屑、硝子屑、なんでもかんでもが積みに詰まれたガラクタの山であった。その光景は圧巻で、しばらくの間少年は動く事が出来なかった。だが不意に燦々と自分を照らしていた太陽が陰り、空を何かが横切ったと思ったとき、少年はさらなる衝撃を覚えた。

「ぐえぇふ!!」

 それは心に受ける衝撃ではなく、生身に受ける、あまりに生々しい衝撃であった。

 頭上から何かが降ってきた。それだけは分かったが、それが人だと分かるのに時間がかかってしまった。
 
 頭から押しつぶされた少年は、目を回しながら自分の置かれている状況を把握しようとしていた。けれど、次の瞬間、また唾を飲むことになる。

「あ・・あの!・・ご・・ごめんなさい。わたくし・・あの・・本当に・・あの・・」

 眩しいくらいの金髪に、空のように澄んだ青の瞳。顔にかかるその金髪からは花の香りがし、絹糸のように柔らかであった。

 『可憐』そんな文字が脳裏をかすめる。

 慌てふためく少女の大きな瞳には、涙が溜められており、今にも流れ落ちそうであった。

 少年は慌てて少女から離れるように立ち上がると数歩後ずさり、そして自分についた埃を、自分を落ちつかせる為にまず払った。

「あ・・あの・・ごめんなさい。お怪我は・・なかったですか?」

 目の前にたつ少女は、一目で町の娘でないことが分かる。言葉遣い、立つ姿勢、ハンカチを差し出してくる細く、白く、怪我一つない綺麗な指。

 そしてなによりその容姿。

 少年は心臓を抑えながらも、自分の動揺を相手に悟られまいとどうにか落ちついた声を喉から振り絞った。

「大丈夫。ハンカチは結構・・・・どこから落ちてきたんです?」

 そう尋ねると少女は一瞬困ったように表情を固めたのだが、辺りを見回し、そして指差した。

「ガラクタの山から・・・あ・・足を踏み外しまして・・・・自己紹介がまだでしたわね。わたくしの名はフェイナと申します。」

 少年は別段自己紹介をする必要もないと考えると、自分の名は名乗らずに言った。

「そうですか。・・怪我はないですか?」

 フェイナはきょとんとした瞳で少年を見つめながらも頷いている。どうやら少年の自己紹介を待っているらしいのだが、少年はそれに気付かないふりをした。

 自分の心臓が落ち着いたことに安堵しながら、少年は辺りを見回す。

 いつのまにか先ほどまで上っていた煙が見えない。きっとこのあたりに住む浮浪者か火遊びをしていた子どもかが焚き火をしていたのだろう。少年としては、そうしたこの辺りに詳しい人物にこのガラクタの山について話を聞きに行きたかったのだが、煙が見えなくなってしまったのでは仕方がない。そう思い、小さく溜息をついたとき、フェイナが自分の顔を覗き込んできていることに気がついた。

 それに驚き思わず後ずさりすると、フェイナは首をかしげた。

「わたくしは名を名乗りましたけれど・・貴殿は名乗らなくて?」

 『貴殿』・・その言葉に頭が痛くなってきた少年は額に手を当てた。すると、フェイナは青ざめた顔でその額に自分の手を重ね、そして声を上げた。

「頭を打ちましたか!ごめんなさい。怪我をなさったのね!今すぐ手当てをいたしますから!」

 一瞬何が起こったのかわからず、少年は硬直していた。

「・・ぼ・・僕の名はトイ。・・・フェイナ殿・・失礼ですが怪我はしていませんので・・て・・手を・・放していただけると嬉しいです。」

 自分と同じ身長くらいであるフェイナは、体をピッタリとあわせるようにたっており、何故だか身動きがとれない。

「あら・・そうでしたか・・よかった・・・トイ様が頭を抑えたので、思わず・・はしたない真似をしてしまい申し訳ありませんわ。」

 そういいながらも、フェイナがトイの体を離すような仕草が見えない。

 トイが困惑しているとフェイナはニヤリと笑みを浮かべた。
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