2 / 31
新一話
しおりを挟む
かつて偉大なる王が、聖なる塔での一騎打ちにより、呪われた黒竜を打倒した。それ以来、青は幸福を、翼は王を、空は神の領域を示す時代がここにある。
鳥達は敬われ、空を飛ぶことを許されるは王と獣のみであった。
南国のこのフリュンゲル国は5つの国、兵士の国・貿易の国・おもちゃの国・緑の国・竜の国を統治する国であった。その周りは海に囲まれ、兵士の国の国境を越えねば他国と一切関わりを持つ事が出来ない。そして、兵士の国により、敵国からの侵略は防がれ、平和が保たれているのであった。
この豊かな国は、青の翼を持つ王が神との契約により土地を守護している。
王都は国の中央に位置する湖に浮ぶ島にあり、そこを国民はエデンと呼んだ。
そんなエデンとは少し離れた位置にあるのが貿易の国。この国の中にはガラクタの町があった。そしてそこは何でもものの行き交う物流の町であった。
新しい物好きはよっといで。古い物好きは見ていきな。特に買う気がなくても大いに結構。結局買うっきゃなくなるのさ。さぁさぁ誰でもよっといでぇ。
軽快な口調で店先に立つ商人らは声をかけ、お客を次々に引き込んでいく。
そんな姿を見つめていたのは鮮やかな青いマントに身を包んだ、身長の低い仮面の少年であった。
少年は顔の上半分を黒の仮面で覆っている為、容姿があまりよくわからない。ただその翡翠の瞳は印象的であり、見る人をひきつけてしまうだろう。
少年は、しばらく商店町を見つめていたのだが不意に鼻を鳴らし、空を見上げた。すると黒い煙が町の外れから上がっている。
この匂いからして、木屑を燃やしているのだろう。だがそれに混ざって色々なゴミの匂いがする。それを思うだけで少年の心は弾んだ。
商店町から一つ細い道に入るだけで大分人の数は減り、そして日の差し込む明るさも変わる。先ほどまではカラッとした乾いた空気があたりに流れていたが、今はどちらかというと湿っぽい風が頬をかすめていく。
レンガ造りの道を駆け抜け、ただその狼煙のような煙を目印にしばらく走っていくといつのまにかあたりは静まり、喧騒はなくなり、気がつけば人一人見かけなくなった。それに多少の違和感を覚えながらも少年は道を進んでいった。不意に、太陽の光が眩しいくらいに当たり視野が翳った。
手を太陽にかざし、少年は瞬きを数度繰り返しながら、瞳をゆっくりと開いた。
「これは・・・・・」
ゴクリとつばを飲み込んだ少年の目の前に広がったのは、鉄屑、ゴミ屑、硝子屑、なんでもかんでもが積みに詰まれたガラクタの山であった。その光景は圧巻で、しばらくの間少年は動く事が出来なかった。だが不意に燦々と自分を照らしていた太陽が陰り、空を何かが横切ったと思ったとき、少年はさらなる衝撃を覚えた。
「ぐえぇふ!!」
それは心に受ける衝撃ではなく、生身に受ける、あまりに生々しい衝撃であった。
頭上から何かが降ってきた。それだけは分かったが、それが人だと分かるのに時間がかかってしまった。
頭から押しつぶされた少年は、目を回しながら自分の置かれている状況を把握しようとしていた。けれど、次の瞬間、また唾を飲むことになる。
「あ・・あの!・・ご・・ごめんなさい。わたくし・・あの・・本当に・・あの・・」
眩しいくらいの金髪に、空のように澄んだ青の瞳。顔にかかるその金髪からは花の香りがし、絹糸のように柔らかであった。
『可憐』そんな文字が脳裏をかすめる。
慌てふためく少女の大きな瞳には、涙が溜められており、今にも流れ落ちそうであった。
少年は慌てて少女から離れるように立ち上がると数歩後ずさり、そして自分についた埃を、自分を落ちつかせる為にまず払った。
「あ・・あの・・ごめんなさい。お怪我は・・なかったですか?」
目の前にたつ少女は、一目で町の娘でないことが分かる。言葉遣い、立つ姿勢、ハンカチを差し出してくる細く、白く、怪我一つない綺麗な指。
そしてなによりその容姿。
少年は心臓を抑えながらも、自分の動揺を相手に悟られまいとどうにか落ちついた声を喉から振り絞った。
「大丈夫。ハンカチは結構・・・・どこから落ちてきたんです?」
そう尋ねると少女は一瞬困ったように表情を固めたのだが、辺りを見回し、そして指差した。
「ガラクタの山から・・・あ・・足を踏み外しまして・・・・自己紹介がまだでしたわね。わたくしの名はフェイナと申します。」
少年は別段自己紹介をする必要もないと考えると、自分の名は名乗らずに言った。
「そうですか。・・怪我はないですか?」
フェイナはきょとんとした瞳で少年を見つめながらも頷いている。どうやら少年の自己紹介を待っているらしいのだが、少年はそれに気付かないふりをした。
自分の心臓が落ち着いたことに安堵しながら、少年は辺りを見回す。
いつのまにか先ほどまで上っていた煙が見えない。きっとこのあたりに住む浮浪者か火遊びをしていた子どもかが焚き火をしていたのだろう。少年としては、そうしたこの辺りに詳しい人物にこのガラクタの山について話を聞きに行きたかったのだが、煙が見えなくなってしまったのでは仕方がない。そう思い、小さく溜息をついたとき、フェイナが自分の顔を覗き込んできていることに気がついた。
それに驚き思わず後ずさりすると、フェイナは首をかしげた。
「わたくしは名を名乗りましたけれど・・貴殿は名乗らなくて?」
『貴殿』・・その言葉に頭が痛くなってきた少年は額に手を当てた。すると、フェイナは青ざめた顔でその額に自分の手を重ね、そして声を上げた。
「頭を打ちましたか!ごめんなさい。怪我をなさったのね!今すぐ手当てをいたしますから!」
一瞬何が起こったのかわからず、少年は硬直していた。
「・・ぼ・・僕の名はトイ。・・・フェイナ殿・・失礼ですが怪我はしていませんので・・て・・手を・・放していただけると嬉しいです。」
自分と同じ身長くらいであるフェイナは、体をピッタリとあわせるようにたっており、何故だか身動きがとれない。
「あら・・そうでしたか・・よかった・・・トイ様が頭を抑えたので、思わず・・はしたない真似をしてしまい申し訳ありませんわ。」
そういいながらも、フェイナがトイの体を離すような仕草が見えない。
トイが困惑しているとフェイナはニヤリと笑みを浮かべた。
鳥達は敬われ、空を飛ぶことを許されるは王と獣のみであった。
南国のこのフリュンゲル国は5つの国、兵士の国・貿易の国・おもちゃの国・緑の国・竜の国を統治する国であった。その周りは海に囲まれ、兵士の国の国境を越えねば他国と一切関わりを持つ事が出来ない。そして、兵士の国により、敵国からの侵略は防がれ、平和が保たれているのであった。
この豊かな国は、青の翼を持つ王が神との契約により土地を守護している。
王都は国の中央に位置する湖に浮ぶ島にあり、そこを国民はエデンと呼んだ。
そんなエデンとは少し離れた位置にあるのが貿易の国。この国の中にはガラクタの町があった。そしてそこは何でもものの行き交う物流の町であった。
新しい物好きはよっといで。古い物好きは見ていきな。特に買う気がなくても大いに結構。結局買うっきゃなくなるのさ。さぁさぁ誰でもよっといでぇ。
軽快な口調で店先に立つ商人らは声をかけ、お客を次々に引き込んでいく。
そんな姿を見つめていたのは鮮やかな青いマントに身を包んだ、身長の低い仮面の少年であった。
少年は顔の上半分を黒の仮面で覆っている為、容姿があまりよくわからない。ただその翡翠の瞳は印象的であり、見る人をひきつけてしまうだろう。
少年は、しばらく商店町を見つめていたのだが不意に鼻を鳴らし、空を見上げた。すると黒い煙が町の外れから上がっている。
この匂いからして、木屑を燃やしているのだろう。だがそれに混ざって色々なゴミの匂いがする。それを思うだけで少年の心は弾んだ。
商店町から一つ細い道に入るだけで大分人の数は減り、そして日の差し込む明るさも変わる。先ほどまではカラッとした乾いた空気があたりに流れていたが、今はどちらかというと湿っぽい風が頬をかすめていく。
レンガ造りの道を駆け抜け、ただその狼煙のような煙を目印にしばらく走っていくといつのまにかあたりは静まり、喧騒はなくなり、気がつけば人一人見かけなくなった。それに多少の違和感を覚えながらも少年は道を進んでいった。不意に、太陽の光が眩しいくらいに当たり視野が翳った。
手を太陽にかざし、少年は瞬きを数度繰り返しながら、瞳をゆっくりと開いた。
「これは・・・・・」
ゴクリとつばを飲み込んだ少年の目の前に広がったのは、鉄屑、ゴミ屑、硝子屑、なんでもかんでもが積みに詰まれたガラクタの山であった。その光景は圧巻で、しばらくの間少年は動く事が出来なかった。だが不意に燦々と自分を照らしていた太陽が陰り、空を何かが横切ったと思ったとき、少年はさらなる衝撃を覚えた。
「ぐえぇふ!!」
それは心に受ける衝撃ではなく、生身に受ける、あまりに生々しい衝撃であった。
頭上から何かが降ってきた。それだけは分かったが、それが人だと分かるのに時間がかかってしまった。
頭から押しつぶされた少年は、目を回しながら自分の置かれている状況を把握しようとしていた。けれど、次の瞬間、また唾を飲むことになる。
「あ・・あの!・・ご・・ごめんなさい。わたくし・・あの・・本当に・・あの・・」
眩しいくらいの金髪に、空のように澄んだ青の瞳。顔にかかるその金髪からは花の香りがし、絹糸のように柔らかであった。
『可憐』そんな文字が脳裏をかすめる。
慌てふためく少女の大きな瞳には、涙が溜められており、今にも流れ落ちそうであった。
少年は慌てて少女から離れるように立ち上がると数歩後ずさり、そして自分についた埃を、自分を落ちつかせる為にまず払った。
「あ・・あの・・ごめんなさい。お怪我は・・なかったですか?」
目の前にたつ少女は、一目で町の娘でないことが分かる。言葉遣い、立つ姿勢、ハンカチを差し出してくる細く、白く、怪我一つない綺麗な指。
そしてなによりその容姿。
少年は心臓を抑えながらも、自分の動揺を相手に悟られまいとどうにか落ちついた声を喉から振り絞った。
「大丈夫。ハンカチは結構・・・・どこから落ちてきたんです?」
そう尋ねると少女は一瞬困ったように表情を固めたのだが、辺りを見回し、そして指差した。
「ガラクタの山から・・・あ・・足を踏み外しまして・・・・自己紹介がまだでしたわね。わたくしの名はフェイナと申します。」
少年は別段自己紹介をする必要もないと考えると、自分の名は名乗らずに言った。
「そうですか。・・怪我はないですか?」
フェイナはきょとんとした瞳で少年を見つめながらも頷いている。どうやら少年の自己紹介を待っているらしいのだが、少年はそれに気付かないふりをした。
自分の心臓が落ち着いたことに安堵しながら、少年は辺りを見回す。
いつのまにか先ほどまで上っていた煙が見えない。きっとこのあたりに住む浮浪者か火遊びをしていた子どもかが焚き火をしていたのだろう。少年としては、そうしたこの辺りに詳しい人物にこのガラクタの山について話を聞きに行きたかったのだが、煙が見えなくなってしまったのでは仕方がない。そう思い、小さく溜息をついたとき、フェイナが自分の顔を覗き込んできていることに気がついた。
それに驚き思わず後ずさりすると、フェイナは首をかしげた。
「わたくしは名を名乗りましたけれど・・貴殿は名乗らなくて?」
『貴殿』・・その言葉に頭が痛くなってきた少年は額に手を当てた。すると、フェイナは青ざめた顔でその額に自分の手を重ね、そして声を上げた。
「頭を打ちましたか!ごめんなさい。怪我をなさったのね!今すぐ手当てをいたしますから!」
一瞬何が起こったのかわからず、少年は硬直していた。
「・・ぼ・・僕の名はトイ。・・・フェイナ殿・・失礼ですが怪我はしていませんので・・て・・手を・・放していただけると嬉しいです。」
自分と同じ身長くらいであるフェイナは、体をピッタリとあわせるようにたっており、何故だか身動きがとれない。
「あら・・そうでしたか・・よかった・・・トイ様が頭を抑えたので、思わず・・はしたない真似をしてしまい申し訳ありませんわ。」
そういいながらも、フェイナがトイの体を離すような仕草が見えない。
トイが困惑しているとフェイナはニヤリと笑みを浮かべた。
0
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
かつて聖女は悪女と呼ばれていた
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」
この聖女、悪女よりもタチが悪い!?
悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!!
聖女が華麗にざまぁします♪
※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨
※ 悪女視点と聖女視点があります。
※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
悪女の死んだ国
神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。
悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか.........
2話完結 1/14に2話の内容を増やしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる